先週の2~3歳戦や重賞レースを“調教師の視点”から解説!

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    【10月14日・15日開催】秋華賞、府中牝馬Sほかレース解説

    〈3歳重賞〉 10/15(日) 京都11R 芝2000m 秋華賞 すでに多くの方が指摘しているように、ディアドラに騎乗したルメール騎手の手腕が光ったレースだった。外枠からの発走でスタートもひと息。3コーナーまでの位置取りは苦しいものだったはずだが、そこからスッと馬群の最内に入れ、あっさりとポジションを上げることに成功。4コーナーで前を捕まえる位置を手に入れたところで勝負は決まった。 もちろん、それを可能にしたディアドラの能力も誉めてあげなくてはならない。札幌から使い出したにもかかわらず、今回の馬体重は12キロも増えていた。その充実ぶりには目を見張るもので、さすがはソニックレディの血を持つ馬と感心した次第。この馬の血統に関しては、後述させてもらうつもりだ。 2着のリスグラシューもスタートの後手を上手にリカバリーし、いつの間にか4コーナーで前を見る位置に押し上げた。パトロールを確認すれば、武豊君のソツのない騎乗ぶりに感心すると思う。セオリーに沿った騎乗をしたのはリスグラシューであり、ディアドラの乗り方は一か八かと表現していいもの。もちろん、内がぽっかりと開いた瞬間を見逃さなかったからこその好騎乗ではあるのだが、本来は豊君の騎乗が正解であることは知っておいてほしい。 3着のモズカッチャンも前哨戦とは違う競馬をし、一瞬は勝ったかと思えるほどの走りを見せた。この馬に騎乗したのはM.デムーロ騎手。「騎手で買えば馬券は当たる」と多くのファンの方が感じていると耳にするが、その意見には私も同調する。彼らが勝てる馬に乗っているのは間違いないが、勝てる馬を勝たせる技術を持っていることが関係者の信頼を生むのであって、秋華賞で上位に来た3名の騎手と他の騎手とでは、そこに明確な差が出ているように思う。特殊な馬場状態、トリッキーなコースだからこそ、騎手の手腕が目立つレースとなったのかもしれない。 血統的な見地から見れば、ハービンジャー産駒のディアドラとモズカッチャンが1、3着。産駒のGI勝ちは今回の勝利が初めてだという。言うまでもないことだが、その背景には「重」と発表された当日の芝状態がある。 現役時代のハービンジャーは「良馬場のスピード勝負に強い」という認識で、実際にケープブランコを11馬身もちぎったキングジョージはレコード勝ちだった。ゆえに日本で種牡馬入りすることになったわけだが、欧州のスピード馬と日本のそれには大きな隔たりがあり、2400mでレコード勝ちする馬であっても、日本のスピード馬場では通用しない。これまでのハービンジャー産駒がGIを勝ちきれなかったのも、速い馬場でのスピード、瞬発力でディープインパクト産駒などに見劣ってしまっていたからで、重馬場要因とまでは言わないが、良馬場の瞬発力勝負でGIを勝たない限りは、ハービンジャー産駒の評価が大きく上がることはないかもしれない。 ディアドラの血統についても触れておきたい。彼女の体内には多くの活躍馬を送り出した名牝ソニックレディの血が流れており、それが大舞台での活躍に繋がっているのは確か。ただし、母父であるスペシャルウィークを管理した私の立場からすれば、彼に対する注目も忘れないでほしいと思う。 スペシャルウィークは見た目もさることながら、その血統背景に惚れ込んで管理することを決めた馬だ。シラオキの流れを汲む日本古来の母系は底力に溢れ、母父のマルゼンスキーは豊富なスピードを持っているだけでなく、あらゆるタイプの産駒を輩出した万能型の種牡馬だった。サンデーサイレンス産駒らしいしなやかさを持ちながら、道悪のような馬場を苦にしなかったのも、母系のサポートによるところが大きいと考えている。 スペシャルウィークは種牡馬として大成功するところまではいかなかった。しかし、ブルードメアサイアーとして大成する可能性は十分にあったわけで、私と同じことを生産者も考えたからこそ、スペシャルウィークを肌に持つ繁殖牝馬の数は多い。その中からディアドラのような馬が誕生してくることに、私は大きな喜びを感じる。 ハービンジャーの産駒が良馬場で勝つことは難しいと前述した。だが、スペシャルウィークとソニックレディの血を持つディアドラは違うかもしれない。そうなってくれることを私は望んでいるのだ。 〈古馬重賞〉 10/14(土) 東京11R 芝1800m 府中牝馬S 勝ったクロコスミアは5月17日の遅生まれ。4歳秋になって本格化しているのだろうし、重賞を勝ったことは素直に讃えたいが、このレースは1000mの通過が1分1秒9。スタートし、前半のペースを確認した時点で「これは逃げ切られたな」と感じた1戦だった。 むしろ、次のGIという観点でコメントをするのなら、56キロの斤量を背負いながら、上位にきた2-4着馬の名を取り上げるべきだろう。この3頭と他の出走馬との間には明確な力量差があるように感じた。 まずは2着のヴィブロス。好位の内で脚をため、直線でもスムーズなさばきを見せて前を追った。勝ち馬との差はクビ。今回の展開を考えれば、上々の内容と言えるだろう。