過去の名馬から海外の競馬事情までを網羅した、読みごたえ十分のオリジナル・コラム!

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    [第3章]直子のノーザンテーストについて(ノーザンダンサー編)

    ・オールマイティーな種牡馬 ノーザンダンサー系の素晴らしさは、基本的なスピード能力の高さにある。 スタミナに特化した種牡馬とされているサドラーズウェルズ系からでも、フランケルのような強烈なスピードを持った馬が出てきた。 サンデーサイレンスもそうだが、様々な繁殖牝馬との掛け合わせによる特徴の変化と可能性の高さ。 それこそがノーザンダンサー系の躍進を支えてきたもの、と考えていいだろう。 彼の1番の素晴らしさはスピードと述べたが、それのみに特化していない点も注目すべきだろう。 スタミナの必要なレースでも結果を残し、芝もダートも問わずに走る。 瞬発力のある馬もいれば、持久力を武器にする馬もいる。 当時のアメリカとヨーロッパでは、競走馬に求める要素が違っていたはずなのだが、そのどちらの舞台でもノーザンダンサーは結果を出した。 彼はオールマイティーな種牡馬の先駆けであり、その象徴でもある馬と私は認識している。 ノーザンダンサーの直子として、我が国に導入されたノーザンテースト。 あの馬もノーザンダンサーに近いオールマイティーな要素を持っていた。 その特徴が種牡馬としての成功を呼び込んだ…と私は考えているのだが、ノーザンテースト自身に対する私の評価は、実はそこまで高くない。 ノーザンテーストの産駒を必死になって手に入れようとは考えなかったし、彼の血が入った繁殖牝馬にこだわった記憶もない。 ノーザンダンサーと同じように、掛け合わせによって様々なタイプの産駒を出した。 そんな偉大な種牡馬を、なぜ評価しなかったのか? その理由について、述べていきたい。 ・消えてしまった後継種牡馬 世界中に枝葉を広げ、その系統を伸ばし続けているノーザンダンサーと違い、ノーザンテーストの後継種牡馬は姿を消した。 彼の後継種牡馬として最初に名が上がるのがアンバーシャダイ。 メジロライアンなどを出し、サイアーラインを繋げたアンバーシャダイは頑張ったと思う。 サンデーサイレンス、ブライアンズタイムにトニービンなどが導入された時代に種牡馬入りしたメジロライアンは、その背景の厳しさを克服し、メジロブライトやメジロドーベルを輩出した。 これも賞賛できるレベルの活躍と言っていいだろう。 しかし、ノーザンテーストは種牡馬としてのサイアーラインを築けなかった。 これは紛れもない事実で、これから覆ることもないのだ。 振り返れば、サンデーサイレンスやブライアンズタイムのような二冠馬、三冠馬といった傑出した存在を、ノーザンテーストは送り出せなかった。 それこそがノーザンテーストの限界ではないか、と私は考える。 アメリカの博物館で見た肖像画のノーザンダンサーは、道産子のような小さい馬。 小柄なノーザンテーストには、そんなノーザンダンサーの特徴を受け継いだ部分もあった。 だが、その一方でノーザンテーストは大きな流星を持った栗毛馬。 ノーザンダンサーとの相違点も多かったがゆえ、手放す決断をしたという噂を聞いたことがある。 本来は手に入らないはずの血統馬を連れてくることができた理由がそれならば、彼らはノーザンテーストにノーザンダンサーの影響を感じていなかった──そんな推測も成り立つはずだ。 そして、その考え方は私も同じ。 発展を続けるノーザンダンサー系の中で、生き残るための武器をノーザンテーストは持っていない。 そのように感じていたからこそ、彼の血を重視してこなかったのだ。 どのようなタイプの種牡馬であっても、自己アピールに欠けるような馬に対して、私は一貫して辛い評価をしてきた。 逆に多少の弱点は抱えていたとしても、それを補えるだけの長所を持っていれば、種牡馬として成功する可能性がある。 それこそが私の求める種牡馬像だ。 この考え方について、次回の連載ではもう少し踏み込んで話してみたいと思う。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)[第1章]正しい認識が必要(ハービンジャー編)[第1章]稀有な能力の持ち主(ネオユニヴァース編)

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    [第2章]世紀の大種牡馬を改めて知る(ノーザンダンサー編)

