先週の2~3歳戦や重賞レースを“調教師の視点”から解説!

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    【10月13日・14日開催】秋華賞、府中牝馬Sのレース解説

    〈3歳GI〉 10/14(日) 京都11R 芝2000m 秋華賞 素晴らしい血統の持ち主にもかかわらず、それに見合った繁殖成績を残せずにいたフサイチパンドラから三冠牝馬が出た。しかも、単に三冠を制しただけでなく、そのいずれもが楽勝の連続で、今回も届くと思えないような位置からアッサリと差し切り勝ち。多くの関係者がアーモンドアイの勝利を喜んでいると思うが、母フサイチパンドラを管理した私にとっても溜飲の下がる勝利。感謝の気持ちとともに、限りない賛辞を送りたいと思う。 アーモンドアイの強さについては、すでに多くのメディアが伝えており、私が改めて詳しく話す必要もないだろう。なので、今回はレース内容などとは違う視点で話を進めたい。 アーモンドアイはこれから一流の牡馬を相手に戦っていくこととなるが、通用するどころか、これまでの名牝たちがそうだったように、主役級の活躍をしてくれるに違いない。まずは最初のターゲットとなりそうなジャパンC。このレースでは53キロという恵まれた斤量で出走することができる。彼女のすさまじい切れがさらに威力を増すと考えたら、それだけで本命視する材料になるはずだ。人気にもなるだろう。 このレースを勝つようなことがあれば、来年は世界制覇を視野に入れたレース選択がされるかもしれないし、それを期待される立場になると思う。 彼女はそれほどの数のレース数を走っておらず、成長の余地も十分にある。14キロ増でも太めを感じさせない馬体を見ただろうか? その数字のほとんどが春からの成長分であるように私は感じた。この馬はもっと良くなる。本当に底は知れない馬だ。 京都内回りという難しいコースをあっさりと克服したことで、コースを問うようなタイプでないことも証明した。遠征は能力だけでなく、メンタルの部分も重要になってくるが、それをクリアしてしまえば、かなりの確率で成功が期待できる馬ではないか、と思う。 ここからが問題だ。先週、私は彼女のような馬こそが、3歳秋の時点で凱旋門賞に挑戦すべきと書いた。凱旋門賞というレースを攻略するためには、欧州の馬場に対応できるパワーが必要。そんな声を耳にすることも少なくないが、私はそう思わない。むしろ、まるで逆だ。 なぜ、3歳牝馬が好走を続けているのか? それは斤量の軽さを味方にして、牝馬特有の切れを活かしているからにほかならない。今年の凱旋門賞で惜しい2着だったシーオブクラス。彼女がその好例と考えて欲しい。 では、アーモンドアイはどうなのか? 彼女の持っている身体能力と爆発的な末脚の切れ。それがシーオブクラスに劣るとはまるで思わない。思わないからこそ、我慢が利く斤量だった今年のうちに遠征して欲しかったという気持ちを捨てきれない。 来年になれば、彼女はもう一段階成長するだろう。しかし、同時に凱旋門賞出走ならば、58キロという国内では背負うことのない斤量と戦わなければならなくなる。彼女の最大の武器である切れを削いでしまう可能性のある斤量との戦い。今年よりもはるかに難しい戦いになると私は思う。 行くべきとき、行かなくてはならないタイミングでの海外挑戦。それを見定めるのは難しいが、今回のアーモンドアイの強さを見たとき──私は世界のビッグレースを勝てるチャンスを逃してしまったようにさえ感じたが、そこまで思いをめぐらせてくれる馬の出現する確率が非常に低いのも事実。それが私の管理したフサイチパンドラの娘だったことが単純に嬉しい。そして、フサイチパンドラに流れる名牝セックスアピールの血。これがアーモンドアイへと繋がっていると考えれば考えるほど、私は競馬の魅力に再び引き込まれてしまう。そう、彼女のルーツはそこにこそあるのだ。 競馬は奥深い。そして、走る馬は常に本物だ。何かしらのバックボーンが必ずある。アーモンドアイも然り。今回の三冠馬誕生は私情なしでは語れないものだったが、仮にそのような私情を挟まなくても、これまでで最も強い三冠牝馬なのではないかと思う。今後に大きな期待をしたい。 2着以下についてもさらっと触れておこう。2着のミッキーチャームは実に惜しい競馬だったが、初めての一線級を相手に初めてのGI挑戦で、見せ場以上の場面を作り出した。それを可能にしたのが彼女の卓越したスピード。スタートから1コーナーまでの加速力は抜きん出ていたが、それは彼女の母系にいるデインヒルの影響によるものと私は考える。ディープインパクト産駒でも切れではなく、スピードを武器にしたタイプ。もう少し短い距離のほうが適しているかもしれないが、大きな舞台で戦える馬であることは確かだ。 3着のカンタービレはこれまでと違う後方待機策の競馬。この馬の新たな一面を引き出した武豊騎手はさすがだ。アーモンドアイの後ろから進めて勝負になるのかとの意見もあるだろう。しかし、思い切った今回の騎乗によって、距離に限界があると思われていた同馬が、2200mのエリザベス女王杯でも色気を持てるようになったのも事実だ。先に繋がる競馬をしたという意味で、収穫のあった1戦だったと思う。 〈古馬重賞〉 10/13(土) 東京11R 芝1800m 府中牝馬S 2着リスグラシューの競馬の運び方は完璧だったと思うし、12キロ増の馬体はフックラとし、これまでの同馬につきまとっていた線の細さも消えていた。本当にいい競馬をしたと思う。 だからこそ、勝ったディアドラの強さはさらに際立った。マークした上がり3ハロンの数字は32秒3。パワーはあるが、決め手に少し欠ける面があるハービンジャー産駒の出せる数字ではない。彼女の母父は私が管理したスペシャルウィークで、この決め手はスペシャルウィーク譲りではないかと思ったりもするのだが、牝馬であるディアドラのほうがスペシャルウィークよりも幅のある馬体をしている。これは母系にいるマキャベリアンの影響でないか。そんなことも考える。彼女もルーツに名牝ソニックレディを持つ1頭。やはり血統は嘘をつかない。確かなバックボーンを持つ馬こそが、その血統にふさわしい活躍を見せるということだ。 とにかく、本当に素晴らしい馬になった。リスグラシューとの斤量差は2キロ。これを覆してしまったのだから、力量の差は明白。次は香港との話も聞くが、彼女の切れとパワーなら、大きな期待が持てるだろう。牡馬相手でもそん色のない走りを見せてくれるはずだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【10月6日・7日・8日開催】凱旋門賞、毎日王冠ほかレース解説

