過去の名馬から海外の競馬事情までを網羅した、読みごたえ十分のオリジナル・コラム!

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    [第2章]タイキシャトルの本質を考える(タイキシャトル編)

    ・その血統は上級 タイキシャトルの父はデヴィルズバッグ。 彼の産駒を積極的に導入した記憶が私にはなく、実際に管理した経験もないのだが、その理由は産駒の価格がそれなりに高かったからではないかと思う。 走りそうな馬なら金額に糸目をつけない…という感覚が私にはなく、オーナーに長く競馬を楽しんでもらうためにも、支出と収入のバランスが取れる馬を探してきた。 特に海外においてはそうで、こちらの足元を見られないように、逆に売り手が何を考え、どこまでなら値段を下げられるのかを探っていた。 2頭の候補の中から値段の安いほうを選択。 それがアグネスデジタルだったわけだが、彼は私の想像していた以上に成長した馬で、当初は自分が購入した値段以上には走ってくれるだろう──。大阪の商人的な発想で、調教師時代の私は馬を見つけていたのだ。 産駒を管理する機会のなかったデヴィルズバッグだが、彼の能力と血統的な価値は相応の評価をしている。 サンデーサイレンスと同じヘイローを父に持ち、姉にグローリアスソング、半弟にはセイントバラード。 グローリアスソングは自身がGIを4勝しているだけでなく、母としてシングスピールやラーイを輩出した。 セイントバラードは競走馬としてよりも種牡馬としての活躍が知られている馬で、北米のリーディングサイアーになった実績もある。 血統的なバックボーンがしっかりしている馬なのだから。 タイキシャトルは外国産馬でも、その兄弟は日本で走っており、タイキシャトルほどではないものの、5勝をマークしたタイキマドレーヌ、4勝したタイキチェイサーを筆頭に勝ち上がり率は高い。 様々な種牡馬を相手にしても、大きな失敗をしなかった母ウェルシュマフィンは優秀な繁殖牝馬だったのだろう。 タイキシャトルの安田記念は不良馬場で田んぼのような状態。 このような特殊な馬場をこなせたのは、カーリアンの産駒だった母の影響によるものと私は考えている。 タイキシャトルは父系、母系ともに水準以上の能力を持っている血統と判断していいだろうし、それが世界を制する原動力になったとも考えられるわけだ。 ・可能性を削いだものとは? タイキシャトルの実績と血統の質を考えた場合、現在までに彼が残している種牡馬としての成績は、少し物足りないように感じる。 タイキシャトルほどの馬であれば、複数のGI勝ち馬を輩出しても不思議はなかったはず。 さらに言えば、様々なカテゴリーのチャンピオンホースを出す可能性もあったのではないだろうか。 だが、それはタイキシャトルの問題というよりも、彼をサポートすべき生産者サイドの問題。 ロードカナロアは確かに素晴らしい馬で、種牡馬としての能力も血統的な価値も申し分がない。 しかし、彼が社台グループのサポートを受け、グループの上質な繁殖牝馬を用意されていなかったら…。 ここまでの成功は残せなかっただろう。 種牡馬の成績の半分以上──いや、種牡馬の成績のほとんどは繁殖牝馬の質で決まってしまうのだ。 距離の適性は産駒にも受け継がれていく。 多くの人間がそう考えているし、私もそれが必然と思ってはいる。 スプリンターらしくない血統構成でもスプリンターとしての本質を伝えたサクラバクシンオー。 彼のような馬はそれを代弁しているが、タイキシャトルに関してはどうだろうか? カーリアンのいる母系は距離をこなしても不思議はなく、実際にマイル以上の距離に必要な切れとパワーも持っていた。 タイキシャトルを配合した生産者のほとんどは、マイル前後での活躍を期待していたのだろうが、タイキシャトルには短距離路線以外にも可能性があったかもしれない。 私が管理したメイショウボーラーはタイキシャトルの産駒。 1600mまでは頑張って走ってくれたが、それ以上の距離はさすがに厳しかった。 しかし、それはタイキシャトルの影響が強かったからではない。 タイキシャトルの競走成績を改めて考えてみたとき──。 生産界の認識が正しかったのかどうかについて、改めて考えてみてもいいのではないだろうか。 タイキシャトル(牡) 1994年3月23日生まれ 米国産 父Devil's Bag 母ウェルシュマフィン 母父Caerleon 主な勝ち鞍 スプリンターズS(97年) マイルCS(97、98年) 安田記念(98年) ジャックルマロワ賞(98年) 通算成績 13戦11勝(重賞8勝) 芝連対距離(重賞) 1200m~1600m ダート連対距離(重賞) 1600m 主な産駒 メイショウボーラー ウインクリューガー など 重賞勝利数(中央) 20勝 産駒の主な勝利レース フェブラリーS NHKマイルC など 主な母父成績 ストレイトガール ワンアンドオンリー レーヌミノル など ※種牡馬成績は2018年7月時点 【過去の連載馬】[第1章]成功の予感(ロードカナロア編)ノヴェリストの可能性を探る(ノヴェリスト編)[第1章]世界最高峰の種牡馬(ガリレオ編)

