過去の名馬から海外の競馬事情までを網羅した、読みごたえ十分のオリジナル・コラム!

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    [第1章]成功の予感(ロードカナロア編)

    ・早くも人気種牡馬に 現代競馬に不可欠なスピードを高いレベルで持っている馬。 おそらくは誰もが成功を予感していた存在だろう。 しかし、過剰な期待に応える結果を出すことは、口で言うほど簡単ではなく、特に種牡馬の世界においては、残念ながら“期待はずれ”に終わってしまった馬も少なくない。 ゆえに3回東京の1週目にデビューさせた初年度産駒(ステルヴィオ)が、好時計をマークして勝ち上がった意義は大きく、中京開催の開幕週では産駒がワンツーも決めた。 これらの馬が見せたパフォーマンスに、誰もがこう思ったのではないだろうか。 「ロードカナロアは本物」だと。 それは先日に行われたセレクトセールにおいて、同馬の産駒であるキングスローズの2017とシャムロッカーの2017が、1億8000万円という高値で落札されたことでも証明されている。 今年の2歳が初年度産駒。 しかしながら、2歳戦が始まってのわずか数ヶ月で、種牡馬としての特徴や可能性が見えたと私は考えている。 いずれはリーディングサイアー争いにも名を連ねてくるはずの馬。 これが私の見立て。 少し早い段階ではあるにもかかわらず、ロードカナロアを取り上げさせてもらったのは、そのような考えを持っているからに他ならない。 ぜひ、今後の参考にして頂きたいと思う。 ・レース内容が示す種牡馬としての可能性 安田隆行厩舎の管理馬として走り、GIを6勝したロードカナロア。 日本馬では攻略するのが難しいとされてきた香港スプリントの2勝も、その数字の中に含まれている。 もちろん、サイレントウィットネスがいた頃と比較すれば、当時のレベルは少し低かったかもしれないが、香港のスプリントGIを日本馬がスピードで押し切って勝つことは、並大抵のことではない。 ゆえに、まずは彼の残した偉大な成績を振り返り、その可能性を探っていきたいと思う。 ロードカナロアは超一流のスプリンター。 しかしながら、スプリンター然としていたサクラバクシンオーなどとは、少し違うタイプの馬と見るべきかもしれない。 そして、そのキャラクターの違いこそが、種牡馬としての可能性を広げるものになると私は考えている。 では、その違いとは何なのか? 最初に注目すべきは彼のレースぶりだ。 例えば、連覇を果たした香港スプリント。 そのパフォーマンスはある部分で似通っており、ある部分においては相違点がある。 いや、もっと広範囲で考えれば、スプリンターとしての頂点を目指した2012年と、スプリント王者でありながら、マイル路線の制圧に挑んだ2013年の違いと言うべきだろうか。 もちろん、種牡馬としての可能性を探るなら、重視するのは後者のレースになる。 1600mの安田記念だけでなく、スプリンターズSに5馬身差の圧勝を決めたラストランの香港スプリント。 本来のフィールドである1200mにおいても、彼の走りに微妙な変化を感じた。 次回はこのレースぶりについて、話をさせてもらいたい。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]ブライアンズタイムの魅力(ブライアンズタイム編)[第1章]神に選ばれた馬(ラムタラ編)[第1章]現役種牡馬の最高峰に挑む(ディープインパクト編)

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    [最終章]ダイワメジャーの限界(ダイワメジャー編)