    ・伝説の馬 私の自宅のリビングには、アメリカのキーンランドで購入した1枚の皿が飾ってある。 そこに描かれている1頭の馬。 その馬こそが歴史的名馬にして、世界の血統地図を塗り替えた世紀の大種牡馬・ノーザンダンサーだ。 世界各地を旅し、競馬に関するあらゆるものを、自身への土産として買って帰ってきたが、手元に残っているものはわずかしかない。 これだけが特別。 この世に星の数ほどもいる馬の中でも、ノーザンダンサーだけが特別なのだ。 我々のような仕事をしている人間にとって、ノーザンダンサーは歴史上の人物と大差がない存在と言えるだろう。 誰もがその名を知り、同馬についての豊富な知識を持ち合わせている関係者も少なくないと思う。 しかし、そのほとんどがノーザンダンサーの実態を知らない。 私もそうだ。 多くのノーザンダンサー系種牡馬を自身の目で見てきたが、ノーザンダンサーはアメリカの博物館で見た肖像画の姿でしか知らない。 ノーザンダンサーの生誕は1961年。 当時の日本は競馬不毛の地であり、血統に対する考え方も現在とは異なっていた。 優秀な競走成績を残し、種牡馬としてノーザンダンサーが大活躍していた頃。 彼は日本の競馬界と別の世界に存在する馬と考えられていたのだ。 プルメロ、ライジングフレームにヒンドスタン。 我々は日本の血統しか知らず、スピードよりもスタミナを意識している種牡馬ばかりを導入していた時代だった。 狩猟のために必要な存在としてスタートした馬は、獲物を捕まえる前に息切れしてしまうことを許されない。 欧州競馬を模範とし、スタミナ血統を崇拝した日本競馬のルーツ。 スピード血統が主流の現状しか知らないファンは想像もできないだろうが、その考え方こそが正解という認識を当時の生産界は持っていた。 多くのものを兼ね備えていたノーザンダンサーだが、他の種牡馬との根本的な違いはスピード能力にあったと私は考えている。 現在のスピード競馬への流れを作ったノーザンダンサーに世界中が夢中になり、ノーザンダンサーの直子というだけで、値段も跳ね上がった。 当時は固定相場で円が360円だった時代。 スタミナ血統からの脱却が必要と認識し始めたときには、彼の血を引く馬を連れてくることが無理な状況になっていたのだ。 日本の生産界に名を残すノーザンテーストはノーザンダンサーの直子。 彼が日本に輸入されたことに対する驚きと期待は、そんな当時の状況が強く反映していた。 私にとっても大きな驚きだったのだが、この馬については後で詳しく述べたいと思う。 ちなみに私はノーザンテーストの産駒に対し、そこまでの興味を示さなかったのだが、その理由についても触れるつもりだ。 ・血統の魅力を教えてくれる馬 私が競馬の魅力を知ったのは中学生の頃だ。 場所は大阪の阿倍野にあった銭湯。 そこで競馬新聞をコソッと盗み見ながら、その世界の奥深さに心惹かれていった。 当時は日本の血統しか知らなかったが、そのような状況でも血を重ね合うことで生まれる競走馬の神秘さと可能性。 それこそが血統に興味を持った1番の理由だった。 思えば、あの銭湯が私のルーツということになるのかもしれない。 単に素晴らしい種牡馬の仔を買っただけでは結果が出ない。 その掛け合わせによって、同じ種牡馬からでも様々な産駒が生まれてくる。 だからこそ、私は繁殖牝馬の血統を十二分にチェックするようになったわけだが、その重要性を示した馬こそがノーザンダンサーであったように思う。 日本の生産界を牛耳るサンデーサイレンス系の種牡馬は実に多彩。 スプリンターからステイヤー、持久力タイプに瞬発力タイプ、芝だけでなく、ダートをメインにしている後継種牡馬もいる。 しかし、サンデーサイレンスより数十年も前に、同じような多様性を武器にノーザンダンサーは頂点へと登りつめた。 彼には数多くの後継種牡馬がおり、すでにノーザンダンサー系から独立して、自身の系統を生み出すまでに至っているが、その馬たちは一様ではなく、そのほとんどの馬が個性的な特徴を持っている。 そして、それらのフィールドでトップクラスの成績を残している。 これはとてつもなく偉大なことだ。 ニジンスキー、リファールにダンジグ、サドラーズウェルズ。 多くのノーザンダンサー直子が枝葉を広げ、ノーザンダンサーの血を体内に持つ馬は世界中にいる競走馬の八割を占めると聞く。 次回からは細分化されていくノーザンダンサー系について、少し踏み込んで考えてみたい。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)[第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)[第1章]正しい認識が必要(ハービンジャー編)

