過去の名馬から海外の競馬事情までを網羅した、読みごたえ十分のオリジナル・コラム!

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    [最終章]「ハーツクライ産駒の新しい活用方法」(ハーツクライ編)

    ・本当に活躍の場は狭いのか? ハーツクライ産駒の値段は、決して安くはない。 しかも、その成長傾向は晩成で、ダートの活躍馬が出ることも少ない。 キングカメハメハの項でも触れたが、ユーティリティーな活躍が出来るということは、種牡馬にとっての大きな強み。 馬主サイドに購入を進める際の大事な要素にもなりえるものだ。 ハーツクライ産駒はクラシックディスタンスに強い。 トニービンから受け継いだ持続力のある末脚は、スタミナを必要とする条件でこそ生きる。 タフなGIレースで強さを見せるのも、ハーツクライの中に眠る豊富なスタミナがあればこそで、彼の産駒を求める声がなくならない理由もここにある。 馬主になられた方にとって、GI制覇は誰にとっても夢のひとつであるからだ。 しかし、その一方で、傑出したスピードを持たないハーツクライの産駒は、勝ち上がることさえも難しくなる場合が少なくない。 芝の短い距離は使えず、ダートに矛先を向けることもできない。 まさに八方塞がりの状態。 このような可能性のある馬をオーナーに薦めることは、私にとって難題に近い。 だが、ハーツクライ産駒の購入を薦めたいと思う場合もある。 その理由をひと言で表すなら、「適材適所」という言葉になるだろうか。 晩成の長距離血統がネックにならない状況であれば、秘める能力は間違いのない種牡馬。 当然ながら、購入の対象になってくるというわけだ。 ・開拓すべき場所 では、その状況とは? 産駒の配合を考える生産者が増えたことは、すでに述べた。 早い時期から活躍する馬も出てきてはいる。 しかし、ハーツクライの本質を最大限に生かすのならば──。 その舞台は海外なのではないだろうか? グレードレースを勝つようなレベルの馬による短期の遠征話をしているのではない。 むしろ、私がしているのはその逆の話だ。 現在、JRAで勝てなかった馬の行く先は、地方競馬がほとんどになっているが、その選択肢に海外を加えてもいい。 いや、加えるべきだと思う。 その理由を、これから述べよう。 アメリカ、オーストラリアの種牡馬に求められている条件はスピードと早熟性。 これに尽きると言っていい。 特にオーストラリアは、メルボルンCという3200mの国民的なビッグレースがありながら、生産界は答えの早く出る短距離血統に比重を置いてきた。 なぜか? 総賞金額が350万豪ドル(約2億9000万円)で、2歳戦としては世界最高金額のゴールデンスリッパーS。 芝1200mで行われるレースの存在が、オーストラリアの生産者から長距離血統に対する興味を奪ってしまったと私は考える。 開花するかどうかも分からない晩成血統よりも、早熟なスピード血統のほうが結果が出るのが早く、相馬の点でも判断しやすい。 ギャンブルをする必要性など、どこにもなかったのだ。 ニーズはあるのに、それに対する供給がない。 そんな彼らの目を向けた先が日本の生産界だ。 調教師の時代から、頻繁にオーストラリアへと私は顔を出してきた。 だからだろうか? 旧知にしているオーストラリアのエージェントの方が、私にこう言う。 「長い距離の未勝利を走り、少しはいいところがあったのに、勝ちきれなかった馬はいませんか? JRAの登録を抹消して、地方競馬に行くのであれば、これくらいの値段で私たちが買いますよ」 1着がサンデーサイレンス直子のダンスインザダーク産駒だったデルタブルース、2着ポップロックの母もサンデーサイレンス産駒のポップス。 サンデーサイレンスの血を持つ2頭の日本馬が、ワンツーを決めた2006年のメルボルンCがターニングポイントだったように感じる。 それに続いたのが、2014年のコーフィールドCを58キロの重い斤量で勝ったハーツクライ産駒のアドマイヤラクティだった。 同じハーツクライ産駒のジャスタウェイが、ドバイで強い勝ち方をしていた。 当然ながら、彼らはそれも知っている。 スタミナを豊富に持ちながら、GIレベルのスピード勝負にも対応できる種牡馬は世界的に少ない。 彼らにとってハーツクライは、自身のニーズに最も合う魅力的な種牡馬と言えるのだ。 ・未勝利馬へのニーズ 先ほども述べたように、ハーツクライの産駒は総じて安くない。 セレクトセールのような大きなセールでなら、その値段が億に迫ることも少なくない。 メルボルンCを狙う馬を求めているオーナーがいた場合、私もハーツクライの産駒を勧めてみたいとは思う。 しかし、その時点では値段の折り合いがつかないはずだ。 だが、未勝利を勝てずに終わる産駒は、すでにGIレベルの活躍を期待すること自体が難しくなっているだろう。 未勝利の立場では、適性のある番組に出走することさえもできない。 ダートが合わないことはデータが証明済みだ。 地方への転厩で、結果を残せるかどうかもわからない。 しかし、オーストラリアでなら…。 ハーツクライの産駒は総じて晩成だ。 3歳で勝ち上がれなくても、4歳以上になって実が入る可能性は小さくない。 加えて、メルボルンCはハンデ戦。 長距離適性で勝つことも十分にあるレースだ。 まさに適材適所の移籍ではないか。 このような可能性を見つけ、そこに隠れた逸材を送り込む仕事も面白いだろうな、と個人的には思う。 ハーツクライという種牡馬は、新しいビジネスの形さえも提示してくれる貴重な存在と言えるかもしれない。 ハーツクライ(牡) 2001年4月15日生まれ 千歳産 父サンデーサイレンス 母アイリッシュダンス 母父トニービン 主な産駒 アドマイヤラクティ ジャスタウェイ ヌーヴォレコルト ワンアンドオンリー など 重賞勝利数(中央) 36勝 主な勝利レース コーフィールドカップ(豪) ドバイデューティフリー(UAE) レッドカーペットハンデキャップ(米) 日本ダービー オークス 天皇賞(秋) 安田記念 など 主な母父成績 シーズララバイ など ※種牡馬成績は2017年6月時点 【過去の連載馬】[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)[第1章]ボーラーとの出会い(メイショウボーラー編)[第1章]「血を追い求めて」(ダンスパートナー編)