    ・父サンデーサイレンスとの違い 現役時代から500キロをはるかに超える馬体重を誇ったダイワメジャー。 種牡馬となった現在も立派な馬格を誇り、いかにもスピードと体力がありそうな佇まい。 なるほど、生産者が彼の仔を求めるのも無理はない。 サンデーサイレンスの最大の魅力は、スピードだったと私は考えている。 しかし、動きがしなやかだった彼は、自身のスピードを切れという形で産駒へ伝えることに成功した。 では、ダイワメジャーは? 切れよりもスピードの持久力を武器にしている彼の姿に、父サンデーサイレンスの面影を見ることはできない。 その事実こそが、ダイワメジャーの限界のように私には感じる。 スカーレットインク系に強い影響を与えたのは、スピード豊富なクリムゾンサタン。 これに関しては、すでに前回で述べた。 ならば、ダイワメジャー自身に影響を与えている馬は? それは母父のノーザンテーストではないかと考えたことがある。 同じ栗毛だったノーザンテーストの影響が強いのなら、その産駒がダートをこなしたり、本来の適性よりも長い距離をこなしたとしても不思議はない。 しかし、母系の影響も引き出したノーザンテーストと違い、ダイワメジャーの産駒は見た目だけでなく、走りまで父に似る傾向が強い。これはダイワメジャーにしかない特徴と言っていいだろう。 豊富なスピードを武器にした先行力と、それを最後まで生かす持久力──。 私のような立場の人間はダイワメジャーを「計算の出来る馬」と考えるだろうし、このような種牡馬の産駒は、馬を購入する際に勧めやすいタイプとも考える。 しかしながら、ダイワメジャーの産駒は見栄えのする馬が多く、それが結果ともリンクしてしまう場合が多い。 ゆえに、相応の値段も必要になってしまう。 これが同馬の産駒を買う際の最大のネックと私は思うのだが、それは購入者が自身の予算と相談すべきことなのかもしれない。 ・GIの舞台で課題が浮き彫りに 天皇賞(秋)を勝つ馬には2種類のパターンがある。 私が管理したスペシャルウィークは瞬発力で同レースを制しているが、これが1つ目の勝ちパターン。 このような勝ち方をするタイプは中距離だけでなく、それ以上の距離も克服できる馬が多いように感じる。 ダイワメジャーはスペシャルウィークと正反対の勝ち方をした馬だ。 スピードを生かした先行力はもちろんのこと、並ばれてからも二枚腰を発揮した。 この勝ち方をする馬はマイラー型。 ダイワメジャーの場合は、そのクオリティーが非常に高いわけだが、冒頭で述べたようにサンデーサイレンス系の多くの馬が持っている瞬発力を、彼は手に入れることができなかった。 ダイワメジャー産駒のGI馬を思い出してほしい。 メジャーエンブレム、カレンブラックヒルにコパノリチャード。 今年の桜花賞を勝ったレーヌミノルもダイワメジャー産駒だが、どの馬もタイプは同じではないか。 持ち前のスピードを生かした馬ばかりで、瞬発力で勝ったと思える馬は1頭もいない。 これがダイワメジャー産駒の現状であり、超の付く大物を出せない理由。 GIという最高レベルのレースを勝とうと思えば、スピードだけでなく、瞬発力が必要になる場合もある。 天皇賞(秋)に2つの勝ちパターンが存在する話をしたが、そのどちらにも対応できる種牡馬でなければ、競馬史に残るような存在となることはできないだろう。 特にGIという舞台は、他のどのランクのレースよりも、瞬発力が求められるレースだ。 これほどの成績を残しながら、GIでワンパンチ欠いてしまうところに、ダイワメジャーの本質があるように私には見える。 ダイワメジャーの産駒を見る場合でも、母系を考える必要はある。 しかし、彼の産駒は彼に似ている馬が多い。 これは長所でもあり、短所にもなってしまうのだ。 もしも、ダイワメジャーが自身に似ず、瞬発力を持つ大物を輩出してきたら…。 これまでに述べた私の考えを、すべて改めなければならないだろう。 ダイワメジャー(牡) 2001年4月8日生まれ 千歳産 父サンデーサイレンス 母スカーレットブーケ 母父ノーザンテースト 主な産駒 カレンブラックヒル コパノリチャード メジャーエンブレム レーヌミノル など 重賞勝利数(中央) 25勝 主な勝利レース 桜花賞 NHKマイルC 高松宮記念 阪神JF など 主な母父成績 セイファルコン ラインギャラント など ※種牡馬成績は2017年7月時点 【過去の連載馬】[第1章]トニービンの印象(トニービン編)[第1章]ブライアンズタイムの魅力(ブライアンズタイム編)[第1章]神に選ばれた馬(ラムタラ編)

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    [第1章]ダイワメジャーは大成功しているのか(ダイワメジャー編)

