過去の名馬から海外の競馬事情までを網羅した、読みごたえ十分のオリジナル・コラム!

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    [第5章]キングヘイローから得られる知識(リファール編)

    ・偉大な父母を持つ馬 現役時代のインパクトが凄まじかったこともあり、種牡馬としての活躍はそこまででなかったようにも感じるダンシングブレーヴ。 しかし、実際はGI馬を何頭も輩出しており、目立つレベルではないものの、そのサイアーラインは現在も続いている。 その中核を担っているのがキングヘイロー。 彼は私が管理したスペシャルウィークと同世代の馬だ。 しかし、スペシャルウィークにとっての最大のライバルは、皐月賞と菊花賞を勝ったセイウンスカイであり、負けることの少なかったキングヘイローに対しては、勝負付けの済んでいる馬という気持ちがあった。 しかし、生産界の血統に対する期待、支持とは正直なものだ。 父がシェリフズスターのセイウンスカイよりも、血筋の良かったキングヘイローのほうが期待値は大きく、実際に種牡馬入り後の活躍には大きな差が出た。 父がダンシングブレーヴというだけでなく、ケンタッキーオークスを筆頭にアメリカのGIを7勝もしたグッバイヘイローを母に持つキングヘイローは超の付く血統馬。 欧州の最強馬とアメリカの最強牝馬の掛け合わせに、大興奮した血統ファンも多かったのでないだろうか。 彼の血を残していくことを生産界が求めるのは当然で、その思いが20年という月日を経た現在までも繋がっているわけだ。 血統とは「人間の意思」が働いたもの。 夢を抱けるかどうかが重要ということだ。 余談だが、グッバイヘイローが登場したセールの現場にも私は立ち会っている。 それほど大きい馬ではないが、ヘイローの子だけあってスピードがありそうだ。 そんな印象の馬だったように記憶している。 彼女ほどの名牝ともあれば、周囲の注目度も高く、この馬を買ったのが協和牧場の淺川吉男さんであったことに驚きも感じた。 すごい実績の馬が日本に来る。時代も変わったな。 そう感じた記憶も残っている。 ・キングヘイローにもある二面性 ダンシングブレーヴという馬のイメージを考えたとき──。 彼に強い影響を与えているのは、母系にいるサーゲイロードという話はさせてもらった。 この馬の存在こそがダンシングブレーヴの主戦場を2400mにした理由…と私は考えているのだが、実はグッバイヘイローの母系にもサーゲイロードが入っていることをご存知だろうか? つまり、キングヘイローはサーゲイロードの4×4というインブリードを持っていた馬であり、ゆえに彼の適性はクラシックディスタンス──と多くの識者は考えた。 私もその前後に適性があると当初は考えていたのだが、何度も述べてきたように、二面性を持っているのがリファールの系統の特徴だ。 クラシックでもそれなりに走りながら、最終的に芝1200mの高松宮記念を勝ったキングヘイローは、それを体現した馬と言えるかもしれない。 彼の辿った足跡は、その血統の特徴によって説明できるわけだ。 面白いことに、キングヘイローの数奇な競走生活は彼の産駒にフィードバックされ、ダンシングブレーヴから続く本格派のタイプ、スピードを武器にするスプリンタータイプに分かれることが多い。 前者の代表がオークス、秋華賞を勝ったカワカミプリンセス。 高松宮記念とスプリンターズSを制したローレルゲレイロは後者の代表だろう。 リファール系らしいと言えば、答えは簡単だ。 しかし、生産者の立場で考えれば、産駒のイメージを描きにくい種牡馬はどうなのだろう? 何が出るかわからない面白さを否定するつもりはないが、ビジネスとして馬産をする以上は、ある程度の予測ができたほうがいい。 ディープインパクト産駒なら、芝の中距離で切れるタイプの馬。 このようなイメージを持てることが重要で、私が馬を選ぶ際の判断基準でもある。 リファールのサイアーラインがもうひとつ爆発しきれないのは、その二面性が生産者の気持ちにストップをかけているためではないか? そう考えると物事は非常にシンプル。 キングヘイローはリファール系の考察に適した馬であり、父のダンシングブレーヴ以上にリファールの二面性を持っていた馬とも言えるだろう。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]ニジンスキーの影響力とは(ニジンスキー編)[第1章]カナダの競馬史に残る馬(ヴァイスリージェント編)[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)

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    [第4章]最大の活躍馬・ダンシングブレーヴ(リファール編)

