過去の名馬から海外の競馬事情までを網羅した、読みごたえ十分のオリジナル・コラム!

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    [第1章]すべてのキーはサンデーサイレンスに(ルーラーシップ編)

    ・サンデーサイレンスの血を持たない馬 サンデーサイレンスが登場して以降、日本の生産界はサンデーサイレンス、もしくは彼の後継種牡馬との相性を常に意識してきた。 すでに多くのトップサイアーを抱え、毎年のようにサンデーサイレンス系のスターホースをスタッドインさせている社台グループが、輸入種牡馬の導入に積極的な姿勢を見せているのも、サンデーサイレンス肌の繁殖牝馬に合う馬を探しているため。 サンデーサイレンスの血で飽和状態になりつつある現在の生産界にとって、それは彼の後継種牡馬を作ることよりも重要で、かつ難しいミッションとなっている。 ルーラーシップは能力の高い馬だったが、ディープインパクトやオルフェーヴルのように、突き抜けた強さがあったわけではない。 活躍の度合いだけでいえば、同世代で同厩舎のヴィクトワールピサのほうが明らかに上だろう。 にもかかわらず、生産界ではルーラーシップのほうが重宝されている。 その理由は簡単明瞭。 彼がサンデーサイレンスの血を体内に持っていないからだ。 繰り返し述べてきたことだが、一時代を築く大種牡馬は、自身の特徴のみを伝えるのではなく、配合される相手の長所も引き出す能力が要求される。 様々な系統と配合され、結果を残し続けたサンデーサイレンス。 彼はその代名詞のような存在だが、そんなサンデーサイレンスにも相性のいい系統はあったように思う。 私が管理した馬で言えば、ダンスパートナーの母父はニジンスキー。 スペシャルウィークの母父はニジンスキー産駒のマルゼンスキー。 一時代前の主流がノーザンダンサーだったこともあるが、サンデーサイレンスの隆盛はノーザンダンサー系との相性が良かったことも大きいのではないだろうか。 すでにサンデーサイレンスが父の名から消え、二代前、三代前へと血統表でのポジションを移している現在では、前述したようなサンデーサイレンス肌の繁殖牝馬との相性が重要なものとなった。 キングカメハメハに代表されるミスタープロスペクター系は、その代表として考えていいだろう。 だが、今後はさらなるプラスアルファの強調材料が必要。 その部分こそが、キングカメハメハの後継種牡馬とされる馬たちのセールスポイントになってくると考えるべきなのだ。 ・トニービンのニックス その前にルーラーシップの母であるエアグルーヴについて、少しだけ話をさせてもらいたい。 彼女は歴史に残る名牝で、スペシャルウィークと対戦したこともある馬だ。 懇意にさせていただいた伊藤雄二調教師の管理されていた馬ということもあり、デビュー当初から注目もしていた。 トニービンの産駒であったことが、他の馬以上に興味を持った理由だったかもしれない。 過去の連載で話をさせてもらったと思うが、私はエアグルーヴの父であるトニービンにいい印象を持っていなかった。 あまりにも薄く出る産駒に可能性を感じなかったことが理由で、のちのダービー馬ウイニングチケットを出産直後に見る機会を貰いながら、手を出せなかった経緯もある。 しかし、トニービンは結果を残した。 その理由のひとつとして、ノーザンダンサー系との相性が良かったことがあるのではないだろうか。 サンデーサイレンスと同じだ。 エアグルーヴ、ウイニングチケットの2頭は、ともにノーザンダンサー系の血を母系に持っていた馬。 このマッチングが生み出す可能性に、もっと注目すべきだったのかもしれない。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]ブライアンズタイムの魅力(ブライアンズタイム編)[第1章]神に選ばれた馬(ラムタラ編)[第1章]現役種牡馬の最高峰に挑む(ディープインパクト編)

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    [第2章]サンデーサイレンス系の活かし方(グラスワンダー編)