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    [第1章]「晩成タイプの馬」(ハーツクライ編)

    ・古馬になってからが勝負 芝の長距離を得意とする晩成タイプの種牡馬──。 多くのファンが抱いているハーツクライのイメージは、おそらくこれだろう。 私もそうだし、それが正解であることは、すでに産駒が残してきた数字で、明らかになってもいる。 そして、多くの関係者がその事実を受け入れているが、これは驚くべきことだ。 考えてみてほしい。 すぐにでも結果を求められる現在において、長距離血統で晩成タイプの馬は、それだけで大きなビハインドを背負っているはずなのだ。 種牡馬としてプラスと思えないイメージが浸透しているにも関わらず、種牡馬として成功しているハーツクライ。 その背景にあるのは、彼の傑出した能力。 その傑出した能力を産駒に伝える力を持っていたことが、ハーツクライが成功した大きな理由だろう。 ハーツクライの代表産駒と言えば、ドバイデューティフリーを勝ったジャスタウェイの名が最初に挙がる。 4歳秋に本格化して天皇賞(秋)を制覇。 明けた5歳春には、世界に進出して見事に勝ち星をマークした。 父の蹄跡をなぞるような活躍を見せたジャスタウェイは、ハーツクライ産駒のあるべき姿を示した馬と言えるのではないだろうか。 だからこそ、改めて考えたい。 種牡馬・ハーツクライに対する正しい認識を。 ハーツクライはキングカメハメハのような、ユーティリティーな種牡馬では決してない。 ハイリスク、ハイリターンの種牡馬なのだ。 ・ハーツクライの本質。 アグネスシラヌイという1頭の競走馬の話をさせてほしい。 父がサンデーサイレンス、母にアイリッシュダンス。 ハーツクライの3つ上の全兄を管理していたのは、他ならぬ私だった。 ハーツクライほどの活躍を見せたわけではないが、アグネスシラヌイも現役時代に6勝をマークし、獲得賞金も1億を超えていた。 セリでの購入金額があまりにも高かったため、大成功とまでは言えないかもしれないが、まずまずの活躍はしてくれたと言っていいのではないだろうか。 そして、この馬も晩成傾向の強い馬だった。 若い頃は体質が弱く、なによりも気性の激しさがネックになった。 しかし、年齢を重ね、精神的に成長してくると、馬体のシルエットも変わってくる。 父のサンデーサイレンスではなく、母アイリッシュダンスの影響を色濃く受けた成長過程。 その父であるトニービンの影響と考えるほうが、イメージはしやすいと思う。 トニービンの話をするとき、私は常にこう言っている。 「トニービンの若駒は判断が難しい」 少し華奢なところがあり、見た目は鹿のように細い。 「これで大丈夫なのだろうか」 そんな思いで見送った馬の1頭に、ウイニングチケットがいることは過去に述べた。 私はこの血統のジャッジを、実は苦手にしているのだ。 しかし、トニービンの影響を強く受けてはいるが、その父はサンデーサイレンス。 ハーツクライを配合した場合、トニービン自身の位置は3代前にまで、進んでしまうことになる。 ゆえに、その影響を必要な範囲に留めることは可能なはずだ。 母系を考えて配合すれば、しっかりとした馬体を持つ馬を作り出せるということだ。 最近のハーツクライ産駒は、早い段階から勝ち上がる馬が増えている。 彼が種牡馬として頭角を現したときとは、明らかに違う現象。 生産者サイドが、ハーツクライの活用方法を理解してきた証しではないかと私は思う。 ダートで活躍馬をほとんど出せなかったのに、あれだけの活躍をした父のトニービン。 ハーツクライの産駒成績は、それに通じるものがある。 それほどの傑出した何かを、この2頭は持っている。 次回は限られたフィールドで活躍する産駒の今後の方向性を私なりの視点で話してみたい。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]トニービンの印象(トニービン編)[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)[第1章]ボーラーとの出会い(メイショウボーラー編)

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    [最終章]「二刀流」(キングカメハメハ編)