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    [第1章]競走馬の根本は血統(ノーザンダンサー編)

    ・血統に対する尽きることのない情熱 この世界には多くの種牡馬がいる。 年間に200頭も種付けをする馬もいれば、わずか数頭しか繁殖相手を集められない馬もいる。 頭数を制限し、ブラックタイプの繁殖牝馬としか交配しないガリレオのような特殊な馬もいれば、ディープインパクトの全兄という血統背景を武器にし、キタサンブラックのような名馬を出してしまったブラックタイドのような種牡馬もいる。 そのすべてを完全に理解することは難しいとしても、可能な限りの知識を求め、自分の糧としていくことは愚かしいことではない。 むしろ、その積み重ねこそが競馬に対する理解力を高める要因になると私は思う。 この連載では数多くの種牡馬の話をしてきた。 以前から抱いていた自身の考えを述べるだけでなく、これまでとは違う視点から改めて考察することで、新しい発見もずいぶんとあったように感じる。 そのような行為は競馬の世界で何十年とキャリアを積んだ私にとっても、非常に意義深いことだった。 時間の進みが人間のそれよりも早い競走馬の世界において、新しい知識、正しい認識はなによりも大きな武器であり、ゆえに私は色々な書籍を読み漁り、様々な場所へと足を運ぶ努力をしてきたわけだが、その行為にも限界がある。 人間の記憶は時に曖昧で、勘違いしてしまったまま、それが正しいと思い込んでしまうことも少なくなかった。 そんな私の世界に変化をもたらしたのは、インターネットの発達だ。 「なるほど、これはこの馬の気性が影響していたのか」とか、「この馬の特徴は何代も前のこの馬から受け継いだものだったのか」など。 それまではイメージのみで語っていたものが、パソコンのキーボードを叩けば、多くの馬の血統表や豊富なレース映像をすぐに確認できるのだから、これほど便利で確実なものはない。 インターネットが私の知識を増幅、もしくは刷新させてくれたのだ。 もちろん、インターネットの中のみで、私の世界が完結することはない。 インターネットは私に新しく、正しい知識を与えてくれたが、自分の目で確認することが調教師時代からの本分。 実は今秋、久々にアメリカで多くの種牡馬を見学し、同時にビッグレースを観戦しようと計画している。 私を突き動かしているのは、七十歳を超えても衰えることのない競馬に対する探究心。 血統の追求は終わりのない旅のようなものだが、それは更新されていく血統を追いかけるだけではなく、その先にあるもの、次に来るものを予測することだと私は思う。 それこそが、無二の楽しみであり、私の最大の武器であるのだから。 今年のアメリカ競馬では無敗で三冠馬となったジャスティファイが登場しているが、彼だけでなく、アロゲートにガンランナー、カリフォルニアクロームなど、競馬の将来を担うかもしれない馬たちがたくさんいる。 私は誰よりも先に新しい競馬の地図を描きたいのだ。 ・古きを訪ねて新しきを知る 現在は細分化し、その名を聞く機会も減ってしまったが、ジャスティファイは世界中に数多くいるノーザンダンサー系の1頭だ。 父のスキャットダディは、日本で繋養されているヨハネスブルグの産駒。 ジャスティファイに似通った血統の馬は日本にもいるだろうし、作ろうと思えば作れるかもしれない。 そのイメージも浮かびやすいだろう。 しかし、多くの競走馬の祖となったノーザンダンサーとはどのような馬だったのか? 1961年生まれの彼の現役時代を知るものは少なくなり、彼の直子でさえも現在は種牡馬生活をしていない。 ノーザンダンサーの特徴をスラスラと答えられる競馬関係者は多くないと思う。 時代遅れの血統を追いかけることに意味はない。 しかし、ノーザンダンサーのような50年以上も前の馬が、現在も影響力を残し続けていることもまた事実だ。 血統の世界に必要なものは新しい知識と述べたが、それはベースとなる基礎的な知識があってこそ、と私は考える。 特にノーザンダンサー系とミスタープロスペクター系に関しては、現在の競馬ファンの方も知っておくべき重要な系統。 名付けるなら「温故知新シリーズ」。 競走馬のルーツを知り、その各々の特徴を改めて考えてみる時間を作ってみたい。 そこには実馬を見たり、産駒を管理したり、あらゆる馬の様々な噂を聞いた私の実体験も反映させたいとも思っている。 私にとっても初のチャレンジ。 ぜひ楽しみにしてもらいたい。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)[第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)[第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)