    ・優秀な後継を輩出 先日、北海道で牧場を回っている最中で、グラスワンダーと再会を果たすことができた。 「現役時代はようイジメてくれたな」 そんな冗談を言いながら、鼻面を撫でていたのだが、あの光り輝いていた馬体ではなく、筋肉も落ちて、すっかり「老馬」の佇まいになっていた。 スペシャルウィークとの激闘は1999年。 長い年月が経過したことを思い知らされた次第だ。 種牡馬として目立つような活躍がなかったように感じるグラスワンダーだが、優秀な後継種牡馬を残したという意味で、スペシャルウィークやエルコンドルパサーよりも成功した馬と言えるだろう。 彼の代表産駒と言えば、宝塚記念を制したアーネストリー。 彼がスタッドインしてからのしばらくは、そう思っていた方が多いと思うが、実際に彼の後継種牡馬となったのはスクリーンヒーロー。 この孝行息子がモーリスという名馬を輩出したことで、グラスワンダーの父系は少なくとも3代までは伸びることになった。 次の世代に繋げていくことも難しい種牡馬の世界において、父系を伸ばしている事実は素直に凄いと感心する。 トウカイテイオーを輩出したシンボリルドルフの父系は途絶え、天皇賞(春)の三代制覇を果たしたメジロマックイーンも後継種牡馬を生み出すことができなかった。 この事実だけを見ても、グラスワンダーという馬が特別な存在だったことがわかってもらえるだろう。 だが、スクリーンヒーローの成功はグラスワンダーの力だけでなく、その母系の影響の方が実際は強いと私は考えている。 名牝ダイナアクトレスの存在が大きいのはもちろんだ。 しかし、スクリーンヒーローの産駒成績が偏ったものにならないのは、柔軟性に富むサンデーサイレンスが母父のポジションにいるからこそ。 そして、この事実こそがスクリーンヒーローの強みになっている。 ・サンデーサイレンスとのマッチングが重要 現在、サンデーサイレンス系も牝馬と繁殖するために、日本の生産界は多くの輸入種牡馬を入れている。 キングカメハメハに代表されるような非サンデーサイレンス系の種牡馬が重宝されるのも、サンデーサイレンスが偉大過ぎたためだ。 しかし、サンデーサイレンスの血が入っていなければ、どんな馬でもいいというわけではない。 確かな能力を持っていることは大前提だが、できることなら、もう一つ。 サンデーサイレンス系との配合で、何かしらのプラスアルファを生み出すことができる要素が欲しいのだ。 シルヴァーホークを父に持つグラスワンダーは、サンデーサイレンスと同じヘイルトゥリーズン系の馬。 ゆえにサンデーサイレンス系と配合すれば、ヘイルトゥリーズンのインブリードが生まれることになる。 母父にスクリーンヒーローを持つ馬なら、ヘイルトゥリーズンの4×4のインブリード。 スクリーンヒーローの後継種牡馬であるモーリスを、サンデーサイレンスの最高傑作であるディープインパクトに配合すれば、今度はサンデーサイレンスの4×3というインブリードが発生する。 これこそが、私の求める「プラスアルファ」だ。 しかも、この血統を主導するのはスピードが豊富で、なおかつ距離に対する柔軟性もあるヘイルトゥリーズン系。 現在の日本競馬にマッチするものと言えないだろうか。 サンデーサイレンス系と掛け合わせたときに何が起こるのか、はサンデーサイレンスが登場して以来の生産界の課題であった。 そして、その状況こそがグラスワンダーの血が続いていく可能性に繋がるものだと私は思う。 血統の発展は競走馬の能力だけによるものではなく、その血が時代に求められているものか、否かも重要ということだ。 ちなみに、私はグラスワンダーの生産者でもあるジョン・フィリップスという人物を知っている。 非常に有能な人だった。 グラスワンダーが登場したとき、彼のようなところから出てきた馬なのだから、その血統に間違いはないだろう。 そう感じたものだ。 約20年の月日が経過し、当時から更新されてきた血統の流れを考えたとき、後世に名を残す優秀な馬というのは、然るべきところから出てくるものなのだと、今回の連載で改めて思い知らされた次第である。 グラスワンダー(牡) 1995年2月18日生まれ 米国産 父Silver Hawk 母Ameriflora 母父Danzig 主な勝ち鞍 有馬記念(98・99年) 宝塚記念(99年) 朝日杯3歳S(97年) 通算成績 15戦9勝(重賞7勝) 芝連対距離(重賞) 1400m~2500m 主な産駒 アーネストリー スクリーンヒーロー セイウンワンダー など 重賞勝利数(中央) 29勝 産駒の主な勝利レース ジャパンC 宝塚記念 朝日杯FS など 主な母父成績 メイショウマンボ ヤマカツエース ダイアナヘイロー マイネルフロスト など ※種牡馬成績は2018年5月時点 【過去の連載馬】[第1章]トニービンの印象(トニービン編)[第1章]ブライアンズタイムの魅力(ブライアンズタイム編)[第1章]神に選ばれた馬(ラムタラ編)