ドバイターフを勝った実力を再認識させてくれたレースだったのではないだろうか。 3着のアドマイヤリードは上位馬の中で最ももったいないレースをした。直線で突くスペースがなく、外へ外へとスライド。追い出すタイミングがどれほど遅れてしまったかは、パトロールを見れば明白だ。残り200mを切ってからの伸びは際立っており、今回のレースで最も強い競馬をしたのはこの馬と言っていいかもしれない。重ねて言うが、本当にもったいない競馬だった。 4着クイーンズリングがスタートの出遅れが響き、道中の位置取りが悪くなってしまった。今回のペースでは前が開かず、距離ロスの多い大外を回るしかない状況。4コーナー手前から押し上げに入ったデムーロ騎手の判断はさすがだったが、挽回をするには展開が厳し過ぎた。それでも大きく負けておらず、この馬も次走のGIで巻き返すことは可能。悪くない前哨戦と考えていい。 〈新馬戦〉 今週は金子真人オーナーの2頭をピックアップした。 10/15(日) 東京3R 芝1600m メイクデビュー東京 まずは日曜東京の芝1600mを勝ったオハナ。名マイラーだったノースフライトを祖母に持つ血統馬で、父はディープインパクト。着差はクビとわずかなものだったが、前を捕まえる瞬間の脚はかなり速く、バネを感じさせる走りっぷりもいい。素材は確かだろう。ただし、彼女の馬体は412キロしかなく、桜花賞に出走した際には長距離輸送が必要になる関東馬というところも難しい。3歳牝馬の春は特に体調管理が難しく、ちょっとしたことで体重が大きく減る。ゆえに馬格がないことがハンデになってくるのだ。桜花賞までのローテーションも含め、考えるべきことが多い馬のように思う。 10/15(日) 京都5R 芝1800m メイクデビュー京都 京都では重賞勝ち馬のクロカミを祖母に持つフォックスクリークが、素質馬が揃うとされた芝1800mを勝ち上がった。走るフォームのいい馬だが、楽に好位を取り、まるで厳しくない競馬で勝ち上がった点に一抹の不安を覚える。もちろん、ストレスのない競馬はいいことなのだが、あまりにも楽に勝ち過ぎた勝利は「センスだけ」と言い換えることもできるほど。先々はともかく、次走も確勝級と言えない根拠がここにある。競走馬、特に完成度の低い2歳馬は競馬の中でしか覚えられないことが多く、目標のレースに至る過程で、それをどれだけ覚えていけるのかが重要。そのような意味ではもったいない1戦と表現できるかもしれない。 〈条件戦〉 10/14(土) 東京9R ダ1600m プラタナス賞 新馬戦を勝ち上がった際も「重賞級」の評価をしたと思うが、プラタナス賞を楽勝したルヴァンスレーヴのパフォーマンスには今回も驚かされた。「モノが違う」というフレーズはこのような馬のためにあるものだと思うし、今後も勝ち続けるだろう。ドバイやアメリカの競馬に挑戦してほしい大器だと思う。 この馬の不安材料をあげるとするなら、それは1月26日の早生まれという点だろうか。実際、パドックでの姿はすでに完成した馬のそれに見えた。精神面はともかく、これから急上昇していく馬ではないと思う。 ただし、芝のレースと違い、ダートは消耗度が少なく、馬が長持ちする。高齢まで活躍する馬が多いのもそのためだ。彼の今回のレースは消耗度がゼロと言ってもいいほどで、このような競馬を続けることができれば、馬への負担も極端に小さい。早熟であることは間違いないが、そこにこだわる必要のないタイプかもしれない。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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    【10月7日・8日・9日開催】毎日王冠、京都大賞典ほかレース解説

    〈古馬重賞〉 10/8(日) 東京11R 芝1800m 毎日王冠 ソウルスターリングの登場で例年以上の注目が集まった今年の毎日王冠。触れるべき馬が多いので、上から順番に触れていきたいと思う。 まずは1着のリアルスティール。状態が素晴らしかったことも勝因の一つと思うし、仮にもドバイターフを勝っている馬。その能力を発揮できれば、これくらいの結果を出して当たり前ではあった。その反面、今回のデムーロ騎手の騎乗はひとつのミスもないと思えるほどのソツのない騎乗で、道中の位置取りから追い出すタイミングまで、そのすべてが完璧。次の天皇賞でも有力な1頭であることは間違いないが、前さばきの硬いタイプでディープインパクト産駒にしては切れがない。追い出しのタイミングが少しでもずれてしまうと、今回のようにはいかないだろう。覚えておきたいポイントだ。 2着サトノアラジンのレースぶりも評価できる。58キロを背負い、リアルスティールをクビ差まで追い詰めた結果もさることながら、同じ4キロの体重増ではあっても、リアルスティールよりもサトノアラジンのほうが馬体に余裕を感じた。どちらが先を見据えた作りだったのかと言えば、間違いなく後者だったと思う。さらに200mの距離延長を取り沙汰されるかもしれないが、今回のような走りが出来るのなら、2000mは問題なくこなせる。自身のリズムで競馬が出来るかに尽きるだろう。 