    〈海外GI〉 10/7(日) パリロンシャン4R 芝2400m 凱旋門賞 JRAが馬券の発売を開始し、それまでは興味を示さなかったファンが凱旋門賞を間近に感じる時代になった。それは素直に嬉しいと思う。 今回、クリンチャーの挑戦は実らなかったが、世界最高峰の舞台に挑んだ前田オーナーの心意気は素晴らしいし、勝ったエネイブルとほぼ同じ位置から競馬を進めた武豊君の騎乗にはミスらしいミスがなかった。力を出し切った競馬なので、胸を張って戻ってきてほしいと思う。 昨年に続く連覇を果たしたエネイブル。強さを感じたのは昨年だが、価値があるのは今年のレースだ。58キロという重い斤量を背負い、臨戦過程も微妙だった。ゴスデン調教師の卓越した手腕が背景にあればこその勝利だったと思う。 私が注目していたシーオブクラスは馬群を割って追い込んだものの、惜しいところでタイトルを逃した。凱旋門賞は馬群が密集するタイトなレースになりやすく、コース形態からも追い込み一気がハマりにくい。それを考えれば、今回の惜しい2着は勝ち馬にも匹敵すると判断されるだろう。 ただし、先ほども述べたように凱旋門賞は年齢による斤量の差が大きいレース。シーオブクラスとエネイブルとの斤量差は3キロもあった。一方で牡馬と牝馬のアローワンスは1.5キロ。日本のそれは基本的にどちらも2キロ差であることを考えれば、3歳牡馬の挑戦は間違いではなく、ダービーを勝った年に凱旋門賞へ参戦した一昨年のマカヒキは理にかなった挑戦だったのだ。正直、古馬の牡馬での挑戦は、相当に傑出した能力の馬でない限り厳しいと私は思う。行くなら3歳馬だ。 もしも、私に選択権があるのだとすれば──。これは完全に仮定の話になるのだが、今年のアーモンドアイなら面白い競馬になったと思う。3歳牝馬で55キロ。スピードだけでなく、切れも必要な凱旋門賞というレースに彼女のキャラクターが適していたのではないか。 しかし、今年の凱旋門賞は終わり、来年の挑戦では58キロの斤量を背負わなくてはならない。この斤量では無理。この斤量では彼女の長所が消えてしまう。これほどの能力を見せる3歳牝馬がなかなか出現しないことを考えれば、大チャンスを逃したという表現も決して大袈裟ではないように思う。 〈古馬重賞〉 10/7(日) 東京11R 芝1800m 毎日王冠 牡馬の実績馬を一蹴し、楽々と押し切ったアエロリットの前途は洋々。結果的には逃げ切り勝ちでも、無理に行ったわけではなく、ハナに立ったときの同馬は耳を立てていたくらい。スピードの違いでハナに行ったに過ぎず、それほどのスピードを持つアエロリットにとって、1000m通過が59秒0の流れはスローと考えていい。非常に楽なレースで、大きな疲れも残らなかったのではないか。一枚上の強さを見せた1戦だった。 クロフネの産駒はスピードの持続力で勝負するタイプが多く、アエロリットもそのタイプに属する馬ではあるだろう。しかし、他のクロフネ産駒と違い、母父にネオユニヴァースを持つ同馬は、芝の重賞レースでも通用する末脚の切れも持っている。ネオユニヴァースの特徴である柔らかい繋。これを継承していることが理由であり、ゆえにラップ10秒台の脚で後続を突き放すことも可能なわけだ。 折角なので、私の私見をひとつ入れておく。 クロフネ自身の影響が強すぎれば、芝のGⅠで勝てるような切れを持つ馬にはならず、どうしても前さばきの硬いダートに適性があるようなタイプになってしまうだろう。 逆にネオユニヴァースを強調してしまえば、その柔らか過ぎる繋がネックとなって、父のような強靭な肉体を持っていない限りは、その爆発的な瞬発力を発揮する前に馬が壊れてしまう。ゆえに難しいのだ。 ネオユニヴァースは配合相手にアメリカのダート血統を持ってくることが多いが、それはネオユニヴァースの柔らかさが出すぎてしまうことを警戒しているためで、ネオユニヴァースの代表産駒であるヴィクトワールピサの母父もマキャベリアン。サンデーサイレンス系のインブリードなどで切れを増幅させるよりも、ミスタープロスペクター系のスピードと肉体でネオユニヴァースの弱点を防ぐ考え方をした配合と言えるだろう。 父がクロフネ、母父がネオユニヴァースの配合はお互いの弱点を補い合うものであり、実際にネオユニヴァースからの影響を感じる繋を持ちながら、その弱点を補える強靭な馬体を得ている。これはクロフネを相手に選んだことによる恩恵だろう。ベストマッチである可能性がある。 唯一の牝馬でありながら、出走馬で最も重い508キロの雄大な馬体。これは血統的見地から説明できることを覚えておいてもらいたい。 アエロリットという馬の素晴らしさは精神的な部分にもある。ゆったりとしたパドックでの周回は一流馬のそれであり、水平首で脚の運びもスムーズ。これを実際にできる馬というのはそこまでいるわけでなく、重賞レースでメンバーの揃っていた今回でもそうだった。だからこそ、パドックでも一際目立つ存在であるわけだ。 アメリカ遠征を取りやめ、国内に専念することになったと聞いた。距離の壁はあるだろうが、相手関係的なことを言えば、牡馬が相手のGⅠレースでも主役を演じる能力は持っている。どこのレースに出走したとしても、注目が必要な存在だろう。東京コースでの成績がクローズアップされているが、特に右回りがダメとも思えない。京都のマイルCSでも勝ち負けになるだろうし、直線が平坦なコースのほうが逆に押し切りやすい可能性もある。 2着ステルヴィオと3着のキセキについても一言だけ触れておく。2着ステルヴィオの切れはさすがだったし、中距離こそがベストであることを改めて証明したレースと言えるが、パドックでの周回にはアエロリットとの差がはっきりと出ていた。精神面にまだ課題を残している。逆に言えば、この部分が成長してくれば、レースぶりももっと自在になるだろうし、走りも安定してくるだろう。能力は持っている馬だ。 3着キセキの雰囲気は悪くなかった。10キロ増でも太めには見えなかったし、落ち着きもあった。最後は切れ負けした格好だったが、他馬よりも重い58キロを背負ってのもの。次の天皇賞(秋)でも注目が必要だと思う。 10/8(月) 京都11R 芝2400m 京都大賞典 久々の勝利を飾ったサトノダイヤモンドに対する評価がすべてのレースだ。