    ・期待通りの活躍 ダイワメジャーは種牡馬入りした直後から成功を予感させた馬だ。 素晴らしい血統と立派な馬格。 生産者が種牡馬に求めるものを、初めから彼は持っていた。 だからこそ、改めて考えたい。 種牡馬入りしたダイワメジャーが、期待通りの活躍を見せたのかどうかを。 この質問にノーと答える関係者はいないだろう。 毎週のように産駒が勝ち上がるだけでなく、2歳の早い時期から結果も出す。 その事実こそが、生産者にとって最も重要なこと。 その観点から言えば、ダイワメジャーは大成功していると言えなくもない。 多くの種牡馬が登場し、淘汰されていく。 しかし、ダイワメジャーの産駒数が激減することはない。 それは彼が他の馬よりも、はるかに分かりやすい種牡馬だからではないだろうか。 認識と違う成績を残している種牡馬もいる。 自身のコピーのような馬を出したかと思えば、似ても似つかない馬を輩出する馬もいる。 だが、ダイワメジャーの産駒は、常にイメージ通り。 そのほとんどがダイワメジャーに似た特徴を見せる。 ゆえに生産者から見れば、ハズレが極端に少ない馬に見えるのだ。 しかし、ディープインパクトのようなインパクトを残しているのかと問われれば、その質問に関しての答えはノーだろうし、自身を超える大物を輩出したステイゴールドやスクリーンヒーローのような馬も出してはいない。 今日に至る彼の活躍は、あくまで“想定内”のものだ。 ダイワメジャーの産駒が“規格外”であることはなく、そのパフォーマンスにもおおよそのイメージが付く。 そして、それこそが彼の最大の弱点と言えるかもしれない。 ・名門のスカーレットインク系 冒頭でも述べたが、ダイワメジャーは素晴らしい血統を持っている。 血統に興味を持つファンなら、誰もが知るスカーレットインク系。 牝馬の枠を超えた活躍をしたダイワスカーレットは、今回の主役であるダイワメジャーの半妹(父はサンデーサイレンス直子のアグネスタキオン)で、ダート王として君臨したヴァーミリアンもこの系統から出た名馬だ。 繁栄しているスカーレットインク系は、自身の特徴を産駒にしっかりと伝えていく傾向がある。 ダイワメジャーはサンデーサイレンス系にしては珍しい大型馬で、サンデーサイレンス系にしては瞬発力もない。 最大のセールスポイントは、非凡なスピードとその持続力。 他のサンデーサイレンス産駒とは違う特徴を見せたダイワメジャーを「面白い馬だな」と最初は思った。 しかし、彼は豊富なスピードを武器にするスカーレットインクの系統の馬。 彼の見せたパフォーマンスの数々は、すべて血統で説明できるものなのだ。 スカーレットインクの父であるクリムゾンサタン。 1959年に誕生した彼の素性を知る関係者も少なくなった。 しかし、クリムゾンサタンがロイヤルアカデミーの母父と聞けばどうだろうか? ニジンスキー産駒でありながら、豊富なスピードを持っていたロイヤルアカデミー。 彼は母系の影響が色濃く出ていた馬と私は考えている。 スカーレットインク系の本質は、マイル前後で生きるスピード。 50年以上も前の馬であるクリムゾンサタンがその根源と考えれば、常日頃から「血統の世界はどこまでも奥深い」と語る私の言葉も、理解してもらえるのではないだろうか。 ・次章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]サンデーサイレンスの本質(サンデーサイレンス編)[第1章]トニービンの印象(トニービン編)[第1章]ブライアンズタイムの魅力(ブライアンズタイム編)

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    [最終章]崩れていない血統(スクリーンヒーロー編)