3着グレーターロンドンはサトノアラジンよりも後ろの位置から追い出し、同じ上がり3Fの脚を使いながら、勝負圏内に入ってくることができなかった。田辺騎手は達者なジョッキーではあるが、今回に関しては消極的な騎乗だったと思う。なぜなら、グレーターロンドンは賞金的に天皇賞の出走が微妙な立場だったからだ。有力馬と同じ位置から競馬をして、どれだけ通用するのかを確認する乗り方での3着ならあきらめもつく。末脚勝負に徹して一発を狙う騎乗は本番でするべき騎乗。正直、もったいないレースだったと思う。 6着のマカヒキはあまりに見せ場がなかった。敏感なタイプのマカヒキに対し、テンから出していった騎乗には色々な意見があるだろう。だが、そのようなことを考慮しても、直線で伸びきれなかったマカヒキの姿はダービー時のそれとは大きく違ってしまったように思うのだ。1月の早生まれ。ピークは過ぎてしまったのかもしれない。 1番人気の支持を集め、どの馬よりも注目されたソウルスターリングは8着。当日のテンションの高さうんぬんを敗因とし、勝ったリアルスティールから0秒5差ならば、その能力を見限ることは出来ない──そのように考える向きもあるだろう。しかし、私の考えは違う。1000mの通過は1分ジャストのスローペース。決め手勝負では分が悪い馬であったとしても、勝ち馬から0秒5差は負け過ぎだ。悪くても1馬身とちょっと。数字でいうなら0秒3差までが許容範囲ではないかと思う。天皇賞でも人気はするだろうし、状態も上がってくるのかもしれない。しかし、今回の競馬から逆転するのは至難の業だろう。凱旋門賞のエネイブルを見たあとで、ソウルスターリングにも彼女のような怪物級の走りを期待していただけに、ちょっと残念な結果であった。 10/9(月) 京都11R 芝2400m 京都大賞典 上位の3頭以外は特に注目する必要のないレースになってしまった。ゆえに3頭に絞って話を進めたい。 まずは勝ったスマートレイアー。序盤は後方で脚をため、前が開くかどうかの可能性に懸けた騎乗。これ以上ないほどに上手くいったレースではないだろうか。もちろん、7歳秋の牝馬がこれだけの脚を使ったのだから、そこは誉めてあげなくてはならないが、このような競馬は何度もできるものではない。武豊君の腕がなによりの勝因で、エリザベス女王杯の本命馬に浮上と断定できないのもそれが理由。もちろん、有力馬の1頭であることに間違いはなく、あくまで不動の主役ではないという意味と理解してほしい。 2着トーセンバジルの岩田君も彼らしい騎乗で馬の能力を存分に引き出した。勝ち馬との差は決め手だけでなく、勝ちにいった岩田君と死んだふりがハマった豊君の差と言える。この馬の関係者、馬券を買ったファンに悔いはひとつもないだろう。 一方、1番人気で3着に敗れたシュヴァルグランはデムーロ騎手が珍しく消極的に乗った。聞いた話では「3コーナーの手応えがあまりに楽だったので、仕掛けるのを少し待った。失敗した」と言っているそうだが、まさにその通り。結果的に外を回らされてしまい、それが上位2頭との差に繋がった。競馬の内容としては最も強く、次に向けての不安は残らないレースと言えそうだ。 〈3歳重賞〉 10/7(土) 東京11R 芝1600m サウジアラビアRC 上位の2頭はかなりの大物だ。勝ったダノンプレミアムは6月以来の実戦で、関東への輸送があったにもかかわらず、どっしりと落ち着いた周回ができていた。楽に好位につけるスピードがあり、抜け出す瞬間も余裕十分。1分33秒0のレコードタイムは馬場の恩恵だけではなく、同馬の能力が傑出していたからこそ出たものと思う。その証拠に同馬のそばにいた先行馬は軒並み失速。掲示板に上がった馬のほとんどは差す競馬をした馬たちだった。 ディープインパクト産駒にしては頭が高く、しなやかさが少し足りない。ややパワータイプの印象もあるが、これだけのスピード、その持続力に長けているのだから、大きな問題とはならないだろう。GIを狙える馬だと思う。 2着ステルヴィオがルメール騎手のコメント通りで外枠が仇になった印象だ。3着馬との能力差は歴然としたものがあり、こちらもGIを狙える馬であることがはっきりとした。大物マイラーとして育つ可能性がある反面、1月15日という極端な早生まれであることから早熟の可能性も捨てきれない。朝日杯FSや来春までは大丈夫だろうが、その後の活躍は不透明だ。 〈新馬戦〉 10/8(日) 東京5R 芝2000m メイクデビュー東京 東京では日曜の芝2000mを勝ったブラゾンダムールがディープインパクト産駒。スッと2番手につけ、あっさりと抜け出した内容は、初戦としては文句のないものだ。あまりにもスローに流れたレースだったため、この1戦だけで大物と判断は出来ないが、次走に楽しみを残す走りをしたと思う。 10/9(月) 京都3R 芝1600m メイクデビュー京都 京都では月曜の2鞍が注目された。牝馬限定の1600mを勝ったソシアルクラブは名牝ブエナビスタの娘。注目度の高い馬ではあるが、少しハミがかりが良過ぎる気がする。勝ちっぷりは良かったが、クラシック級と持ち上げるほどの馬ではないかもしれない。 10/9(月) 京都5R 芝1800m メイクデビュー京都 一方、1800mを勝ったタングルウッド、2着のサトノエターナルは評判になっているだけのパフォーマンスを見せたと思う。