    ・投資に見合う種牡馬 リーディングサイアーのライバルであるディープインパクトと比較すれば、多少の割安感はあるが、キングカメハメハの産駒は決して安くない。 当然ながら、オーナーはクラシック制覇を意識しての購入になるのだろうし、生産した牧場、管理する調教師も同様の気持ちを持つだろう。 しかし、キングカメハメハとディープインパクトを筆頭としたサンデーサイレンス系とでは、その特徴は大きく違い、クラシック以降の汎用性も異なる。 競走馬を購入する際に最も重要なのは、相応の値段であるかどうか。 つまりは商売として成り立っているかどうかだ。 その観点から見た場合、ディープインパクトはあまりにギャンブル性の高い種牡馬と言えるかもしれない。 多くの当たりはあるが、クジの値段は法外に高い。 しかも、クジに外れた場合の“逃げ道”がディープインパクトにはないのだから。 当たり前のことだが、競走馬を所有するのであれば、まずはクラシックを目指したい。 これは多くのオーナーに共通したものだろう。 そして、その願いを託すに値する結果を、種牡馬としてのキングカメハメハは残している。 だが、クラシックを狙うような馬を手にする機会は、それほど多くはない。 そのほとんどは夢半ばでクラシックの道をあきらめ、現実的な路線を進んでいくことになる。 つまりは初期投資の回収、ないしは現役時代に必要となる費用の回収。 その際にキングカメハメハの汎用性が大きな武器となるのだ。 ・ダートに転じてもOK キングカメハメハはクラシックを目指すような種牡馬でありながらダートでの勝ち鞍が非常に多い。これは稀なことだ。 芝に偏った実績を残すディープインパクトとの大きな違いと言えるだろう。 (※2017年4月現在、ダート戦の勝利数。ディープインパクト産駒129勝。キングカメハメハ産駒681勝) 要するにキングカメハメハという馬は、「芝がダメでもダート」という逃げ道を持つ種牡馬。 しかも、ダートに転じた際のパフォーマンスレベルが非常に高く、適性も豊富な競走番組があるマイル前後。 ゆえに多くの選択肢を手にすることができる。これも強みだ。 走ってみないとわからないのが競走馬。 それを早い段階で見抜き、答えを出すのは私たちの仕事だが、百発百中というわけにはいかない。 芝での活躍を期待した馬であっても、走らせてみたらダートだった──。 そのような馬は少なくないのだ。 キングカメハメハが父ならば、その切り替えが容易。 最初からオールアラウンドに構えているので、オーナーにも路線の変更を提案しやすい。 ディープインパクトと違い、キングカメハメハには保険があると言えばわかりやすいだろうか。 昔はデータもなく、感覚でやっていた部分があった。 しかし、現在は膨大なデータを簡単に集約し、明確な数字をオーナーに提示することができる。 正直、便利な時代が来たものだと思う。 ・キングカメハメハの今後 キングカメハメハが種牡馬として成功できた1番の理由は、その血統構成によるところが大きい。 サンデーサイレンスの血を体内に持たない──。 これが大きかった。 ノーザンダンサー系が大流行し、日本でもノーザンテーストの肌に合う種牡馬が求められた時代が過去にあった。 サンデーサイレンス系が全盛の時代の到来により、当時と同様のことが現在も起きているが、キングカメハメハ以上にサンデーサイレンス系と相性のいい種牡馬は、未だに登場していないと私は考えている。 サンデーサイレンス系の繁殖が増え続ける限り、キングカメハメハを求める声は決して小さくならないだろう。 キングカメハメハ(牡) 2001年3月20日生まれ 早来産 父Kingmambo 母マンファス 母父ラストタイクーン 主な産駒 アパパネ ドゥラメンテ ベルシャザール ホッコータルマエ ラブリーデイ リオンディーズ レイデオロ レッツゴードンキ ローズキングダム ロードカナロア など 重賞勝利数(中央) 95勝 主な勝利レース 日本ダービー 皐月賞 桜花賞 オークス 秋華賞 天皇賞(秋) ジャパンC 宝塚記念 安田記念 ヴィクトリアマイル スプリンターズS 高松宮記念 ジャパンCダート チャンピオンズC 朝日杯FS 阪神JF など 主な母父成績 デニムアンドルビー モズカッチャン タガノエスプレッソ など ※種牡馬成績は2017年5月時点 【過去の連載馬】[第1章]現役種牡馬の最高峰に挑む(ディープインパクト編)[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)[第1章]ボーラーとの出会い(メイショウボーラー編)

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    [第2章]「配合の基本理念」(キングカメハメハ編)

