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    [第2章]ゼンノロブロイに足りない要素(ゼンノロブロイ編)

    ・必要なのは他を圧倒する迫力 ゼンノロブロイは総合力の高い馬だ。 それなりの能力を持っている種牡馬なのだから、それなりの産駒を出すし、数もそれなりには勝つ。 しかし、GIを勝てるレベルの馬を輩出するところまでは至らない。 そこまで繁殖に恵まれたと思えない初期の産駒からペルーサにアニメイトバイオ、サンテミリオンなどが登場したときは、サンデーサイレンス系の代表となれる可能性もあると言われた。 だが、当時も私は懐疑的な目で彼を見ていた。 その後の産駒の動向を見れば、私の考えに大きな間違いはなかったと感じてもらえると思う。 1970年代、凱旋門賞の連覇を果たしたアレッジドという名馬がいた。 種牡馬となってからもミスアレッジドやローソサエティーといった馬を輩出。 多くのステークスウイナーの父となっているが、私はその成績よりも気性の激しさのほうが記憶に残っている。 種牡馬となってからのアレッジドを見たことがある。 彼の気性は常軌を逸しており、近くにいる人間に乗りかかっていくほどの荒々しさ。 私が近づこうとすれば、牧場の人間から「入るな。危ないぞ」と止められる始末。 「これはひどいな」と思った一方で、優秀な種牡馬に必要なものとは、他を威圧するような性格の激しさではないのか。 そんな私の感覚が正しかったことは、その後に活躍した種牡馬の多くが、激しい気性の持ち主であったことからもわかるだろう。 ライバルに噛み付こうとしたサンデーサイレンスを筆頭に、ストームキャットやキングマンボ。 後世に自分の力を伝えていこうと思ったら、我の強い性格でなければならない。 「うるさい」ではなく、「荒々しい」と表現したほうがいいだろうか。 種牡馬として成功した馬の多くは、そんな荒々しさを現役時代のパフォーマンスでも示しているものだ。 それこそがゼンノロブロイに足りない部分。 優等生なだけでは、種牡馬として物足りないのだ。 ゼンノロブロイの瞬発力は目を見張るものではなかったし、自然とハナを切ってしまうほどのスピードもなかった。 そこまでの重厚さも持ち合わせていなかった。 例えば、先ごろ引退したキタサンブラック。 気性こそ激しくはなかったが、パドックでは他馬が霞(かす)んで見えるほどの威圧感を放っていた。 だが、ゼンノロブロイのパドックにはそれがなかった。 これが伸び悩んでしまった理由と私は考える。 ・今後の可能性 サンデーサイレンス系なので、繁殖の選択肢も難しい面があるのは否めない。 一時は繁殖の質に恵まれた時期もあったが、今後は難しいだろう。 繁殖牝馬の質は少しずつ低下していくと思う。 ゆえに今後のゼンノロブロイに求められるのは、自身の後継種牡馬を出すことではなく、母父の位置に入って存在感を示すことではないだろうか。 それを可能にする血統的なバックボーンをゼンノロブロイは持っている。 サンデーサイレンス系なら柔らかさを。 ミスタープロスペクター系ならスピードを。 インブリードによって、その血を強調できる強みがゼンノロブロイにはある。 ダンジグ、ヌレイエフなどのスピード血統で、ゼンノロブロイに足りないものを補いつつ、前記したインブリードを強調するような配合。 自身を強調するのではなく、サポートが役割になるブルードメアサイアーのほうが、ゼンノロブロイには向いていると思う。 幸いにして、彼には多くの産駒がいる。 血統表に名を残し続けるチャンスは残されているはずだ。 ゼンノロブロイ(牡) 2000年3月27日生まれ 白老産 父サンデーサイレンス 母ローミンレイチェル 母父マイニング 主な勝ち鞍 ジャパンC(04年) 有馬記念(04年) 天皇賞・秋(04年) 通算成績 20戦7勝(重賞5勝) 芝連対距離(重賞) 2000m~3200m 主な産駒 サンテミリオン ペルーサ アニメイトバイオ など 重賞勝利数(中央) 20勝 産駒の主な勝利レース オークス 青葉賞 ローズS など ※種牡馬成績は2018年3月時点 【過去の連載馬】[第1章]稀有な能力の持ち主(ネオユニヴァース編)[第1章]ドバイワールドCを勝った馬(ヴィクトワールピサ編)[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)

