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    [第3章]ハービンジャーを活かすために(ハービンジャー編)

    ・スピードの注入がすべて ハービンジャーが求めているもの。 それはサンデーサイレンス系の血ではなく、自身に足りないスピードにある。 前回の連載で、私はストームキャットとダンジグという2頭の馬の名を上げたが、どうしてこの2頭なのか? その理由を説明していきたい。 ハービンジャーの祖父はデインヒルで、その父は大種牡馬のダンジグ。 デインヒルのスピードはダンジグから遺伝したものと考えられており、スタミナ系と説明してきたハービンジャーの体内にも、スピード系の代表であるダンジグの血が流れている。 この事実こそが重要。 確かにハービンジャー自身はダンジグの影響が薄い馬だ。 しかし、ダンジグを体内に持つ繁殖を用意し、インブリードが発生するによって、ダンジグの潜在スピードを強調させることは可能だろう。 ストームキャットは単純にスピードが豊富な馬というだけでなく、サンデーサイレンス系との相性が抜群にいい。 ディープインパクトが特に有名だが、最近はハーツクライの配合相手にも母父ストームキャットの馬が見られるようになった。 仮に今回がサンデーサイレンス系との配合でなかった場合、その馬の次の配合相手はサンデーサイレンス系になる可能性が高いだろうが、その先まで見越して体内に入れておきたい馬がストームキャット。 ハービンジャーに足りないスピードを注入してくれるだけでなく、配合相手であるサンデーサイレンス系とのニックスも成立する。 ストームキャットの血を体内に持つハービンジャー産駒は、近い将来のニーズに合った馬となるわけだ。 ・未来を見据えた配合とは そのモデルケースとなる馬がいる。 エリザベス女王杯を勝ったモズカッチャン。 彼女はハービンジャーという種牡馬を見事に活かしているだけでなく、その将来にも期待できる素晴らしい配合だ。 ダンジグの4×5というインブリードを成立させ、体内にストームキャットの血も兼備。 母父にはミスタープロスペクターのスピードを受け継ぎ、サンデーサイレンス系とはニックスの関係にあるキングカメハメハ。 3本のスピード血統を持っている母系でハービンジャーの弱点を補っているところも凄いが、このモズカッチャンにサンデーサイレンス系を配合した場合をイメージすると、彼女の存在意義はさらに価値の高いものになる。 ストームキャット、キングカメハメハを相手にした2本のニックスが成立。 ハービンジャーがサンデーサイレンス系とのマッチングを考えて導入された馬であるのなら、ハービンジャーとサンデーサイレンス系との間にもニックスが成立する。 ダンジグ、ストームキャット、ミスタープロスペクターといったスピード血統を重ねただけでなく、サンデーサイレンス系に対して3本のニックスまで生み出されることになるのだ。 これだけでも十分過ぎるほどだが、多くの方がご存知のようにサンデーサイレンス系の種牡馬はストームキャットとの関係性がいい。 キズナに代表されるストームキャットの血を持つ種牡馬もすでに誕生しているが、このような馬と掛け合わせた場合、産駒はニックスだけでなく、ストームキャットのインブリードまで持つことになる。 モズカッチャンがその未来までも考えて配合された馬とするのなら、この馬を作り出した生産者サイドの先見の明に対し、私は単にGI馬を作り出したこと以上の賞賛を送りたい。 ・ハービンジャーは要素のひとつに過ぎない モズカッチャン以外にもキーホースはいる。 秋華賞を勝ったディアドラは名牝ソニックレディの血を引く血統。 つまりはヌレイエフのスピードを持っている馬だ。 マイルCSを制したペルシアンナイト。 この馬の祖母ニキーヤもヌレイエフの産駒。 これくらいのスピードを体内に入れていかなければ、ハービンジャーにはスピードを注入できないということだろう。 どちらもサンデーサイレンス系の繁殖牝馬だが、注目すべきはそこだけでなく、その繁殖牝馬がスピード血統を持っているかどうか。 もちろん、サンデーサイレンスの名があまりに遠くなってしまうと、同馬のために連れてきた理由がなくなってしまう。 サンデーサイレンス系の馬を母父に置き、それ以外の箇所でスピード血統を用意できるかどうか。 それがハービンジャーを成功させる要因と言い切っていいだろう。 ハービンジャーとサンデーサイレンス系の組み合わせを意識し過ぎると、ハービンジャーの弱点を補えないばかりか、サンデーサイレンス系の持っている武器さえも失うことになりかねない。 サンデーサイレンス系の繁殖相手に選ばれている血統を見ること。 この部分こそを考えたい種牡馬なのだ。 ハービンジャー(牡) 2006年3月12日生まれ 英国産 父Dansili 母Penang Pearl 母父Bering 主な勝ち鞍 キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(10年) 通算成績 9戦6勝(重賞6勝) 芝連対距離(重賞) 2400m~2680m 主な産駒 ペルシアンナイト モズカッチャン ディアドラ など 重賞勝利数(中央) 9勝 産駒の主な勝利レース(中央) エリザベス女王杯 マイルCS 秋華賞 など ※種牡馬成績は2018年1月時点 【過去の連載馬】[第1章]世界最高峰の種牡馬(ガリレオ編)[第1章]ステイゴールドの立ち位置とは?(ステイゴールド編)[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)