確かにパドックでの雰囲気は悪くなかった。ゆったりと歩けていたし、踏み込みもまずまず。久しぶりにいいな、と感じた。 ゆえにレースでも自由自在。飛ばしている逃げ馬は勝手に行かせ、シュヴァルグランを目標にスパートするレース。そのタイミングも良かった。レース運びに注文を付けるところはなく、後続に迫られはしたが、抜かれそうな感じもしなかった。内容的には完勝だったと思う。 だが、これが普通の馬ではなく、GⅠでの好勝負を期待されているサトノダイヤモンドとなると、もうひとつ上の視点が必要になってくるだろう。 正直、シュヴァルグラン以外のメンバーはそこまで強敵と言えず、次走に予定されるジャパンCのメンバーとは比較にならない。もうワンランク上の状態に持っていくことが必要だと私は思う。 シュヴァルグランは予想外に走れなかったが、今回は昨年のジャパンカップのときのようにパドックでゆったりと歩けていなかった。それが行きたがる面を見せた理由であると思うし、そのような状況下での58キロも応えていたのだろう。 当時の落ち着きを取り戻し、能力をすべて発揮できれば…と思う一方で、今回のメンバーを相手に3着も死守できなかった事実も見逃せない。この馬も本番までにどれだけ状態を上げていけるか、がポイントになってくる。 〈2歳重賞〉 10/6(土) 東京11R 芝1600m サウジアラビアRC 見ての通りというフレーズがぴったりの楽勝でグランアレグリアが重賞制覇。そのレース内容について多くを語る必要はないだろう。一枚も二枚も力が違ったパフォーマンス。阪神JFの最有力候補であることは間違いないと思う。 では、今回のポイントを2つほど述べていきたい。 まずは18キロ増だった馬体重について。休み明けの1戦で多少の余裕を残していたとは思うが、太めという印象の馬体ではなかった。であれば、その数字のほとんどは成長分ということになる。 阪神JF、桜花賞と関西圏への輸送をすることを前提に考えれば、体はあったほうがいいわけで、牝馬の470キロ台ならちょうどいいと言えるだろう。1月生まれで成長期が他の馬より早いのかもしれない。 もうひとつは血統構成。彼女の母父はアメリカの大種牡馬タピット。スピードが豊富なだけでなく、パワーもある。ディープインパクトのニックスと言えば、ストームキャットが真っ先に上がると思うが、あの馬と違ってタピットには距離の融通性があることが大きい。海外の競馬に少し詳しいくらいの人間なら、タピットの産駒がベルモントSで無類の強さを見せることは知っているはずだ。 日本でのタピット産駒と言えば、最も有名な存在はラニだろう。あの馬はかなり気性の激しい馬だったが、タピットの産駒が総じて気性が激しいかと言えばそうではなく、あの馬は特別な存在だったと私は考えている。 実際、グランアレグリアにイレ込み癖は見られず、レースでも収まりがついていた。タピットの素晴らしい部分だけを受け継いだディープインパクト産駒だとすれば、相当な活躍を期待できるのではないだろうか。 ちなみに翌日の未勝利を勝ったスイープセレリタスは名牝スイープトウショウの子で、走破時計もグランアレグリアのそれよりも速かったが、パドックでの振る舞いからレースでのフットワークなどを私なりに考察した結果、現状では同厩のグランアレグリアのレベルには達していないと判断する。 もちろん、今後の成長次第で逆転する可能性は否定しないし、特にこの馬は6月の遅生まれ。チャンスはあるだろう。しかし、現時点で2頭が競えば、グランアレグリアが勝つはずだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【9月29日・30日・10月2日開催】スプリンターズS、シリウスSほかレース解説

    〈古馬重賞〉 9/30(日) 中山11R 芝1200m スプリンターズS 春のチャンピオンスプリンターでもあるファインニードルが、能力の違いをまざまざと見せつけるパフォーマンスで快勝。他の馬とは抜け出してくる瞬間の速さがあまりにも違い過ぎた。戦前から最も高い評価をしていた馬が、私の予想通りの勝ち方をしてくれたことを素直に嬉しく思っている。 仕上がり途上の印象があっただけでなく、斤量が響く道悪競馬で58キロを背負って勝った前走が価値の高いレースだった。そして、それが雨馬場になった今回の競馬にも活きた。アドマイヤムーンの産駒は道悪でいい馬が多いが、この馬も道悪が上手なのだろう。58キロで強い競馬をした馬が定量で57キロ。ゆえに好走する確率はかなり高いと私はにらんでいたのだ。 パドックでの落ち着きも気に入っていた。短い距離を使う馬は気持ちの盛り上がってしまう馬が多く、それが短距離線を使う理由になっている馬もいるくらいだが、この馬は違う。落ち着いてパドックを周回できる。この手のタイプは常に能力を出しきれるので、大きくは崩れないだろう。 今回の1戦でもピークの状態ではなかっただろう。暮れの香港に行くのであれば、ちょうどいい日程になるのではないだろうか。この路線を極めたことで、マイルの距離に挑戦してはどうか? という考えも出てくるかもしれない。しかし、この馬の戦績や馬体、血統などを総合的に考えた場合、対応できる距離は1400mまでではないかと思う。無理な挑戦をせず、自分のフィールドを使い続けるほうがいいだろう。 ちなみに当日の私は中山競馬場で現地観戦。自信のあったファインニードルから馬単で馬券を買い、見事に的中することができた。2着のラブカンプーを相手に加えたのは、このような馬場状態になったとき、斤量の軽い牝馬は侮れないと考えたからだ。小さい馬だが、中山に輸送しても馬体減りしなかった。これなら走っても不思議はない──。私の見立ては正しかったわけだ。 9/29(土) 阪神11R ダ2000m シリウスS ダート重賞の常連が顔を揃え、それなりにメンバーの質は高かったレース。ゆえに上位の2頭は、この路線に新しい風を吹き込む新星と表現していいと思う。 勝ったオメガパフュームは4月の遅い生まれで、これから成長しそうな馬体の3歳馬。確かに斤量は53キロと軽かったが、早めに前を捕まえにいったレースぶりといい、今後の可能性を感じさせる馬だと感じた。 父スウェプトオーヴァーボード、母父がゴールドアリュールといった血統構成はダートでこそ。ただし、その先にはリアルシャダイの名があり、これが2000mの距離にも対応できるスタミナを与えている。この母系こそが同馬の強さの秘密かもしれない。 