    ・リファールとの相違点 今回はリファールの代表産駒であるダンシングブレーヴの話をしたい。 彼ほどの名馬が日本で導入されることになった理由のすべては、奇病と言われるマリー病を発症したため。 ゆえにヨーロッパは彼を手放したのだが、ヨーロッパに残してきた産駒の中からでもコマンダーインチーフ、ホワイトマズルといった活躍馬が出ている。 競走馬としてだけでなく、種牡馬としての能力も高い馬だったと考えていいだろう。 ステイヤー然としたダンシングブレーヴ自身のパフォーマンスは、スピード豊富なリファールの影響をあまり感じさせないものだった。 特に凱旋門賞で見せた豪快な追い込み。 あれこそがダンシングブレーヴの特徴であるのなら、リファールのそれとはかけ離れた馬ということになる。 リファールは自己主張がそこまで強くなく、母系の特徴を出してくるタイプの種牡馬といった話をしたが、ダンシングブレーヴは母系にスタミナ豊富なサーゲイロードがいた。 この馬の影響が強く出ていたと考えるのが自然と私は思う。 ダンシングブレーヴが種牡馬入りした当時、彼がどのようなタイプの産駒を出してくるか? それが私には読めなかった。 父系と母系のどちらを出してくるかが読めない種牡馬は、確かに奥が深い。 サンデーサイレンスのような適当に自己主張をしながら、繁殖の良さも引き出してくれる種牡馬は理想だ。 しかし、それも現代競馬に必要不可欠なスピードを持っていることが大前提。 それを視認できたサンデーサイレンスと違い、スタミナ色の強い走りを見せたダンシングブレーヴにはスピードの裏付けがない。 だからこそ、彼の産駒は判断が難しかった。 ダンシングブレーヴが強く出てしまった場合の不安。 単純なスピード不足によって、勝負にならない馬ばかりが出てくることも予想されたからだ。 ・ダンシングブレーヴの二面性について 彼が日本に導入されたとき、私はダンシングブレーヴの血統に手を出さなかった。 キョウエイマーチやテイエムオーシャンのような、スピードに溢れた馬を出すと予測するのが困難だったことが一番の理由。 豊富なスタミナを武器とし、強靭な末脚を使うエリモシックのような馬こそが、ダンシングブレーヴ産駒の大物ではないか、と当時の私は考えていたのだ。 結果的にダンシングブレーヴにもリファールの二面性は存在し、結果を残したのもスピードに優れたタイプ。 しかし、そのすべては後付けだ。 種牡馬の方向性を掴み、それに適した路線の選択や育成をすることが成功の秘訣であるとするのなら、ダンシングブレーヴに対しての認識を私が確立した時期は、あまりにも遅かったということになる。 サンデーサイレンスがいた時代にダンシングブレーヴを重宝する必要はない。 そのような考えが背景にあったことも事実ではあるのだが…。 前述したコマンダーインチーフ、ホワイトマズルもスピードに特化した馬ではなかった。 しかし、彼らのような後継種牡馬でさえ、その産駒はリファール系の特徴である二面性を見せる。 天皇賞・春を勝ったイングランディーレのようなスタミナ系の馬もいれば、シルポートのようなマイルの逃げ馬、ビハインドザマスクのような短距離の差し馬と多彩な産駒を送ったホワイトマズルは、ダンシングブレーヴに近いタイプの種牡馬だったと言えるだろう。 これはリファールの系統を考えるとき、常日頃から頭のどこかに入れておきたい考え方だろう。 キョウエイマーチとテイエムオーシャンの2頭は、ダンシングブレーヴが輩出した桜花賞馬で、スピードを最大限に活かした先行策を武器としていたことでも共通していた。 テイエムオーシャンの血統構成は、彼女を生産した牧場の意図を汲み取りやすいものだ。 エルプスのスピードだけでは不安なので、クラシックディスタンス向きのリヴリアを入れてみる。 しかし、それでもエルプスの血が強いようなので、今度はダンシングブレーヴを迎えてみた。 あまりにも凄すぎるエルプスのスピードにスタミナ、スタミナと加算させることで、なんとか距離を持たせたいという思惑が見て取れる血統構成。 私はこのような明確な考えの元に行われる生産の仕方が大好きだ。 しかし、何度も述べているようにリファールの系統には二面性がある。 本来、スタミナを補完する役目を担うはずだったダンシングブレーヴは、母系の特徴を引き出すだけでなく、自身の中に眠るリファールのスピードまで加算して、桜花賞をあっさりと押し切るスピード馬を作り出してしまった。 ゆえにテイエムオーシャンはイメージと違う形で生まれた名牝という認識を私は持っている。 もし、このイメージを最初から持っての配合だとすれば、それは先見の明がある素晴らしい配合ということになるだろう。 キョウエイマーチの母父はブレイヴェストローマン。 テイエムオーシャンほどのスピードを持っている母系ではないが、道悪もダートも苦にしない彼女のパワーを引き出したのはリファール系の二面性。 この母系のスピードを一枚上のステージへと導くことにも成功している。 ダンシングブレーヴ自身のイメージとはかけ離れた馬だったが、それもダンシングブレーヴという種牡馬の特徴であったわけだ。 もちろん、ダンシングブレーヴにも様々な馬がいて、父のリファールがそうだったように特徴を一つで語ることができない。 私が知るダンシングブレーヴの産駒の中で、最も語らなければならない馬はキングヘイローではないだろうか。 私が管理したスペシャルウィークの同期のライバル。 彼もまた不思議な形でGIレースを制した馬だった。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]競走馬の根本は血統(ノーザンダンサー編)[第1章]ニジンスキーの影響力とは(ニジンスキー編)[第1章]カナダの競馬史に残る馬(ヴァイスリージェント編)