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    [第2章]サンデーサイレンスのための種牡馬(ハービンジャー編)

    ・求められている役割 サンデーサイレンス系に合う血統を探すこと。 同馬の血に席巻されている日本の生産界を見れば、それは至上命題でもある。 ニックスの関係にあるキングカメハメハとその産駒たちは代表的な存在。 体内にサンデーサイレンスの血を持たないルーラーシップやロードカナロアは、他のキングカメハメハ産駒よりも重宝されている。 彼らの活躍は種牡馬としての能力だけでなく、彼らの血統構成が理由になっている面も否定できないのだ。 しかし、サンデーサイレンスだけでなく、キングカメハメハの血を持つ馬まで増え過ぎてしまえば、日本の生産は成り立たなくなってしまう。 そのためにもサンデーサイレンス系を生かす別の血統が必要。 その役目を期待されて導入されたのがハービンジャーだ。 しかし、すでに説明したようにハービンジャーの本質はスピードでなく、日本競馬では必要とされていないスタミナ。 この部分の認識を誤ったまま、同馬の配合相手を選択すると、ハービンジャーの長所を伸ばせなくなるだけでなく、短所を強調してしまうことになる。 盤石の態勢で迎え入れられたはずのハービンジャーが、大ブレークに至らなかった理由は何か? ハービンジャーの良さを出し切れない配合が多かった、もしくはハービンジャーの特性を理解しきれない育成やレース選択になってしまったからではないだろうか。 ・ハービンジャーに足りない要素 そもそも長距離系の種牡馬は、その個性を引き出すのが難しいとされている。 2歳戦は2000m以上の距離のレース数が限られているだけでなく、クラシックを狙う素質馬の多くが出走してくる。 ゆえに簡単に勝ち上がることも、勝ち続けることもできない。 数を勝つことのできない種牡馬に対し、その条件が「本当に合っているのか」と懐疑的になってしまうのは当然のことだ。 ハービンジャーのジレンマはここにあった。 いくつかの成功例があれば、それに倣っての配合や育成をすることも可能だろう。 しかし、ハービンジャーは成功例がなかなか出なかった。 サンデーサイレンス系とのマッチングにこだわり過ぎたことも、その理由のひとつではないかと私は思う。 もちろん、ハービンジャーはサンデーサイレンス系と配合するために連れてきた馬であって、その配合で成功させることができなければ意味がない。 サンデーサイレンス系に付けられていないハービンジャー産駒がセリに上場されても、そこまでの魅力は感じないだろう。 だが、すでに述べてきたことを改めて思い出して欲しい。 ハービンジャーに足りないのはスピード。 サンデーサイレンス系には胴が長く、いかにも長距離系の種牡馬も少なくないが、ハービンジャーに合うサンデーサイレンス系の馬は、スピードに特化したタイプと私は考えている。 ダイワメジャーなどがその筆頭候補となるのかもしれない。 しかし、スピード豊富なダイワメジャーであっても、この馬の存在だけではGIで通用するスピードをハービンジャーに加えることは不可能。 そもそも、サンデーサイレンス系にはスプリンター的なスピードを持っている馬が少ない。 ゆえに“掛け合わせ”が重要になってくるのだ。 ハービンジャーの血統表を見て、私が最初に思いついた馬はストームキャットとダンジグの2頭。 これらの血を体内に持つ馬を配合することにより、ハービンジャーの産駒は新たな一面を見せ、将来への可能性を開くことになる。 その真意とは何か? 最終回となる次回はハービンジャーの正しい活用法と、その未来について説明していきたい。 【過去の連載馬】ノヴェリストの可能性を探る(ノヴェリスト編)[第1章]世界最高峰の種牡馬(ガリレオ編)[第1章]ステイゴールドの立ち位置とは?(ステイゴールド編)