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    [第1章]グラスワンダーという馬を振り返る(グラスワンダー編)

    ・スペシャルウィークが完敗した唯一の馬 私が管理したスペシャルウィークは、そのキャリアの中で何度かの敗戦を喫しているが、力で負けたと思ったレースは1つしかなかった。 皐月賞、菊花賞は内ラチ沿いに登場したグリーンベルトの影響によるものだったし、惨敗だった京都大賞典は夏負けが尾を引き、満足な状態に仕上げることができなかった。 その敗戦には必ず理由があったのだ。 だが、私が「完璧に負けた」とライバルの強さに脱帽したレースがある。 それがグラスワンダーに敗れた1999年の宝塚記念。 すでに多くのメディアで明らかにしてきたことだが、スペシャルウィークは暑さに弱かった。 宝塚記念のときも同様だ。 すでに夏負けの兆候が出始めていたこともあり、セーブ気味の調教に切り替えていた。 着差がわずかの決着なら、私も夏負けを一番の敗因にあげていたと思う。 しかし、あのレースは状態うんぬんを理由にすべき内容ではない。 グラスワンダーの強さをまざまざと見せつけられた。 そんなレースだった。 エルコンドルパサーもそうだが、グラスワンダーもスペシャルウィークと同期の外国産馬。 クラシックでライバルになることはないが、それ以降のことを考えれば、話も変わってくる。 「とんでもない馬が出てきてしまったな」 素直にそう思った瞬間があった。 私がグラスワンダーの存在を最初に認識したのは、初の重賞制覇を飾った京成杯3歳S(現:京王杯2歳S)。 当時は「もの凄いスピードを持った馬だ」と。 母父には豊富なスピードを持つダンジグ。 この馬の影響が強く出ているのだろうと感じた。 ・シルヴァーホークとダンジグとリボー グラスワンダーはスラッとした馬体ではなく、どちらかと言えば、マッチョとの表現が合うようなタイプ。 彼の代表産駒であるスクリーンヒーローとは、少し異なっていた馬だ。 朝日杯3歳S(現:朝日杯FS)での圧勝は、グラスワンダーが一流のマイラーであることを証明したレースだったかもしれないが、彼のテリトリーはマイルだけではなかった。 グラスワンダーは3歳(旧年齢4歳)にして2500mの有馬記念を勝ってしまったのだから。 グラスワンダーという馬の名を血統表で見るとき、私はその馬に対しての距離不安をほとんど持つことがない。 最大の理由は彼の父であるシルヴァーホーク。 ロベルトを父に持つシルヴァーホークが、見た目はマッチョだったグラスワンダーに距離の融通性を持たせていることは、想像に難くない。 長距離血統には短距離血統を入れ、その次にはスタミナを注入するために長距離血統を用意する。 これが配合の基本理念だと私は考えているし、このような掛け合わせのほうが、重ねていく種牡馬の長所を殺さなくて済む。 それを踏まえたうえで、グラスワンダーの血統を見ていただきたい。 グラスワンダーの母父がダンジグであったことはすでに述べたが、彼の母系で注目すべき点がもう一つ。 それがリボーという馬の存在だ。 凱旋門賞連覇など、20世紀を代表する名馬の1頭に数えられるリボーは、その能力を後世にしっかりと伝えた種牡馬で、スピード豊富なダンジグとの連携もすこぶるいい。 グラスワンダーの血統構成の肝は、この部分にこそあったのではないか、と私は考えている。 スタミナ豊富なシルヴァーホークに対して、マイルでも勝てるスピードを与えたのは、母父であるダンジグ。 単調なスピード馬になってしまいがちなダンジグに、スタミナと柔軟性を与えたのはリボーだろう。 そう考えていけば、グラスワンダーのオールマイティーな活躍を説明することができるからだ。 グラスワンダーという馬は、基本に忠実な掛け合わせによって生まれた、正統派の名馬だったと認識すべきなのかもしれない。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]サンデーサイレンスの本質(サンデーサイレンス編)[第1章]トニービンの印象(トニービン編)[第1章]ブライアンズタイムの魅力(ブライアンズタイム編)

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    [第3章]血統に対するこだわり(エルコンドルパサー編)