それ以上の衝撃を受けたのは、2着ウェスタールンドが見せた追い込み。ダートではなかなか見られないような、とてつもない脚を使ったこの馬の可能性もかなり高そうだ。 馬群に突っ込んだ直線で少しふらつくような面は見せた。チークピーシズを着用している馬で、そのような癖を持っている馬なのかもしれない。このあたりを矯正できるかが今後のカギを握りそうだが、これだけの脚を使える馬はそうはいない。6歳でもダートのキャリアは3戦のみ。まだ伸びしろもあると思う。 〈条件戦〉 9/30(日) 中山9R 芝1600m サフラン賞 落ち着いたペースで走り、最後はクビ差の勝利。一見すると物足りなくも見える勝ち方をしたレッドアネモスだが、この馬は奥があるかもしれない。 まずは5月6日の遅生まれにもかかわらず、早い段階から結果を出していること。今後の成長力に期待できる背景がひとつあるわけだ。 もうひとつがレースの週にハードな調教を課されながら、中山に輸送しても馬体が増えていたこと。この時期の2歳牝馬はちょっとしたことで食いが落ち、体重を減らすものだが、この馬にはそれがない。このようなタフさは厳しいレースを戦い抜くうえでは重要で、今後も手加減をすることなく、びっしりと鍛えていけば、予想を超える結果を生み出すことも可能だろう。 来年のクラシックに行ける馬だと私には認識している。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【9月22日・23日開催】神戸新聞杯、オールカマーほかレース解説

    〈3歳重賞〉 9/23(日) 阪神11R 芝2400m 神戸新聞杯 皐月賞馬、ダービー馬が登場して注目を集めた1戦。その結果やレース内容については、ほとんどの読者が知るところと思うので、それとは違う私なりの視点で上位馬についての論評をしていきたい。 まずは復帰戦で見事に勝利を飾ったダービー馬のワグネリアン。聞くところによると次走は菊花賞ではなく、古馬相手の天皇賞(秋)になったらしい。相手関係よりも馬の適性を優先したレース選択は、金子オーナーらしい大胆な戦略と言えるだろうが、トップクラスの3歳馬が2キロの斤量をもらった状況で走れば、古馬とも互角以上に戦えるもの。世界的な視点で言えば、斤量の恩恵を受ける3歳馬のほうが秋のビッグレースでは強いくらいだ。その流れが日本にも来たという認識でいいと思う。力量的にヒケを取ることはない、が私の考えだ。 2400mの今回は少し行きたがるようなシーンを見せたが、次に2000mを走る馬であるのなら、あれくらいの行きっぷりはあったほうがいい。あれは豊富なスピードの証明であり、むしろ「なくては困る」と言いたいくらいだ。血統的にも馬体的にも中距離馬のイメージが強いワグネリアンなら、好結果を期待できるのではないだろうか。 ちなみに馬体に関連した話をすれば、今回の10キロ増はまるで太く感じなかった。純粋なパワーアップ。これもワグネリアンが天皇賞(秋)で好勝負できると考えた理由のうちのひとつでもある。 2着はエタリオウ。直線で猛然と追い込んだ脚が印象的に見えただろうが、私が注目したのは、このスローペースでも勝負どころで鞍上の手が動くシーンがあったこと。その走りっぷりは完全なステイヤーで、距離の延びる菊花賞でのパフォーマンスを大いに期待させる。実際、かなり有力だろう。 ヘネシー系のカクタスリッジを父に持ち、母父はワグネリアンと同じブロードブラッシュの母ホットチャチャの血統はスピード色が強い。母系だけを見れば、距離の不安を危惧しなければならないくらいだ。しかし、それでもスタミナ豊富な父ステイゴールドの影響は大きいのだろうか。それとも、この母系がベースにあるからこそ、速い上がりの決着にも対応できる高速ステイヤーとして活躍できる、と考えるべきなのかもしれない。 母父サクラバクシンオーのキタサンブラックが3000m超のレースを軽々とこなしたことで、長距離レースに対する私の見方も大きく変化した。現代競馬に最も必要なものはスピード。距離の長短を問わずにそうなのだ。エタリオウの母系は決して長距離向きと言えないが、だからこそ、現代の菊花賞に向いている。もちろん、レースぶりや馬体を含めた総合的な視点が必要にはなるが、血統的な見地から言えば、そういう結論だ。 この馬もワグネリアンと同様の2桁の体重増。しかし、太いという印象はまるでなく、実にしっかりとした歩様でパドックを周回していた。前哨戦として、最高の雰囲気で出走できたと思う。ただひとつ、注文を付けるとすれば、そのレース運び。直線の長い阪神外回りで行われた今回のレースはあれでも構わないが、京都コースは外回りであっても追い込み一気を決めることが難しい。道中はともかく、4コーナーでは前をしっかりと射程圏に入れる位置取り。これができるかどうかが、大きなポイントになるだろう。M.デムーロ騎手が連続して騎乗してくるのであれば、そのようなヘマはしないだろうが。 3着のメイショウテッコンもエタリオウと同じ14キロの馬体重増だった。こちらも太い感じはなかったが、エタリオウとの違いは少しチャカつくような素振りを見せていたこと。それが特徴であるとはいえ、この次は3000mの長丁場。戦前の落ち着きはあったほうがいいだろう。これは今後の課題となるかもしれない。 エタリオウの項と関連することになるかもしれないが、京都コースは阪神よりも先行馬が強い傾向がある。ゆえに今回の3着は価値ある3着と考えていいだろう。 もちろん、自分の形に持ち込めた展開の理はあった。それは否定しない。しかし、ゴール前に急坂のある阪神外回りでの逃げ切りは簡単でなく、逆に京都の長丁場は後続を惑わすことが可能なコース。今年は先行馬の顔触れが揃うようだが、自分で主導権を握れる馬はそれだけでアドバンテージを持っており、スペシャルウィークのライバルだったセイウンスカイが見せたような逃げ切りも考えなくてはならないだろう。一発の可能性がある馬だと思う。 ちなみにメイショウテッコンは父がマンハッタンカフェで母父はレモンドロップキッド。レモンドロップキッドはスピードタイプの馬だが、スプリンター的なスピードではなく、中距離でスピードを持続させていくタイプだ。レモンドロップキッドの父は万能性に富むキングマンボ。血統的に3000mがマイナスになることはないだろう。 1番人気で4着に沈んだエポカドーロの敗因はスタート直後の躓きで、自分の形に持ち込めない状況でも大きく崩れなかった結果に皐月賞馬の地力を見ることはできた。能力は持っている馬だ。