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    [第1章]ゼンノロブロイの印象(ゼンノロブロイ編)

    ・GⅠを3連勝した馬 多くの活躍馬を輩出し、その名を日本の生産界に刻んだサンデーサイレンス。 彼の産駒は多くの大レースを勝ったが、そのキャラクターは一様でなかった。 サイレンススズカが豊富なスピードを武器にするタイプなら、ディープインパクトは非凡な瞬発力がセールスポイントだった。 デュランダルは短い距離で強い馬だったし、ダートでもゴールドアリュールという傑出馬を出した。 単に大レースを勝つだけではなく、母系の特徴を引き出し、個性的な馬を出し続ける。 これこそが大種牡馬となれた理由ではないか、と私は考えている。 では、今回の主役であるゼンノロブロイは? 現役時代の競走成績は一流──。いや、超一流と言っていいかもしれない。 天皇賞(秋)、ジャパンC、有馬記念と続く秋のGⅠ3連戦。 これを勝ち続けるのは非常に難しく、昨年のキタサンブラックでもジャパンCを取りこぼした。 厩舎の先輩であるシンボリクリスエスも同様だ。 私が管理したスペシャルウィークは、天皇賞(秋)とジャパンCを勝ったが、最後の有馬記念は惜しくもハナ差で敗れてしまった。 この偉業を達成したのは2000年のテイエムオペラオー、2004年のゼンノロブロイの2頭のみしかおらず、その観点から言えば、ゼンノロブロイは歴史に残る名馬と言えるだろう。 にもかかわらず、私にはゼンノロブロイが「強い馬だった」という感覚がない。 競馬ファンの方はどうなのだろう? 私と似た感覚を持っているのだろうか? ・強さを感じない理由とは? 青葉賞からダービーへと駒を進め、本番でも2着という成績は厩舎の先輩であるシンボリクリスエスと同じだ。 シンボリクリスエスについては、彼を扱う次回の連載で、詳しく話をさせてもらうつもりだが、似たようなシチュエーションで頭角を現した3歳時から、この馬は本当に強いのだろうか…という懐疑的な思いが、私の中にはあった。 少なくとも、シンボリクリスエスよりも上と感じたことは一度もない。 GⅠを3連勝したときも同様だった。 そして、改めて成績を振り返り、そのレース映像を見ても考えは変わらない。 確かに総合力は高い馬で、レースでもソツがない。 なので、大きく崩れることなく、結果を残し続けることができたのだろう。 しかし、ゼンノロブロイの走りはパンチ力に欠ける。 ここが凄い──。そのように感じさせる部分がないのだ。 GⅠ3連勝をしたときの2着は、天皇賞(秋)から順にダンスインザムード、コスモバルクにタップダンスシチー。 ラッキーとまでは言いたくないが、相手関係に恵まれた部分も大きかったのではないだろうか。 翌年は勝てずに終わっているが、この年はディープインパクトが登場し、ハーツクライが本格化した年。 アルカセットのような馬もジャパンCに参戦している。 このクラスを相手にしても勝ち負けできるくらいでなければ、サンデーサイレンス系を代表する名馬とまでは言い切れない。 種牡馬として成功する大事な要素。 それは生産者にアピールする武器があるかどうかだ。 スピード、切れ、パワー。 どれかひとつでも傑出したものがあれば、そこを伸ばしたい、そこを補完したいと考えることができる。 そのどれもが中途半端になってしまった。 それこそがゼンノロブロイの弱点になっているように私は思う。 次回は種牡馬としてのゼンノロブロイに対する私のイメージを話していきたい。 それが彼の未来に繋がればいいのだが。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]正しい認識が必要(ハービンジャー編)[第1章]稀有な能力の持ち主(ネオユニヴァース編)[第1章]ドバイワールドCを勝った馬(ヴィクトワールピサ編)