特に前者にはいいスピードがあり、後続を突き放す瞬間の脚も速い。血統的に距離の限界は出てくると思うが、優秀なマイラーに育つ可能性は高そうだ。 〈未勝利戦〉 10/8(日) 東京2R 芝1600m 2歳未勝利 未勝利戦を取り上げるのはなんだが、私が管理したフサイチパンドラの子であるアーモンドアイという馬が非常に強い勝ち方をしたので、最後に取り上げたい。正直、ようやく出てくれたとの気持ちがあるし、我慢して持ち続ける牧場の体力には頭の下がる思いもある。しかし、パンドラのスピードを上手に伝達することができれば、重賞級の馬を輩出してくれるはず…と常日頃から思っていた。同じくスピードを武器にするロードカナロアというパートナーを得て、それが実現したわけだが、ロードカナロアやフサイチパンドラのようにスピードを売りにしているのではなく、まるでディープインパクト産駒のような切れを見せての勝利だったところが面白い点。母父であるサンデーサイレンスの特徴が出ているのだろうか。いずれにしろ、昇級しても楽に通用すると思う。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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    【9月30日・10月1日開催】凱旋門賞、スプリンターズSのレース解説

    〈海外重賞〉 現地時間10/1(日) シャンティイ4R 芝2400m 凱旋門賞 私用で休載させて頂いた先々週の総括から始めたい。 まずは多くの競馬ファンが注目した凱旋門賞。勝ったエネイブルの強さだけが際立っていたレースではなかっただろうか。多くの方が私と同じ考えを持っていると思うが、これほどの馬を見る機会は簡単に訪れるものではない。これまでに多くの名牝が凱旋門賞を勝っており、最近ではオルフェーヴルに勝ったトレヴが最も有名な存在。私もトレヴのレースを現地で見ているが、実際に素晴らしい馬と感じたものだ。 しかし、今年のエネイブルはこれを超える存在だろう。もしかしたら、凱旋門賞の歴史の中で最も強い牝馬の可能性まである。いやはや、世界にはとんでもない馬がいるものだ。久しぶりに興奮する凱旋門賞であったと思う。 レースに関しての見解、検証はすでに終わっていると思うので、私なりに見たエネイブルについて、参考程度に触れておくことにする。 彼女の血統はサドラーズウェルズの3×2。野心的とも実験的とも取れる強烈なインブリードは、生まれてくる馬のイメージを配合段階から作っていないと挑戦できないものだ。このような配合は生産馬に対しての全責任を取ることができるオーナーブリーダーのほうがチャレンジしやすく、セールに出すことを前提とする生産では難しい。日本でも社台グループのほうが実験的なインブリードに挑戦しているが、これもオーナーブリーダーであることが前提になっていると考えていいだろう。 エネイブルの母コンセントリックは、凱旋門賞で2度の2着があるフリントシャーを産んだダンスルーチンの全妹。父がサドラーズウェルズ、母父にシャーリーハイツ、その先がイルドブルボンとスタミナ系の種牡馬を何代も重ねた配合の馬となっており、前述したフリントシャーの父にスピード豊富なデインヒル系のダンシリが選ばれているのは、この重たい母系が一因になっていると思う。 サドラーズウェルズの3×2というインブリードだけでなく、スタミナ型の母系に対し、キングジョージを勝ったナサニエルを掛け合わせたことも、かなり挑戦的と言っていいだろう。同馬の父は昨年の凱旋門賞で1~3着を独占したガリレオ。その父がサドラーズウェルズなのは前述した通りで、つまりはスタミナ系の母系にスタミナ系の種牡馬を掛け合わせた血統ということになる。スピード優先の日本ではありえない配合パターンで、間違った方向に行ってしまえば、致命的なスピード不足に陥る可能性もあるが、そのリスクをあえて背負ったことにより、豊富なスタミナを誇るエネイブルが誕生した。血統の面でも歴史の残る馬と言っていいかもしれない。 もちろん、エネイブルは極端な例であると思う。しかし、日本の馬が凱旋門賞を勝つのであれば、このような血統でも積極的に取り入れていかなくてはならないと改めて考えさせられた。 当然ながら、日本競馬では失敗に終わるケースのほうが多いだろう。ディープインパクトのような種牡馬を付けても成功するのは難しいかもしれない。しかし、そのような血統から日本のGIを勝てるような馬が登場したとき、初めて「チャンス」という言葉を発することができるのではないだろうか。 2着クロスオブスターズ、3着ユリシーズの母は全姉妹。母系の血統構成がまるで同じというだけでなく、前者の父はシーザスターズで後者はガリレオ。この2頭も名牝アーバンシーから生まれた兄弟だ。2頭の違いはシーザスターズの父がケープクロスで、ガリレオの父がサドラーズウェルズということだけだが、どちらもノーザンダンサー系の種牡馬。その血の流れは同じと考えることも出来る。つまり、今年の凱旋門賞は好走する血が決まっていたレースとも言えるわけだ。 かつて、私は欧州でこう言われたことがある。「サドラーズウェルズの血を欲しくないと言うのはオマエだけだ」と。