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    [第1章]正しい認識が必要(ハービンジャー編)

    ・キングジョージの圧勝が作り出したイメージ サンデーサイレンス系が持っているような決め手がなく、条件戦は勝っても大舞台では詰めが足りない印象があったハービンジャー。 同馬にとって3頭のGI馬が登場した2017年は、忘れられない1年であったと同時に、将来を左右する大事な1年となったのではないだろうか。 この1年の結果により、ハービンジャーを取り巻く環境、同馬に対する認識が大きく変わる可能性がある。 サンデーサイレンス系の種牡馬と違い、日本で走っていないハービンジャーのイメージを正確に把握することは難しい。 なので、ハービンジャーの本質に迫る前に、まずは同馬の現役時代と血統背景をサラッとおさらいしておきたい。 現役時代のハービンジャーはGIを1勝しているだけの馬だ。 しかし、それがキングジョージ6世&クイーンエリザベスSというビッグレースで、2着のケープブランコにつけた着差が、同レースの史上最高着差である11馬身。 2分26秒78の勝ち時計はコースレコードだった。 社台スタリオンに種牡馬として迎えられた理由もレース内容にあったのだろうし、レコードで圧勝した当時のハービンジャーには、日本競馬にも適応可能な「スピードタイプ」との報道もされていたと記憶している。 だが、実はこのイメージこそが誤り。 この認識からの脱却がハービンジャー成功のカギになるのだが、それについては後述したい。 ・答えは血統の中に ハービンジャーはダンシリの産駒の中でも著名な代表産駒。 しかし、ダンシリには他にもディープインパクトが出走した2006年凱旋門賞を制したレイルリンク。 プリンスオブウェールズSなどGIを4勝したザフューグ。 香港ヴァーズを勝ち、凱旋門賞でも2年連続の2着があるフリントシャーといった活躍馬がいる。 日本での知名度よりもダンシリ産駒は世界で活躍しているのだが、問題は彼らが活躍している条件だ。 代表産駒として馬名をあげた彼らの勝ったレース名を見てもらえばわかると思うが、その適性は中距離以上…いや、長距離とはっきり言ってしまっていいかもしれない。 欧州のタフな馬場も苦にしないスタミナこそが、ダンシリの最大の長所。 逆の見方をすれば、スピードにやや欠ける面がある。 これがダンシリの最大の弱点と言えるだろうか。 ダンシリの父はスピードを武器にするデインヒル。 競馬に詳しい人間なら説明する必要もないだろう。 デインヒルはスピード血統の代表的な種牡馬として説明されることも多いダンジグの産駒。 ダンジグもデインヒルも自身が持っていたスピードを後継馬に伝える能力に長けており、オーストラリアで活躍するデインヒル産駒のファストネットロック、エクシードアンドエクセルは明らかにスプリンターとしての要素を持っている。 これこそがデインヒルの血を持つ種牡馬のあるべき姿と認識している方も多いと思う。 しかし、ダンシリにはデインヒルのスピードが遺伝されなかった。 ダンシリが受け継いだのは、イルドブルボン産駒のカヤージやハイラインといった母系のスタミナ。 こちら側の影響は強すぎたのだ。 前記した代表産駒がそれを証明している。 ハービンジャー自身の母系に目を転じれば、そこにシャリーフダンサーの名があることに気付くと思う。 ノーザンダンサーの後継種牡馬の中では、そこまで著名な馬ではないかもしれない。 しかし、彼がカーリアンを抑えて愛ダービーに優勝している馬で、母父にはサーアイヴァーという血統を持っていた。 言うまでもなく、その特徴はスタミナだ。 この部分の影響も受けているハービンジャーを、スピード馬と認識することは難しい。 だからこそ、ハービンジャーの配合には他の馬よりも気を配らなければならないのだ。 【過去の連載馬】[第1章]成功の予感(ロードカナロア編)ノヴェリストの可能性を探る(ノヴェリスト編)[第1章]世界最高峰の種牡馬(ガリレオ編)