    ・すべてのカギはサンデーサイレンス 配合には2つのパターンがある。 1つはスピードにスピードを掛け合わせる形。 同じ長所を重ね合い、単純な能力の底上げを狙うパターンだ。 例えば、キングカメハメハの父キングマンボは、ヌレイエフの肌にミスタープロスペクターを掛け合わせているが、これはスピード×スピードの配合になる。 特にアメリカでよく見るパターンだ。 もう1つは異なる特性を持つもの同士を掛け合わせ、弱点を消していくパターン。 長距離血統に短距離血統という掛け合わせをし、それを何度も重ねていく。 これが配合の古典的、かつ基本のパターン。 しかし、この配合理論は、適性距離だけに関して語るべきものではない。 サンデーサイレンスの項でも、ディープインパクトの項でも触れたが、サンデーサイレンスの系統の馬は、本質的に高いスピード能力を持っている。 しかし、そのスピードは“軽い”と表現すべきもので、例えば、道悪のような力のいる馬場では、能力が半減してしまう。 テンから速いペースで飛ばし、サバイバル戦のような形になる競馬を、得意としない馬も少なくない。 そこで必要とされたのが、ミスタープロスペクター系らしい力任せのスピードを持つキングカメハメハだ。 マークしていたハイアーゲームの追撃を許さず、完全な早仕掛けの競馬でも押し切ってしまったダービーは、生産者の求める種牡馬であることを証明したレース。 彼ならば、サンデーサイレンス系が苦手とする分野を補完することができる──。 だからこそ、この1戦を私は凄いレースと表現した。 そして、この1戦こそが、キングカメハメハの適性を探るカギにもなっている。 ・キングカメハメハの本質とは? キングカメハメハの本質を競馬ファンの方は、どう感じているのだろうか? ドゥラメンテのようなダービー馬を輩出したかと思えば、ロードカナロアのような傑出したスプリンターも出した。 三冠を獲得したアパパネのように、その適性距離を越えて活躍した馬もいる。 ゆえにキングカメハメハ産駒を購入する方々の最初の思いは、おそらくこうだろう。 「この馬でGI制覇を」と。 例えば、多くの方が夢を見る3歳クラシックの優勝。 キングカメハメハの産駒なら、その可能性を探ることができるはず。 これが一般的な認識で、おそらくは間違っていないと私も思う。 それに対して、ケチをつけるつもりもない。 しかし、競走馬としてデビューするほとんどの馬は、頂点であるGIの舞台に立てず、自身の適性条件を模索して、走るべき番組を選んでいく。 その事実に立ち返った時、この馬の持つ本質的な部分は、とても重要なものになってくるのだ。 ディープインパクトのライバルとして認識されているキングカメハメハ。 仮に競走馬を持ちたいと考えるオーナーが現われ、私に助言を求めてきたとするならば──。 私はディープインパクトではなく、キングカメハメハ産駒を薦めるだろう。 その理由とは? 私が考える、キングカメハメハ産駒との付き合い方を、次回は話してみたい。 ・キングカメハメハ編の最終章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]「神に選ばれた馬」(ラムタラ編)[第1章]現役種牡馬の最高峰に挑む(ディープインパクト編)[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)