しかし、私の答えは「ノー・サドラーズ」。日本の芝にサドラーズウェルズという種牡馬は合わない。サドラーズウェルズなら、カーリアンのほうがいい。その考えが正しかったことは日本の競馬史が証明してくれているが、ここで私が言いたいのは、そんな過去の話ではない。 適材適所ではないが、血統には適性が大いに関係する。日本ではサンデーサイレンス、オーストラリアならデインヒル、欧州ならサドラーズウェルズ。おのおのの種牡馬が活躍できたのは、その土地の競馬と自身の適性がマッチしたからだ。 日本とオーストラリアには共有する面が多少はあるが、それは芝の問題ではなく、気候の問題だと私は考えている。湿り気はあっても、燃えさかるような暑さがあるオーストラリアは芝の乾きも早い。なので、サンデー系の馬でも結果を出せるわけだが、どんな馬でも…というわけではなく、日本ではジリ脚に分類されるスタミナ系。ダンスインザダーク産駒のデルタブルースがメルボルンCを勝っていることが、その証明と言えると思う。現在なら、ハーツクライあたりが適任だろうか。 凱旋門賞も同じだ。ディープインパクト産駒でも凱旋門賞で好勝負できる馬は出るかもしれない。だが、それは母系のサポート──それこそエネイブルのような血統を持ち、エネイブルのような能力を持っている牝馬を相手に迎えることが必要になってくる。これが難しい。非常に難しい。エネイブルほどの馬を連れてくることも難しいし、このような配合の馬が日本で結果を出すことも難しい。ゆえに日本馬の凱旋門賞制覇は簡単ではないのだ。 オルフェーヴルは凱旋門賞で2回の2着がある馬。その成績だけを切り取れば、ディープインパクトよりも凱旋門賞に対する適性があると言えるかもしれない。オルフェーヴルがディープインパクトのような種牡馬としての成功を手に入れられるかどうかはわからないが、仮に凱旋門賞に挑戦できるような大物を輩出してきた場合には──ディープインパクト産駒以上の期待をかけることができるかもしれない。 最後に代替開催が行われたシャンティイ競馬場は、当初の予測以上に外枠の不利なコースだった。多頭数なうえ、内ラチ沿いの仮柵を外して行われる凱旋門賞というレースで、このコースの特性がはっきりしたのではないか。特に馬群が密集する欧州競馬では、外から内に入り込むスペースがない。昨年のマカヒキしかり、今年のサトノダイヤモンドしかり。馬場適性や状態など、様々な理由があっての敗退であることは確かだが、そのひとつの理由として、外枠もあったのではないかと思う。 〈古馬重賞〉 10/1(日) 中山11R 芝1200m スプリンターズS 先週の私はオーストラリアからシンガポールへと向かう旅程だったこともあり、この1戦をライブで観ることが出来なかった。ゆえにVTRで見た簡単な感想のみで話を終えたい。 まずは勝ったレッドファルクス。正直、上手に乗っていたとは言い難く、このレースのパターンからすれば、4コーナーの位置取りも後ろ過ぎる。にもかかわらず、差し切り勝ちを決めることが出来たのは、ひとえに馬の能力──今回のメンバーでは、力が一枚も二枚も抜けていたということだ。 その騎乗ぶりだけで言えば、2着だったレッツゴードンキの岩田君のほうが、枠を生かしたソツのない騎乗をしていた。つまり、この2頭の間には着差以上に明確な能力の差があるというわけだ。 レッドファルクスは安田記念の3着馬。マイルの距離も守備範囲という認識もあるだろうが、私の見立ては1400mまでの差し馬。マイルでは最後の切れが鈍ってくると思う。かといって、香港のスプリント戦を走るには序盤のスピードが欠如している。ロードカナロアのように好位を取れるスピードがなくては、あのレースで勝ち負けできないだろう。 この馬の血統、脚などを見たときに面白いと考えられるのはダートのGI。以前はダートを走っていたこともあり、本格化した現在の状態でどれほど走れるのかを見てみたいと思う。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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    『秋華賞チェックメモ』

    有料メンバーの皆様こんにちは! 編集部スタッフです。 東京・京都開催もスタートし、いよいよ来週に迫るGI秋華賞! オークス馬ソウルスターリング不在も、重賞連勝中アエロリット、先手鋭いカワキタエンカ、紫苑S完勝ディアドラ、逆襲を狙うファンディーナ、豪脚ラビットラン、桜花賞馬レーヌミノル、3戦全勝リカビストなど好メンバーが登録済みです。 競馬ファンの皆様も「今年はどんなレースになるのか!」と楽しみにされている方は多いと思います。 そこで今回は、レースの1週前ではありますが、【特別まとめ編】として主な前哨戦について、【調教師の着眼点】を通して振り返ってまいります。【調教師の着眼点】では、これまで白井先生の視点から現3歳牝馬について様々な内容をお伝えしましたが、改めて先生の見解を振り返っていただくことで、いま一度、調教師視点から見たポイントなどを思い返していただければと思います。 