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    [第1章]海外で結果を残した馬(タイキシャトル編)

    ・先駆者として 日本競馬を取り巻く状況は、この十数年で大きく変化した。 日本産馬が世界で勝つだけでなく、日本で繋養される種牡馬の産駒が欧州のクラシックレースを勝つ。 これも多くのホースマンが世界へと足を運び、競馬後進国だった日本の地位を上昇させようと努力してきた結果だろう。 先人の努力が報われ、現在に結びついていることを私も嬉しさを隠せない。 海外の競馬場で、セールで何度も顔を合わせてきた方々も、おそらくは私と同じ思いではないだろうか。 タイキシャトルは日本調教馬の海外遠征が頻繁でなく、また結果を出すことが難しかった時代にフランスのGIを勝っている馬。 彼が制したジャック・ル・マロワ賞はムーラン・ド・ロンシャン賞と並び、フランスで行われるマイルGIだ。 フランスの競馬と言えば、日本では凱旋門賞がクローズアップされることが多いが、世界の潮流はスピードの必要なマイルから中距離のカテゴリーへと移っており、この路線のタイトルを取ることで種牡馬としての価値も高まる。 日本にも凱旋門賞馬が種牡馬として導入されたが、期待値に伴う活躍をしてくれた馬がどれだけいたのか? トニービンくらいしか思いつかないのだが、実際はどうなのだろうか? 話をタイキシャトルに戻そう。 先駆者として外へと出て行き、しっかりと結果を残す。 これは非常に難しいことで、ゆえにタイキシャトルの勝利は偉業と称えられた。 私の中にも偉大な競走馬というイメージがある。 もちろん、日本調教馬として日本で活躍することも重要で、彼は国内でも無類の強さを見せた。 安田記念にマイルCS、スプリンターズSと国内の主要な短距離GIを制覇。 ロードカナロアよりもマイル色が強い印象だが、獲得したタイトルの数や海外でも勝利している実績など、それなりに共通点がある。 タイキシャトルのイメージが沸かない若い世代のファンは、ロードカナロアのような活躍をした馬と考えてもらえればいいかもしれない。 ・本質の見えない馬 あれから20年が経過し、改めてタイキシャトルの成績を振り返って、最初に感じたこと。それはGIを5勝もしたタイキシャトルのキャリアが、わずか13戦しかなかったという事実だ。 現役で稼ぎ続けるよりも、種牡馬にしたほうがいいという判断をしたのだろうか? クラシックディスタンスを狙うことが多かった私の厩舎は、短距離馬の割合がそこまで多くなく、タイキシャトルと同じレースを走った回数自体が少ない。 ざっと調べてみたところ、私の管理馬でタイキシャトルと走っていた馬はオースミジェットの1頭のみしかなかった。 一緒に戦った記憶が乏しいがゆえに、タイキシャトルの実像をつかみきれなかったのかもしれないが、レースの数を使わずにこれだけの成績を残せているのだから、やはり傑出した能力を持った馬だったのだろう。 しかし、種牡馬となって以降のタイキシャトルについては話が別だ。 タイキシャトルがどのような特性を持っていて、どのように活かすべきなのかを考えるのは難しい。 実績豊富な割にキャリアが少なく、ダートから道悪、欧州のような重い芝までこなしてしまった。 オールラウンドの活躍は競走馬としては素晴らしいこと。 しかし、どんな状況でも活躍してしまったために、彼の適性がどこにあったのかの判断ができないのだ。 産駒の平均距離は芝で約1450m、ダートは約1400m。 短い距離を得意にする馬であったことは間違いないだろうが、潜在スピードのみをセールスポイントにしているサクラバクシンオーとは違う性質のもので、現役時代にスプリンターズSを勝ってはいても、この馬がスプリンターという認識を私は持てない。 産駒の平均距離は芝で約1450m、ダートは約1400m。 その本質がどこにあったのか? タイキシャトルの代表産駒であるメイショウボーラーは私の管理馬だったが、この馬でさえもタイキシャトルを意識して管理することを決めた馬ではなかった。 次回は血統による考察と種牡馬成績、ブルードメアになってからの傾向なども踏まえながら、本質の見えないタイキシャトルの実情に迫っていきたいと思う。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]ダイワメジャーは大成功しているのか(ダイワメジャー編)[第1章]成功の予感(ロードカナロア編)ノヴェリストの可能性を探る(ノヴェリスト編)