    ・良血馬で固められた血統構成 ソングの血統を3本も持っていることで語られることの多いエルコンドルパサーだが、その血統は多重クロスのみに注目するレベルではなかった。 彼の血統表を構成する種牡馬の名を見れば、それは一目瞭然であると思う。 いまさら説明することではないかもしれないが、いい機会ではあるので、補足の意味で述べておきたい。 まずは父のキングマンボ。 彼は20世紀を代表する大種牡馬であるミスタープロスペクターと、GI10勝を挙げた名牝ミエスクの間に生まれた超が付く良血馬だった。 彼の産駒は世界中で活躍し、日本でもエルコンドルパサーの他にキングカメハメハという名馬を輩出。 あまりに多くの後継馬を出したこともあり、現在ではキングマンボ系という父系が確立されているほどだ。 キングマンボの直仔というだけで、エルコンドルパサーは興味を引く存在だったと言えるだろう。 母父のサドラーズウェルズも、私が触れる必要のないくらいの馬だ。 ノーザンダンサーの後継種牡馬として活躍し、イギリスにアイルランド、フランスでチャンピオンサイアーに君臨。 以前は「欧州でのみ強い血統」というイメージがあったのだが、自身の優秀な後継種牡馬であるガリレオの登場が大きかったと思う。 様々なタイプを出すガリレオの登場により、サドラーズウェルズの血は世界中に広がりを見せた。 サドラーズウェルズの名を血統に持つ馬を見る機会は、この日本でも確実に増えているし、今後もその傾向は続くだろう。 キングマンボとサドラーズウェルズという掛け合わせは、世界中で見られる配合パターンだが、それは世界中の様々な競馬に対応できる万能性があることを示している。 エルコンドルパサーの血統構成は、世界の流れに沿った掛け合わせでもあったわけだ。 サドラーズギャルの母父にあたるシアトルスルーは、無敗でアメリカ三冠を達成した名馬だった。 最も優良な後継種牡馬はエーピーインディで、その血はプルピットからタピットへと繋がり、現在もアメリカの主流血統の一つとなっている。 スピード豊富なミスタープロスペクター系との掛け合わせは、タフな欧州よりもアメリカのスピード競馬に向くものだ。 ・競馬の奥深さを知る エルコンドルパサーが登場したとき、私はレベルの高いダート馬という認識を持っていた。 この血統構成とダートでの圧倒的なパフォーマンスを見れば、そう考えるのも当然のことだろう。 しかし、彼の母系にはサドラーズウェルズが入っていた。 そして、その血統構成にソングの血を3本も入れていた。 ゆえに彼は芝でも走った。 なんと奥深い馬だろうか。 そう思った記憶がある。 同馬のオーナーであり、生産者でもある渡邊隆さんと懇意にしているエージェントの方に、私はエルコンドルパサーの話をよく聞かされた。 同馬の血統に対する深い思い入れについて。 彼の同期で、私が管理したスペシャルウィークは、サンデーサイレンス産駒という一つの括りで語られてしまうこともある馬だが、私がこだわったのはシラオキの血であり、母父であるマルゼンスキーの存在だ。 それがサンデーサイレンスと配合したとき、どのような化学反応を見せるのか? それこそが血統の面白さであると私は考えている。 エルコンドルパサーは稀有な能力を持っていただけでなく、その血統構成にオーナーの強い思いが感じられる馬だった。 同じキングマンボ産駒であるキングカメハメハが、種牡馬として大活躍していることを考えれば、惜しい馬を早くに失くしたと言わざるえないだろう。 今後はブルードメアとして存在感を出して行くことになるが、早逝したエルコンドルパサーは産駒の数がそれほど多くない。 これも残念な部分だ。 だが、その名を血統表から見る機会が減少したとしても、エルコンドルパサーという馬の魅力は永遠に色褪せない。 それは、何度も語ってきたように、エルコンドルパサーの血統構成があまりにも魅力的なものだったからだ。 ちなみに最近の私はドサージュ理論にも興味を持っているのだが、エルコンドルパサーのそれは傑出した数字となっている。 興味のある方は、ぜひチェックしてはどうだろうか。 エルコンドルパサー(牡) 1995年3月27日生まれ 米国産 父Kingmambo 母サドラーズギャル 母父Sadler's Wells 主な勝ち鞍 ジャパンC(98年) NHKマイルC(98年) サンクルー大賞(99年) 通算成績 11戦8勝(重賞5勝) 芝連対距離(重賞) 1400m~2400m 主な産駒 ヴァーミリアン ソングオブウインド アロンダイト など 重賞勝利数(中央) 13勝 産駒の主な勝利レース 菊花賞 ジャパンCダート フェブラリーS など 主な母父成績 マリアライト クリソライト など ※種牡馬成績は2018年4月時点 【過去の連載馬】[第1章]スペシャルウィークが名馬である理由(スペシャルウィーク編)[第1章]サンデーサイレンスの本質(サンデーサイレンス編)[第1章]トニービンの印象(トニービン編)