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    [第3章]生産者の先を見る目が成功を生む(リファール編)

    ・リファールの血を求めたアメリカ ブランドフォード系のプリメロ、その産駒のトサミドリやボワルセル系のヒンドスタンなどが、日本で人気を博していた時代。 すでに世界はスピード血統へと目線を変えつつあった。 特にアメリカはスピード血統こそが次の競馬を担う存在であることを認識し、その血を次々と更新していく。 その変化に真っ先に気付いた方が、社台ファームの吉田善哉さんだ。 ヨーロッパのスタミナ血統にこだわる日高との差を埋め、最後には追い越してしまった。 今日の日本競馬の礎を築いた人物で、偉大な方だったと思う。 では、リファールの話に戻そう。 彼の背景にも優秀な生産者たちの活躍を見ることができる。 アメリカ生産の馬ではあるが、リファールは現役時代をフランスで走り、最初の供用先も競走生活を終えたフランスだった。 そのため、リファールの代表産駒であるダンシングブレーヴは、フランスに残してきた産駒から出た活躍馬と思われがちなのだが、リファールが海を渡ったのは1970年代の後半と記憶している。 ダンシングブレーヴの凱旋門賞は1986年。 時代がまるで異なっているのだ。 ダンシングブレーヴはアメリカで生産され、アメリカのイヤリングセールに登場した馬で、ヨーロッパへと渡ったのはセール後のこと。 つまり、ダンシングブレーヴはアメリカが生んだ名馬だったわけだ。 ダンシングブレーヴは一例に過ぎず、リファールの本質はアメリカ競馬に向いたスピードであるというのが、一般的な認識だ。 しかし、アメリカに比べてスタミナに比重を置かれたヨーロッパで走っていた馬を、アメリカの生産者が見初めるのは極めて珍しい。 仮に注目すべき馬であったとしても、それなりのリスクを負ってまで導入する必要があるのか? 重ねて言わせてもらうが、アメリカの生産者が求めていたのはスピード。 そして、時代は1970年代後半。 アメリカとヨーロッパでは異質の競馬が行われていた時期の話である。 潜在スピードを認められたリファールの素晴らしさはもちろんだが、彼を選択した生産者の眼力。 これこそがリファール系の今日を生んだと言っても過言ではないだろう。 ちなみにリファールを供用したのはゲインズウェイファーム。 ケンタッキーにある有名な牧場で、現在ではタピットやエンパイアメーカーが繋養されているはずだ。 ・日本はリファールの血を活用できたのか? アメリカの偉大な生産者によって活躍を期待されたリファールの血は、世界中に広がっていくことになるわけだが、それは我が国も同じことだった。 しかし、当時の経済状況と世界の競馬地図における日本の立ち位置を考えれば、すでに人気種牡馬となっていたリファールの直仔が日本で走ることは難しい。 ゆえにリファールの血を持つ種牡馬を導入し、その産駒に期待するという方法にしかなかった。 日本におけるリファールの血統と言えば、最初に思いつくのはモガミだろう。 そして、モガミ産駒で最も有名な存在は、三冠牝馬となったメジロラモーヌ。 しかし、彼女に豊富なスピードがあったようには思えず、どちらかと言えばスタミナ系のタイプだったように考えている。 スタミナを大事にしていたメジロ牧場の出身だったことが大きいと私は思う。 余談にはなるが、あれほど隆盛を誇ったメジロ牧場はすでに存在せず、シンボリ牧場もかつての輝きを失ってしまった。 スタミナの血を否定してロングディスタンスの大レースを勝つことなど、想像もつかなかったのだろう。 スピードだけに頼るのは怖い。そう考えたはずだ。 スピードに優れるリファールの血を、モガミも受け継いでいたとは思う。 しかし、モガミの配合相手にスピード系を入れることを彼らはしなかった。 それが現在の状況を招いてしまったのかもしれない。 私は昔からブラッド・ホースというアメリカの競馬情報誌を送ってもらっているのだが、この頃は船便で1か月近いタイムラグがあった。 それでも、アメリカの生産者が何を考え、どのような配合を目指しているのか? それを知る必要があると考えていた。 流行に乗り遅れることが、致命傷になることを認識していたからだ。 前述した吉田善哉さんは、ワールドワイドな視点からアメリカを選択し、その選択は日本の競走馬の著しいレベルアップを生んだ。 日本競馬の傾向と世界のそれが一致してきたことが、その証明と言えるだろう。 改めて言う。 競走馬の世界は今日ではなく、明日を考えることこそが重要なのだ。 セントレジャーを勝った馬に種牡馬としてのニーズはない。 菊花賞を筆頭とした長距離戦の勝ち馬は、日本でも重要視されなくなっている。 本来、格付けの高いレースは種牡馬選定の意味合いを持っており、ゆえにブラックタイプとして血統表に表記されるわけだが、その意味をなさないレースは淘汰されてしまうかもしれない。 スプリンターで構成された母系の馬であっても、3000mの距離を先頭で駆け抜ける時代が来る──。 その発想を1980年代に持っていたかどうかが、牧場の盛衰を分ける結果となってしまったということだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]どうしてスプリンターに?(アドマイヤムーン編)[第1章]競走馬の根本は血統(ノーザンダンサー編)[第1章]ニジンスキーの影響力とは(ニジンスキー編)