    ・実は超の付く良血馬 私の厩舎で預かったスクリーンヒーローの初年度産駒は、競走馬として大成することはできなかった。 育成段階から体質が弱く、作りこむことができなかったのだ。 そして、これはスクリーンヒーロー産駒の多くに共通することではないかと思う。 モーリスもそうだし、ゴールドアクターも同様だった。 スクリーンヒーロー産駒を開花させるためには、相応の忍耐を必要とする──。 これは変えようのない事実だ。 すぐに結果が求められる時代において、大きなマイナス材料となるはずなのだが、それを差し引いても、購入に踏み切りたくなるだけの魅力が彼にあるとすれば、それは血統ということになるだろう。 産駒が活躍し出したときに、私は思ったものだ。 「血が騒いだな」と。 言うまでもないことだが、その母系は実に素晴らしい。 母父にサンデーサイレンス。 祖母には名牝ダイナアクトレス。 そのダイナアクトレスの父は、日本競馬史に名を残す大種牡馬ノーザンテーストだ。 3代母は重賞2勝をマークしたモデルスポート。 「これさえなければ、最高の血統なんだけどな」という馬が実は多いのだが、スクリーンヒーローの母系は、崩れたと感じさせる部分が一つもない。 大種牡馬と呼ばれる馬の多くは、この“崩れていない血統”の持ち主。 その血統構成を見るたびに、成功した馬の背景に配合を考えた生産者の顔が浮かぶ。 競走馬の血統は、人の意思によって決めることができるものだからだ。 ・父グラスワンダーの可能性を考える スクリーンヒーローの父はグラスワンダー。 彼のイメージが地味なのは、グラスワンダー産駒だからではないか──というような話を前回にさせてもらった。 だが、それはあくまでイメージに過ぎない。 グラスワンダー自身が地味な馬だったのかと尋ねられれば、その答えはノー。 これまでに何度も言ってきたと思うが、私が管理したスペシャルウィークの最大のライバルは、まちがいなくグラスワンダーだった。 ゆえに、私は彼の素晴らしさをよく知っている。 グラスワンダーの父は、長距離を得意とするロベルト系のシルヴァーホーク。 しかし、彼の寸の詰まった馬体は、母父のダンジグから影響を受けたものと私は考えていた。 グラスワンダーは1400mのような短い距離でも結果を出していたが、そのスピードもダンジグから来ているのだと。 しかし、彼は長い距離でも結果を出した。 マッチョだったグラスワンダーの適性距離は、中距離にこそあったと私は思う。 長距離を走る馬としては、フットワークがダイナミック過ぎる印象も持っていた。 だが、彼は自在な競馬ぶりだけでなく、距離に関する融通性も示した。 掛け合わせの妙とでも言うのだろうか。 リボーにダンジグ、ダンジグにロベルトといった積み重ねが、グラスワンダーをオールアラウンドな馬へと導いたのかもしれない。 ・2頭の代表産駒に示した種牡馬としての優秀さ スクリーンヒーローはグラスワンダーと同じ栗毛の馬。 しかし、馬体は息子のほうが薄い。 彼が制したジャパンCを改めて見て思うのは、折り合いが自在で競馬が上手な馬ということ。 鞍上のデムーロ騎手がソツなく乗っていたことが、彼の強さが伝わりにくい1戦となってしまった理由だが、国際GIを勝った潜在能力が本物だったことを、種牡馬となった彼は示した。 だが、この1戦を見て、このようにも思う。 父が見せた競馬センスの高いレース運びを継承しているのは、有馬記念を制したゴールドアクターのほうだということを。 モーリスは違う。 あのパワフルな走りから連想される馬は、ダンジグを母父に持つ祖父のグラスワンダー。 あの馬の力強いフットワークが世代を超えて遺伝し、モーリスという偉大な名馬を生み出した。 だが、その事実がスクリーンヒーローの価値を下げることは決してない。 何度も言うが、タイプの違う馬を出すことは、優秀な種牡馬となる大事な要素で、その資質を血統面から感じさせる馬がスクリーンヒーローだ。 サンデーサイレンスだけでなく、ダンジグもノーザンテーストもいる。 どの部分を切り取っても、その路線の優秀な馬が彼の中に眠っている。 この事実こそが、現在の活躍が“必然”であることを物語っているのではないだろうか。 種付け料が一気に上がった彼の繁殖相手は、それこそレベルが2つも3つも違う牝馬になることが予想される。 自身の中にある優秀な血を伝えるだけでなく、繁殖のほうの能力も引き出すことができたのなら──。 一流種牡馬から超一流の種牡馬へと立場を変えることができるかもしれない。 そして、その可能性も決して低くはないと私は考えている。 スクリーンヒーロー(牡) 2004年4月18日生まれ 千歳産 父グラスワンダー 母ランニングヒロイン 母父サンデーサイレンス 主な産駒 モーリス ゴールドアクター など 重賞勝利数(中央) 11勝 主な勝利レース 香港カップ(香港) 香港マイル(香港) チャンピオンズマイル(香港) 天皇賞(秋) 安田記念 マイルCS 有馬記念 など ※種牡馬成績は2017年6月時点 【過去の連載馬】[第1章]スペシャルウィークが名馬である理由(スペシャルウィーク編)[第1章]サンデーサイレンスの本質(サンデーサイレンス編)[第1章]トニービンの印象(トニービン編)

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    [第1章]恵まれない環境からの脱却(スクリーンヒーロー編)