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    [第3章]血統のイメージと矛盾しても…(サクラバクシンオー編)

    ・アンバーシャダイとサクラバクシンオー 有馬記念と天皇賞・春を勝ったアンバーシャダイは、サクラバクシンオーの母であるサクラハゴロモの全兄という血統の馬だ。 アンバーシャダイは美浦の二本柳俊夫厩舎で管理された馬だったが、実は最初の所属先は関西で、それが私の所属していた上田武司厩舎。 当時の上田先生はすでに体調を崩されており、私は翌年にも調教師として開業する時期。 そんな背景もあって、上田厩舎の運営のほとんどを任されていた。 見栄えのする馬体ではなく、誰からも敬遠された馬。 そのような記述をされているアンバーシャダイだが、私の印象はまるで違う。 いい馬だった。走りそうだと感じた。 そして、何よりも血統に惹かれた。 この馬はノーザンテーストの初年度産駒。 ノーザンテーストが日本で種牡馬入りしたことに対して、私は興奮していたのだ。 「あのノーザンダンサーの直仔やないか。凄い馬が来たな」 ただ、残念なことにアンバーシャダイは牧場時代に大きな怪我をしていた。 その度合いはかなりひどく、物になるまでに「相当な時間がかかりそうだ」と。 上田先生の体調が芳しくない状況で、先の見えない馬を預かることは難しい。 そこで関東に持って行ってもらった──という結末になった。 40年も前の話。 だが、面白いもので古い時代のことは、長い年月が経過した現在でもよく覚えている。 読者の中にも私と似たような感覚を持っている方がいるのではないだろうか。 話を戻そう。 マイルから中距離を守備範囲とする産駒の多かったサクラユタカオーだが、エリザベス女王杯を勝ったサクラキャンドル、オークスを勝ったウメノファイバーのように距離をこなす馬もいた。 テスコボーイのスピードを受け継いだとはいえ、決してスピードのみに頼った馬ではなかった──が、サクラユタカオーに対する私の認識だ。 サクラバクシンオーの母は、アンバーシャダイと同じ血を持つサクラハゴロモで、アンバーシャダイの残した成績は、サクラユタカオーのそれよりも長い距離に限定されている。 本来、スプリンターとなるはずのない血統構成なのだが、サクラバクシンオーの全妹であるラトラヴィアータも1200mで3勝、1400mで2勝をマークしたスプリンター。 この掛け合わせ自体がスピードを生むのだろうか? 血統の妙と言ってしまえばそれまでだが、このような結果が出た理由は本当にわからない。 本当に不思議だ。 ・サクラバクシンオーの今後 2011年に死亡したサクラバクシンオーは、種牡馬としての役目をほぼ終えている。 今後は自身の残した産駒たちの仔が、サイアーラインを伸ばせるかが焦点。 同時に、サクラバクシンオー自身がブルードメアの位置やその先の位置でどうなのか、を考える時期に来ている。 プリンスリーギフトの血は現在の主流ではなく、ゆえにサクラバクシンオーに関連した血でインブリードを作る形は難しい。 種牡馬入りしたグランプリボスの母父はサンデーサイレンスで、ビッグアーサーの母父はキングマンボ。 これらの後継種牡馬のほうが、サクラバクシンオー自身よりも配合しやすい馬と言えるかもしれない。 母系を活かし、インブリードを作ることが容易だからだ。 キタサンブラックの功績は、母父サクラバクシンオーでも長距離に適性を示したことにある、と最初に述べた。 しかし、キタサンブラックが走った3年間でさえも、母父にサクラバクシンオーがいる馬の勝ち鞍の平均距離は1600m前後でしかなかった。 スプリント色の強くない血統構成であっても、本質的に距離が持たない馬であることは間違いないのだ。 生産者には生産者の考え方があり、キタサンブラックのような配合でクラシックディスタンスを狙いたい、との思いもあるだろうが、個性の違う長距離タイプの種牡馬を相手に選ぶのではなく、スピード系の種牡馬を重ねたほうがサクラバクシンオーのスピードは活きてくる、と私は思う。 アドマイヤムーン産駒のハクサンムーンがモデルケース。 それは母父の位置だけでなく、さらに先へと進んだ場合でも同様のことが言えるのではないだろうか。 サクラバクシンオー(牡) 1989年4月14日生まれ 早来産 父サクラユタカオー 母サクラハゴロモ 母父ノーザンテースト 主な勝ち鞍 スプリンターズS(93、94年) 通算成績 21戦11勝(重賞5勝) 芝連対距離(重賞) 1200m~1600m 主な産駒 グランプリボス ビッグアーサー ショウナンカンプ など 重賞勝利数(中央) 45勝 産駒の主な勝利レース 高松宮記念 NHKマイルC 朝日杯FS など 主な母父成績 キタサンブラック ハクサンムーン ブランボヌール など ※種牡馬成績は2018年6月時点 【過去の連載馬】[第1章]恵まれない環境からの脱却(スクリーンヒーロー編)[第1章]ダイワメジャーは大成功しているのか(ダイワメジャー編)[第1章]成功の予感(ロードカナロア編)