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    [第2章]ヘニーヒューズの未来(ヘニーヒューズ編)

    ・クラシック狙いは不要 スピード血統とスタミナ血統の掛け合わせは、お互いの長所を引き出すだけでなく、短所もカバーするという意味で、理想的な配合と考えられるフシがある。 もちろん、そのような掛け合わせで成功している場合も多く、私もそれ自身は否定しない。 ディープインパクト、ハーツクライなどのクラシックを狙うサンデーサイレンス系の種牡馬に、短距離血統の繁殖牝馬を用意する配合は常套手段と表現していいほど。 実際、この形で多くの名馬が輩出されてもいる。 ただし、生産者がイメージした通りの馬が出るかとなると、それは確実ではない。 例えば、ディープインパクトにストームキャットという組み合わせ。 ダービー馬のキズナと安田記念を勝ったサトノアラジンとの間に、距離面の共通性を見つけるのは難しい。 あえて言うのなら、脚質くらいのものだろうか。 当然ながら、当初はクラシック路線を目指して馬を作っていく配合だ。 しかし、確実に「ここ」という適性を配合段階でつかむことはできず、それは競走馬としてデビューしてからも同じ。 ゆえに正確な適性を見つけるまでに、時間がかかってしまうのだ。 スピードを持っているというだけで、その血統には大きな魅力がある。 逆に言えば、スピードを持っていない血統には、どれほどの馬を用意したとしても成功は難しい。 突出したスピードを持っているヘニーヒューズは、大事の要素を満たした種牡馬であって、同馬に中距離以上の血統を掛け合わせるという配合も間違いでないとは思う。 しかし、ディープインパクト×ストームキャットのパターンと同じように、どのような馬が出るかが読めないという意味で、生産者も購入者も迷うのは事実。 ヘニーヒューズにとって、そのような状況は好ましくない。 ディープインパクト産駒のように、まずはクラシック路線を狙い、その後に距離を短縮していくというパターンが、ヘニーヒューズに通用するとは思えないのだ。 この馬の産駒を購入するとき、果たしてダービーやオークスを意識するだろうか? その距離のレースを目指しているのならば、他の種牡馬の産駒を購入するだろう。 ロードカナロアのように予想を大きく覆して、距離の融通性を見せる短距離馬もいるが、ヘニーヒューズはそうではない。 何頭かの代表産駒が、すでに答えを出してしまった。 種牡馬としての特徴を誰もが知っている状況で、変化球は必要ないと私は思う。 ・代表産駒が示す道筋 朝日杯FSを勝ったアジアエクスプレスの母父であるランニングスタッグは、豊富なスピードを持つコジーンの産駒。 つまりは「スピード×スピード」の配合パターンで結果を出した馬ということになる。 フェブラリーSを制したモーニン。 彼の母父であるディストーテッドヒューマーは距離をこなすが、その父はダート短距離でこそのフォーティナイナー。 母父は誰もが知るスピード馬のダンジグだ。 同馬の血統で注目してほしいのは、母系の3代前にいるコジーン。 アジアアクスプレスもそうだが、スピードがあるだけでなく、万能で柔軟性に富むコジーンを配合相手の中に存在させることで、ヘネシー×メドウレイク(※ヘニーヒューズの父と母父)という単調なスピード血統を、GIの舞台でも通用するレベルへと昇華させることに成功した。 そう考えれば、対ヘニーヒューズの配合において、コジーンの果たしている役割は相当に大きいと言えるだろう。 モーニンの母系には、コジーンの先にファピアノというスピード馬の名もある。 ディストーテッドヒューマーをスピード血統とするのなら、スピードのみにこだわった血統構成と表現していい。 そして、これこそがヘニーヒューズの目指す道だと私は考えている。 幾重にも重ねられたスピードの血に、ヘニーヒューズという早熟で最高ランクのスピード馬を付ける。 生産者も購入者も産駒のイメージを描きやすく、管理する調教師もレース選択に迷う必要がない。 そして、なによりもヘニーヒューズの後継種牡馬を作ろうと考えたとき──。 彼の個性であるスピードを単純に伸ばす方法のほうが、その確率はグッと上がると私は思う。 その血統にコジーンを入れれば、成功する可能性は高くなるかもしれない。 何度も言うが、スピードを持たない血統に将来性はない。 その意味でヘニーヒューズは、他の種牡馬よりも生産者が欲しがる武器を持っているのだ。 ストームキャットやフレンチデピュティがそうであるように、いずれはサンデーサイレンス系の種牡馬の母父としてのニーズも出てくるはず。 ヘニーヒューズは生産界にとって、貴重な存在となりえる可能性がある馬なのだ。 ヘニーヒューズ(牡) 2003年4月5日生まれ 米国産 父Hennessy 母Meadow Flyer 母父Meadowlake 主な勝ち鞍 ヴォスバーグS(06年) キングズビショップS(06年) 通算成績 10戦6勝(重賞4勝) ダート連対距離(重賞) 1200m~1700m 主な産駒 アジアエクスプレス モーニン ビホルダー(米国GI・11勝) など 重賞勝利数(中央) 6勝 産駒の主な勝利レース(中央) フェブラリーS 朝日杯FS など ※種牡馬成績は2017年12月時点 【過去の連載馬】[第1章]ダイワメジャーは大成功しているのか(ダイワメジャー編)[第1章]成功の予感(ロードカナロア編)ノヴェリストの可能性を探る(ノヴェリスト編)