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    [第2章]リファールの血統背景(リファール編)

    ・ファロスとフェアウェイの兄弟 今回はリファールという馬の血統について、深く考えてみたい。 言うまでもないが、リファールの父はノーザンダンサー。 リファール自身は1969年生まれなので、すでに50年ほどの歳月が流れていることになる。 歴史上の馬と言っても差し支えないほどの古い時代の馬だ。 そのような古い時代の馬であるにも関わらず、改めて検証する価値があるとされているのだから、血統とは本当に奥深いものだと思う。 母父のコートマーシャルは1920年代に活躍したフェアウェイという馬の系統。 このフェアウェイこそが、リファールという馬の配合のポイントになっているのだが、あまりにも古い血統だ。 ご存知ない方も多いと思うので、順を追って説明していきたいと思う。 できれば、リファールの血統表を片手に見てもらえると嬉しい。 リファールを生産した関係者の気持ちが理解できるはずだ。 先に馬名を上げたフェアウェイはセントレジャーを勝ち、イギリスでリーディングサイアーを取ったこともある馬。 競走馬としても種牡馬としても成功した素晴らしい馬とされている。 フェアウェイの全妹は1000ギニーを制したフェアアイル。 そして、全兄にはファロスという有名な馬がいる。 ファロスについては後述するが、多くの活躍馬が出ている優秀な血統ということを認識してもらえれば、ここではOKだ。 フェアウェイの全兄であるファロス。 彼の名でピンと来ることはなくても、ネアルコの父と聞けば、その存在の重さを理解してもらえるのではないだろうか。 ノーザンダンサーの父はネアルコ産駒のニアークティック。 現在、この連載はノーザンダンサーという世界の血統地図を塗り替えた、偉大なる種牡馬とその系統について、考察を続けているのだが、このネアルコこそがノーザンダンサー系の祖であり、その先にいるのがファロスというわけだ。 ちなみに20世紀で最も成功した種牡馬とされるナスルーラとノーザンダンサーは、ともにネアルコの直系子孫である。 ゆえにネアルコの血を持たない競走馬を探すほうが難しいと言われており、我が国の競馬を変えたサンデーサイレンスも父系を辿ればネアルコへと行き着く。 ネアルコこそが血統史の中枢に位置する馬。 そのように語る識者も少なくない。 ・リファールの配合が意味するもの では、改めてリファールの血統表に目を移していただきたい。 リファールはノーザンダンサーの産駒なので、父系はファロスの系統。 コートマーシャルがいる母系はフェアウェイの系統ということになる。 つまり、リファールは父系にファロス、母系にフェアウェイという全兄弟から成る血統構成の馬。 血統上は同列に扱われる2頭のインブリードを、その体内に成立させているわけだ。 注目すべき点はこれだけではない。 ファロスとフェアウェイの兄弟はセントサイモンの4×3を筆頭に多くのクロスを持っている血統構成で、自身の血を重ね合わせることによって、それらのクロスも重なり、特徴がさらに強調されていく。 この兄弟のインブリードこそがリファールの根幹にあるもので、生産者がそこまで考えて配合したことも想像に難くない。 そして、このインブリードの最大の特徴。 それはファロスとフェアウェイが全兄弟であるにも関わらず、スピード系のファロス、スタミナ系のフェアウェイと異なる特徴を持っていたところにあった。 スピード×スタミナは配合の基本的なパターンだが、それを全兄弟のインブリードで行ってしまう。 なんとも奥深く、そして痛快な配合だろうか。 父に似たスピード型となった場合は母系のスタミナがサポートする。 その逆も然りだ。 どちらに振れたとしても、根底にあるのはファロスの兄弟の中には後世に残すべき優秀な血が流れている。 兄弟のインブリードによって、その血を強調する作業も行われていた。 このような配合が現在から50年近くも前に行われていたのだから、リファールの血統を目にした当時の識者の興奮は、現在の私のそれをはるかに凌ぐものであったのではないだろうか。 一般的な感覚で言えば、リファールはスピードに優れた馬であり、フェアウェイよりもファロスの影響が強い馬だった証明とも言えるだろう。 仮にフェアウェイに近い馬であったとすれば、リファールの系統がここまで繁栄したかどうかはわからない。 もちろん、相応の活躍はしたと思うが、アメリカが彼の血を求めることはなかっただろう。 スピードを持っているファロスに誘導されていたからこそ、現在の競馬でも必要とされる存在となりえた。 そう考えるのが自然ではないだろうか。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]サンデーサイレンス系のスプリンター(キンシャサノキセキ編)[第1章]どうしてスプリンターに?(アドマイヤムーン編)[第1章]競走馬の根本は血統(ノーザンダンサー編)