    ・サクセスストーリーの始まり 鳴り物入りで種牡馬入りする馬もいれば、わずかな産駒から活躍馬を出し、自身への評価を変える馬がいる。 近年ではドリームジャーニーで足がかりを作り、オルフェーヴルで評価を定めたステイゴールドが代表格。 しかし、単に大物を出したことだけが、ステイゴールドの凄さではないと私は思う。 ステイゴールド産駒の代表格と言えば、オルフェーヴルとゴールドシップ。 だが、この2頭のタイプはまるで異なるもの。 共通しているのは、激しい気性くらいだろうか。 ステイゴールドは小柄な馬体に、一瞬の切れと豊富なスタミナを有していた馬だった。 500キロの馬体を誇り、飛びの大きいフットワークで走ったゴールドシップやフェノーメノは、スタミナ豊富という点でこそ、父の影響を感じるが、前者は母父メジロマックイーンの、後者は母父デインヒルの色が強い馬体をしていた。 そして、この事実こそが、なによりも重要だ。 単に成功するのではなく、大成功する種牡馬は、自身と異なるタイプの馬も輩出してくる。 時には自身のコピーのような馬を。 時には母系の影響を強く受けた馬を。 リーディングの上位で活躍するためには、様々な競馬場で結果を出す必要がある。 ゆえに、バリエーションの多い産駒を出すことが大事。 ステイゴールドの素晴らしさは、その部分にこそあったと思うのだ。 現在、あのステイゴールドと似たイメージで、種牡馬としてのサクセスストーリーを歩んでいる馬がいる。 それがスクリーンヒーローだ。 2008年のジャパンCを制したGI馬。 しかし、どこか地味な印象なのは、現役最強だった瞬間がなかっただけでなく、父がグラスワンダーという地味な存在だったからではないだろうか。 だが、彼は年度代表馬のモーリス、有馬記念を制したゴールドアクターといった2頭の大物を輩出した。 ステイゴールドと同じく、タイプの異なる2頭の大物を──。 大種牡馬になる可能性を秘めたスクリーンヒーローの本質を、私なりの視点で解説してみたい。 ・現在の金額は適正なのか スクリーンヒーローの現在の種付け料は700万円だと聞く。 三冠馬のオルフェーヴルよりも高く、自身の代表産駒であるモーリスよりも高い。 この値段が適正かどうかはともかくとして、これほどの金額でも生産者がスクリーンヒーローとの交配を考えるのか? そのような質問を受ければ、私は答えに窮してしまうだろう。 「勇気がいるね」 このように返答するかもしれない。 ステイゴールドと同じように、種牡馬入りした当初のスクリーンヒーローは、繁殖に恵まれていない状況だった。 そんな逆境を克服し、大物を出してきた馬は、その後も活躍する可能性が高い。 その一方で、スクリーンヒーローの初年度産駒は、値段がかなり安かった。 その記憶が残っている状況で、値段が高騰している彼の産駒を買いたくなるのだろうか? 生産者はそこを考えなければならないし、購入者も見極めが必要になってくる。 どんなものでもそうだと思うが、商品には“適正価格”というものがあるからだ。 では、値段が一気に上がってしまったスクリーンヒーロー産駒は、購入に値しない存在になってしまったのか? “崩れていない血統”という言葉を私は好んで使う。 それが競走馬にとって、最も重要な要素だと考えているからだが、今回の主役であるスクリーンヒーローは、その“崩れていない血統”を持っている馬だ。 地味だった現役時代のイメージと違い、彼の中に眠る血は実に華やかなのだ。 産駒の値段が安かった初年度。 私は彼の仔を厩舎に入れたことがある。 その理由はただひとつ──。 彼の中にあるダイナアクトレス、モデルスポートの血に期待したからだ。 だが、スクリーンヒーローの優秀な血は母系だけに眠っているのではなかった。 その部分について、次回は深く掘り下げてみたい。 ・次章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]名物オーナーとの出会い(フサイチパンドラ編)[第1章]スペシャルウィークが名馬である理由(スペシャルウィーク編)[第1章]サンデーサイレンスの本質(サンデーサイレンス編)

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    [最終章]ローソサイエティの血(マンハッタンカフェ編)