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    [第2章]目指すべき方向性(アドマイヤムーン編)

    ・種牡馬としての成功 アドマイヤムーン自身の成績をイメージしないのであれば──。 すなわち、クラシックディスタンスでの活躍を期待しないのであれば、アドマイヤムーンはしっかりと結果を残している種牡馬の1頭と言っても問題ないだろう。 セイウンコウセイに続き、今年もファインニードルで高松宮記念を制覇。 中京のスプリントGIを連覇し、種牡馬としての地位を不動のものとした。 アドマイヤムーン産駒の傾向がはっきりとした現在、これまで以上の成績を残しても不思議はないと私は思う。 もちろん、リーディングを争うほどの活躍をしているわけではないが、彼はディープインパクトやキングカメハメハら、社台スタリオンステーションで繋養されている馬たちと違い、日高で繁殖活動を行なっている馬だ。 前述したように賞金の高いクラシックディスタンスで活躍するタイプでもなく、配合される繁殖牝馬の質と傾向も自ずと限定される。 そのような背景も考慮すれば、もっと評価されていい馬かもしれない。 しなやかな走りと一瞬の決め手を持っていたアドマイヤムーンと違い、彼の産駒はほとんどが筋肉質で、いわゆる「マッチョ」と表現される馬体をしている。 ピッチ走法で道悪を苦にしないところに父の面影を感じるが、スピードを最大の武器としている点は父と違うところだ。 となれば、アドマイヤムーンは父であるエンドスウィープに近い特徴を伝えやすい種牡馬と言えるかもしれない。 ・どのような配合があっているのか では、アドマイヤムーン産駒の配合パターンについて、改めて考えてみる。 当たり前のことだが、1200mに成績が突出する馬は、母系のどこかにスピードの血を入れる必要がある。 これは私が繰り返し述べていることだが、スプリント系の種牡馬は適性の違う馬──すなわちスタミナを無理に注入するよりも、自身の特徴であるスピードを重ね合わせる形のほうが成功しやすい。 アドマイヤムーンにも同様のことが言える。 今年の高松宮記念を勝ったファインニードルの父は英2000ギニーを勝ったマークオブエスティームで、その先はロイヤルアカデミーIIにシャーペンアップ。 昨年のセイウンコウセイは母父がカポーティで、その先がミスワキ。 スプリントGIで二度の2着があったハクサンムーンは、母父がサクラバクシンオー、その先はシェイディハイツ。 スピードのみの構成ではないかもしれないが、いずれも母系にそれなりにスピードを持った種牡馬が入っている。 このような配合のほうが陣営に迷いがなくなり、より適性の高い舞台に絞ったレース選択ができるのではないだろうか。 もちろん、スピード×スタミナの配合でも成功例はある。 今年の京王杯スプリングカップを勝ったムーンクエイクは母父がホーリングで、その先がフェアリーキング。 京都金杯を勝ったブラックムーンは母父がジェネラスで、その先はリヴリアだった。 だが、ここから先は受け取り方の問題だ。 これくらいの血統を母系に入れれば、マイルくらいまではこなせると考えるのか。 これくらいの血統であっても、マイル程度までしか距離が持たないと考えるのか。 競走馬を生産、もしくは購入する場合、その馬の未来の姿を描けるかどうかが重要になってくる。 アドマイヤムーン自身が見せたパフォーマンスと母系にサンデーサイレンス、クリスがいる血統背景を考えれば、距離の融通性を持つ馬が登場しても不思議はない。 不思議はないかもしれないが、実際の成績が短距離に偏っているのであれば、確率の低い挑戦をしなくてもいい。 それが私の率直な意見だ。 ちなみにアドマイヤムーンはエンドスウィープ、フォーティナイナーと違い、芝での勝ち鞍のほうがはるかに多い。 勝ち鞍の平均距離も芝のほうがダートのそれよりも短い。 芝のスプリント戦で活躍する現在のイメージを数字が証明しているのであれば、それに逆らう理由もないはずだ。 アドマイヤムーン(牡) 2003年2月23日生まれ 早来産 父エンドスウィープ 母マイケイティーズ 母父サンデーサイレンス 主な勝ち鞍 ジャパンC(07年) 宝塚記念(07年) ドバイデューティフリー(07年) 通算成績 17戦10勝(重賞8勝) 芝連対距離(重賞) 1777m~2400m 主な産駒 ファインニードル セイウンコウセイ など 重賞勝利数(中央) 20勝 産駒の主な勝利レース(中央) 高松宮記念 など ※種牡馬成績は2018年8月時点 【過去の連載馬】[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)[第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)