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    [第3章]インブリードが呼び覚ますもの(ヴィクトワールピサ編)

    ・サンデーサイレンスの名がある場所 ヴィクトワールピサは日本の生産界に蔓延しているサンデーサイレンス系の種牡馬だが、彼はサンデーサイレンスの直仔ではない。 そして、この事実こそがヴィクトワールピサを、ひいては父のネオユニヴァースを活かす重要なファクターになると私は考えている。 近年、インブリードに対する考え方は大きく変化した。 もちろん、あまりに近過ぎるインブリードが危険な行為であることに変わりはない。 しかし、サドラーズウェルズの3×2という近親交配を持ったエネイブルの登場により、近過ぎるインブリードに対する認識も著しく緩和したように感じる。 気性の激しいサンデーサイレンス系を同列に考えていいかは別として、極端なインブリードを利用し、遺伝させたい馬の特徴を伝える配合は一般的なものとなった。 少なくとも、どの馬の特徴が出てくるのかをつかみにくいアウトブリードより、強調したい血を明確にできるのがインブリードの強み。 そして、ヴィクトワールピサはインブリードに適している馬のように私には感じるのだ。 その根拠を説明しよう。 ネオユニヴァースを父として迎える場合。 その配合相手にはネオユニヴァースに似たタイプではなく、ミスタープロスペクター系のスピードタイプが選ばれやすい理由はすでに述べた。 そして、ネオユニヴァースは自身の特徴を強く出さず、母系の影響を遺伝しやすい傾向がある。 そんな話もさせてもらった。 ゆえにサンデーサイレンスらしい切れとしなやかさを持っていたネオユニヴァースとイメージの違う産駒が多いのだと。 サンデーサイレンスの直仔であるネオユニヴァースを、サンデーサイレンス系の繁殖と配合するのは少し難しい。 しかし、サンデーサイレンスの名が3代前に移動しているヴィクトワールピサなら、サンデーサイレンスのインブリードを狙うことが可能だ。 ・インブリードを重視した配合によって得るもの ディープインパクトを母父に持つ繁殖と配合すれば3×3。 気性の難し過ぎる馬が出る可能性もありそうだが、ヴィクトワールピサはネオユニヴァースよりもマキャベリアンが出ている馬。 ディープインパクトと母父マキャベリアンの配合に違和感はないのだから、ヴィクトワールピサとディープインパクトでも面白いと私なら考える。 サンデーサイレンスのインブリードにより、眠っていたネオユニヴァースの切れを呼び起こすことだって、できるかもしれない。 いわゆる「隔世遺伝」を期待するわけだ。 ネオユニヴァースとディープインパクトはともに繋の柔らかいタイプ。 しかし、2頭の間にミスタープロスペクター系の特徴を持つヴィクトワールピサを挟むことによって、ある程度の頑強さを加えることができれば──。 もしかしたら、ネオユニヴァースは先の代にいって、真価を発揮するタイプの馬かもしれない。 ヴィクトワールピサも日高へと活躍の場所を移している。 これを都落ちと言う声もあるかもしれない。 しかし、期待値の少し下がった状況のほうがチャレンジできる場合もある。 ネオユニヴァースとヴィクトワールピサはタイプこそ違うが、ともに傑出した能力を持っていたということで共通している親子だ。 繁殖相手のレベルと配合の妙で、とてつもない馬を出してくる可能性は低くない。 ドバイワールドカップというレースの価値を私は知っている。 だからこそ、このレースを制した馬の名を残す大物産駒の登場を期待しているのだ。 ヴィクトワールピサ(牡) 2007年3月31日生まれ 千歳産 父ネオユニヴァース 母ホワイトウォーターアフェア 母父Machiavellian 主な勝ち鞍 皐月賞(10年) 有馬記念(10年) ドバイワールドC(11年) 弥生賞(10年) 中山記念(11年) ラジオNIKKEI杯2歳S(09年) 通算成績 15戦8勝(重賞6勝) 芝連対距離(重賞) 1800m~2500m 主な産駒 ジュエラー など 重賞勝利数(中央) 2勝 産駒の主な勝利レース 桜花賞 ファルコンS など ※種牡馬成績は2018年3月時点 【過去の連載馬】[第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)[第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)[第1章]正しい認識が必要(ハービンジャー編)