    ・サトルチェンジから連想した1頭の馬。 マンハッタンカフェの母はサトルチェンジ。 当時、サンデーサイレンス産駒には珍しいステイヤーの理由とされたのが、母であるこの馬の存在だった。 アレッジド産駒のローソサイエティ。 サトルチェンジの父である同馬はアイルランドダービー馬で、その適性は長距離。 サトルチェンジの母父ルチアーノも、ドイツダービーにバーテン大賞の勝ち馬だった。 なるほど、この2頭の存在がマンハッタンカフェにスタミナを与えていると考えれば、すべての辻褄が合う。 しかし、それは誰もが考えるマンハッタンカフェのイメージだ。 今回の連載は趣旨が違う。 マンハッタンカフェのどの部分に、短距離戦でも活躍できるスピードが眠っているのか? それを探さなくてはならない。 マンハッタンカフェの血統表を眺め、彼が持つスピードの理由を探していたとき──。 私は自身が管理した1頭の馬を思い出した。 「競走馬としてだけではなく、繁殖牝馬としても活躍するような馬を探して来てほしい」 牧場を持つオーナーに要請を受け、アイルランドで探してきた1頭の牝馬。 彼女には花の名前を付けた。 その馬がスイートマジョラム。 彼女の父がローソサイエティだったのだ。 長い距離での活躍とスタミナを産駒に伝えることを意識し、私は彼女の購入を決めた。 私の厩舎からデビューした彼女は、通算で4勝の競走成績を残している。 まずまずの活躍と言っていいだろう。 しかし、彼女が残したその成績は、イメージとまるで逆だった。 芝、ダートの1200mで1勝ずつを上げ、芝の1800mで2勝。 晩成タイプの可能性まで考えていたのに、2歳夏の小倉でデビューし、わずか2戦で勝ち上がってしまった。 「イメージと違う馬だな」 そう感じた記憶がある。 ・マンハッタンカフェの“二面性”を知ることが重要 マンハッタンカフェが短距離をこなす理由は、母父のローソサイエティにある。 そんなことを言えば、多くの血統論者に笑われてしまうだろう。 しかし、ローソサイエティが自身のイメージと違う産駒を出す種牡馬であったことも、疑いようのない事実。 それは、実際に私自身が経験したことだ。 サトルチェンジの血統を初めて知ったとき、私は「ああ、ローソサイエティの肌馬か」と思った。 その認識があったからこそ、マンハッタンカフェはステイヤーと考えたし、その見解で正解だったとも思う。 しかし、一方でスイートマジョラムの成績を改めて考えたとき──。 マンハッタンカフェが見せる“二面性”は、母父であるローソサイエティと同等のものであるようにも感じてしまうのだ。 青鹿毛で格好のいい馬だったマンハッタンカフェは、繋が長めで柔らかい感じの馬だった。 サンデーサイレンス系の中でも、自身に似たタイプの仔を出すと思われていた馬だ。 ゆえにジャッジもしやすいと考えられてきた。 しかし、似ているのは外見だけ。 いや、ジョーカプチーノのように、外見さえも似ていない馬だっている。 そして、そんな産駒が走ってしまうのだから、これも驚きと言うほかない。 ダートに転用できてしまう産駒もいる。 そんな種牡馬との認識を持っている関係者が、どれだけいるのだろうか? 少なくとも、そのイメージを私は持っていなかった。 ゆえに、オーナーに産駒の購入を勧めた記憶もない。 リスクもある種牡馬と考えていたからだ。 すでに死亡してしまった彼の産駒はいなくなり、今後はブルードメアサイアーとしての付き合いになるだろう。 だが、誤っていた考えは、直ちに改めないといけない。 そして、以前の私と同じようにマンハッタンカフェという種牡馬をイメージしている方が多いのなら…。 この事実は、これからの狙いどころとなるかもしれない。 マンハッタンカフェ(牡) 1998年3月5日生まれ 千歳産 父サンデーサイレンス 母サトルチェンジ 母父Law Society 主な産駒 ジョーカプチーノ レッドディザイア ヒルノダムール グレープブランデー クイーンズリング など 重賞勝利数(中央) 47勝 主な勝利レース 天皇賞(春) エリザベス女王杯 フェブラリーS NHKマイルC 秋華賞 主な母父成績 ダンツプリウス ノットフォーマル ショウナンラグーン プラチナヴォイス など ※種牡馬成績は2017年6月時点 【過去の連載馬】[第1章]血を追い求めて(ダンスパートナー編)[第1章]名物オーナーとの出会い(フサイチパンドラ編)[第1章]スペシャルウィークが名馬である理由(スペシャルウィーク編)

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    [第1章]イメージと違う馬(マンハッタンカフェ編)