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    [第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)

    ・早熟のスプリンター 「父はヘニーヒューズ」。 午前中のレースを見ていると、そのようなアナウンスを頻繁に耳にする。 朝の番組に未勝利戦のダート短距離戦が多いためだろう。 この条件は切れもスタミナもほとんど必要とせず、他の出走馬よりもスピードの絶対値が上なら、それだけで勝ててしまう。 もちろん、上のクラスに行けば、スピードのみで押し切れるほど簡単な世界でなくなってくるのだが、ヘニーヒューズが産駒に伝えるスピードは、現在の日本にいる種牡馬の中でも最高ランク。 加えて父が早熟性の強いヘネシーなので、仕上がりも早い。 2歳の未勝利戦くらいなら、勝ち馬を量産して不思議のない要素を、ヘニーヒューズは持っているということだ。 では、この馬のセールスポイントを血統や代表産駒から探っていきたい。 前述したようにヘニーヒューズの特徴は、その豊富なスピードにある。 このスピードは父ヘネシーとその父のストームキャット、ブルードメアにいるメドウレイクから受け継いでいるものと考えて間違いない。 競走馬の配合パターンについて、これまでに何度か話をさせてもらっているが、ヘニーヒューズは「長所×長所」の掛け合わせ。 最大の武器であるスピードを特化させるように仕向けた配合で、1400mのキングスビショップS(※1)、1200mのヴォスバーグS(※2)を勝った同馬の成績は、配合を決めた生産者の目論見通りのもの。 このスピードこそ、ヘニーヒューズという馬を考える際のキモであり、配合相手を選ぶ場合のポイントでもあると私は思う。 ・目指すべき方向性とは 人間には欲望がある。 できることなら、全てをマルチにこなしてほしいという欲望が。 もちろん、私もそうだ。 オールラウンダーであってほしいと願って競走馬に接する。 マイルまではこなしてほしい。それが叶えば、今度は中距離までは。 芝もダートも問わずに走ってくれれば、選択肢は多岐に渡り、それに比例して夢も大きくなっていく。 しかし、アグネスデジタルのようなマルチな馬は、簡単に現われるものではないのだ。 人間は悔しいという感情も覚えている。 条件戦を走っていたときには、ある程度の融通性を見せてくれた。 しかし、上のクラスでは通用しなかった。 こんな状況の際に。 血統面の限界を見せたときにも、その感情は涌いてくる。 もう少し長い距離を走れる血を持っていたのなら…。 もう少しスピードの血が足りていたのなら…。 惜しかったという思いが、ないものねだりをさせる。 しかし、その考えこそが危険な兆候と私は考える。 ヘニーヒューズのようなスピード馬に、サドラーズウェルズのようなスタミナ豊富な系統を掛け合わせる。 大物が出る可能性は十分にあるだろう。 豊富なスピードをどこまでも持続させるスタミナを持つ馬。 まさに理想の競走馬と言っていいかもしれない。 しかし、その一方で非常に中途半端な馬が出る可能性もある。 むしろ、そちらのほうが私は怖い。 そのような馬は適した条件も見出せず、見切りをつけるのも難しい。 競走馬はレースを走るだけでなく、その血を後世に伝えることも重要な役目。 中途半端な血など、生産者は求めていないのだ。 そんな私の考えを頭に入れながら、次回は同馬の目指すべき方向性を示してみたい。 読者の方にも、その答えはすでに見えているはずだ。 ※1 サラトガ競馬場で行われる米国GI ※2 ベルモントパーク競馬場行われる米国GI 【過去の連載馬】[第1章]恵まれない環境からの脱却(スクリーンヒーロー編)[第1章]ダイワメジャーは大成功しているのか(ダイワメジャー編)[第1章]成功の予感(ロードカナロア編)