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    [第1章]リファールに対する基本的な見解(リファール編)

    ・ニジンスキーより下? ニジンスキーの血に対しては強いこだわりを見せた私だが、同じノーザンダンサー系のリファールには、そこまでの関心を見せなかった。 なぜ、そうなったのか? 明確な理由は私にもわからないし、その説明もつかない。 彼の詳しい血統背景に関しては後述するつもりだが、フェアウェイが母系にいる構成は実に面白く、大舞台に強い底力も秘めていたと考えられる。 これは私が種牡馬に求める要素のひとつ。 同じノーザンダンサー系の種牡馬でも、勝ち上がり率をセールスポイントにしていたノーザンテーストは、どこかに秀でていたわけではなく、平均点の高い馬だった。 それこそが彼に惹かれなかった理由。 私は特別な“何か”を持っている馬に弱く、リファールはそれを満たした馬、系統であったとは思うのだ。 では、何が私の感性に響かなかったのか? 先ほど、ニジンスキーの馬名を出したが、彼に惹かれた理由は血統だけではない。 産駒のマルゼンスキーに象徴される雄大な馬体。これが大きかった。 一方のリファールは? ニジンスキーと比較すれば、りファールの馬体はコンパクトにまとまっているように思えた。 もちろん、リファールが現役競走馬として走っていた時期の映像を見ることはできず、その産駒の馬体や特性を見て判断していたというのが正直なところなのだが、海外へと足を運ぶ機会が増え、実際にリファールをこの目で見ることができたとき──。 私は自分の見立てが、大きく間違ってなかったと確信する。 高い心肺能力の証明である分厚い胸前。 長距離への適性を示す胴長でゆったりとした馬体。 すべてが他を圧倒するレベルだったニジンスキーに比べると、リファールにはそこまでの威圧感がなかった。 リファールの馬体はスピード馬のそれだっただけでなく、一瞬の切れや柔軟性に優れているようにも感じなかった。 血統に魅力はあっても、馬体面では強調すべきところがないように思えたのだ。 ・種牡馬に必要な要素 リファールの産駒で最も有名な馬といえば、凱旋門賞で派手な追い込み勝ちを決めたダンシングブレーヴ。 彼こそがリファールの代表産駒の筆頭になるだろう。 しかし、ここで考えてみてほしい。 賢明な読者の方はお気づきかもしれないが、私がこれまで述べてきたリファールの印象と彼の代表産駒であるダンシングブレーヴのレースぶり。 あまりにも矛盾してはいないだろうか? ダンシングブレーヴについてもそれなりの行数を割き、私の見解をしっかりと説明していくつもりではあるが、簡単にダンシングブレーヴのイメージを語れば、昔の欧州馬に多かったスピードにやや欠けるクラシックディスタンス向きの馬。 ニジンスキーほどの融通性はなく、どちらかと言えば、スピードに特化したリファールと相反するイメージ。 リファールではなく、優れた母系のスタミナが根底にあったと考えるのが妥当だろう。 それはリファールが自身の特徴を伝えるのみの種牡馬ではなく、母系の良さを引き出すことができる種牡馬であったということへと繋がるのだ。 リファールはフランスだけでなく、アメリカでもリーディングサイアーを獲得した。 前者は芝がメインで後者はダートが主流の競馬。 仮にリファールが自身の特徴のみを伝える種牡馬であったのであれば、このような偉業を達成することはできなかっただろう。 セールスポイントになる武器を持っていること。 これは種牡馬として成功するために必要なことだが、そのカテゴリーが制限されてしまう種牡馬ではリーディングの位置まで届くことはない。 しかし、たった1頭の馬がオールラウンドの特性を持つことは難しいことだ。 「血統は母系がなによりも重要」と私は常日頃から言ってきた。 それは母系の力を引き出す優秀な種牡馬の存在があってこそのもので、それが産駒の活躍に幅をもたらす。 リファールはその力を持った種牡馬だったのだ。 リファールにはニジンスキーほどの迫力を感じなかった。 しかし、前述のような「目に見えない」セールスポイントが彼にはあった。 それが系統を確立できた理由ではないか、と私は考えている。 リファールに対する考察は、これまでの連載で述べてきた馬の中でも、とりわけ面白いものになるかもしれない。 非常に楽しみだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]メイショウボーラーを選択した理由(メイショウボーラー編)[第1章]サンデーサイレンス系のスプリンター(キンシャサノキセキ編)[第1章]どうしてスプリンターに?(アドマイヤムーン編)