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    [第2章]テスコボーイの血(サクラバクシンオー編)

    ・スピードの根源 現在から数十年前の日本の血統は、スピードが著しく不足していた。 しかし、その事実に気づき、危機感を持っていた人間が、当時の生産界にどれほどいたのだろうか。 スタミナのみを重視した血統の導入を繰り返し、スピード血統に目を向ければ、「それは本流でない」と笑われた。 今と正反対の状況がそこにあったのだ。 プリンスリーギフトを父に持つテスコボーイ。 彼が導入される際も似たような状況にあったと記憶している。 「この馬は軽すぎる」。 現在では長所として使われることの多くなった「軽い」というフレーズも、当時の日本ではマイナス材料。 スピードがなによりも重要と考えていた私のような人間でさえも、「ずいぶんと距離の短いところの馬を連れてきたな」と思っていたのだから、彼に対する当時の生産界の評価が真っ二つに割れたのも当然のことだろう。 距離体系が確立され、短距離馬にも走るべき舞台が用意されている現在と違い、当時は五大競走で走れない血統は見向きもされなかったのだから。 だが、そんな状況であってもテスコボーイは結果を出していった。 トウショウボーイにテスコガビー。 とりわけ、テスコガビーには驚いた記憶がある。 スピード血統らしい走りをする馬であるにもかかわらず、適性よりも長いと思われる距離を走っても、そのスピードが衰えない。 スピードがスタミナを凌駕していく時代の幕開けを飾った馬が彼女であるならば、その父であるテスコボーイの血が、現在まで生き残っているのは必然。 競走馬の血統は代を経て淘汰されていくが、優秀な血だけは長い年月の後も残る。 テスコボーイとは、そのような種牡馬であったのかもしれない。 ・スプリンターの要素がない血統構成 テスコボーイにはトウショウボーイという有力な後継種牡馬がいたが、長い年月を経た結果、その名を父系に見ることは少なくなってしまった。 テスコボーイの血を現在に伝える役目を担ったのは、トウショウボーイではなく、サクラバクシンオーという優秀な種牡馬を送ったサクラユタカオー。 しかし、サクラユタカオーにスプリンターという印象を持つ人間は少ないと思う。 天皇賞・秋をレコード勝ちしているサクラユタカオーは、スプリンターに多い筋肉質なタイプではなく、しなやかさを感じる馬。 サクラユタカオーの母アンジェリカがネヴァービートの産駒であったことも大きい。 身体的な特徴だけでなく、血統面のほうにも距離をこなして当然と思える要素があったのだ。 サクラバクシンオーのどこにスピードの要素があったのか? 彼の引退から20年以上の年月が経ち、残した多くの産駒のほとんどはスプリント戦で活躍している事実を見ても、その本質がスプリンターであることに疑いはない。 しかし、中距離に適性を示した父サクラユタカオーはもちろん、母系に目を転じてみても、この配合がスプリンターになる要素を私は見つけられない。 むしろ、もっと距離が延びたほうがいいのではないのか? この馬の血統表を見るたびに、私はそのような考えに行き着いてしまう。 母父に距離への融通性を示すノーザンテースト。 そして、祖母はクリアアンバー。 一時代を築いた血統とはいえ、すでに30年も前のもの。 最近になって競馬を覚えたファンの方々は、パッとイメージすることができないかもしれないが、私ははっきりと覚えている。 ノーザンテースト×クリアアンバーという配合で生まれた1頭の名馬を。 サクラバクシンオーの母であるサクラハゴロモには、自身と同じ血統を持つ兄がいた。 その馬の名はアンバーシャダイ。 有馬記念と天皇賞・春を勝った同馬が、私のよく知る馬だったからだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]イメージと違う馬(マンハッタンカフェ編)[第1章]恵まれない環境からの脱却(スクリーンヒーロー編)[第1章]ダイワメジャーは大成功しているのか(ダイワメジャー編)