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    [第1章]どうしてスプリンターに?(アドマイヤムーン編)

    ・自身の成績と産駒の傾向との隔たり アドマイヤムーンは本当に不思議な馬だ。 3歳春はクラシック路線をひた走り、ドバイデューティーフリー、宝塚記念、ジャパンカップと3つのGIを勝った。 その成績を見れば、彼の本質は中距離からクラシックディスタンス。 少なくとも、スプリント戦を主戦場にする産駒を輩出してくるようには思えない。 スタッド入りしたばかりの頃はそのように考えられていただろうし、私も同様の見解を示していた。 だが、アドマイヤムーンが送り出している代表産駒のほとんどはスプリンター。 マイルをこなせる馬はいるが、中距離以上に適性を見せる馬はまずいない。 その状況を裏付けるように、彼の産駒は筋肉質なスピード優先型が多い。 その理由はどこにあるのだろうか? アドマイヤムーンのルーツは3代前にいるケイティーズという繁殖牝馬だ。 GI2勝馬ヒシアマゾンの母として知られるケイティーズは、それ以外の馬たちからも枝葉を広げ、数多くの活躍馬をターフへと送り出した。 ケイティーズ自身の名は先の代へと進み、3代血統表からも消えつつあるが、その子孫の名は日本の競馬に根付き、セールなどでは現在も高値で取引されている。 近年の躍進が目覚ましいノーザンファームの生産馬が多いことも、高値で取引される理由の一つと言えるだろう。 アドマイヤムーンの母マイケイティーズは、ケイティーズの最初の産駒であるケイティーズファーストの5頭目の産駒で、当然ながら生産はノーザンファーム。 マイケイティーズ自身は一度も競馬を走ることなく、繁殖入りしているわけだが、彼女の父がサンデーサイレンスであることを考えても、繁殖としての期待値が大きかった馬であることがわかると思う。 それなりに勝ちはしたものの、アドマイヤムーン以外に大物と呼べる馬は出せなかったマイケイティーズ。 しかし、ケイティーズの血統は常に活躍馬を出し続けるのではなく、何頭かに1頭が大物というパターンがほとんどだ。 しかも、走った牝馬の産駒のみが結果を残すわけではなく、それ以外のところからでも大物を出してくるところが面白い。 例えば、ヒシアマゾンの半姉にあたるホワイトケイティーディド。 彼女はリステッドを勝った程度の馬だが、スリープレスナイトという優秀なスプリンターを輩出した。 万能型のシアトリカル産駒だったヒシアマゾンと違い、ホワイトケイティーディドの父はスピード豊富なヌレイエフ。 一本調子なクロフネとの配合されたことにより、スプリンターのスリープレスナイトを生み出すことができたのかもしれない。 ・スプリンターを生み出す要素 ここからが本題。 アドマイヤムーンという馬について考えたとき、スプリンターだったスリープレスナイトはキーとなる存在ではないか、と私は考えている。 アドマイヤムーンが見せた切れとしなやかさは、母父であるサンデーサイレンスの影響を受けたものだろう。 実際、アドマイヤムーンが現役時代に見せたパフォーマンスに父のエンドスウィープ、その父であるフォーティナイナーの影響を感じなかった。 だが、彼がエンドスウィープの産駒であるという事実は覆らない。 スリープレスナイトの父クロフネはノーザンダンサー系のフレンチデピュティ産駒で、ミスタープロスペクター系のアドマイヤムーンとは系統こそ違うが、一本調子な短距離馬を出してくるところは少し似ている。 そして、ケイティーズの血統が掛け合わせによって様々なタイプの馬を出してくることにあるとするならば、父エンドスウィープのアドマイヤムーンの本質が短距離馬であったとしても不思議はないだろう。 アドマイヤムーン自身は母父であるサンデーサイレンスの影響を強く見せたが、自身が父となることで、血統表で3代目の位置へと移動するサンデーサイレンスの影響力は弱まり、逆にエンドスウィープの存在感が強くなった。 いわゆる「隔世遺伝」だ。 これこそが種牡馬・アドマイヤムーンの1番のポイントである、と私は思う。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]ステイゴールドの立ち位置とは?(ステイゴールド編)[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)

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    [第2章]フジキセキのスピードを強調(キンシャサノキセキ編)