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    [第1章]「キングカメハメハの本質を探る」(キングカメハメハ編)

    ・浅いキャリア ディープインパクトの特徴が“しなやか”であるならば、キングカメハメハのそれは“パワフル”と表現すべきだろうか。 競走馬としてのキャリアは短く、それも3歳春に急成長し、NHKマイルCと日本ダービーを立て続けに勝利。 能力の高さは誰もが認識していると思うが、3歳秋初戦の神戸新聞杯制覇を最後にスタッドインしてしまった。 適性距離はどこなのか? 芝だけでなく、ダートの走りも問題なかったのか? 種牡馬として成功するために、最も重要なのは血統だが、現役時代のパフォーマンスを深く知ることも、同じくらいに重要なこと。 そこに適性を探るカギが、隠されているからだ。 何度も言うが、サンデーサイレンスの成功を予見できたのも、現役時代の同馬を見ていたからにほかならない。 ダートを走っていたサンデーサイレンスの姿に「芝でこその馬」と確信を持てなければ、あれほどの執着を持つことはなかった。 調教師に必要なのは「先見の明」だが、本質を見る目を持っていなければ、先を見ることなど、できるはずもない。 競走馬で仕事をするうえの基盤となる部分だ。 キングカメハメハという種牡馬に対する私なりの認識は持っている。 しかし、彼の本質をすべて見抜いているのか? そう問われれば、自信を持って頷くことは難しい。 ゆえに今回、キングカメハメハが制した2004年のダービーを改めて見直してみたのは、私の認識が間違いでないことを確認するためだった。 なぜ、彼は生産界に求められているのか? その事実を、改めて理解できた気がする。 ・ダービーに示されていた本質 キングカメハメハのダービーは、ひと言で言えば、凄いレースだった。 1000m通過が57秒6のハイペースにもかかわらず、キングカメハメハは4コーナーでほぼ先頭。これに付き合う形で、マークしていたハイアーゲームが迫ってくる。 力任せで押し切ろうとするキングカメハメハに対し、サンデーサイレンスの切れで対抗しようとするハイアーゲーム──。 私は思う。 この2頭が見せたパフォーマンスの違いこそが、キングカメハメハが生産界に求められた理由ではないかと。 勝ち時計の2分23秒3はダービーレコード。 肉を切らせて骨を断つ競馬をしたキングカメハメハは、サンデーサイレンス系が持たないパワーを存分に見せつけた。 キングカメハメハの土俵で戦ったハイアーゲームは、ゴールまで脚が持たずに3着。 後方で脚を溜める競馬に徹していたハーツクライに、最後は遅れを取る形だった。 こんな声もあるかもしれない。 ハーツクライのほうが単純に能力上位だっただけ。 しかし、このレースにおいて、ハーツクライとハイアーゲームのどちらが先着したのかは問題ではない。 私がここで言いたいのは、そんなことではない。 どちらの馬がサンデーサイレンスの土俵で競馬をし、どちらがそうでなかったのか? それを認識したうえで、この1戦を見てほしい。 それこそが、サンデーサイレンス系の繁殖牝馬が欲していたものなのだ。 ・キングカメハメハ編の第2章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]「ブライアンズタイムの魅力」(ブライアンズタイム編)[第1章]「神に選ばれた馬」(ラムタラ編)[第1章]現役種牡馬の最高峰に挑む(ディープインパクト編)