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    [第3章]ゴールドアリュールの本質を考える(ゴールドアリュール編)

    ・競走馬の配合とは? 競走馬の配合パターンは大きく分けて2つある。 弱点を補うか、長所をさらに伸ばすか。 短距離血統×長距離血統のような、違う特徴を持つ馬同士の配合は前者のパターン。 短距離血統×短距離血統といった似た部分を持つ馬同士の配合は後者のパターンと言える。 これは距離適性のみに限っただけでなく、馬体のサイズや芝、ダートといった馬場の適性。 もしくは性格の激しい血統におっとりとした性格の馬を掛け合わせるなど、その適用方法は多岐に渡ると考えてもらいたい。 ストームキャットにフレンチデピュティなど、ディープインパクトはアメリカのダート短距離血統と相性がいい。 なぜか? それは走りが一本調子で、さばきの硬い馬が多いダート馬の弱点を、柔軟性に富むディープインパクトが補ってくれるからだ。 前述したような弱点を解消しつつ、ストームキャットやフレンチデピュティの長所であるスピードとパワーはしっかりとピックアップする。 それこそがディープインパクトの凄さであり、先ほどあげた配合パターンとしては前者に属する。 では、ゴールドアリュールの成功パターンはどちらなのか? それを知るためには、彼という種牡馬を定義することから始めなくてはならない。 ・配合の“妙”という言葉 凱旋門賞馬ヴェイグリーノーブルの血を持っていることは前述させてもらった。 そして、それがダート馬と考えにくい理由であるとも書いた。 だが、本当にそうだろうか? サンデーサイレンスとヌレイエフは、芝でも通用する軽いスピードを持つ馬だ。 それを補完する役目を担っていたのがヴェイグリーノーブル。 彼の血がスタミナを与え、芝の長丁場に向いた馬となる血統構成のはずだった。 しかし、そうはならなかった。 もしかしたら、ゴールドアリュールはヴェイグリーノーブルの影響を受け過ぎてしまったのかもしれない。 地方交流重賞を中心に23勝し、交流GIを6勝もしたスマートファルコン。 豊富なスピードとその持続力を武器としていたゴールドアリュールの代表産駒だ。 実は彼の母父であるミシシッピアンもヴェイグリーノーブルの産駒で、ゆえにスマートファルコンはヴェイグリーノーブルの5×3というインブリードを持った馬だった。 ヴェイグリーノーブルのスタミナは、サンデーサイレンスとヌレイエフのスピードを持続させることに役立ってはいた。 しかし、それが強調されることによって、芝での素軽さを少し失ってしまった。 それを具現化した馬が、同馬のインブリードを持つスマートファルコンと考えれば、芝でスピード不足、ダートで持久力を発揮という形になったゴールドアリュールの競走成績、産駒成績にも納得ができるのではないだろうか。 ダート系の種牡馬は単調な馬が多い。 「ダート×ダート」の配合はそれを増幅することになり、柔軟性に富んだ様々な種類の産駒を送り込むことは難しくなる。 しかし、ゴールドアリュールは違う。 エスポワールシチーの母父はブライアンズタイム。 コパノリッキーは母父がティンバーカントリーで、ゴールドドリームの母父はフレンチデピュティ。 ゴールドアリュールをダート種牡馬として考えるのなら、これらはすべて「ダート×ダート」という配合になるのだが、その産駒はワンパターンではなく、バラエティに富んでいる。 その根源にはサンデーサイレンスという偉大な種牡馬がいると私はそう思う。 凱旋門賞馬であるヴェイグリーノーブルがダートで活躍した理由を作り、ダートのGIを勝ちまくったサンデーサイレンスがダート血統との配合で成功する理由を作っている。 競走馬の配合パターンは大きく分けて2つあると前記したが、ゴールドアリュールはそのどちらも利用した珍しいタイプの馬だ。 ゆえに芝血統の母系でもそれなりの活躍馬を出す。 しかし、大レースでの勝利を考えた場合、スピードとパワーを兼ね備えたダート血統のほうが、成功の可能性はより高くなると私は考えている。 ゴールドアリュール(牡) 1999年3月3日生まれ 追分産 父サンデーサイレンス 母ニキーヤ 母父Nureyev 主な勝ち鞍 フェブラリーS(03年) 東京大賞典(02年) ジャパンダートダービー(02年) ダービーグランプリ(02年) アンタレスS(03年) 通算成績 16戦8勝(重賞5勝) 総獲得賞金 4億1037万6000円 ダート連対距離(重賞) 1600m~2000m 表彰記録 最優秀ダートホース(02年) 主な産駒 コパノリッキー ゴールドドリーム エスポワールシチー スマートファルコン クリソライト など 重賞勝利数(中央) 19勝 産駒の主な勝利レース フェブラリーS チャンピオンズC ジャパンCダート など ※種牡馬成績は2017年12月時点 【過去の連載馬】[第1章]イメージと違う馬(マンハッタンカフェ編)[第1章]恵まれない環境からの脱却(スクリーンヒーロー編)[第1章]ダイワメジャーは大成功しているのか(ダイワメジャー編)