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    [第1章]スピードのみが生き残る(サクラバクシンオー編)

    ・欧州信奉の崩壊 スピードのない血統に未来はない。 常日頃からそのように訴え続けているし、調教師をしていた頃から、その考えを持ち続けて私は仕事をしてきた。 芝、ダートと2つの舞台で構成されているとはいえ、日本の競馬が模範としたのは、競馬発祥の地である欧州の競馬。 現在では信じられないことだが、数十年前の生産者が目を向けたのも、欧州のスタミナ血統だった。 しかし、彼(か)の地から日本に輸入された当時の血統が、現在もメインストリームで残り続けているのかと聞かれれば、残念ながら首を横に振るしかない。 私は欧州に背を向け、最初はアメリカに、その後はオーストラリアにも足を運ぶようになったのだが、それも欧州血統では来るべき時代に太刀打ちできないと考えたためだ。 日本が世界に通じる足がかりを作ってくれた馬はサンデーサイレンス。 この意見に異論を挟む競馬関係者はいないと思う。 そして、私が考える彼の最大の武器はスピードだ。 「いや、彼の武器は瞬発力だった」との声があるかもしれない。 しかし、私はそんな発言に耳を傾けることなく、同じことを言い続けるだろう。 サンデーサイレンスの最大の武器はスピード。 改めて現役時代の彼のパフォーマンスを見てほしい。 そこにいるのは、スピードでライバルを圧倒し続ける1頭の馬。 それこそがサンデーサイレンスの本質であり、現在の日本競馬の地位を高めたものなのだ。 ・スプリンターの血が長距離レースを勝つ時代 そのような考えを常に持っていた私のような人間にとっても、もの凄い勢いで進む血統のスピード化には驚かされるものがある。 例えば、ロードカナロアの初年度産駒であるアーモンドアイ。 彼女の母は私が管理したフサイチパンドラであり、その血統についての知識は誰よりも詳しいという自負があった。 しかし、彼女の父はロードカナロアだ。 安田記念を勝ってはいるものの、スプリンターとしてのイメージのほうが、はるかに強かったロードカナロアである。 アーモンドアイは母系の影響が強く出ていた馬だったのではないか。 そのような理由に行き着くことは簡単だ。 しかし、ほんの数年前までは、スプリンターを父に持つ馬が2400mのクラシックレースを勝つという状況を想像できなかったではないか。 現在は違う。 スプリンターレベルの血統を持つ馬の中から、距離を克服する馬が登場し、それらの馬がビッグレースを手中にしていく。 時代は変わったのだ。 苦い思い出と言っていいだろう。 調教師を引退し、解説の仕事をさせてもらう機会も増えたが、忘れもしないのが2015年の菊花賞。 素晴らしい馬体をしている1頭の馬に対し、私は適切な評価をすることができなかった。 その馬の名はキタサンブラック。 首も胴も長く、そのシルエットは長距離馬のそれ。 しかし、私はある一点のみを理由にし、彼の評価を下げてしまったのだ。 「この馬は母父がサクラバクシンオー。3000mの距離に適した血統ではない」 ひと昔前なら、このような見解で正解だっただろう。 だが、現代競馬ではスピードなき血統に勝者は現れない。 それが、例え長距離戦のカテゴリーであっても、だ。 キタサンブラックは歌手の北島三郎さんの所有馬で、数多くのビッグレースを勝った。 武豊騎手を背にし、見た目も美しいグッドルッキングホース。 ファンを虜にする理由がいくつもあった名馬中の名馬だ。 しかし、彼の最大の功績は「サクラバクシンオーの血でも3000m超のGIを勝てる」と世間に知らしめたことではないだろうか。 スピードこそが現在競馬の、さらに言えば、未来へと繋がって行くもの。 ゆえに今回からの何頭かは、スプリンターと定義される種牡馬たちを取り上げていきたい。 第一回はサクラバクシンオー。 他のスプリンターたちと違い、日本に根付いてきた血統の中から出現したスプリンターについて、改めて考えてみたい。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]晩成タイプの馬(ハーツクライ編)[第1章]イメージと違う馬(マンハッタンカフェ編)[第1章]恵まれない環境からの脱却(スクリーンヒーロー編)