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    [最終章]「ディープインパクト産駒の可能性」(ディープインパクト編)

    ・配合の概念を変えた ディープインパクトのニックスの相手として知られるストームキャットとフレンチデピュティ。 彼らはスピード系統の種牡馬だが、現役最強の声も上がるサトノダイヤモンドの母系もスプリンター。 その血統背景を理由に菊花賞で評価を下げてしまったファンも少なくないと思うが、実は私もその一人だ。 ディープインパクトの全兄ブラックタイド。 彼はキタサンブラックという名馬を輩出したが、この馬の取捨にも私は悩まされ続けた。 父がサクラバクシンオー。 この血統で3000mをこなせるはずがないと考えていたのだが…。 結果はご存知の通り。 いくつかのレースで恥ずかしい思いをしてしまった。 あの馬の出現以降、私は自分の考えを改めている。 結果を残しているディープインパクト産駒の配合パターンが、同じ血統を持つブラックタイド産駒のキタサンブラックにも応用可能だった。 そのことに気付いたからだ。 同じ血統構成であるブラックタイドもディープインパクト同様にステイヤーとしての資質を、その体内に宿している。 サクラバクシンオーを掛け合わせることで、配合の定石であるスピード+スタミナが成立。 加えてサンデーサイレンスの特徴だった“しなやかさ”も有した馬が誕生したわけだ。 ディープインパクトと同じサンデーサイレンス産駒だったブラックタイドは、決しておとなしい馬ではなかったはずだ。 なのに、その産駒であるキタサンブラックのパドックは、他の馬とは一線を画すほどに集中していて、すごくおとなしい。 サクラバクシンオーとの掛け合わせなら、もっと前向きな性格の馬が出ても不思議でないはずだが…。 ニックスとの表現でも足りないほどの不思議な感覚を、私はキタサンブラックに感じる。 彼はサクラバクシンオーにも通じる頭の高い走法で、スピードに寄ったイメージを醸し出している。 それでも、3000m以上の距離に対応してしまった。 サンデーサイレンス系とひと括りに扱えないものを、ディープインパクトとブラックタイドの兄弟は持っているのではないか。 両馬の中に眠るハイクレアの血が、それを演出しているのかもしれない。 ・クラシックに強い理由 ディープインパクト産駒の成績は芝の中距離が圧倒的だ。 しかも、3歳の早い段階で完成する。 なぜ? ディープインパクトを種付けした生産者の思いが、私には透けて見える。 何度も言うが、ディープインパクトの種付け料は高額。 ゆえに早く結果を出し、早く楽になりたいのだ。 ディープインパクト産駒には、マカヒキのような1月生まれの馬が少なくない。 早い段階で種付けをし、他のどの馬よりも先に完成させたい。 そこには「クラシックに間に合うような使い方をしてほしい」という生産者の意図があるのだ。 ダービーを頂点にした3歳の番組を頭に入れれば、スプリント戦を使い続けることに意味は見出せない。 ディープインパクトの仔がスプリント戦で結果を残していないのは、生産段階からクラシックを意識し、そこで結果を出してしまうため。 決してスピードが不足しているからではないという認識は、持っておいたほうがいい。 むしろ、ステイヤーとして扱ってきたディープインパクトが持っている本質的なスピードは、他の種牡馬と比較しても、なんら見劣りはしないものだろう。 それでも、スピードを母系に持たない配合の産駒を狙うのはリスキーと言っておきたい。 ディープインパクトの相手を務める繁殖牝馬は、総じてレベルが高い。 だからこそ、相性のいい配合パターンは高い確率で成功する。 購入者がディープインパクトに求めているのは、GI勝利という高い目標。 スタミナ×スピードという定義が完成しつつある現在、次代のクラシック候補を探す作業は、以前よりも難しくなくなっているのではないだろうか。 ディープインパクト(牡) 2002年3月25日生まれ 早来産 父サンデーサイレンス 母ウインドインハーヘア 母父Alzao 主な産駒 アユサン アルアイン ヴィブロス ヴィルシーナ キズナ サトノアレス サトノダイヤモンド ジェンティルドンナ ショウナンアデラ ショウナンパンドラ ジョワドヴィーヴル シンハライト スピルバーグ ダノンシャーク ダノンプラチナ ディープブリランテ ディーマジェスティ トーセンラー ハープスター マカヒキ マリアライト マルセリーナ ミッキーアイル ミッキークイーン ラキシス リアルインパクト レッドキングダム など 重賞勝利数(中央) 147勝 主な勝利レース 日本ダービー 皐月賞 菊花賞 桜花賞 オークス 秋華賞 天皇賞(秋) 有馬記念 ジャパンC 宝塚記念 安田記念 マイルCS ヴィクトリアマイル エリザベス女王杯 NHKマイルC 朝日杯FS 阪神JF など 主な母父成績 キセキ ヴァナヘイム など ※種牡馬成績は2017年5月時点 【過去の連載馬】[第1章]「トニービンの印象」(トニービン編)[第1章]「ブライアンズタイムの魅力」(ブライアンズタイム編)[第1章]「神に選ばれた馬」(ラムタラ編)