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    [第2章]海外遠征に強い馬とは(ヴィクトワールピサ編)

    ・海外遠征を成功させるために重要なもの ヴィクトワールピサといえば、ドバイワールドCの勝利が有名で、実際に彼の最大の功績であったのは疑いようがない。 では、この勝利を呼び込んだものは何か? 前回も少し触れたようにメイダンの舞台が同馬に適していた。 これは間違いないだろう。 海外遠征慣れしていた角居厩舎の所属馬だったことも大きかった。 私も経験があるが、最初の海外遠征になったダンスパートナーに関しては、悔いが残っている部分も少なくない。 現在と違い、海外遠征は頻繁に行われていなかった。 海外遠征のノウハウを持っているかどうかは馬の能力と同等、もしくはそれ以上に重要。 それを私は身を持って体験している。 だが、厩舎がどれだけのノウハウを持っていたとしても、遠征した馬がどれほどの実力を持っていたとしても、その能力をしっかりと発揮することができなければ、結果を残すことはできない。 ・海外に適した血統 ヴィクトワールピサが成功できた理由は二つあると私は考えている。 まずは血統面。 彼はネオユニヴァースの産駒だが、父にはそこまで似ていなかった。 ヴィクトワールピサの母父はマキャベリアン。 ミスタープロスペクター系のスピードがあったからこそ、世界の主流とも言える2000mの距離で強い競馬ができたではないだろうか。 母のホワイトウォーターアフェアはシングスピールとの配合で安田記念馬のアサクサデンエンを出している馬。 自身の競走成績からクラシックディスタンスに適性があると思われがちだが、彼女の本質はスピードタイプだったのかもしれない。 サンデーサイレンス系の馬ではなく、ミスタープロスペクター系の馬。 このようなイメージのほうが、ヴィクトワールピサには合っていると思う。 ・メンタル面の重要性 精神力の優れた馬でなければ、海外遠征で成功することはできない。 ドバイでの成功ばかりがクローズアップされるヴィクトワールピサだが、彼は3歳秋にもフランスへ遠征していた。 ニエユ賞が4着、凱旋門賞が7着。 結果は伴わなかったが、この馬の凄いところはフランス遠征以降にこそある。 海外で2戦を消化した3歳馬が、帰国後に国内最高峰のレースであるジャパンCと有馬記念を走り、3着→1着という結果まで残した。 国内だけしか走らない馬でも、1シーズンの出走数は3戦程度に留めておくのが一般的。 ゆえに前哨戦をパスし、大きいレースだけを走る馬も増えてきた。 なのに、この馬は海外で2戦し、国内でも2戦。 しかも、結果まで出した。 肉体的なものだけではなく、精神的にも優れた馬でなければ、このようなローテーションで走り続けることはできないはずだ。 落ち着いた状態でレースに向かうことのできない馬では、大きなタイトルを獲ることはできない。 ヴィクトワールピサは高い身体能力もとより、優れたメンタル面にも注目しなくてはならない馬と私は考えている。 この長所を遺伝させることができれば、父のような海外遠征にも動じない馬を作ることも可能なのではないだろうか。 では、ヴィクトワールピサという種牡馬を活かすには、どのような配合が面白いのか? 最終回となる次回はその部分に踏み込んでみる。 父ネオユニヴァースの連載で残した宿題についても、ここで結論を出すつもりだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)[第1章]正しい認識が必要(ハービンジャー編)[第1章]稀有な能力の持ち主(ネオユニヴァース編)