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    [第2章]エンパイアメーカーに対する私見(エンパイアメーカー編)

    ・産駒の傾向 エンパイアメーカー産駒の最大の弱点は馬体のサイズにある、と私は考えている。 もちろん、それなりの馬格が競走馬には必要で、あまりに体がないと使い減りしてしまう心配が出てきてしまうのだが、その一方で馬体重のあり過ぎる馬というのも厄介だ。 スピードに乗りきれない。器用さを欠く。 その弊害は多岐に渡るが、最大の問題は足元に負担が掛かってくること。 ゆえに攻めきれないし、仕上げきれない。 牡馬よりも牝馬のほうが走るイメージを私は持っているのだが、それは牡馬よりも牝馬のほうが、馬体のサイズが小さくなりやすいという考えに起因している。 成績を調べてみれば、勝利数は牝馬のほうが牡馬より多くなっており、出走頭数にそこまでの差がないのであれば、私の考えでほぼ正解。 前回に取り上げたフェデラリストのように心身ともに芯が入り、競走馬として本格化してしまえば、話も変わってくるのだろうが、JRAで走る馬たちは3歳夏までに勝ち上がる必要がある。 ゆえにエンパイアメーカー産駒の牡馬は苦戦してしまうのではないか、と私は考えてきたわけだ。 多くの競馬ファンの方がご存知と思うが、フェデラリストの母で、私が管理したダンスパートナーは馬格のない小柄なサンデーサイレンス産駒だった。 血統は超一流だが、とにかく体がない。 調教助手に「こんな小さい馬で本当に走るの?」と言われたこともあったほどだ。 大きい馬を出すエンパイアメーカーと小柄な馬体に悩まされていたダンスパートナー。 このマッチングが良かったのかもしれない。 もっとも、そんなフェデラリストでさえも、520キロ台の馬格があり、JRAでは勝ち上がれずに終わった。 一度は地方競馬に転出した、いわゆる“出戻り馬”だったわけだが、そのような経緯の馬であったとしても、小柄で軽さと切れが身上だったダンスパートナーの影響は受けていたと思う。 ・今後の可能性 エンパイアメーカーはすでにアメリカに戻ってしまっているので、小柄な繁殖牝馬を狙って付けるべし──との作戦も遅きに失したと言えるかもしれない。 しかし、その考えをさらに突き詰めてみれば、能力を発揮できないままに競走生活を終えてしまったエンパイアメーカーの産駒は、おそらく想像以上にいるのではないか。 それらの馬が繁殖に上がり、エンパイアメーカーの素晴らしい部分だけを伝達してくれれば──。 アメリカンファラオほどの成功は簡単でないとしても、それに近い成功をもたらす可能性は十分にあるだろう。 その理由はやはり血統だ。 エンパイアメーカーの母であるトゥーソードはGIも勝った名牝の1頭だが、ここで私が取り上げたいのは、彼女の母でインリアリティの血を引くイメージオブリアリティという繁殖牝馬。 1990年代初頭、私は彼女の血を引くオースミコマンドという馬を管理したことがある。 大成はできなかったのだが、インリアリティの特徴であるスピードは受け継いでいた馬で2勝を上げた。 つまり、私が30年も前から注目していた血統から出てきた馬。 それがエンパイアメーカーだったのだ。 だからこそ、エンパイアメーカーの名は血統表に残り続けてほしいと思っているし、それが可能なポテンシャルを彼が十分に持っていると思う。 そして、改めて言いたい。 確かな血統というものは、長い時代を経てもなお、その存在をアピールし続ける。 エンパイアメーカーの血を引くアメリカンファラオが登場したとき、私はそのような思いを持っていたのだ。 エンパイアメーカー(牡) 2000年4月27日生まれ 米国産 父Unbridled 母Toussaud 母父El Gran Senor 主な勝ち鞍 ベルモントS(03年) フロリダダービー(03年) ウッドメモリアルS(03年) 通算成績 8戦4勝(重賞3勝) ダート連対距離(重賞) 1800m~2400m 主な産駒 Pioneerof the Nile(米) Royal Delta(米) Emollient(米) フェデラリスト イジゲン など 重賞勝利数(中央) 4勝 産駒の主な勝利レース 中山記念 中山金杯 武蔵野S 愛知杯 など ※種牡馬成績は2018年6月時点 【過去の連載馬】[第1章]キングカメハメハの本質を探る(キングカメハメハ編)[第1章]晩成タイプの馬(ハーツクライ編)[第1章]イメージと違う馬(マンハッタンカフェ編)