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    [第2章]名馬を支える名牝(エルコンドルパサー編)

    多くの名馬の祖となった馬・ソング 凱旋門賞での2着が高く評価され、インターナショナル・クラフィケーション(現在のワールド・サラブレッド・ランキング)で134というレートを得た馬。 それがエルコンドルパサーだ。 エルコンドルパサーが獲得した134のレートは、現在も日本調教馬の最高値。 同じ長距離のカテゴリーに属するオルフェーヴルが129、ディープインパクトが127であったことを考えれば、いかに突出したものであるかがわかるだろう。 エルコンドルパサーとオルフェーヴルの差は実に5ポンド。 時代背景の違いこそあれ、数字のうえでは2馬身半もの能力差がある。 2頭は同じ凱旋門賞の2着馬だが、世界の評価はエルコンドルパサーが断然と言っていい。 エルコンドルパサーという馬を振り返るとき、私は彼の能力だけでなく、その特別な血統構成も同時に思い出す。 3代血統表を見ただけでは、その異質さは伝わらない。 しかし、その範囲を広げると、その名を父系に1本、母系では2本ともに名を残している牝馬がいることに気付くはずだ。 ヌレイエフの母であり、サドラーズウェルズの母となるフェアリーブリッジも産んだ名牝スペシャル。 エルコンドルパサーの血統の基盤になっているのは、このスペシャルという繁殖牝馬であり、その母であるソングという馬なのだ。 まずは父のキングマンボ。 同馬はミスタープロスペクターにノーザンダンサー系のヌレイエフを配合した、よくあるパターンの配合馬だが、前述したようにヌレイエフの母はスペシャル。 もちろん、その先にはソングの名前もある。 エルコンドルパサーの母はサドラーズギャル。 この馬の父はサドラーズウェルズなので、ここにもスペシャルの血が入っていることは言うまでもないだろう。 ここで注目したいのは、母系にいるリサデルという牝馬だ。 この馬は父がフォルリで、母がソング。 つまりはスペシャルの全妹という血統背景。 実に面白い配合ではないか。 血統表を見るとき、私たちは父の父、父の母、母の父、母の母という4つのラインで、ある程度の予測をする。 その4つのラインを基盤にし、どのような血統構成なのかを考え、配合相手との相性やインブリードによって、生産者がどの馬を強調したいと思っているのかを探す。 しかし、エルコンドルパサーに関しては実にシンプルだ。 エルコンドルパサーは父フォルリ、母ソングという繁殖牝馬の血統を、その体内に3本も持っている。 この血こそを強調したいと願った配合と考えて、ほぼ間違えがないのだから。 エルコンドルパサーにおける多重クロスのポイント インブリードをいくつも重ねる「多重クロス」は、多くの方が想像するように危険と隣り合わせの配合パターンだ。 私も何度か挑戦しているが、思ったような結果が得られなかった。 しかし、多くの失敗を繰り返してもなお、その配合に挑戦できるような、資金力のある生産者であれば、それに挑むだけの価値は十分にあると思う。 実際、世界の考え方は一貫してそうであったと私は考えている。 アメリカでは早い段階から近い位置でのインブリードと多重クロスが注目されており、現在のようなインブリード時代の先鞭をつけていた。 当時のアメリカの生産界には、それに挑めるだけの体力が十分にあったのだ。 多くの失敗作を出しても、1頭の著名馬を出してしまえば、それで全ては帳消し。 「競走馬の生産には根気と体力が必要」という言葉の真意は、この部分にこそあると思ってもらっていい。 しかし、多重クロスを発生させている馬が牝馬というのは、非常に珍しいパターンだ。 当然ながら、年に1頭しか産駒を残せない繁殖牝馬よりも、数多くの産駒を送ることができる種牡馬のほうが、後世に血を残す確率は高くなる。 インブリードを発生する割合も。牡馬のほうが圧倒的に高い。 ゆえに「血統を見るときは繁殖から」と私は常に考えてきた。 どれほどの種牡馬であっても、繁殖に難があれば、大物を出すことは難しい。 逆に繁殖が優れていれば、それなりの種牡馬であっても大物を出す可能性はある。 それは種牡馬よりも繁殖牝馬のほうが、希少性が高いからなのだ。 エルコンドルパサーの血統を支えるスペシャルという牝馬、さらにいえば母であるソングという牝馬は、現在にも名を残す大物種牡馬の祖となった存在だ。 その名が4つのラインのうちの3つまでも占めている血統構成。 卓越した競走成績を残したエルコンドルパサーには、それを可能にする血統の素晴らしさを持っていたのだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]名物オーナーとの出会い(フサイチパンドラ編)[第1章]スペシャルウィークが名馬である理由(スペシャルウィーク編)[第1章]サンデーサイレンスの本質(サンデーサイレンス編)