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    [第5章]「ニックスが生む不思議」(ディープインパクト編)

    ・母父ストームキャットについて 日本ダービーを制したキズナを筆頭に、ラキシスとサトノアラジンの姉弟、桜花賞を制したアユサンの母父もストームキャットだ。 彼はディープインパクトのニックスとして、現在ではその名を広く知られている。 だが、ストームキャットという種牡馬のみについて、改めて考えてみてほしい。 彼が芝の中・長距離をこなすというイメージを持てるだろうか? おそらくは無理だろう。 ストームバード×セクレタリアトという血統背景の同馬は、長らく短距離系の種牡馬として認識されていた。 私が管理し、フェブラリーSを勝ったメイショウボーラーもストームキャットの血を持つ馬だ。 ストームキャットの血を体内に持つ馬は、そのほとんどが気性の激しい馬になる。 母父がストームキャットのメイショウボーラーも激しい気性の持ち主で、それは年齢を経るごとにきつくなっていった。 その血統がスピードに寄ったものであることは否定しない。 しかし、あまりにも激しい気性により、レース前に体力を消耗してしまう。 それこそが、距離に限界を作ってしまう理由のひとつでもあったのだ。 長距離馬に短距離馬を掛け合わせていく。 これは定石とも言える配合のパターン。 今回で言えば、豊富なスピードを持つストームキャットに、本質はステイヤーであるディープインパクトのスタミナを加える。 もちろん、ディープインパクトがステイヤーであるという認識があってこそ成立する配合だが、その考えに間違いがないのは、前回までの考察で、理解していただいていると思う。 だが、このニックスには理屈で説明できない点がひとつある。 サンデーサイレンス系の気性の激しさは誰もが知るところ。 言わば、ディープインパクトとストームキャットという配合は、燃えすぎる系統同士の掛け合わせになる。 同じネガティブ要素を抱えているはずの配合。 なのに、クラシックディスタンスで戦えてしまう馬が登場する。 なぜ、レース前に燃え過ぎてしまう馬が出てこないのか? それが本当に不思議でならないが、説明がつかないからこそ“ニックス”という表現が使われているのだろうか。 掛け合わせの妙味とでも言えばいいのだろうか。 フレンチデピュティはストームキャットよりも距離のレンジが広く、ダートでも勝負できるパワーを備えている。 同馬を母父に持つディープインパクト産駒は、他の馬よりマッチョに出ることが多いが、これはフレンチデピュティの遺伝力の強さが影響していると思われる。 昨年のダービーを勝ったマカヒキもディープインパクト産駒にしてはパワータイプの馬体。 しかし、彼のような馬体を持つ馬であっても、力のいる馬場になった京都記念では3着。 結果を残せなかった。 外見はフレンチデピュティでも、その内面はディープインパクト。 その考えが正しいのかどうかは、これまで以上に増えているこの配合の産駒たちが、証明していくことになるだろう。 ・第6章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]「サンデーサイレンスの本質」(サンデーサイレンス編)[第1章]「トニービンの印象」(トニービン編)[第1章]「ブライアンズタイムの魅力」(ブライアンズタイム編)