    ・半年遅れの南半球産馬 キンシャサノキセキは2歳の12月にデビュー勝ちし、2戦目のジュニアカップ(中山)では1分33秒台の速い時計をマークして勝った。 同馬が9月生まれの南半球産であったことを考えれば、相当な能力を持っていたことが容易に理解できるだろう。 この時期の2歳馬にとって半年の遅れは決定的なもので、それを覆すのは並大抵のことではない。 古馬になって大成したイメージの強いキンシャサノキセキだが、彼は晩成ではない。 生まれのハンデを背負っていたがゆえに、活躍の時期が遅れたという認識のほうが正しいと私は考えている。 キンシャサノキセキの父は日本産馬のフジキセキ。 だが、彼はシャトル種牡馬として海外に送られており、キンシャサノキセキはフジキセキの産駒ながら、オーストラリアで生まれた外国産馬という珍しい馬だった。 オーストラリアの競馬で最も著名なレースは3200mのメルボルンC。 しかし、オーストラリアのメインはスプリント戦で、人気種牡馬のほとんどはスプリンターだ。 ゆえにオーストラリア産のキンシャサノキセキもスプリンターになったのでは…と考える人も中にはいるかもしれない。 しかし、前回の連載で述べているように、彼の母系はスタミナ色のほうがはるかに強い。 母父であるプレザントコロニーはアメリカの二冠馬。 愛ダービーやキングジョージを勝ったセントジョヴァイト。BCクラシックにドバイワールドカップを勝ったプレザントリーパーフェクト。ジョッキークラブゴールドカップを勝ったプレザントタップなど、距離をこなす馬ばかりが代表産駒の欄に並んでいる。 母系にいるのは大種牡馬のリファール。 代表産駒は凱旋門賞馬のダンシングブレーヴと聞けば、距離延長を歓迎する血統であることがわかるだろう。 少なくとも、オーストラリア産馬に多いスプリンター血統の母系ではないということだ。 ・フジキセキのスピード進化型 フジキセキはスピードにスピードを掛け合わせる配合のほうが、成功しているイメージがある。 イスラボニータの母系はコジーンにクラフティプロスペクター。 ストレイトガールはタイキシャトルにデインヒル。 サダムパテックはエリシオにミスタープロスペクター。 カネヒキリはデピュティミニスターにミスタープロスペクター。 だが、この4頭はスプリンタータイプではなく、いずれも1600m以上のGIを勝った馬たちで、カネヒキリに至ってはダート。 フジキセキのスピードを増幅させているように思えないのが不思議なところだ。 面白い馬として取り上げたいのは、ポリッシュプレセデントにミルリーフを母系に持つファイングレインだ。 ポリッシュプレセデントはダンジグ系の種牡馬だが、ピルサドスキーに代表されるように、その産駒は距離に融通性がある。 この母系を持ちながら、GI勝ちが1200mの高松宮記念というのは、スタミナがある母系を持つキンシャサノキセキにも通じる部分ではないだろうか。 スピード×スタミナの配合のほうがフジキセキのスピードを引き出せるのだとすれば、キンシャサノキセキがスプリンターとなった説明も付くことになる。 しかし、同じことがキンシャサノキセキの産駒には通用せず、キングマンボ×シルバーホークという母系を持つシュウジでさえも距離を克服することができなかった。 その適性を理解したうえで、キンシャサノキセキを生産者は配合していくことになるだろう。 フジキセキの産駒がダートをこなすのは周知の事実だが、それは息子のキンシャサノキセキにも言えることだ。 キンシャサノキセキ産駒のスピードとパワーはフジキセキ産駒のそれを凌ぐものがあり、ゆえにダートを苦にしないのだろう。 一方で、フジキセキよりも距離の融通性に欠くキンシャサノキセキは活躍できる場所が限定されており、状況によって脚をためる必要がある競馬への適性も低い。 クラシックには向かない馬ではあるが、現代競馬に最も必要なスピードは備えている。 ブルードメアの位置で活躍する可能性はありそうだ。 キンシャサノキセキ(牡) 2003年9月24日生まれ 豪州産 父Fuji Kiseki 母Keltshaan 母父Pleasant Colony 主な勝ち鞍 高松宮記念(10年、11年) 通算成績 31戦12勝(重賞7勝) 芝連対距離(重賞) 1200m~1400m 主な産駒 シュウジ モンドキャンノ など 重賞勝利数(中央) 5勝 産駒の主な勝利レース(中央) 阪神C 京王杯2歳S など ※種牡馬成績は2018年8月時点 【過去の連載馬】[第1章]ステイゴールドの立ち位置とは?(ステイゴールド編)[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)