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    [第1章]我がライバルたちを振り返る(エルコンドルパサー編)

    ・種牡馬の役目とは 毎週の競馬の成績に一喜一憂するのも大事なことだが、どれだけの勝利数をマークしても、自身の血を伝える後継種牡馬を残せなければ、その血はいずれ絶えてしまう。 ブルードメアとして生き残る方法もあるにある。 だが、多くの産駒を残すことができる種牡馬のほうが、確実に血を繋いでいくことはできるだろう。 100頭の条件馬を作るよりも、1頭の名馬を輩出することが重要。 キタサンブラックという名馬を出したブラックタイドは、その好例と言えるかもしれない。 しかし、高い能力を持っている競走馬のすべてが、種牡馬として成功できるわけではない。 配合相手の質が重要なのは言うまでもないが、その時代の血の流れに合っているのかどうかも考えなくてはならない。 例えば、サンデーサイレンスの血で溢れかえっている現在の日本競馬において、サンデーサイレンス系の馬が生き残ることは難しい。 海外に活躍の場を移す馬が増えてくるのは、ある意味で当然のことなのだ。 私が管理した多くの競走馬の中で、最高傑作と呼べる馬はスペシャルウィーク。 だが、そんな彼でさえも優秀な後継種牡馬を残せなかった。 非常に残念だ。 しかし、シーザリオやブエナビスタといった名牝を送り出しているのだから、種牡馬としての能力が足りなかったとは思わない。 幸いなことに、シーザリオはエピファネイアという名馬を生み出してくれた。 エピファネイアには、その血を後世に伝えていってほしいと切に願う。 スペシャルウィークの血統には、それだけの価値があるのだから。 ・2頭のライバルのその後 今年の2月。 尾形充弘調教師と二ノ宮敬宇調教師が揃って引退し、スペシャルウィークのライバルとして活躍した競走馬の管理者が、東西のトレセンから一人もいなくなってしまった。 月日の経つのは早い。 あの名馬たちとの激闘もひと昔…いや、ふた昔も前のものになっていることに驚きを感じている。 だからこそ、改めて検証してみたい。 エルコンドルパサーとグラスワンダー。 スペシャルウィークとともに20世紀の最後を彩った名馬たちの血統と、その可能性について。 エルコンドルパサーは3歳でジャパンCを制し、海外に拠点を置いた4歳時には凱旋門賞2着の結果を残した。 グラスワンダーは何度かの故障に悩まされながら、グランプリレースを3勝。 当時の馬の状態面についての考慮はしてほしいところだが、私が自身の最高傑作と語ったスペシャルウィークが、この2頭に先着することなく、現役を終えている事実。 これこそが、この2頭の傑出した能力の証明だと私は思う。 彼らの血もまた、後世に残すべきものなのだ。 現在、GⅠレースで活躍する馬のほとんどは、日本で生産された馬たちだ。 しかし、グラスワンダーとエルコンドルパサーは、ともにアメリカで生産された外国産馬だった。 日本ダービーが外国産馬の出走を認めていなかった当時は、どの馬が世代最強なのかを判断することも難しかった記憶がある。 この世代のダービー馬はスペシャルウィーク。 しかし、彼の同世代には他にチャンピオンホースと呼ぶべき馬が、他に2頭もいたのだ。 まさに“ビンテージイヤー”と言えるのではないだろうか。 スペシャルウィークの血統に対し、私は強いこだわりを持っていた。 日本古来のシラオキを祖に持つマルゼンスキー肌の繁殖に、現役時代から種牡馬としての成功を疑わなかったサンデーサイレンスを配合。 それに近いものをライバルたちの血統にも感じる。 彼らはただ強いだけの存在ではなく、生産者の強い思いを持って配合された馬だった。 20年近い歳月が流れた現在だからこそ、その血統構成を振り返り、日本の生産界に現在も残っている彼らの血の影響力を考えてみたい。 きっと、有益な連載になるはずだ。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]血を追い求めて(ダンスパートナー編)[第1章]名物オーナーとの出会い(フサイチパンドラ編)[第1章]スペシャルウィークが名馬である理由(スペシャルウィーク編)