また、この機に今まで気付かなかったことや見えていなかったことなど、様々な点を皆様に再発見していただく機会となれば幸いです! ぜひ、今回の【特別まとめ編】を皆様の予習材料にご活用ください! ※『 』内は【調教師の着眼点】より抜粋 7月30日 クイーンS アエロリット 『古馬相手にはなるが、斤量の恩恵を受ける3歳馬が勝ちやすいレースだ。しかし、アエロリットの今回のレースぶりは斤量だけが勝因と言えないものだと私は思う。この結果を受け、秋は秋華賞へ向かうことになると聞いたが、いい勝負になるだろう。その根拠をいくつか述べたい。 まずは18キロ増だった馬体重。これは大きい。先を見据え、メイチの作りでなかったのは確かだろうが、パドックに登場した彼女の馬体は余裕が残っていたのではなく、ボリュームアップしたという表現のほうが正しいもの。フェアリーSで2着に負けた年明けの段階で「アエロリットは5月の遅生まれ。成長期が来るのは夏以降だろうし、現時点でここまで走っていることに価値がある」というニュアンスの評価をさせてもらった。その考えに間違いがなかったことを改めて確認できた1戦と言えるのではないだろうか。 パドックでの所作もそうだ。例えば、1番人気だったアドマイヤリードはステイゴールド産駒らしい気性の難しさをレース前から覗かせていた。この性格が改善されることは年齢的にもうないはずだ。展開や洋芝、小回りコースが合わなかったのは確かだろうが、パドックで見た段階でアエロリットとの差も感じた。レースに挑む前の段階での落ち着きは、常に力を出せるかどうかという信頼にも繋がる。アエロリットの安定した成績は彼女の性格によるところが大きいが、その精神的な部分が春よりも一段と成長したように見えたのだ。 横山典騎手は自信満々にアエロリットを誘導した。相当な自信があったのだと思う。一貫したラップを刻んでの逃げ切り勝ちは、同じ小回りコースに該当する京都内回り2000mの秋華賞にメドを立てるものだっただろうし、アエロリットの持っている潜在的なスピードが歴戦の古馬相手でも1枚上であることも証明した。同世代が相手なら、もっと戦いやすいだろう。 もちろん、好位に控えても問題がない馬。今回の結果を受け、周囲がアエロリットの出方を考えなくてはならなくなったことも大きい。ソウルスターリングが天皇賞(秋)へと向かうのであれば、彼女が本番で本命視される可能性も大きそうだが、その期待に応えられる馬だと思う』 9月9日 紫苑S ディアドラ 『オークス4着馬のディアドラが1番人気に応えて貫禄勝ち。道中は後方で脚を溜め、勝負どころでは不利を受けない外を回ってきた岩田君の騎乗ぶりは、単に勝つだけではなく、どれくらいの脚を使えるのかを測っているように私には見えた。結果はハナ差の辛勝だが、前哨戦を有意義に使ったという意味で中身の濃い勝利だったと思う。自信がなければできない騎乗とも言えるだろう。 ただし、本番の秋華賞が京都内回りの2000mで行われるレースということを考えたとき、この騎乗が正解になるのかどうかはわからない。 仮に私がディアドラの関係者の立場だったとするなら、これまでよりもポジションを取る競馬をし、前の位置でもひと伸びできるのかどうかを確認したいと考える。秋華賞は末脚で勝負するスタイルだけでは厳しいレース。できることなら、好位からの競馬をし、力で捻じ伏せる競馬を見たかったのだが…。 プラス材料は馬体重の回復に成功したこと。中山への輸送があっての12キロ増。これは関係者の尽力があってのものだ。素直に評価したい。ピークへと持っていく下地は出来たと思うので、あとはどのような位置からレースをするのか? 秋華賞を勝てる能力はある1頭だと思う反面、末脚の生きる展開を待つだけでは、タイトル奪取は簡単でないように感じる』 9月17日 ローズS ラビットラン カワキタエンカ ファンディーナ レーヌミノル モズカッチャン 『勝ったラビットランの末脚はなかなかの迫力があった。タピット産駒という血統を考慮し、デビューからの数戦はダートに出走していたようだが、当初から軽いフットワークをするので芝向きという意見も厩舎の中にあったと聞く。鋭い洞察力を見せたスタッフも素晴らしいし、路線を変更した調教師の判断もたいしたものだ。血統はレースを選択する際の重要なファクターであるが、馬に跨っている乗り手の意見も同じように重要と私は考えている。 実際、アグネスデジタルのマイルCS挑戦は調教助手の進言を根拠にしてのものだった。クラフティプロスペクターの仔というだけでなく、すでにダートで活躍していた彼の芝挑戦を懐疑的に見る目も当時はあっただろうが、彼が芝とダートの二刀流で活躍するオールラウンダーへと飛躍するきっかけを作ったのは、実際に馬に乗っているスタッフの感覚だ。この勝利の背景に似たようなものがあったとするなら、それは素晴らしいことだと思う。 では、ラビットランは秋華賞でも好勝負できるのか? ある意味では出来るといえるし、ある意味では厳しいとも言える。彼女の末脚は世代屈指。能力的には十分に争覇圏に届いていると思うが、問題は極端な競馬しかできない現状にある。折り合いを重視し、リズムを保って勝負するには京都内回りコースの直線は短すぎるのだ。 時に乱ペースとなり、追い込み決着になることもあるコース。展開次第でチャンスはあるだろう。しかし、自分から競馬を作れる馬のほうが強いコースだと思う。 