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    [第1章]ドバイワールドCを勝った馬(ヴィクトワールピサ編)

    ・真に価値のあるタイトルとは GIと呼ばれるレースは数多くある。 その範囲を世界にまで広げれば、私のような競馬の世界に生きる人間であっても、そのすべてを把握できていない。 日本と違い、世界はシビアだ。 格が上がるレースもあれば、逆に下がってしまうレースもある。 優勝賞金には何倍もの開きがあり、目標とするレースの叩き台程度にしか考えられていないGIも存在する。 そのようなレースの勝利であっても、血統表には「ブラックタイプ」で表示されるのだが、その勝利が強調されることはほとんどない。 数ではなく、中身こそが重要なのだ。 複数のGI勝利は相応の力がなくては達成できないこと。 だが、本当に大事なのは勝ったレースの質。 世界のホースマンはそこを見ている。 誰もが勝利を夢見るレース。 各国で行われている「ダービー」はその類いだろうが、世界という視点で考えたとき、該当するレースは数えるほどしかない。 凱旋門賞はもちろんそのひとつ。 しかし、それ以外にも国の威信と誇りを賭けた「○○カップ」と名の付くレース。 ブリーダーズCを筆頭にメルボルンC、香港C、ジャパンCなど。 そのすべてが私の勝ちたかったレースだ。 ・ドバイワールドCというレース 数多くのGIが施行されるドバイミーティング。 しかし、世界のホースマンが認める最高レベルのGIはドバイワールドCのみだ。 他のレースはどこの国の馬に勝たれてもいい。 だが、このレースだけは自国の馬、もしくはダートのトップホースがいるアメリカの馬以外には勝たせたくない──。 言葉になることのない施行者サイドの思惑は、実際に現地に赴き、有力馬とされた馬を出走させた私のような人間にしかわからないだろう。 ゆえに「ドバイワールドCを勝った」という事実は、日本で考えられているよりもはるかに価値がある。 このレースの勝利だけで競走馬として成功したと表現してもいいほどだ。 ヴィクトワールピサは皐月賞と有馬記念という国内のGIも2勝している。 特に国内最強と呼ばれていたブエナビスタを負かし、3歳で勝った有馬記念は高く評価していいレースだが、その勝利さえもドバイワールドCのタイトルの前には到底及ばない。 当時の状況は私がアグネスデジタルを遠征させた2002年と違った。 私が遠征した当時の競馬場はナドアルシバで馬場はダート。 ヴィクトワールピサは競馬場が現在も施行されているメイダンで馬場はオールウェザー(現在はダートに変更)だった。 しかも、ナドアルシバはダートが芝の外。 当然ながら、長い直線を走ることになる。 サバイバルレースになりやすいアメリカ競馬で活躍するような馬でなければ、好勝負を演じることができなかった。 必要だったのは世界最高クラスのスピードと世界最高クラスのスタミナ。 一方、芝の内側にオールウェザーのコースがあるメイダンは、器用な脚が使えるようなタイプにもチャンスが出ていたように思う。 もちろん、それがヴィクトワールピサが達成した偉業の評価を下げるものではないし、この勝利の価値は変わらない。 あくまでも背景の話をしたに過ぎないことは理解して欲しい。 連載の論点から少し外れ、長い前置きになってしまったが、ヴィクトワールピサという馬に対する評価はもっと高くてもいいと私は思っている。 次回はヴィクトワールピサが海外遠征で成功した理由を検証していく。 それが種牡馬としての同馬を紐解くポイントにもなってくるからだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)[第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)[第1章]正しい認識が必要(ハービンジャー編)

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    [第3章]ネオユニヴァースの今後(ネオユニヴァース編)