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    [第3章]ヴァイスリージェント系の未来(ヴァイスリージェント編)

    ・その生命線はどこに? 前回の連載では、私が管理したフェラーリピサの話をさせてもらった。 彼はヴァイスリージェント系でバックパサーを母父に持ち、ノーザンダンサーのインブリードもあるタッチゴールドの産駒。 スピード豊富な母父のカポーティは、無敗のアメリカ三冠馬シアトルスルーを父に持つ馬だ。 血統に詳しい方なら、もしくは競走馬の配合に興味を持つ方なら、この血統構成を聞いて、ひとつのイメージが頭に浮かぶのではないだろうか? そう、彼はサンデーサイレンス系と配合することも可能なら、ミスタープロスペクター系の馬と掛け合わせることもできる馬だったのだ。 フェラーリピサの競走成績と父がデピュティミニスターそのものではなく、その産駒のタッチゴールドとマイナーだったことも相まって、彼が種牡馬となることは叶わなかった。 優勝劣敗の世界。これは仕方のないことだ。 しかし、彼に前述したような系統の馬を掛け合わせることができたら、面白い産駒が出たのではないかと考えることがある。 いや、仮に彼が牝馬であったなら──おそらくは価値の高い繁殖牝馬として、重宝されたのではないだろうか。 逆に言えば、彼のような血統が生き残る可能性は母系にしかない、と言えるかもしれない。 リーディングサイアーになるような馬は、自身の高い能力のほかに多くの系統とニックスを作ることができる汎用性の高さが必要。 それがヴァイスリージェント系には足りない、と私は考えている。 例えば、現在の血統表で見るヴァイスリージェント系の馬。 デピュティミニスターにフレンチデピュティ、クロフネは日本の生産界でも上手に活用されているが、一方で次元の違うパフォーマンスを見せ続けたクロフネでさえも、リーディングサイアーの域には届かなかった。 それはなぜか? ヴァイスリージェントの系統は少し硬い面があり、どの馬との配合でも対応できるわけではないからだ。 ・限定される配合パターン 好例はクロフネの産駒で、母父にサンデーサイレンス系のネオユニヴァースがいるアエロリット。 豊富なスピードとパワーがありながら、柔軟性にかける面のあるクロフネの弱点を補完するためには、サンデーサイレンス系の切れが絶対に必要だ。 柔らか過ぎる繋を持つネオユニヴァースはクロフネの弱点を補うだけでなく、ネオユニヴァースの弱点である緩さを解消することにも成功している。 まさにベストマッチの関係と言えるが、これこそがヴァイスリージェント系の限界を示しているように私には感じる。 ディープインパクトとニックスの関係にあるフレンチデピュティ。 これも有名な配合パターンで、ダービーを制したマカヒキやジャパンカップを勝ったショウナンパンドラなどの成功例も出している。 フレンチデピュティは線の細いディープインパクトに一本の芯を通すことのできる種牡馬。 ディープインパクト産駒でありながら、マカヒキやショウナンパンドラは切れだけでなく、パワーも併せ持っていた。 しかし、その配合で主導権を握っているのは、あくまで父のディープインパクトであって、フレンチデピュティが強く出てしまうとGIでの切れが不足してしまう。 これが難しいのだ。 購入を決めた段階から、走れる条件は限定されていると考えていたフェラーリピサ。 ヴァイスリージェントの血統が主導になっている馬では、日本の芝で結果を出すことが難しいと私は考えていた。 現在の競馬はスピードのみで生き残ることができず、スピード能力とともに切れも要求されている。 しかし、ヴァイスリージェントの血統は、そこで苦労してしまっている印象があったのだ。 ノーザンダンサー系の馬は世界中に限りなくいる。 あえて、ヴァイスリージェント系を選択しなくても──。 そのような流れになってしまえば、ノーザンダンサー系の一流血統の中で最初に淘汰されてしまう可能性もある。 サイアーラインとして、消えてしまう可能性もある。 それは繁栄しているノーザンダンサー系でも、その行く末を考えなくてはならない時代が来ているということでもあるのだ。 ヴァイスリージェント(牡) 1967年生まれ 加国産 父Northern Dancer 母Victoria Regina 母父Menetrier 通算成績 5戦2勝 主な産駒 デピュティミニスター など ※種牡馬成績は2018年11月時点 【過去の連載馬】[第1章]海外で結果を残した馬(タイキシャトル編)[第1章]メイショウボーラーを選択した理由(メイショウボーラー編)[第1章]サンデーサイレンス系のスプリンター(キンシャサノキセキ編)

