[第6章]情熱の結晶(ノーザンダンサー編) 過去の名馬

・物語の始まりとして

すでに知られた話だが、フサイチパンドラは私自身が牧場を回って見初めた馬ではなく、フサイチの冠で知られる関口房朗オーナーが持っていた数頭の馬の中から選ばせてもらう形で管理が決まった馬だ。
その場にいた馬はすべてサンデーサイレンスの産駒で、フサイチパンドラ以外はすべて牡馬。
しかし、私は牝馬のフサイチパンドラを選択した。
単に馬体が良かっただけでなく、その血統──セックスアピールに繋がる彼女の母系に、大いなる可能性を感じたことが1番の理由。
エルグランセニョールを出したセックスアピールの血統を手掛けてみたい。
そんな気持ちに駆られたのだ。

エルグランセニョールもノーザンダンサー系種牡馬の1頭で、ベルメッツやロドリゴデトリアーノといった名馬を輩出した。
エンパイアメーカーを産んだトゥーソードもエルグランセニョールの産駒だが、実は私も彼の産駒を管理したことがある。
その馬の名はエルジェネシス。
結構な競馬ファンの方でも記憶に残っていないレベルだろうが、一応は4勝をマークしてオープン馬になっている馬だ。
母父にはアレッジドがいる血統の持ち主で、この馬は実際に牧場で見て購入を決めてもらった。
今回の連載で初めて明らかにすることだが、エルグランセニョールという馬を私は気に入っていたのだ。

しかし、今回の話の主役はエルグランセニョールでもなければ、エルジェネシスでもない。
主役はエルジェネシスを生産した早田牧場。
2002年に倒産し、すでに生産界からその名を消して15年以上が経過したが、代表を務めた早田光一郎氏の競馬に対する情熱は凄まじいものがあった。
当時のことは鮮明な記憶として現在も残っている。

・尽きぬ情熱こそが時代を作る

早田牧場の生産馬で最も有名な馬は三冠馬のナリタブライアンだが、その父であるブライアンズタイムと母のパシフィカスを日本に連れてきたのが牧場の代表者である早田さんだ。
ロベルト産駒のブライアンズタイムはサンデーサイレンスと同じヘイルトゥーリーズン系の種牡馬で、パシフィカスはノーザンダンサー直仔の繁殖牝馬。
ナリタブライアンは偶然に生まれたのではなく、ヘイルトゥーリーズン系とノーザンダンサー系との相性の良さを早くから察知されていた早田さんの「時代を読む力」が誕生させた名馬だった。

マルブツの大澤社長に「白井、早田牧場が連れてきたブライアンズタイムという種牡馬はどんなもんなんや?」と聞かれたことがある。
私はすぐに「ノーザンダンサー系との相性がいいはず。社長、株を買っておいたほうがいいかもしれんよ」と。
私はブライアンズタイムよりもスピードと切れがあったサンデーサイレンスのほうが好みで、その2頭の産駒であれば、迷わず後者をチョイスしてきたが、今後の日本競馬を考えたとき──。
飽和状態にあるノーザンテースト系の繁殖牝馬を相手にする種牡馬が絶対に必要なはずで、それはノーザンダンサー系と違う系統でなくてはならない。
アメリカでその役目を担ったのはミスタープロスペクター系だったが、日本ではヘイルトゥーリーズン系。
社台グループも早田牧場も、そして一介の調教師であった私も考えていたことは同じだ。
ノーザンダンサー系の力を最も引き出すニックスの系統を探し求めた人々の情熱のおかげで、日本の生産レベルは格段に向上したのだ。

社台グループも早田牧場もノーザンダンサー直仔の繁殖牝馬を購入し、自身が導入した種牡馬と配合して結果を出した。
飽くなき挑戦を続けた彼らのような方々がいらしたからこそ、現在の日本競馬の繁栄はある。
そして、その背景にノーザンダンサーという偉大なる系統があったことも忘れてはならないだろう。
現在、日本にはノーザンテースト時代よりも多くのサンデーサイレンス系繁殖牝馬がおり、我々はサンデーサイレンス系とニックスの関係にある系統を探し続けている。
30年以上も前に見た風景と同じだ。
あの偉大なるノーザンダンサーに近い状況を生み出すサンデーサイレンスの凄さを、改めて感じているところである。

最後に。
挑戦を続けるためには体力=資金力がいる。
どれほどの情熱があろうとも、体力が続かなければ、その道は志半ばで途絶えてしまう。
しかし、体力が尽きるまで、情熱を燃やし続けてくれた方々の努力を我々は忘れてはならないと思う。
外国馬にまるで歯が立たなかったジャパンカップの創設時は遠い昔のこととなったが、その時代に頑張ってくれた方々がいたからこそ、現在の日本競馬はあるのだ。


ノーザンダンサー(牡)
1961年生まれ
加国産
父Nearctic
母Natalma
母父Native Dancer

主な勝ち鞍
ケンタッキーダービー(64年)
プリークネスS(64年)
フロリダダービー(64年)

通算成績
18戦14勝

主な産駒
ニジンスキー
ヴァイスリージェント
リファール
ノーザンテースト
ダンジグ
ヌレイエフ
ストームバード
サドラーズウェルズ
など

※種牡馬成績は2018年10月時点

【過去の連載馬】
[第1章]ドバイワールドCを勝った馬(ヴィクトワールピサ編)
[第1章]ゼンノロブロイの印象(ゼンノロブロイ編)
[第1章]潜在能力は超A級(シンボリクリスエス編)

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