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    [第3章]最高のブルードメアサイアー(シンボリクリスエス編)

    ・弱点を補完できる場所 掛け合わせた種牡馬の能力を妨げることなく、自身の特徴で相手のウィークポイントを補完する役目を担う。それこそがブルードメアのポジションにいる馬に求められているものであり、シンボリクリスエスにとって、その役割こそが天職である可能性が高い。 大型馬らしいパワーだけでなく、スピードと切れも兼備していたシンボリクリスエスは、種牡馬として大成する要素を持っていた。 しかし、その一方で能力を産駒が発揮できないのではないかとの不安があった。 能力を発揮するためには、大きな馬体を支えるための地盤を持っていなければならないが、前脚の硬さがシンボリクリスエスの弱点。 それを持っていた馬の数は少なく、その能力を発揮できずに競走生活を終えた、もしくは競走馬となれなかった産駒のほうが多かったと思う。 しかし、母父という一歩引いたポジションへと移ることにより、彼は自身の特徴でもあり、弱点でもある「大型で前の出が硬い」という弱点を薄めることができるだろう。 彼が求めているのは小型で身のこなしが柔らかい種牡馬。 すなわちディープインパクトとの配合により、シンボリクリスエスの弱点は強みへと変わり、その特徴の全てがディープインパクトをサポートする材料として働くと考えられるからだ。 ・ディープインパクトとの相性 種牡馬デビューを果たした頃のディープインパクトに対し、私が懐疑的な目を向けていたことは何度も話をしている。 そんな不安をも打破してしまったディープインパクトは、あまりに特別過ぎる馬だったわけだが、私が不安に感じた要素。 種牡馬として必要であるはずのものをディープインパクトが持っていなかったという事実は、これだけの結果を残した現在も変わらない。 それはディープインパクトの配合相手として、ダートの短距離を主戦場にするパワータイプが選ばれてきたことでもわかるだろう。 シンボリクリスエスはディープインパクトが持っていなかった馬格とパワーを持っている馬だ。 そして、これまでのディープインパクトの配合相手と決定的に違うのは、脚が長くて長距離向きの馬体をしていること。 スピードとパワーだけでなく、芝のレースに必要な切れと長距離適性を彼は持っている。 仮に海外遠征などに赴く場合、これまでに上げてきたようなシンボリクリスエスの特徴が大きなプラスになるのではないだろうか。 ディープインパクトにないものを補完するという意味では最高の馬──いや、ディープインパクトこそがシンボリクリスエスの特徴を引き出してくれる馬なのかもしれないが、いずれにしろベストマッチの配合相手であること間違いない。 シンボリクリスエスがサンデーサイレンス系との配合をメインに考えられていた種牡馬であることに異論はない。 その一方で、彼はサンデーサイレンス系でない繁殖牝馬からも活躍馬を出した。 サンデーサイレンス系ではない繁殖牝馬も多くいるはずで、それらの馬こそがセリ市でのこれからの狙いになると私は予測する。 シンボリクリスエスには「ぶっちぎり勝ち」というのがあるが、それは種牡馬として成功できるかどうかのひとつの指標になるものだ。 彼の産駒そのものには興味を示さなかった私だが、母父の位置に入った彼の血は掛け合わせによって、とてつもない武器へと変わることは認識している。 ゆえに母父シンボリクリスエスへの注目は怠れない。 特に前記したディープインパクト×シンボリクリスエスの掛け合わせ。 これこそが、現在の生産界で最も注目すべき配合なのではないだろうか。 シンボリクリスエス(牡) 1999年1月21日生まれ 米国産 父Kris S. 母Tee Kay 母父Gold Meridian 主な勝ち鞍 有馬記念(02,03年) 天皇賞・秋(02,03年) 通算成績 15戦8勝(重賞6勝) 芝連対距離(重賞) 2000m~2500m 主な産駒 エピファネイア サクセスブロッケン ストロングリターン アルフレード など 重賞勝利数(中央) 32勝 産駒の主な勝利レース 菊花賞 ジャパンC フェブラリーS 安田記念 朝日杯FS など 主な母父成績 レイデオロ アドミラブル ミスパンテール ローズプリンスダム オジュウチョウサン など ※種牡馬成績は2018年4月時点 【過去の連載馬】[第1章]ボーラーとの出会い(メイショウボーラー編)[第1章]血を追い求めて(ダンスパートナー編)[第1章]名物オーナーとの出会い(フサイチパンドラ編)