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    [第2章]ヴァイスリージェント系の管理馬(ヴァイスリージェント編)

    ・競走馬の購入について 競走馬を購入するとき、値段と切り離して考えることを私はしなかった。 オーナーにはそれぞれの予算があり、楽しみ方も違う。 私自身の欲求だけを言えば、ダービーを筆頭としたクラシックディスタンスのGIを勝ちたい──そんな気持ちが強かった。 海外のビッグレースに管理馬を連れて行きたい、という思いも常に持っていた。 しかし、それとは別に適材適所というか、値段に見合う、もしくは値段以上に価値のある馬を探し出し、それをオーナーに勧めることにも喜びを感じていたのだ。 例えば、アグネスデジタルの父はクラフティプロスペクター。 母父にチーフズクラウンがいるとはいえ、2400mの距離を走れるような馬ではない、と最初から理解していた。 父がタイキシャトルで母父がストームキャットのメイショウボーラーはマイルでもどうか、と思っていた。 ダービーに出走できる賞金を持ちながら、ダービー出走を諦めてもらった松本好雄オーナーには申し訳ないことをしたと思っているし、私の提案を受け入れてもらったことに対して感謝もしているが、あの馬は最初から2400mを走れるような馬ではなかった。 ダートへの転向もデビュー前からイメージしていたことだ。 あの馬には芝のGIを勝つための切れが不足していた。 ヴァイスリージェント系にそこまでの興味を示さなかった私だが、長く調教師生活をしていれば、さすがに数頭の管理はしているもので、重賞勝ち馬も実は出している。 その馬こそがフェラーリピサだ。 彼の父はタッチゴールドで、タッチゴールドの父はデピュティミニスター。 正直、私が抱いていたタッチゴールドの印象は、それほどいいものでなかった。 歩かせて少し硬い面がある。 購入を踏みとどまらせるに十分な特徴と感じていた。 なぜ、そのような歩様になるのか? 競走馬の購入を決定するときに必要なのは、その状況が起こってしまう理由を考えることであり、タッチゴールドの場合は少し曲がっている後ろ脚に理由があった。 XではなくO状姿勢だったことが、その原因になっている、と私は考えたのだ。 ・マイナス面も認識しておくことが重要 母父はシアトルスルー産駒のカポーティ。 パッと見た印象はカポーティに近いように感じた。 デピュティミニスターにカポーティを重ねる血統構成はスピードにスピード。 走らせる条件が限定されそうだな、とは思った。 しかし、目の前にいたフェラーリピサは、タッチゴールドよりも単純に馬体が良かった。 もちろん、血統と馬体の両方が揃っている馬こそが理想ではある。 しかしながら、そのような馬は値段が高く、予算を考慮し、どちらかをあきらめなくてはならないときも少なくない。 関西人らしく、いくらかでも金額を値切り、そうはいっても牧場を経営しているのは亡くなった父のあとを継いだ姉妹二人。 この馬の姉が最近のレースで勝ったばかり、との話も聞いてしまった。 「まあ、仕方がないか」という程度の値段で、彼の購入を決めたのを覚えている。 結果的にフェラーリピサは活躍し、タッチゴールドの代表産駒にもなった。 それはそれで嬉しいことなのだが、一方でヴァイスリージェントの血統はそのようなもの、と認識しておく必要はある。 フェラーリピサは1700mのエルムSを勝った。しかし、これが距離の限界。 スピードに任せて走る彼のスタイルは、地方競馬に持って行ったほうが面白いと私は感じていたほどだ。 実際、私は彼を交流重賞に5回連れて行き、1勝2着3回3着1回の成績を残した。 それがヴァイスリージェント系の特色。 それを理解したうえで、付き合い方を考えるべき血統なのだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]スピードのみが生き残る(サクラバクシンオー編)[第1章]海外で結果を残した馬(タイキシャトル編)[第1章]メイショウボーラーを選択した理由(メイショウボーラー編)