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    [第1章]いまだからこそのエンパイアメーカー(エンパイアメーカー編)

    ・すでに日本におらず エンパイアメーカーは2011年に日本軽種馬協会が導入した種牡馬。 しかし、2016年にはアメリカのゲインズウェイファームに戻ってしまっているので、彼の産駒を見る機会は段々と減っていくだろうし、産駒がセールに出てくる可能性は、それ以上に低いと考えていい。 にもかかわらず、エンパイアメーカーという馬を取り上げた理由は、日本で種付けを行った数年で多くの産駒を残していることがまず一つ。 今後、彼の名前が血統表にある馬たちの多くが、日本のターフで走ることになる。 そのときのための知識を持っておくことは、決して無駄にはならないはずだ。 そして、もう一つ。 さきほど、エンパイアメーカーの名を血統表に持っている馬は、これからの日本競馬にも出てくるような話をさせてもらったが、エンパイアメーカーは自身が種牡馬として産駒を送り出すよりも、一つ遠い位置になったほうが好影響を及ぼす馬ではないか、と私が考えていることにある。 その好例がパイオニアオブザナイル。 サンタアニタダービーを勝った彼自身も、それなりに名の通った馬ではあるが、海外競馬に精通している人間でなければ、その馬のイメージを思い浮かべることは難しいだろう。 しかし、彼の代表産駒がアメリカンファラオと聞いたらどうだろうか。 アファームド以来、37年ぶりにアメリカクラシック三冠を達成した馬。 ブリーダーズC・クラシックも勝ち、2015年の年度代表馬にもなった馬。 初年度の種付け料は20万ドルとも言われる名馬が、エンパイアメーカーの血を引いているのだ。 そのような事実を考えた場合、エンパイアメーカーが日本に残してきた馬──特に繁殖牝馬たちが、エンパイアメーカーの高い潜在能力を伝えてくれるのではないか、と期待するのも当然だろう。 ・母ダンスパートナーのエンパイアメーカー産駒 日本で活躍したエンパイアメーカーの産駒として、最初に思い浮かぶ馬と言えば、中山記念と中山金杯を勝ったフェデラリストだ。 彼は私が管理したダンスパートナーを母に持つ馬で、条件を勝つ産駒は出すものの、自身の持っている能力を伝えきれずにいたダンスパートナーにとって、最初の重賞勝ち馬となった。 ここだけの話ではあるが、繁殖牝馬としての活躍を彼女に期待するのは難しいのではないか、と私は内心で思っていた。 牝馬の晩年は母性が目覚め、競走意欲を失っていくもの。 しかし、ダンスパートナーは年齢を重ねるごとに気性が激しくなり、現役時代の最後の1年は私に対しても向かってくるほどだった。 いわゆる「競走族」になってしまったわけだ。 こうなってしまった牝馬は繁殖としての能力を発揮するまでに時間を要することが多く、それはダンスパートナーも同様。 そのままくすぶってしまうのではないか。 そんな心配をしていた矢先に登場したのがフェデラリストだった。 そこで考えてみたい。 なぜ、ダンスパートナーとエンパイアメーカーはベストマッチだったのか? それが次回以降の主題であり、エンパイアメーカーの可能性を感じる部分でもあるのだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]現役種牡馬の最高峰に挑む(ディープインパクト編)[第1章]キングカメハメハの本質を探る(キングカメハメハ編)[第1章]晩成タイプの馬(ハーツクライ編)