そのような意味では速いペースで逃げながら、2着に粘ったカワキタエンカ。彼女のほうが秋華賞向きのタイプと言えると考えている。パドックでは落ち着きがなく、そのような逃げ馬は単なるペースメーカーの役割しか果たせないことのほうが多いのだが、身体能力がかなり高いのだろう。差し馬が浮上する流れの中でも最後まで踏ん張り通してみせた。この走りがフロック視されるようなら、本番で狙える馬となるかもしれない。 1番人気だったファンディーナについても触れておきたい。22キロの馬体増は太め残りで、直線を向いたときの手応えほどには末脚の粘りがなかった。見た目の印象が良くない止まり方だったと思うが、太めで息の出来ていない馬にはよくあるパターンの止まり方と私は見た。 セントライト記念のアルアインもそうだが、太めで作ったときのほうが、次走までに攻めていけるので巻き返しの余地がある。そういう意味では7着のモズカッチャンもまだ見限ってはいけないのではないだろうか。 一方、桜花賞馬のレーヌミノルはらしさのない敗戦を喫した。この馬は父がダイワメジャーというだけでなく、母父はタイキシャトル。3歳春までは能力で距離を克服してきたが、適性がしっかりと出てくる秋シーズンになって本質が出てきたように思う。マイラーには中距離をこなせるマイラーとスプリント寄りのマイラーの二種類があり、レーヌミノルはおそらく後者のタイプ。さらに距離が延びる2000mの秋華賞の舞台がプラスになると思えない』 6月24日 八ヶ岳特別 リカビスト 『3連勝を決めたリカビトス。休み明けの昇級戦で、初の古馬相手だったにもかかわらず、きっちりと差し切ったのだから、秋華賞路線の新星誕生と呼んでいいかもしれない。休みながらでしか使うことができず、今回の馬体重も8キロ減の420キロ。大きいところで走るには、肉体面のさらなる成長が必須だろうが、この馬は5月10日の遅生まれ。ここに可能性を感じる。この夏を上手に越せば、面白い存在になるだろう』 以上、過去の【調教師の着眼点】から秋華賞の主な前哨戦などのまとめでした。 今年はどんなレースになるのか? 今から楽しみですね! 以上、編集部スタッフでした!

  • 2017年レース

    【9月23日・24日開催】神戸新聞杯、オールカマーほかレース解説

    〈3歳重賞〉 9/24(日) 阪神11R 芝2400m 神戸新聞杯 まずは勝ったレイデオロについての話をしたい。好スタートを切れたこともあるだろうが、いつでも前を捕まえることのできる4番手の位置で折り合い、追ってからの反応も実に見事。その強さは私が予想していた以上のものだった。いや、本当に素晴らしい馬だと改めて感心した。 まだ3歳でキャリアが浅いにもかかわらず、すでに彼は競馬を理解しており、安心してレースを見ることができる。こういうタイプの馬は大きく崩れることがなく、相手が強化されてもそれなりの結果を残すものだ。最大目標のジャパンCに向け、期待は大きく膨らんだと言えるだろう。 今回は4キロ減の馬体重で出走してきたが、これは初の関西輸送が影響したものと思われる。ただし、パドックではゆったりと歩けており、環境の変化に苦しんだ様子は感じ取れなかった。精神的にも強い馬と考えていい。 名牝ウインドインハーヘアへと続く母系は極めて優秀で、大舞台で真価を発揮する血統。今秋の主役になっても不思議はなさそうだ。 神戸新聞杯は菊花賞のトライアルレース。2着以下についても触れておく必要があるだろう。 2着のキセキは12キロ減の馬体重だったが、きっちりと作り込んだ馬体。細い印象は全く受けなかった。踏み込みのしっかりした素晴らしい馬という印象は、今回の1戦が終わっても変える必要がないと思っている。 能力のすべてを出しきっての2着ではなく、勝負どころの走りは少し窮屈な印象を受けた。スムーズなら勝っていたとまでは言わないが、フットワークの非常に大きな馬。もっと伸び伸びと走らせてあげたほうがいいだろうし、そういう意味では京都の外回りコースは合いそうなタイプだ。これは3着のサトノアーサーもそうだろう。 ただし、サトノアーサーは母父が短距離馬のリダウツチョイスで、その先もスピード型のヌレイエフ。筋肉の発達した馬体からも3000mの距離は微妙な印象がある。本番ではキセキとの差がもう少し開くかもしれない。 レースのレベル、メンバー構成ともに神戸新聞杯のほうがセントライト記念よりも上だろう。だが、それはレイデオロという確固たる主役を含めての評価であって、2着のキセキや3着のサトノアーサーがセントライト記念組よりも上と判断するものではない。 余裕十分の馬体でセントライト記念を走り、2着とまずまずの結果を残した皐月賞馬のアルアイン。今回の1戦を終え、彼が菊花賞戦線のトップを走っているという認識を改めて持った次第だ。 〈古馬重賞〉 9/24(日) 中山11R 芝2200m オールカマー ルージュバックというのは不思議な馬で、牝馬限定のレースを勝てないのに牡馬相手の重賞はオールカマーで4勝目。しかも、今回は好スタートを決め、好位の内からスパッと抜けてくるという過去にないスタイルで勝利を飾った。次走はエリザベス女王杯とのことだが、なぜか勝てていない牝馬限定の大レースで勝負になるのかどうかを私なりの目線で検証してみたい。 