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    [第2章]芝で走るはずの血統(ゴールドアリュール編)

    ・母系にいる注目すべき馬 現役時代のゴールドアリュールは池江泰郎厩舎の管理馬として活躍し、地方交流も含めたダートのGIを4勝した。 ちなみに同馬のGI勝利で、私が最も記憶に残っているレースはフェブラリーS。 2着ビワシンセイキとの差はクビとわずかなものだったが、内容的には完勝。 本当に強い馬だと感心した。懐かしい話だ。 しかし、その一方でゴールドアリュールは日本ダービーにも挑戦し、勝ったタニノギムレットから0秒3差の5着に健闘。 アドマイヤドンやバランスオブゲーム、ノーリーズンあたりに先着しているだけでなく、先行馬に苦しい展開を4コーナー2番手で粘り込んだものだった。 見どころのある内容。 この1戦だけを切り取れば、芝で産駒が走っても不思議はないはずなのだが、実際はそうなっていない。 実は現役時代から不思議に思っていたのだ。 サンデーサイレンス×ヌレイエフという血統構成は、同じく池江厩舎で活躍したトゥザヴィクトリーと一緒。 しかも、同馬の母であるニキーヤは自身から3代前にはヴェイグリーノーブルという馬がいる。 この馬の名を血統表に抱えている彼の適性が、まさかダートとは…。 ヴェイグリーノーブルは1965年生まれの非常に古い種牡馬。 よほどの血統マニアでない限りは知らないと思うので、改めて説明をさせてもらいたい。 彼は自身が凱旋門賞馬であるだけでなく、キングジョージを2勝している名牝ダリアの父として、その名を知られている存在だ。 その適性は芝のクラシックディスタンスにある。 折角なので、ヴェイグリーノーブルの代表産駒であり、名牝と世界に名を轟かすダリアについても補足しておく。 今年の凱旋門賞を制した3歳牝馬のエネイブルの名が世界レベルになった1戦は、7月末のアスコット競馬場で行われたキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS。 歴戦の古馬を相手に4馬身半差の圧勝を決めたことで、その存在を世界に知らしめた。 ダリアも同様だ。 彼女も3歳時にキングジョージを勝っているのだが、注目すべきはその着差。 2着につけた着差はエネイブルを超える6馬身。 ゆえに現在も世界最強牝馬としてダリアの名を上げる識者もいる。 ヴェイグリーノーブルの血は、それほどまでに優秀でタフなのだ。 ちなみにダリアの血を引く馬として著名な日本馬は皐月賞馬のナリタタイシン。 彼の父であるリヴリアの母がダリアだった。 ・本来は芝でこそ? このような血統背景の馬。 私なら芝をメインに出走させていたと思うし、実際に池江先生もデビュー当初は芝のレースに出走させていた。 しかし、その結果はご存知の通りだ。 自身の戦績だけでなく、産駒の成績を調べ尽くしてみても適性はダート。 「この血統なら芝」と声を枯らしたところで、すでに種牡馬としての年数も経過しているゴールドアリュールの状況が、劇的に変わることはありえないし、現在の私もその事実を認識している。 ゴールドアリュールはダートでこその種牡馬なのだと。 このような現象が起こる理由とは何なのか? そこを考えてみる必要がある。 サンデーサイレンス、ヌレイエフといった大種牡馬を体内に持つゴールドアリュール。 同馬の血統構成を語るとき、この2頭についての説明に終始するのが一般的だろう。 にもかかわらず、私はダリアの名まで出して、ヴェイグリーノーブルに関する話に多くの行数を割いた。 もちろん、そこには理由がある。 最終回である次回で、その理由を説明したい。 【過去の連載馬】[第1章]晩成タイプの馬(ハーツクライ編)[第1章]イメージと違う馬(マンハッタンカフェ編)[第1章]恵まれない環境からの脱却(スクリーンヒーロー編)