    ・ステイヤー色が強いのは本当か? 2001年の菊花賞と有馬記念を制し、翌年に天皇賞(春)も勝ったマンハッタンカフェのイメージはステイヤー。 これは私だけでなく、競馬ファンの多くが思っていることだろう。 しかし、彼が競走馬として走っていたのは、15年以上も前のことだ。 30歳前後の新しいファンは、種牡馬としての彼しか知らないかもしれない。 2015年に死亡したマンハッタンカフェは、来年の2歳世代が最後になる。 産駒がセールに登場しなくなる種牡馬を取り扱うことは、今回の趣旨と少し離れてしまうが、現在もリーディングサイアーに名を残している馬。 今後はブルードメアサイアーとして、その名を見る機会も増えるだろう。 父だけでなく、母父やその先にいる馬まで見る必要があるのが血統の世界だ。 その本質を探ることは、決して無駄ではあるまい。 その競走成績と似たイメージで、種牡馬としてのマンハッタンカフェを考えているファンの方は多いと思う。 実は私もその一人。いや、その一人だったというべきだろうか。 今回、マンハッタンカフェの種牡馬成績を改めて見直したことで、漠然と抱いていた彼のイメージが、実は間違っていたものだったことが浮き彫りになったのだ。 ・ダートでの勝ち上がりもある 意外というほかないのだが、マンハッタンカフェは芝だけでなく、ダートでもしっかりと勝ち上がる。 JRAにおける活躍は芝がメイン。これはイメージどおりだ。 しかし、彼の産駒は地方競馬でも勝ち上がる。 それが彼のダート成績を押し上げている原動力になっているのだろうか。 すべての勝利数を合算すると、ダートの勝利数のほうが多いくらいなのだ。 彼の代表産駒として最初に思い出すのは、秋華賞を制したレッドディザイアだろうか。 次に天皇賞(春)を勝ったヒルノダムール。 昨年のエリザベス女王杯を勝ったクイーンズリングも同馬の産駒だが、これらの馬は軽い京都の長距離戦に強かったマンハッタンカフェのイメージに沿うもの。 言わば、納得の出来る存在だ。 しかし、彼の産駒で、最初のGI勝ちを果たしたのはジョーカプチーノ。 そのレースは1600mのNHKマイルCで、最終的にはスプリント重賞も勝った。 2008年産のグレープブランデーはフェブラリーSの勝ち馬。 言うまでもなく、ダートの1600mで行われるGIだ。 ゆえに、これらの馬とマンハッタンカフェの共通点を探すことは難しい。 面白いところでは、地方交流重賞で活躍したエーシンモアオバー。 彼もマンハッタンカフェの産駒だ。 確かにステイヤーではあるのだが、芝の長距離戦でスパッと切れた父のイメージと違い、力のいる地方のダートを主戦場にし、豊富なスタミナを生かして粘り込むタイプ。 この馬も父の面影をそこまで感じさせない1頭と言えるだろう。 ・実は汎用性の高い種牡馬 サンデーサイレンス系からは様々なタイプの種牡馬が出ている。 短距離を得意にする馬もいれば、クラシックディスタンスに強い馬もいる。 だが、そのほとんどが一般的なイメージとの乖離がなく、競走馬を買う際の目標も絞りやすい。 ディープインパクトの仔を買ってダート戦を狙う人はいないだろうし、ダイワメジャーの仔で菊花賞や天皇賞(春)を勝ちたいと考える人もいないだろう。 それが普通なのだ。 クラシックを意識しながら、ダートへの転用もできるキングカメハメハは稀有な存在との話をさせてもらった。 しかし、キングカメハメハの場合は、多くの関係者がそれを認識している。 ゆえに、大きな問題にならない。 だが、マンハッタンカフェは違う。 これだけ成功した種牡馬であるにもかかわらず、イメージと違う成績を残しているのだ。 ある意味では、奥深い馬と言えるのではないだろうか。 正しい認識を持った状況で、改めて考えるマンハッタンカフェの本質。 次回はこれをテーマに話を進めたいと思う。 ・次章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]ボーラーとの出会い(メイショウボーラー編)[第1章]「血を追い求めて」(ダンスパートナー編)[第1章]名物オーナーとの出会い(フサイチパンドラ編)

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    [最終章]ハーツクライ産駒の新しい活用方法(ハーツクライ編)