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    [第2章]ルーラーシップの強みと弱み(ルーラーシップ編)

    ・豊富なニックスが武器 トニービンを父に持ち、母父がノーザンテースト。 良質のニックス成立により、高い能力を有することになったエアグルーヴだが、彼女は単にニックスが成立しているだけの配合馬ではなく、母のダイナカールもオークス馬という潜在的な能力の裏付けもあった。 この血統の祖と言える存在はパロクサイド。 彼女の血統は大流行し、多くの活躍馬を輩出したが、その中でも最も反映したのは、シャダイフェザーから始まり、エアグルーヴに繋がった血統だろう。 この母系の出身というだけで、血統の評価を上げてもいいほどだ。 エアグルーヴはサンデーサイレンスとの配合で、アドマイヤグルーヴというGⅠ馬を輩出している。 本稿の主人公であるルーラーシップの半姉にあたる馬だ。 そして、アドマイヤグルーヴはキングカメハメハとの配合で、ドゥラメンテという傑出した能力を持ったダービー馬を産んだ。 この2つの事実こそが、エアグルーヴを母に持ち、父にキングカメハメハを持つルーラーシップの可能性を大いに広げるもの。 今回の連載のキモとなる部分だ。 トニービンとノーザンテーストのニックスをベースとしたエアグルーヴに、キングカメハメハを配合することで生まれたのがルーラーシップ。 母系の持つポテンシャルの高さを前提として、彼とサンデーサイレンス肌の繁殖馬との配合によって生まれた産駒には、その時点で多くのニックスが成立することになる。 ここからは少し複雑になるので、順を追ってニックスを数えていこう。 まずはアドマイヤグルーヴの成功によって証明された、サンデーサイレンスとトニービンのニックス。 ドゥラメンテなどの活躍で、すでに多くの認識を得ているサンデーサイレンスとキングカメハメハのニックス。 少し遠い関係性にはなるが、サンデーサイレンスとノーザンダンサーのニックス。 これだけのニックスを重ね合わせるのだから、生産者が種牡馬としての成功を疑わないのも、当然ではないだろうか。 サンデーサイレンスの力を大いに借り、自身の持っていた能力以上のものを産駒に伝える可能性の大きさ。 ルーラーシップの魅力は、この部分にこそあると私は考えている。 ・根本的なスピードの不足 ただし、ルーラーシップには問題点もある。 トニービンがいることによって生じるスピード競馬への対応力のなさ。 同じキングカメハメハ産駒のロードカナロアは、初年度産駒から大ブレークを果たしているが、彼の強みはルーラーシップよりもはるかに高い母系のスピード能力。 スピード化の進んだ現在の競馬にマッチしたからこそ、これほどの成果を残すことができているわけだ。 一方のルーラーシップはどうか。 彼の代表産駒は昨年の菊花賞を勝ったキセキだが、ディープインパクトを母父に持つ同馬の母系をよく見てほしい。 祖母にいるのはダンジグの影響を強く受けるロンドンブリッジ。 これほどのスピード馬を迎えても、1600~2000mのようなタイプの馬が出なかったのだ。 今後も高速馬場に向いた馬の出現は難しいように思う。 もしかしたら、父のルーラーシップがそうだったように、彼の産駒の適性も日本よりタフな馬場の海外にあるかもしれない。 ロードカナロアの出現により、キングカメハメハの後継種牡馬としての価値が少し下がってしまったことも考えれば、積極的に外へと出て行く姿勢を見せても面白いのではないだろうか。 ルーラーシップ(牡) 2007年5月15日生まれ 安平産 父キングカメハメハ 母エアグルーヴ 母父トニービン 主な勝ち鞍 クイーンエリザベス2世C(12年) 日経新春杯(11年) 金鯱賞(11年) AJCC(12年) 通算成績 20戦8勝(重賞5勝) 芝連対距離(重賞) 1800m~2400m 主な産駒 キセキ ダンビュライト テトラドラクマ など 重賞勝利数(中央) 3勝 産駒の主な勝利レース 菊花賞 AJCC クイーンC など ※種牡馬成績は2018年5月時点 【過去の連載馬】[第1章]神に選ばれた馬(ラムタラ編)[第1章]現役種牡馬の最高峰に挑む(ディープインパクト編)[第1章]キングカメハメハの本質を探る(キングカメハメハ編)

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