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    [第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)

    ・クロフネとの比較 前回、ダートに実績を残す種牡馬としてクロフネを取り上げた。 今回の主役・ゴールドアリュールも似たようなイメージで語られる存在。 いや、クロフネ以上にダート色の強い種牡馬と考えていいかもしれない。 JRA所属馬における勝利数の内訳はダートが8割以上。 これは芝での可能性を試していた前半の産駒数も含んでのもので、デビュー戦からダートに出走することが多くなった近年の傾向を加味すれば、ダートの勝利が九割以上となる日が来るかもしれない。 日本ダービーで5着の実績があり、父がサンデーサイレンスという血統を持つ馬。 芝との「二刀流」的なイメージを現在も持っている方は多いと思うが、その実績がすべてを物語っている。 ゴールドアリュールはダート専用の種牡馬なのだ。 サウスヴィグラスはJRAの競馬場よりも深い砂で行われている地方競馬に強い種牡馬として知られているが、そのライバルとして存在感を示しているのがゴールドアリュールであることも興味深い。 今年も相当数の勝ち鞍を地方競馬でマーク。 産駒の値段がサウスヴィグラスほど安価でなく、JRAの競馬に相当数の産駒が流れていることを考えれば、これは顕著な傾向と言うべきだろう。 クロフネ産駒のJRAGI勝ちが「芝のレースのみ」という面白い傾向は、先に述べた。 一方、ゴールドアリュールに産駒の芝GI勝ちはない。 ハンデGIIIを勝つまでが限界。 究極のスピードを競う状況においては、クロフネよりも少し下に位置する馬。 そのような見方もできるのではないだろうか。 ダートGIでの成績もクロフネと対照的。 重賞のステージでは限界を見せることが多いクロフネ産駒に対し、ゴールドアリュールの産駒はダート重賞を勝ちまくっており、その活躍はJRAのレースだけでなく、地方交流流重賞にも及ぶ。 クロフネにも地方交流重賞で結果を残したホワイトフーガという馬がいる。 しかし、勝っているレースの質、量ともにゴールドアリュールには遠く及ばない。 しかも、ゴールドアリュールの産駒はエスポワールシチーやコパノリッキーに代表されるスピードタイプだけでなく、スピードと切れを兼備したゴールドドリームのような馬も出ている。 様々な状況に対応できる引き出しを持っているのも、似たような産駒が多いクロフネにはない大きな特徴と言っていい。 ・サンデーサイレンス系のダート種牡馬 ダートという条件に特化しながらも、偏った性質を見せない産駒の柔軟性は、やはり父であるサンデーサイレンスの影響によるもの。 ここにも彼の偉大さを感じる。 そして、ダートに特化しているゴールドアリュールでさえも、結局はサンデーサイレンスの血を色濃く受け継いでいたという結論になるのだが、これに関しては血統を分析していく次回以降で詳しく説明していきたい。 ディープインパクトに代表されるように、サンデーサイレンス系の種牡馬は芝で実績を残しているタイプがほとんど。 ゴールドアリュールは異質な存在と言えるわけだが、この馬がいることで、これまでは苦手とされてきた路線にもサンデーサイレンス系が波及した。 これは未来の日本競馬を考えたとき、重要なポイントになるものだろう。 もっとも、サンデーサイレンス自身はダートで実績を残した競走馬。 私自身、この展開に大きな驚きは持っていないのだが。 【過去の連載馬】[第1章]キングカメハメハの本質を探る(キングカメハメハ編)[第1章]晩成タイプの馬(ハーツクライ編)[第1章]イメージと違う馬(マンハッタンカフェ編)

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