    ・本当に活躍の場は狭いのか? ハーツクライ産駒の値段は、決して安くはない。 しかも、その成長傾向は晩成で、ダートの活躍馬が出ることも少ない。 キングカメハメハの項でも触れたが、ユーティリティーな活躍が出来るということは、種牡馬にとっての大きな強み。 馬主サイドに購入を進める際の大事な要素にもなりえるものだ。 ハーツクライ産駒はクラシックディスタンスに強い。 トニービンから受け継いだ持続力のある末脚は、スタミナを必要とする条件でこそ生きる。 タフなGIレースで強さを見せるのも、ハーツクライの中に眠る豊富なスタミナがあればこそで、彼の産駒を求める声がなくならない理由もここにある。 馬主になられた方にとって、GI制覇は誰にとっても夢のひとつであるからだ。 しかし、その一方で、傑出したスピードを持たないハーツクライの産駒は、勝ち上がることさえも難しくなる場合が少なくない。 芝の短い距離は使えず、ダートに矛先を向けることもできない。 まさに八方塞がりの状態。 このような可能性のある馬をオーナーに薦めることは、私にとって難題に近い。 だが、ハーツクライ産駒の購入を薦めたいと思う場合もある。 その理由をひと言で表すなら、「適材適所」という言葉になるだろうか。 晩成の長距離血統がネックにならない状況であれば、秘める能力は間違いのない種牡馬。 当然ながら、購入の対象になってくるというわけだ。 ・開拓すべき場所 では、その状況とは? 産駒の配合を考える生産者が増えたことは、すでに述べた。 早い時期から活躍する馬も出てきてはいる。 しかし、ハーツクライの本質を最大限に生かすのならば──。 その舞台は海外なのではないだろうか? グレードレースを勝つようなレベルの馬による短期の遠征話をしているのではない。 むしろ、私がしているのはその逆の話だ。 現在、JRAで勝てなかった馬の行く先は、地方競馬がほとんどになっているが、その選択肢に海外を加えてもいい。 いや、加えるべきだと思う。 その理由を、これから述べよう。 アメリカ、オーストラリアの種牡馬に求められている条件はスピードと早熟性。 これに尽きると言っていい。 特にオーストラリアは、メルボルンCという3200mの国民的なビッグレースがありながら、生産界は答えの早く出る短距離血統に比重を置いてきた。 なぜか? 総賞金額が350万豪ドル(約2億9000万円)で、2歳戦としては世界最高金額のゴールデンスリッパーS。 芝1200mで行われるレースの存在が、オーストラリアの生産者から長距離血統に対する興味を奪ってしまったと私は考える。 開花するかどうかも分からない晩成血統よりも、早熟なスピード血統のほうが結果が出るのが早く、相馬の点でも判断しやすい。 ギャンブルをする必要性など、どこにもなかったのだ。 ニーズはあるのに、それに対する供給がない。 そんな彼らの目を向けた先が日本の生産界だ。 調教師の時代から、頻繁にオーストラリアへと私は顔を出してきた。 だからだろうか? 旧知にしているオーストラリアのエージェントの方が、私にこう言う。 「長い距離の未勝利を走り、少しはいいところがあったのに、勝ちきれなかった馬はいませんか? JRAの登録を抹消して、地方競馬に行くのであれば、これくらいの値段で私たちが買いますよ」 1着がサンデーサイレンス直子のダンスインザダーク産駒だったデルタブルース、2着ポップロックの母もサンデーサイレンス産駒のポップス。 サンデーサイレンスの血を持つ2頭の日本馬が、ワンツーを決めた2006年のメルボルンCがターニングポイントだったように感じる。 それに続いたのが、2014年のコーフィールドCを58キロの重い斤量で勝ったハーツクライ産駒のアドマイヤラクティだった。 同じハーツクライ産駒のジャスタウェイが、ドバイで強い勝ち方をしていた。 当然ながら、彼らはそれも知っている。 スタミナを豊富に持ちながら、GIレベルのスピード勝負にも対応できる種牡馬は世界的に少ない。 彼らにとってハーツクライは、自身のニーズに最も合う魅力的な種牡馬と言えるのだ。 ・未勝利馬へのニーズ 先ほども述べたように、ハーツクライの産駒は総じて安くない。 セレクトセールのような大きなセールでなら、その値段が億に迫ることも少なくない。 メルボルンCを狙う馬を求めているオーナーがいた場合、私もハーツクライの産駒を勧めてみたいとは思う。 しかし、その時点では値段の折り合いがつかないはずだ。 だが、未勝利を勝てずに終わる産駒は、すでにGIレベルの活躍を期待すること自体が難しくなっているだろう。 未勝利の立場では、適性のある番組に出走することさえもできない。 ダートが合わないことはデータが証明済みだ。 地方への転厩で、結果を残せるかどうかもわからない。 しかし、オーストラリアでなら…。 ハーツクライの産駒は総じて晩成だ。 3歳で勝ち上がれなくても、4歳以上になって実が入る可能性は小さくない。 加えて、メルボルンCはハンデ戦。 長距離適性で勝つことも十分にあるレースだ。 まさに適材適所の移籍ではないか。 このような可能性を見つけ、そこに隠れた逸材を送り込む仕事も面白いだろうな、と個人的には思う。 ハーツクライという種牡馬は、新しいビジネスの形さえも提示してくれる貴重な存在と言えるかもしれない。 ハーツクライ(牡) 2001年4月15日生まれ 千歳産 父サンデーサイレンス 母アイリッシュダンス 母父トニービン 主な産駒 アドマイヤラクティ ジャスタウェイ ヌーヴォレコルト ワンアンドオンリー など 重賞勝利数(中央) 36勝 主な勝利レース コーフィールドカップ(豪) ドバイデューティフリー(UAE) レッドカーペットハンデキャップ(米) 日本ダービー オークス 天皇賞(秋) 安田記念 など 主な母父成績 シーズララバイ など ※種牡馬成績は2017年6月時点 【過去の連載馬】[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)[第1章]ボーラーとの出会い(メイショウボーラー編)[第1章]「血を追い求めて」(ダンスパートナー編)

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