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    [第1章]サンデーサイレンス系のスプリンター(キンシャサノキセキ編)

    ・スプリンターとなった血統的な根拠は? サンデーサイレンス系にしては珍しいスプリンタータイプ。 それがキンシャサノキセキだ。 高松宮記念を連覇している自身の競走成績はもちろん、勝ち上がった産駒の平均距離もスプリンター種牡馬のそれに近い。 ゆえに私は不思議に思う。 サンデーサイレンス系にスプリンターは珍しいと述べたばかりだが、それは母系も同様。 彼の血統にはスプリンターを生み出す要素となる馬が存在していないのだ。 母父にいるプレザントコロニーは距離をこなすタイプの種牡馬で、凱旋門賞馬ダンシングブレーヴを輩出するなど、大種牡馬として現在も名を知られるリファール(※母母父)も中距離以上を得意とする馬。 むしろ、スタミナを補完する意味合いでの配合と考えることができるほどなのだから。 サンデーサイレンス産駒が登場した1994年に遡ることで、その答えは見つかるかもしれない。 サンデーサイレンスは様々なタイプの競走馬を輩出したが、産駒の本質を正しく理解することの難しかった初年度と多くの活躍馬を出し、ある程度の方向性を認識していた晩年の産駒では、配合を考える生産者側だけでなく、我々のような現場サイドもアプローチの仕方が違っていた気がするからだ。 例えば、サンデーサイレンス産駒にとって、初の重賞勝ち馬となったプライムステージ。 彼女は私が懇意にしていた伊藤雄二調教師の管理馬で、サンデーサイレンス産駒が2歳の夏から活躍できる早熟性を証明することに成功した馬でもあるのだが、それ以降の活躍は期待されたほどではなかった。 なぜ、そうなってしまったのか? その後のサンデーサイレンス産駒が、秋以降の中距離戦からデビューしていたことと無関係ではないと私は思う。 気性の激しいサンデーサイレンス産駒を、2歳のスプリント戦から使っていくことのリスク。 これについて伊藤先生と意見を交換した記憶がある。 あれほどの名伯楽でさえ、当初は手探り状態でサンデーサイレンス産駒に接していたということだ。 ・フジキセキの本質 キンシャサノキセキの父フジキセキもサンデーサイレンスの初年度産駒で、牡馬と牝馬の違いこそあれ、私が管理したダンスパートナーとは同期の馬だ。 初年度からクラシックレースで大活躍したサンデーサイレンス産駒だが、その横綱候補とされていた馬でもあった。 3歳春に屈腱炎を発症し、残念なことにクラシックを走ることなく引退。 彼が無事であったのなら、三冠レースの勝ち馬は変わっていたかもしれないし、そうでないかもしれない。 クラシックを勝って不思議のない能力を持っていた馬。 これは間違いのない認識として、関係者の誰もが持っているものだろう。 しかし、フジキセキが送り出した産駒の適性はマイルから中距離までで、それ以上の距離に限界を示した事実からも目を背けてはいけないと私は思う。 実際、フジキセキの本質はマイラーと私は認識しているのだが、読者の皆さんはどのように考えておられるのだろうか? クラシックの主役と目されたこともあり、またサンデーサイレンスの後継種牡馬第一号だった背景もあって、種牡馬入りした当初のフジキセキは父と同じクラシックでの活躍を期待されていたように思う。 しかし、父とよく似た外見であっても、サンデーサイレンスとフジキセキとではタイプが明らかに違っていた。 フジキセキの母ミルレーサーの血統表の中には、スピードの源として現在も血を伝え続けているインリアリティの名がある。 弥生賞を勝ってはいるが、彼の本質はスピードにあったと私は考えている。 フジキセキはサンデーサイレンスよりもはるかに筋肉質な馬。 ゆえに、彼の産駒はこなせる距離の幅がそこまで広くなく、活躍の場も1400~1600mのあたりに絞られてしまうではないだろうか。 フジキセキのスピードをさらに進化させたキンシャサノキセキは、こなせる距離のレンジも短くなる。 この点について、次回はさらに掘り下げていきたいと考えている。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]ステイゴールドの立ち位置とは?(ステイゴールド編)[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)

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    [第2章]スピードを活かすための努力を(メイショウボーラー編)