    ・母系を活かす種牡馬 長所を伸ばすための配合がマイナスに作用する場合もある。 それが危惧されたがゆえに、ネオユニヴァースは自身の特徴を活かしきれなかった。 しかし、生産する側の考え方は理解できるところ。 私でも同様の配合パターンを選んだと思う。 ネオユニヴァースのような「柔らか過ぎる繋」は、諸刃の剣となりやすい。 そのような不安材料は取り除いておくべきだし、ネオユニヴァースの血を引く馬であるのなら、硬めの血統と配合するくらいでちょうどいい。 そのように考えるのも当然だろう。 だが、そこに誤算があった。 ネオユニヴァースは自身の特徴をそこまで伝達せず、母系のキャラクターを尊重してしまうタイプの種牡馬だったからだ。 不良馬場のダービーを勝ったロジユニヴァースは明らかなパワータイプ。 ゴールドアリュールの半弟に当たるゴールスキーも、最終的にはダートへと路線を変更していった。 栗毛のネオリアリズムは母父であるメドウレイクの影響を感じる馬。 彼らはどれも前さばきが硬めで、ネオユニヴァースのイメージからかけ離れていた。 自身の繋の柔らかさを産駒にしっかりと伝えるディープインパクトとは、あまりにも対照的と言えるのではないだろうか。 ・特徴を受け継がない産駒の役割 父ネオユニヴァースのイメージが強すぎるため、その産駒は芝の切れで勝負するタイプだろうと我々は想像する。 ゆえにダート色の強い母系を用意されることが多かった。 だが、ネオユニヴァースは自身の特徴をアピールすることなく、自身とは違ったタイプの馬を輩出。 それは生産者サイドの期待した結果ではなかったのかもしれない。 彼らは芝のクラシックを狙うため、ネオユニヴァースという馬を選択したと考えられるからだ。 しかし、私は思う。 ネオユニヴァースの1番の特徴である「柔らか過ぎる繋ぎ」は伝達しきれなかった。 だが、その部分については目をつむってもいいのではないかと。 連載の最初で述べたように、ネオユニヴァースの柔らかい繋が弱点にならずに済んだのは、この繋が生む深いクッションにも耐えられる強靭なバネを持っていたからだ。 その部分を遺伝することができれば、一流と呼べる産駒を生み出せる。 ヴィクトワールピサがそれを証明しているではないか。 少し硬めのスピードタイプを母系に入れ、そちらのほうの血がクローズアップされることで、産駒の距離適性はネオユニヴァース自身よりも短くなってしまう。 ヴィクトワールピサが好例だ。 しかし、馬体に芯の入らない馬を作ってしまうよりも、スピード豊富なミスタープロスペクター系で2000mあたりの距離を得意にする馬を狙う。 この考え方でいいのではないかと私は思う。 ネオユニヴァース産駒は父に似る必要がない。 これが私の最終的な結論だ。 次回からの連載はネオユニヴァースの代表産駒・ヴィクトワールピサを予定している。 この馬に対する私見だけでなく、ネオユニヴァースの産駒は「父に似る必要がない」と言った理由も明らかにしたい。 サンデーサイレンスの名が3代より前へとズレていく時代。 その時代の配合イメージこそが、ネオユニヴァースの未来となるのではないだろうか。 ネオユニヴァース(牡) 2000年5月21日生まれ 千歳産 父サンデーサイレンス 母ポインテッドパス 母父Kris 主な勝ち鞍 日本ダービー(03年) 皐月賞(03年) スプリングS(03年) 大阪杯(04年) きさらぎ賞(03年) 通算成績 13戦7勝(重賞5勝) 芝連対距離(重賞) 1800m~2400m 主な産駒 ヴィクトワールピサ ロジユニヴァース アンライバルド ネオリアリズム など 重賞勝利数(中央) 29勝 産駒の主な勝利レース 日本ダービー 皐月賞 有馬記念 ドバイWC(UAE) クイーンエリザベスII世C(香港) など ※種牡馬成績は2018年2月時点 【過去の連載馬】[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)[第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)[第1章]豊富なスピードが武器(ヘニーヒューズ編)

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    [第2章]ネオユニヴァースは成功した種牡馬なのか(ネオユニヴァース編)