素直にそう思う。 しかし、そこまで攻めていると思えない調整過程で、馬体重は春から4キロのマイナス。ファンの方はこの数字をどう考えたのだろうか? 私はとても好意的に考えられなかった。このレースは前哨戦であり、その結果よりも本番に向けての手応えをつかむことが重要。もちろん、ここを叩いて状態を上げていくことも、その要素の中に含まれている。競馬は点でなく、線で考えるものだからだ。 好成績を残す藤原英昭厩舎なら、そんなことは百も承知であり、菊花賞に向かうための競馬にしたかったはず。しかし、今回の1戦はそうはならなかった。菊花賞までの詰まった日程で、攻めの強度を上げながら、体を増やしていく作業は非常に困難。その難しさは私も経験している。スペシャルウィークのような傑出した馬であってもそうだったからだ。 菊花賞までの時間をどのように使うか? 距離適性や同型との兼ね合いうんぬんよりも、状態面の底上げのほうがポイントであるように私は思う。今思えば、パドックから返し馬までの同馬は落ち着いていたのではなく、気合いが不足していたのかもしれない。オルフェーヴルの産駒であることを考えれば、もう少し気迫を出しても当然だったからだ。 〈古馬重賞〉 9/23(日) 中山11R 芝2200m オールカマー 1番人気のレイデオロがダービー馬の貫禄を示し、皐月賞馬のアルアインをゴール前で捕まえて勝利した。力量通りの決着。ゆえに今回のポイントは騎乗したルメール騎手の手腕と、レイデオロの今後に絞って話を進めたい。 毎週のように褒め称えているような気もするが、それも仕方がない。ルメール騎手のレース運びはソツがなく、汲んだ水を運ぶような丁寧な乗り方をしている。無理をしないポジションで運びながら、目標とするアルアインは常に視界の中。あとはスパートのタイミングのみという騎乗ぶりだった。 注目したいのは直線の進路取り。彼はアルアインの内にレイデオロを誘導してきた。外に持ち出すこともできた状況を考えれば、ルメール騎手らしくない博打的な騎乗と当時は思った。ファンの方にも同様の感想を持った人がいるのではないだろうか? しかし、彼には過去にアルアインの騎乗経験があり、同馬が外に張っていく癖を知っていた可能性が高い──と後に親しい新聞記者の方に聞いた。なるほど。それで私も合点がいったわけだ。 優れた騎手は自分の馬だけでなく、ライバル馬の動向も常に気にかけており、以前に騎乗した馬であれば、その癖もしっかりと把握している。ルメール騎手が内へと馬を誘導したのは必然。そう考えれば、今回の1戦に対する彼の評価はさらに高くなる。 レイデオロという馬はルメール騎手の手腕によって、活かされている部分もかなりある。今後、彼のお手馬──例えば、アーモンドアイのような馬とかち合った場合、ルメール騎手が継続して騎乗してくれるのか、否かで活躍の度合いも大きく変化してくるだろう。 正直、勝つには勝ったが、少しうるさい面を見せていたパドックでの所作から、昨秋から大きな変化のない馬体面の成長も含めて、秋の主役は決まり、と思えるほどのインパクトは感じられない。できれば、もう10キロくらいは増えて欲しいところなのだが…。天皇賞に出走するにしろ、ジャパンCまで待つにしろ、この秋の急激な成長は期待できないと私は思う。放牧先で増やしてくるというパターンこそが、競走馬にとってはベストなのだ。 仮に2000mの天皇賞に挑戦した場合──。少なくとも、血統的なマイナス面は感じない。彼の母父はシンボリクリスエスだが、祖母のレディブロンドはシーキングザゴールド産駒のスプリンター。潜在的なスピードは十分に持っているはずだ。 〈オープン戦〉 9/23(日) 中山9R 芝2000m 芙蓉S 勝ったミッキーブラックはなかなか奥の深そうな馬で、今回の1戦でも着差以上の強さを私は感じた。直線入り口で並んでいく瞬間の脚、後ろの馬に迫られた瞬間のフットワーク。これが走る馬のそれだったからだ。 もちろん、スローペースを見越して動いたルメール騎手の手腕も光ったが、それを可能にしたのも、長く脚を使えるミッキーブラックの資質の高さがあればこそ。来春うんぬんの話は時期尚早だが、暮れのホープフルSは十分にチャンスがあると思う。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【9月15日・16日・17日開催】セントライト記念、ローズSのレース解説

    〈3歳重賞〉 9/17(月) 中山11R 芝2200m セントライト記念 最も注目を集めた馬はレイエンダで、私もこの馬が普通に勝つものと思っていた。血統的な側面はもちろん、これまでのレース内容がどれも圧倒的だった。初の重賞挑戦といっても、3歳限定のレースであれば難なく通過できると考えたわけだ。 結果的には2着に終わり、初めての敗戦を喫してしまったわけだが、個人的には悲観する内容ではなかったと思う。4コーナーで他馬が手を動かしているときも、鞍上はまだ仕掛けるタイミングを待っていたように見えたし、勝ち馬のしぶとさが今回は上回っただけで、この馬自身は最後までしっかりと伸びていた。能力の一端は見せたのではないだろうか。 今回は道中の位置取りが少し後ろ過ぎた。そんな印象だ。それも今後の距離延長に対応するため、折り合いなどを考慮しての騎乗だったのであれば、仕方のない側面もある。キャリアの浅い馬が今後を見据えたレースをするのは、往々にしてあることで、それは責められることではないからだ。 競馬は点ではなく、線で見るべき──。私が常日頃から言っている言葉。今回の経験が活きてくる日は、必ず来ると思う。 さて、注目の今後だが、天皇賞(秋)は賞金的に出走が難しくなり、距離適性が微妙な菊花賞ではなく、暮れの阪神で行われるチャレンジCを視野に入れているような報道も出ている。もちろん、それでも構わないと思うが、その一方で菊花賞に出てきたとしても軽視は禁物。それが現段階での私のジャッジだ。 融通性があるとはいえ、父のキングカメハメハは3000mがベストの種牡馬ではないし、シーキングザゴールド産駒の祖母レディブロンドはスプリンターでもあった。しかし、この馬の母父は長距離適性の高いシンボリクリスエスであり、なによりもウインドインハーヘアという名牝を祖に持つ母系の出身。他の馬にない特別なものを持っている血統は、それだけで大きな可能性を秘めていると考えていいだろう。 現在、3000mの競馬においてもスピードが必要となっており、それを阻害するものが折り合い面の不安──そんな図式になっている。