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    [第1章]カナダの競馬史に残る馬(ヴァイスリージェント編)

    ・日本における知名度の低さ カナダの競馬殿堂入りを果たしているヴァイスリージェントは、ノーザンダンサー系でも重要な系統のひとつと位置付けされている馬。 しかし、ニジンスキーを筆頭とした他のノーザンダンサー系と比較すると、知名度でやや見劣るのではないか、と私は感じている。 特に日本ではそうではないだろうか? ヴァイスリージェントは1967年の生まれ。 すでに血統表のかなり先まで名を移してしまったことも大きいと思う。 彼にはデピュティミニスターという優秀な後継種牡馬がいるのだが、こちらのほうが父よりも名を知られている存在と言えるかもしれない。 実際、日本ではヴァイスリージェントを持ち出すよりも、デピュティミニスターの名を出すほうが、血統のイメージをしやすくなっており、若い世代になればなるほど、その傾向は強くなっているように思う。 そして、もうひとつ──。 ヴァイスリージェント系の特性はスピードとパワーなのだが、これこそが日本でヴァイスリージェント系の名を聞かない理由ではないか、と私は考えている。 スピードに特化し過ぎたヴァイスリージェントは、彼が活躍していた当時の日本競馬に必要な馬ではなかった。 ゆえに彼の系統が日本で繁栄しきれなかったように感じるのだ。 ・日本におけるニーズ 私がマルゼンスキーに魅了された最大の理由は潜在スピードの高さ。 しかし、私と同じように考えていた人間ばかりではない。 マルゼンスキーの父であるニジンスキーはイギリスのクラシック三冠馬。 欧州信仰の強かった──言い換えれば、スタミナ信仰の強かった当時の生産界は、ニジンスキーを父に持つマルゼンスキーに三冠馬のスタミナを期待していたのではないだろうか? 少なくとも、マルゼンスキーは距離をこなせない単調なスピードタイプではなかった。 それこそが重要なポイントだったように思うのだ。 ニジンスキーとヴァイスリージェントは同世代の馬。 ノーザンダンサー系最大の特徴である豊富なスピードを武器にしていた、という点でも2頭は似通っている。 むしろ、ヴァイスリージェントが伝えるスピードは、ニジンスキーのそれを超えるものだった可能性もあるほどだ。 しかし、それは当時の生産界が求めた類のスピードではなかった。 ヴァイスリージェントのスピードは、マルゼンスキーが見せた「どこまで走っても止まらないような持続するスピード」ではない。 レース序盤からトップギアで走り、いずれはどこかでガス欠してしまうだろう、と感じさせるスピード。 一般的に“淡白”と表現されてしまう類いのもので、別の言葉で表現するのなら、実に「アメリカ的」だった。 これが最もわかりやすい表現と言えるかもしれない。 多くの競馬ファンはご存知だろうが、アメリカの競馬は基本的に最初から猛ダッシュ。 ペースについていけない馬から脱落していくサバイバル戦だ。 潜在スピードの高さのみを純粋に競う形。 しかし、欧州の競馬スタイルを模倣し、芝のクラシックディスタンスが中心の日本ではニーズがなかった。 ヴァイスリージェントの能力がニジンスキー、それ以外のノーザンダンサー系の馬に劣るのではなく、単純に方向性の違いで受け入れられなかっただけなのだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]いまだからこそのエンパイアメーカー(エンパイアメーカー編)[第1章]スピードのみが生き残る(サクラバクシンオー編)[第1章]海外で結果を残した馬(タイキシャトル編)

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