    ・ネオユニヴァースの現状 ネオユニヴァースはサンデーサイレンスの後継種牡馬になれる要素を持っていた馬だ。 生産者の多くもそう考えていただろうし、同馬を種牡馬として迎え入れた社台スタリオンステーションも同様の意見だったと思う。 だが、現在の彼の状況はどうか。 成功したサンデーサイレンス系の種牡馬の1頭。 この事実は疑いようがない。 しかし、彼がサンデーサイレンスの最も優秀な後継種牡馬かと問われれば、その答えには窮してしまう。 ディープインパクトの牙城は高く、ステイゴールドやハーツクライ、ゴールドアリュールのようなダート馬に遅れを取ることも珍しくない。 少なくとも、ネオユニヴァースこそがサンデーサイレンス系の代表と考える人はいないだろうし、実際に現在の彼は社台スタリオンステーションを離れ、レックススタッドへと活躍の場を移している。 それを左遷とまでは言わない。 しかし、社台グループでの役目は、すでに「終えた」と思われても仕方がないだろう。 そうなってしまった最大の理由──。 それはネオユニヴァースの産駒が父に似ていないからではないかと私は考えている。 いや、似た馬を作ることが難しいと表現するほうが適切と言うべきか。 ・ネオユニヴァースの特徴 ネオユニヴァースの最大の特徴は、他のどの馬よりも長くて柔らかい繋にある。 サンデーサイレンスも似たような繋をしており、この部分においてはサンデーサイレンスの特徴を最も受け継いでいた馬と言えるのだが、幸か不幸かネオユニヴァースの繋の柔らかさは、偉大なる父のそれをも凌いでいた。 その繋の長さは「異常」と表現してもいい。 他に例を見ないほどの強靭なバネを持っていたネオユニヴァース自身は、柔らかい繋を武器にすることができた。 しかし、これほどの柔らかい繋を長所と考えることは、実は非常に難しいのだ。 「故障してしまうのではないか」という不安のほうが先に来てしまう。 そして、その感覚こそが生産する側にとって、大きなマイナス材料に見えてしまったのではないだろうか。 ・配合パターンの意味するもの 代表産駒であるヴィクトワールピサの母父はマキャベリアン。 ミスタープロスペクター直仔のスピードタイプだ。 ダービー馬のロジユニヴァースは母父がグリーンデザート産駒のケープクロスで、祖母ソニンクの父がマキャベリアン。 マキャベリアンの存在が2頭の共通点なのだが、この事実こそがネオユニヴァースという馬に対する生産者のイメージを物語るものと私は思う。 弱点にもなるネオユニヴァースの柔らかい繋を、マキャベリアンの硬さで緩和しようとしているのだ。 少し硬さのあるダートのスピード血統を入れるという発想は、同じサンデーサイレンス系のディープインパクトと似ている。 しかし、自身の重厚な血統にスピードを注入する意味合いが強いディープインパクトと違い、ネオユニヴァースは自身と似たタイプとの掛け合わせを避けているように思える。 ネオユニヴァースが強く出てしまっては困る。 そんな意図があるかのように。 ネオユニヴァースに似たタイプの後継種牡馬を作ろうと考えるのなら、トニービンのような細くて柔らかいタイプを入れたほうがいいのだろう。 だが、同時に芯がまるで入らず、それこそ「クニャクニャ」と表現しなければならないような馬が出てくる可能性も高くなってしまう。 それでは困る。 競走馬として使い物にならないのでは本末転倒。 これこそがネオユニヴァースの抱える大きなジレンマだ。 では、その発想からの脱却が必要なのだろうか? 次回の連載では私なりの結論を出し、ネオユニヴァース産駒の未来を想像してみたいと思う。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)[第1章]種牡馬実績はすべてダート(ゴールドアリュール編)

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    [第1章]稀有な能力の持ち主(ネオユニヴァース編)