そのような考え方で今回の1戦を見たとき、変に行きたがる面は見せなかったレイエンダのパフォーマンスに減点すべき部分はない。3000mも上手に走れそうな気がする。 予想以上に多くの行数を2着馬のために割いてしまったが、勝ったジェネラーレウーノも恵まれて勝ったわけではない。この馬についても私の詳しい見解を述べていこうと思う 前が飛ばしていたように見えても、実際はそこまでのハイペースではなく、前が残りやすい中山のコース特性を活かした競馬ができた。その意味ではレイエンダよりも勝ちやすい状況にあった、と言えるかもしれない。 ただし、ジェネラーレウーノと似たような位置にいた馬は軒並み失速し、この馬自身も3コーナーを過ぎたあたりから手を動かさないといけなかった。道中のラップタイムが示す以上にタフな競馬だった可能性はありそうだ。 なによりも興味深いのは、あそこまで悪い手応えであったにもかかわらず、そのまま押し切ってしまったジェネラーレウーノのしぶとさ。あのしぶとさはどこから来るのだろうか? と私は考える。その究明こそがジェネラーレウーノの可能性を示すものであるように思うからだ。 母父がロックオブジブラルタルで、その先にはストームキャット。この母系は距離延長を歓迎するものではなく、父のスクリーンヒーローはゴールドアクターのような長距離馬も出している反面、モーリスのようなマイラータイプも輩出する二面性を持っている。どちらかと言えば、マイル色のほうが強いだろうか。少なくとも、距離延長をプラスにする配合ではない。これがジェネラーレウーノの血統に対する一般的な見解だと思う。 だが、今回のようなしぶといレースぶりを見せられたとき──。私はスペシャルウィークのライバルであった父父グラスワンダーの影響を感じてしまう。あの馬と一緒に競馬をしていた経験があるのでわかるのだが、グラスワンダーは切れだけではなく、それなりの位置を取れるスピードとしぶとさを兼ね備えていた馬だった。高い心肺能力で長く脚を使う。それはグラスワンダーがステイヤー系に属されているロベルト系シルヴァーホーク産駒だったことと無関係ではないだろう。 ある程度のスピード血統が入っていても、3000mの距離を克服できる時代になった。キタサンブラックはその象徴と言える存在だ。あの馬の存在がある以上、このジェネラーレウーノの血統構成であっても、距離を克服する可能性を我々は探らなくてはならないのだ。 9/16(日) 阪神11R 芝1800m ローズS 一般的に決め手に秀でているとされるディープインパクト産駒だが、母系の影響でタイプの違う馬も出る。豊富なスピードを持続させていくカンタービレのパフォーマンスは、ディープインパクトというよりも母父ガリレオの産駒が見せるそれに近く、そのようなパフォーマンスをしながら、どこかで1ハロン10秒台の切れを入れることができるのが、ディープインパクトの力と言えるかもしれない。 いずれにしろ、前に行けるスピードのある馬が、速い上がりも使えてしまうというのは相当に大きな武器で、これは京都内回り2000mという条件で行われる秋華賞の舞台設定を考えたとき、相手がアーモンドアイであっても脅威に感じさせることができると思う。 中盤から追い込んできたサラキアなどのほうが強い競馬をしたように見えるかもしれないし、実際にその可能性はあるだろう。だが、外回りの長い直線を活かし、豪快に追い込んでローズSを制した馬たちが、本番でどこまでの活躍を見せたというのか。思いつかなくて当然だろう。ほとんどいないのだから。 秋華賞は先行力と自在性を問う1戦だ。そのような意味では本番に期待が持てる馬が前哨戦を勝った、と言っていいだろう。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【9月8日・9日開催】セントウルS、京成杯AHほかレース解説

    〈古馬重賞〉 9/9(日) 阪神11R 芝1200m セントウルS ファインニードルがGI馬の貫禄を見せて完勝した──と言えば、簡単に話が終わってしまうレースだが、実際はそれほど簡単に勝てるレースではなかったと思う。 その理由は58キロ。しかも、道悪である。軽い馬場であれば、脚を叩きつける反動を利用して、前に進むこともできるが、道悪は違う。一歩進むごとに重い斤量が応え、斤量の違いが与える影響が出てきてしまうものなのだ。 3歳牝馬のラブカンプーがネロとの激しい先行争いを制して、2着に粘っているが、それは彼女に能力があっただけではなく、52キロの斤量の恩恵があればこそ。この馬自身にとって、道悪は歓迎でなかったかもしれないが、軽い斤量が他馬との比較で有利になった。だからこそ、1頭だけ58キロを背負っていたファインニードルの強さを考えなくてはならない。 手前を頻繁に替えていた追い切りの動きを見る限り、絶好調の状態ではなかったように感じたし、レース後の川田騎手のコメントにもそれは記されていた。 それも考慮すれば、次のスプリンターズSは相当に有力だろう。 キーンランドCのレース検証では勝ったナックビーナスに対し、「本番でも相当に有力」と高い評価をさせてもらった。もちろん、本番までの調整過程や追い切りの動きなどを加味して結論を出すつもりではあるが、今回のレースを見た印象では「ナックビーナスよりもこちらのほうが強そうだ」。 それほど印象に残るレースをしたと思う。 9/9(日) 中山11R 芝1600m 京成杯AH 終わってみれば、ディープインパクト産駒のワンツー。全体の時計がそれなりに速く、なおかつ33秒台の上がりタイムが求められるような状況において、ディープインパクト産駒は本当に強い。そんな印象を持った。 勝ったミッキーグローリーの母は北九州記念を勝ったメリッサで、彼女の本質はスプリンター。しかし、メリッサ自身の血統は、スプリンターのそれとイメージが異なるもので、彼女の父はホワイトマズル、母父はトニービンだった。どちらかと言えば、クラシックディスタンスで活躍を期待したくなるような配合だ。 ストームキャット、フレンチデピュティといったダートの短距離系との相性の良さはすでに周知の事実で、最近ではファストネットロックやロックオブジブラルタルのような馬との掛け合わせも増えているディープインパクト。 だが、それらの馬は総じて値段が高い。メリッサのように一見すると長距離志向に思わせながら、実際は短距離馬という繁殖を狙ったほうが、ディープインパクト産駒は面白いのではないだろうか。 