    ・母父であるストームキャットについて いずれは海外の著名な種牡馬、歴史に名を残す馬たちについても話をしたいと思っているのだが、メイショウボーラーの母父であるストームキャットは、そんな馬たちの候補となりえる1頭だ。 最近は日本でもその馬名をよく聞くようになったが、その理由はディープインパクトとの相性の良さにある。 日本を代表する種牡馬との間にニックスが成立したことにより、ブルードメアサイアーとして一気にクローズアップされることになったわけだ。 正直、ストームキャットの力のみでは日本競馬に対応し、結果を残し続けることは難しいと私は思う。 もちろん、その豊富なスピードは文句なしでA級なのだが、逆にスピードがあり過ぎるので抑えが利かない。 短距離が主流の国はそれでもいい。 しかし、日本の競馬は現在も芝のクラシックディスタンスがメイン。 ゆえにサンデーサイレンス系のような、柔らかい血統を入れるわけだが、サンデーサイレンス系なら、どんな血統でもいいというわけではないのだ。 ロックディスタウンという馬が出てきたとき、私はこの血統で本当に大丈夫なのか、と思った。 彼の父は気性が激しいことで知られるオルフェーヴル。 ゆえにストームキャットとの配合にはリスクが伴うのではないか? どれほどの能力を持った馬であっても、気性に問題を抱えていては結果を残すことができないからで、力を出しきれていない現在の同馬を見ると、掛け合わせというのは馬体のみならず、馬の性格も念頭に入れる必要があると改めて考えさせられる。 ・ストームキャットの特徴をイメージする メイショウボーラーの父であるタイキシャトルは、配合相手次第で距離をこなす産駒が出る可能性があった、と書いた。 しかし、メイショウボーラーの産駒では無理だろう。 メイショウボーラーを管理すると決めたとき、この馬に長い距離を走らせようという発想はなかった。 ストームキャットのスピードを求め、その通りの競走馬となってはくれたが、いずれはストームキャットのマイナス面も出てくるはず。 そのように考えていた。 晩年のメイショウボーラーの成績が振るわなかったのは、能力の衰えではなく、激しい気性が原因。 その産駒成績が示すように、メイショウボーラーの仔はマイルでも少し長いように感じるのだが、その理由はスピード優先だった同馬の特徴を受け継いでいるからだけではなく、むしろ多くの場合は気性に問題があるためだろう。 ストームキャットと同様のことがメイショウボーラーにも言えるわけだ。 しかし、私は種牡馬としてのメイショウボーラーにネガティブなイメージを持っていない。 ストームキャットだけではなく、大種牡馬と呼ばれる馬のほとんどは激しい気性の持ち主。 自我が強い馬でなければ、自身の特徴を産駒に伝達することはできない、というのが私の持論だ。 その意味ではメイショウボーラーは優れた種牡馬になれる資質を持っていると考えていいだろう。 メイショウボーラーの代表産駒といえば、ダートの重賞路線で活躍したニシケンモノノフだろうが、同馬の父はアフリート。 メイショウボーラーのスピードとパワーを優先し、一方で長い距離への可能性は否定した配合になっているが、この方向性で私はいいと思う。 何度も繰り返してきたように、メイショウボーラーの産駒は気性の問題を抱えるタイプが多い。 下手にスタミナを入れて、スピード能力を失うくらいなら、彼の長所を存分に活かす配合のほうがメイショウボーラーには合っているはずだ。 一方で母父となったメイショウボーラーには、ストームキャットと同じような意味合いを持つ可能性がある。 激し過ぎる気性の馬では難しいが、身のこなしの柔らかいサンデーサイレンス系とのマッチングは悪くないはずで、母父の位置に入ったメイショウボーラーの激しい気性も多少は和らぐだろう。 メイショウボーラーに足りなかった切れを足し、メイショウボーラーの長所であったスピードを引き出すことができれば、ブルードメアサイアーとして活躍する可能性も十分にあるのではないだろうか。 メイショウボーラー(牡) 2001年4月16日生まれ 浦河産 父タイキシャトル 母ナイスレイズ 母父Storm Cat 主な勝ち鞍 フェブラリーS(05年) 通算成績 29戦7勝(重賞5勝) 芝連対距離(重賞) 1200m~2000m ダート連対距離(重賞) 1200m~1600m 主な産駒 ニシケンモノノフ ラインミーティア など 重賞勝利数(中央) 2勝 産駒の主な勝利レース(中央) アイビスサマーダッシュ など ※種牡馬成績は2018年7月時点 【過去の連載馬】[第1章]世界最高峰の種牡馬(ガリレオ編)[第1章]ステイゴールドの立ち位置とは?(ステイゴールド編)[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)

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