    ・全兄アグネスプラネットからのイメージ ネオユニヴァースは2003年の皐月賞、日本ダービーを制した二冠馬。 サンデーサイレンスの後継種牡馬としても大いに期待された馬で、ドバイワールドCなどGIを3勝したヴィクトワールピサは彼の代表産駒になる。 他にも皐月賞馬のアンライバルド、ダービー馬のロジユニヴァースなどを輩出。 ディープインパクトほど顕著ではないものの、成功したサンデーサイレンス系の代表的な存在と言っていいだろう。 ネオユニヴァースがクラシック候補として周囲に認識されたのは、重賞初制覇を飾った「きさらぎ賞」ではないかと考えているが、私は彼が競走馬としてデビューする前から、その動向に注目していた。 しかし、それは私に先見の明があったからではなく、彼の母がポインテッドパスで、その父がサンデーサイレンスという血統の馬だったため。 ネオユニヴァースと全く同じ血統を持ったアグネスプラネット。 彼の全兄を管理していたのが私だった。 きさらぎ賞を制したネオユニヴァースのパフォーマンスを見て「やはり出てきたか」。 この血統にはそれだけの可能性があると私は早くから考えていた。 母父がクリス、その先にはシャーペンアップにエタン。 距離が延びていい血統という感覚は最初から持っていた。 ダートにも適応するのではないかと考え、折り返しの新馬戦ではダートに使い、見事に勝たせもしたのだが、ダートを使ったのは新馬戦と次走の500万下との2戦のみ。 適性は芝と早い段階で私は結論を出していた。 それはネオユニヴァースも同様だっただろう。 彼は最初からクラシックを意識した使われ方をされていた。 アグネスプラネットは3勝でキャリアを終えたわけだが、これが彼の能力の限界と私は考えていない。 あまりに気性が激しく、持っている能力を発揮しきれなかった。 ポテンシャルは高いが、この血統は難しい。 それが私の抱いたイメージ。 全弟のネオユニヴァースも気性に問題を抱えるものと当初から考えていたし、実際に激しい気性の馬だったと私は思う。 だが、普段は気難しい馬でも、それがレースで影響しないタイプがいる。 ネオユニヴァースはこのタイプの馬で、これが成功した第一の理由。 しかし、このような馬は珍しくない。 激しい気性が競馬での勝負根性に変わる。 父のサンデーサイレンスはその代表であったし、彼の産駒も似たタイプが多かった。 ゆえにネオユニヴァースが成功した最大の理由は他にあると私は考えている。 それこそが父のネオユニヴァースに似た産駒が少ない根拠になっていくのだが、これについては次回以降に詳しく説明するつもりだ。 ・ネオユニヴァースは本領を発揮できたのか? ネオユニヴァースを管理した瀬戸口調教師は、状態のいいときや勢いがあるときには攻勢を止めず、数多くのレースを使っていくタイプの人だった。 管理馬の代表であるオグリキャップの4歳秋(旧年齢5歳)はその好例。 ネオユニヴァースも3歳春の宝塚記念に出走している。 3歳牡馬の最大目標であるダービーの後にもう1戦。 それを無理使いという声もあるだろうし、3歳秋以降の彼の成績をみれば、この余計な1戦がネオユニヴァースのその後の成績に考えられなくもない。 だが、何が正解で、何が誤りだったのかを知るのは管理した瀬戸口先生だけだ。 確実に言えることは一つ。 ネオユニヴァースは数多くいるサンデーサイレンス直仔の馬の中でも、最高ランクに位置する馬だった。 それは彼の特異な馬体を見れば明らか。 だが、その特異な馬体こそがディープインパクトどころか、他のサンデーサイレンス系の種牡馬よりも勝利数をあげられない理由がになってしまった。 その部分にこそ、ネオユニヴァースという馬の全てがあるのだ。 ・次章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]ステイゴールドの立ち位置とは?(ステイゴールド編)[第1章]ステイゴールドとの相違点(オルフェーヴル編)[第1章]クロフネの持つイメージ(クロフネ編)

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