ちなみに2着だったワントゥワンの母ワンカラット。彼女も自身は短距離馬だが、父のファルブラヴはジャパンCを勝っている馬で、その傾向はミッキーグローリーに似ている。やはり、この考えは理にかなっているのだ。 改めてミッキーグローリーの話に戻すと、非常にいいパフォーマンスで勝てたと思うし、5歳でもレースの数を使っておらず、まだ馬に伸びしろがある。相当な馬格もあるので使い減りもしないだろうし、遠征も応えないだろう。 将来性豊かな馬という結論を出しておきたい。 〈3歳重賞〉 9/8(土) 中山11R 芝2000m 紫苑S 勝ったのはハービンジャー産駒のノームコア。同馬の産駒は成長力が豊かで、3歳春の時点でそこまでのパンチ力がなくても、ひと夏を越えれば、きっちりと帳尻を合わせてくる。2着につけた3馬身差は完勝というべきもので、抜けてくる瞬間の脚の速さも格別だった。 アーモンドアイと五分に戦えるか? という質問をされれば、おそらくは「難しい」と答えると思うが、それは相手が別格だからであって、この馬自身は春よりも明らかに強くなっていると思う。 今回のレースで気になったことを2つほど話そう。 まずはルメール騎手の騎乗について。この日は風が強かったらしく、彼はそれを頭に入れて、あえて前に馬を置いたようなコメントをしていた。実際にレースを再確認してもらえればわかることだが、外枠からスタートしたはずのノームコアが、向正面では馬群の中に誘導され、他馬を風除けのように使っていることがわかる。この豊かな感性。これこそが彼をリーディングへと押し上げている理由の一つ。なぜ、彼が勝ち続けているのか、を示す事例だった。 もう1つはノームコアの血統。先ほどは父のハービンジャーについて書いたが、目を凝らして注目すべきは母系のほう。祖母のインディスユニゾンは名牝フサイチエアデールと全妹にあたる血統の馬で、クロフネを父に持つクロノロジストという馬は、2歳チャンピオンにもなったフサイチリシャールと同配合。大舞台に出てくる馬というのは、何かしらの血統的なバックボーンを持っているものなのだな、と改めて感心させられた次第だ。このような馬はGIでも格負けしないと思う。 〈条件戦〉 9/8(土) 中山9R 芝1600m アスター賞 デビュー戦を見た印象から阪神JF、桜花賞でも面白い馬と評したグレイシア。彼女が登場した中山土曜の「アスター賞」を今回は取り上げたい。 圧倒的な1番人気の支持を受けての出走となったが、それはデビュー戦を見て、私と似た感想を持った方が多かったということだろう。 ただし、楽々と逃げ切った初戦と違い、今回は出遅れて最後方から追い込む形。さすがにこれには驚いたし、結果的に能力の高さを改めてアピールすることにもなったのだが、このようなレースをしていると、次は危ないかもしれない。 少頭数の競馬であれば、能力の違いでどうとでもできるが、多頭数の競馬で捌く形は簡単ではなく、思わぬ落とし穴にハマることもある。もし、これが癖であるのであれば、早い段階での矯正が必要ではないだろうか。 とは言うものの、能力の高い馬であることははっきりとしており、前記した阪神JFや桜花賞でも期待を持てると思う。跳びの大きいフットワークを見れば、広いコースのほうが向いているはずで、そのような意味でも阪神マイルでの本番は楽しみだ。 今回の1戦で私が言いたいことは2つ。 初戦をぶっちぎりで勝つような馬は、他の馬と違う何かを持っていると考えるべき。そして、彼女は1月26日の早生まれ。すでに完成されている、もしくは完成する時期は近いということだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【9月1日・2日開催】新潟記念、札幌2歳Sほかレース解説

    〈古馬重賞〉 9/2(日) 新潟11R 芝2000m 新潟記念 語るに値する馬は勝ち馬のブラストワンピースのみだろうが、すでに各紙で絶賛されているように、ケチをつけるところのない完璧な強さ。今後が非常に楽しみになった。 今回のレースでのポイントは2つ。まずは菊花賞路線に進んだ場合の距離克服について話したい。 この馬の血統表を見る上で、引っ掛かるところがあるとすれば、母ツルマルワンピースから見て母の父にあたるフジキセキの存在。短距離色の強いフジキセキの影響の強さが、馬格のあったツルマルグラマー、その娘であるツルマルワンピース、今回のブラストワンピースにまで繋がっているのだとすれば、3000mという距離は決して適距離とならない。厳しい戦いとなるだろう。 しかし、それ以外の血統を見た場合、母父には柔軟性に富むキングカメハメハ、フジキセキよりも先にはエルグランセニョール、グロースタークと距離不問の馬たちが並ぶ。むしろ、距離延長は歓迎の血統構成だ。この系統からは天皇賞(春)で2着に好走しているアルナスラインも出ているが、この馬も500キロを大きく超える馬格のあった馬。体のサイズは問題にならないと考えたほうがいい。 父のハービンジャーが長距離志向なのは誰もが知るところで、今回のレースでは折り合い面の不安も見せていなかった。距離克服が可能なだけでなく、有力視される1頭として考えるべき馬だと私は思う。 もう一つは、これだけの馬をトライアルではなく、ハンデ重賞に出走させたことについて。 札幌記念の項でも話をしたと思うが、トライアルから本番という日程が、必ずしも正解というわけではない。むしろ、夏場に一度仕上げ、少しだけガス抜きをしながら、ゆとりのある日程で本番へ挑むほうが、プラスになる場合もある。その後も続戦していくのであれば、できるだけ疲れのない状態にしておく──。調教技術の進んだ現在なら、こちらのほうが理解しやすい発想ではないだろうか。 日本ダービーでも注目されるなど、名前の売れているブラストワンピース。しかし、実際は重賞を一つ勝っただけの3歳馬で、古馬相手の重賞で重いハンデを課せられるはずもなかった。トリッキーな中山のセントライト記念、長距離輸送のある阪神の神戸新聞杯を使うよりは、頭数もそこまで多くなく、のびのびと走れる広い新潟のレースを使う──。暑さに耐えられる馬であるのなら、このようなローテーションの組み方はありだろうし、この日程が成功するようなら、これからも夏重賞をステップに秋の大レースへと挑んでいく馬が増えるかもしれない。 〈2歳重賞〉 9/1(土) 札幌11R 芝1800m 札幌2歳S 函館の新馬戦で名を売った馬などもおり、もしかしたら…と期待したが、今年もそこまでレベルの高い1戦にならなかった。 