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    [第4章]ディープインパクトの血統を考える(ディープインパクト編)

    ・強さの秘密は母系 ディープインパクトは規格外の馬だ。 しかし、彼は突然変異のように生まれた存在ではない。 同じアイドルホースでも、血統的なバックボーンが乏しかったオグリキャップとは違う。 その体内には、後世に残すべき優秀な血が流れているのだ。 父のサンデーサイレンスについて、改めて語る必要はないだろう。 母ウインドインハーヘアはブラックタイド、オンファイアなど、ディープインパクト以外にも能力の高い馬を輩出した、非常に優秀な繁殖牝馬。 血統表を改めてチェックすればすぐにわかることだが、あまりにも多くの活躍馬が、この牝系から出現している。 要するにディープインパクトを産んだウインドインハーヘアだけでなく、この血統そのものが優秀なのだ。 ディープインパクトから数えて3代前。 母の母の母という位置にハイクレアという牝馬がいる。 キングジョージで名牝ダリアの2着という結果を残した彼女は、エリザベス女王の所有馬としても知られていた。 これは私の私見なのだが、女王陛下が所有されているような馬は、血統にほぼ間違いがない。 遠い昔から根付き、幾多の血統から選ばれた血を持つ馬のみが、エリザベス女王の所有馬となることを許される。 1971年に生まれたハイクレアも同様。 選ばれた血を持つ彼女の存在こそが、この系統の繁栄をもたらしたと考えていいだろう。 マイル系の種牡馬と認識しているのが母父アルザオ。 父にリファールを持つ同馬が、ディープインパクトの母系に眠るスピードの要因かもしれない。 しかし、サンデーサイレンス×アルザオという掛け合わせを持って、ディープインパクトをマイラーと認識するのは間違いだ。 ハイクレアから受け継がれた豊富なスタミナこそが、ディープインパクトの強さの根源となっているのだから。 ・ニックスの重要性 ディープインパクトには、常識的にはありえない配合で、距離をこなすパターンが存在する。 いわゆるニックスだ。 私がニックスを意識した最初の配合パターンがプリメロにソロナウェー。 この掛け合わせをした馬に“ハズレ”はほとんどなく、それを知った私は単なる種牡馬、繁殖牝馬の能力や血統的なバックボーンだけでなく、系統の相性を重視してきた。 ニックスを競走馬選定の大きな要因にしてきたのだ。 アメリカの馬の血統表を見ると、ミスタープロスペクターにエーピーインディの掛け合わせを持つ馬が多くいるが、これもニックスのひとつ。 ミスタープロスペクターのインブリードが当たり前になった近年では、同時にエーピーインディのインブリードも成立している馬が少なくない。 多重ニックスと表現すればいいのだろうか? 外国産馬の面白いところは、このようなチャレンジが多く見られるところだ。 ディープインパクトのニックスとして、最も有名なのはストームキャット。次がフレンチデピュティだろう。 なぜ、これらの馬たちが、ディープインパクトのニックスの相手として成功するのか? 次回はそのあたりを考察してみたい。 ・第5章はコチラ 【過去の連載馬】[第1章]「スペシャルウィークが名馬である理由」(スペシャルウィーク編)[第1章]「サンデーサイレンスの本質」(サンデーサイレンス編)[第1章]「トニービンの印象」(トニービン編)

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