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    [第2章]ロベルト系(シンボリクリスエス編)

    ・ロベルト系の特色 ナリタブライアン、マヤノトップガンなどを輩出したブライアンズタイムで有名なロベルト系だが、その前にはリアルシャダイという馬もいた。 悲運の名馬として知られ、京都競馬場に石碑もあるライスシャワー。 彼の父がリアルシャダイだった。 長距離にめっぽう強い。 そんな印象に強い血統だった。 サンデーサイレンスの登場で存在感をなくしてしまった印象もあるが、1990年代の前後だろうか。 この血統が流行した時期が確実にあった。 ロベルト系の流行が終焉に向かっていた2000年代初頭。 その時代に登場したのがシンボリクリスエスだ。 ヘイルトゥリーズンのインブリードこそ発生するが、血統的に被る面はそれくらいのもの。 ゆえにサンデーサイレンス系の相手としてニーズがあったのだと思う。 エピファネイアの母はスペシャルウィークだが、フェブラリーSを制したサクセスブロッケンの母はサンデーサイレンスそのものだった。 スペシャルウィークのライバルであるグラスワンダーもロベルト系の馬だが、彼もサンデーサイレンス直仔であるランニングヒロインとの配合で、スクリーンヒーローという馬を出した。 ロベルト系とサンデーサイレンス系はニックスの関係にある。 そう言っていいのかもしれないが、注目すべきはそこだけではないと私は考えている。 ・産駒のポイントは何か? 安田記念を勝ったストロングリターンの母父はスマートストライク。 短距離路線で息の長い活躍をしたサンカルロの母父はクラフティプロスペクター。 主に地方交流重賞で存在感を示したランフォルセの母父はマキャベリアン。 サンデーサイレンス系とニックスの関係にある種牡馬は、その配合パターンのみの成績が突出してしまう傾向が強いが、シンボリクリスエスはサンデーサイレンス系との配合だけでなく、それ以外との系統を掛け合わせても結果を残した。 それがシンボリクリスエスの個体能力の高さなのか、それとも母系の特徴を引き出す能力に長けていたのかを言明することは難しい。 もしかしたら、その両方かもしれない。 だが、シンボリクリスエスという馬の未来を考えたとき、重要になってくるのが実はこの部分。 これが彼の可能性を広めている要素とさえ言っていい。 重要な要素がもう一つ。 いくつかの代表産駒の名を列記してきたが、そのほとんどが500キロを超える、もしくはそれに近い大型馬であったことに気付いてもらえただろうか。 代表産駒である彼らは持ち応えることができたが、大きな体を支えきれず、能力を発揮できなかったシンボリクリスエス産駒は相当数に上ると私は推測する。 そして、そのような馬たちが、シンボリクリスエスの名を高めていくことになるのではないだろうか。 ブルードメアサイアーとして存在感を示す馬。 現在、シンボリクリスエスほど、この言葉が似合う馬はいない。 昨年の日本ダービーを勝ったレイデオロ、同3着のアドミラブル。 2頭はともに母父シンボリクリスエスという馬だった。 その活躍は平地だけに留まらない。 最優秀障害馬のタイトルを獲得したオジュウチョウサン。 この馬の母父もシンボリクリスエスなのだ。 種牡馬として後継種牡馬を残すことは大事だが、ブルードメアとして活躍することでも、その名は血統表に残っていく。 そして、シンボリクリスエスという馬は、後者の可能性のほうが圧倒的に高いと私は考えている。 その理由とは? 最終回の次回はそれを明らかにしていきたい。 (※次回に続く) 【過去の連載馬】[第1章]デジタルとの出会い(アグネスデジタル編)[第1章]ボーラーとの出会い(メイショウボーラー編)[第1章]血を追い求めて(ダンスパートナー編)

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