勝ったニシノデイジーは洋芝を得意とするハービンジャーの産駒で、その特徴を存分に活かした形。距離延長は問題ないだろうし、4月18日の遅生まれ。これからの成長度も少しは期待できるが、中央場所では今回のような上がりの遅い競馬は望み薄。難しい戦いを強いられる気がする。 2着のナイママは見た目の印象通りの早仕掛け。内容的には勝ち馬より上と言えるだろう。あれだけ脚を使わされたにもかかわらず、差し返そうとした根性には恐れ入ったが、この馬も軽い芝に替わったとき、同じようなパフォーマンスを見せることはできないはずだ。 実は彼の父であるダノンバラードに私は注目している。その理由はいずれ話すとして、ナイママが中央場所でどのような走りをするのか、によって、ダノンバラードに対する期待値も大きく変動してくるのは事実だ。できれば、私の予想を裏切り、軽い芝でも結果を出してくれると嬉しいのだが。 1番人気で3着のクラージュゲリエは、まだ競馬の形を知らない。コーナーは逆手前で曲がりきれず、走りのバランスもチグハグ。それでも、3着まで押し上げてくるのだから、能力は持っていると言えるだろうが、現状では人気ほどの信頼度はない、と考えていいだろう。 9/2(日) 小倉11R 芝1200m 小倉2歳S 中距離の新馬戦が増えていることもあるのだろうが、このレースのレベルは年を経るごとに低下しているように感じる。 今年の勝ち馬ファンタジストの勝ちっぷりは文句なしで、少しでも展開が変わりそうな2着以下の馬とは明らかに違う能力を持っている馬とは思う。16キロ増の馬体重でも太めには感じず、それを素直に成長と受け止めれば、また収穫の大きいレースだった、と言えなくもない。 しかし、勝ち時計の1分8秒9は、この日のそれまでのレースの時計との比較で、ややパンチ不足だ。悪くても、8秒台の前半は欲しかった、というのが私のジャッジ。時計は能力を証明する一つのバロメーターであり、それは距離の短いレースのほうがストレートに出やすい。2歳戦とはいえ、重賞レースが3歳の未勝利戦よりも遅いというのは、少し寂しく感じる。 今後は距離延長に挑戦していくことになるだろう。父はロードカナロアだが、母父はディープインパクトで、その先はデインヒル。マイルくらいまでなら問題なくこなすと思う。だが、ここでも問題となるのは能力の問題。中央場所でデビューした強い馬を相手に、重賞勝ち馬らしいところを見せられるかどうか。そんなに簡単ではない、と私は思う。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【8月25日・26日開催】キーンランドC、新潟2歳Sのレース解説

    〈古馬重賞〉 8/26(日) 札幌11R 芝1200m キーンランドC 勝ったナックビーナスの強さばかりが目立ったレースだった。なにより他馬とはスピードの絶対値が違う。これだけスピードが違えば、レース運びは簡単になるだろうし、無理に逃げている印象もないので、仮に競りこまれるようなことがあっても自分のペースを守ればいい。抑えると引っ掛かってしまうので、仕方なくハナに行っているような馬ではないのだ。 競馬で注文が付かないので乗っている騎手も安心、送り出す陣営も安心。しかも、この馬は牝馬と思えないほどの馬格に恵まれている。スピードに加えて、ゴール前の急坂を克服するためのパワーも必要な中山コースに最適のタイプだ。スプリンターズSでも有力視されるだろうが、それも当然と思う。 最後に今回の彼女の馬体重は前走比で増減ゼロの522キロだったが、私の目には余裕を残した体に見えた。馬体減りの心配をする必要のない馬ではあると思うが、北海道から美浦に戻してGIに挑むことを考えれば、ここでびっしりと仕上げるのは得策ではない。本番まであと1か月。「競馬は点でなく、線で見なくてはいけない」ということを覚えておいてほしい。 2着以下の馬についてもサラリと。3歳馬のダノンスマッシュはナックビーナスについていく形で競馬をし、直線で突き放されはしたものの、重賞にも対応できるスピードをしっかりとアピールした。ナックビーナスに勝てるイメージはなく、現状のままでGIに挑戦しても勝つ確率は低いだろうが、この馬はまだ3歳馬で成長の余地がある。今回のような競馬を続けていれば、どこかでチャンスがあるはず。 気になったのはレッツゴードンキの5着。スプリント戦で崩れることが少ない馬なので、見せ場のないレースぶりは少し気になった。ひと叩きした次走は状態も上向いてくるだろうし、反応も変わってくるはずだが、一線級を相手に走り続けてきた6歳牝馬。下降線に入っているという可能性も考えておきたい。 〈2歳重賞〉 8/26(日) 新潟11R 芝1800m 新潟2歳S ずいぶんと馬場の外を選択する馬が多いな、と思いながら見ていた。逃げていた馬も馬場の真ん中あたりを走っていたわけだし、実際に内を通った馬は伸びきれていない。内と外の差があった馬場で行われたレースと記憶しておくといいかもしれない。 勝ったケイデンスコールも最初から外に持ち出すことを決めていたかのようなレースぶりだった。素晴らしい決め手を持っているが、抜けてからフワっとした走りには若さが残っているし、この血統は晩成傾向の強い馬が多い。今回の勝利で重賞ウイナーの仲間入りをしたわけだが、これからさらに成長してくるのではないかと思う。 血統の話をすれば、父がロードカナロアでも母父はハーツクライで、母インダクティは目黒記念やアルゼンチン共和国杯などを勝っているフェイムゲームの全姉。走りに遊びもあるので、2000mくらいまでは問題なくいけるだろう。アーモンドアイがそうだったように、飛び抜けた能力を持っているのであれば、さらに長い距離も克服していくはずだ。 2着アンブロークンはヴィクトワールピサの産駒らしい力強い馬体の馬で、まだ少し余裕を感じた体の作りからも成長の余地はあると思うが、パドックでの所作というか、醸し出す雰囲気がケイデンスコールほどではなかったように感じた。クビという着差だけを見れば、実力はそこまで離れていないように思うかもしれない。しかし、私には決定的な能力差が2頭の間にあるように見えたのだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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