結論を先に言うのであれば、かなりのチャンスがあると考えている。2400mのレースではダメだが、2200mは意外に上手に走る──このようなタイプの馬は意外に少なくなく、ルージュバックにもその考えが適用するように感じたことがまず1つ。また、彼女のような飛びの大きいフットワークの馬は、本質的に中山のようなコースよりも京都外回りのようなコースを好む。同じような状態で走れるのであれば、京都のほうがパフォーマンスは上がると考えるのが自然だろう。 逆に言えば、この“同じような状態であれば”というフレーズが、ルージュバックにとっての課題を示すものだ。京都まで輸送しても馬体を維持することが好走への最低条件。当日のパドックをしっかりとチェックし、勝ち負けできる状態なのかを見定めたい。 能力は十分すぎるほどに持っているルージュバック。彼女に対してのチェックポイントは、この一点に尽きると言ってもよさそうだ。 〈新馬戦〉 9/24(日) 中山5R 芝2000m メイクデビュー中山 先週、ウオッカの子であるタニノフランケルを取り上げたので、今回はウオッカのライバルであったダイワスカーレットの子であるダイワメモリーをピックアップしてみた。 未勝利勝ちだった前者に対し、こちらは新馬勝ち。イメージ的にはこちらのほうがいいかもしれないが、レースぶりに大物感がなかったのは後者だろう。ダイワスカーレットの最大の魅力はスピードと考えているが、息子にはそこまでのスピードがない。切れる脚を使えたのは収穫と考えることも出来るが、相手のレベルが低いために、そう見えただけのように私には思えた。ノヴェリストという種牡馬を私は評価しているので、その産駒にはぜひ頑張ってほしいが、この1戦でクラシックうんぬんという認識はまるで持てなかったのだ。 〈オープン戦〉 9/23(土) 阪神9R 芝1400m ききょうS 阪神で行われた2歳オープンのききょうS。芝1400mの1戦を制したタワーオブロンドンに対し、私は重賞級の器という評価をした。それくらいの迫力を彼のパフォーマンスには感じた。まさに楽勝だった。 血統もいい。父レイヴンズパスはオールウェザーで行われたBCクラシックを制しているが、その本質はマイラー。確かに距離には限界があるかもしれないが、内包するスピードは相当なものがある。曾祖母のドフザダービーは英・愛ダービーとキングジョージを制したジェネラスの母として知られる馬。大舞台に必要な底力も十分に持っている。今後に注目したい。 9/24(日) 中山9R 芝2000m 芙蓉S 中山の芙蓉Sを制したサンリヴァルはクラシック候補の1頭になる可能性を秘めている馬だ。オークス馬のウメノファイバーを祖母に持つルーラーシップ産駒。道中でゆったりと走ることができ、2着馬が並んできたところで、あっさりと突き放す瞬発力も持っている。走りっぷりのいい馬というのが、同馬に対する私の印象だ。2000m以上の距離で真価を発揮するタイプだろう。 〈条件戦〉 9/24(日) 阪神7R 芝1600m 3歳上500万下 最後の3歳上500万下のレース。阪神の芝1600mを1分32秒7という速いタイムで制したモズアスコットについて触れたい。話題のフランケル産駒だが、栗毛の馬体は母系のヘネシー、もしくはミスワキの影響を受けているような気がする。とにかく走りがパワフルで、粗削りながら大物感のある馬だ。昇級即通用の素材だろうし、一気にオープンまで行ってしまうかもしれない。そのくらいの可能性を感じるレースだった。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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    【9月16日・17日・18日開催】セントライト記念、ローズSほかレース解説

    〈3歳重賞〉 9/18(月) 中山11R 芝2200m セントライト記念 まずは2着に負けた皐月賞馬のアルアインについて話をしたい。 10キロ増の馬体は次を見据えた余裕残しの仕上げだったが、このあとには3000mのレースが待っており、それなりに負荷をかけた調教をして本番へと挑む必要がある。本番までの1カ月という時間を“攻め”に使うのか、それとも“守る”のみの選択肢しかないのか──。 競走馬の成績は点ではなく、線で見るべきという話を常日頃からしている。3着に負けたサトノクロニクルの数字も12キロ増。この馬の馬体にはアルアインほどの余裕を感じなかったのだが、それでもピークの仕上げでなかったのは確かだ。 池江厩舎は前哨戦という言葉の意味をしっかりと理解している。アルアインに関して言えば、2200mの距離でもしっかりと折り合い、それなりの脚を使ってくれれば十分のレース。本番に向けて視界良好と言えるだろう。 では、このレースを制したミッキースワローはどうか? アルアインを交わしていく瞬間の脚の速さには見るべきところがあったし、内容は完勝だ。折り合いも付くので距離も大丈夫。本番に向けて視界良好の内容だったとは思う。それでも、アルアインより明らかに上と断言できないのは、前走から2キロ減の馬体がほぼ仕上がっていたように見えたからだ。 前哨戦をマイナス体重で走り、次は関西への長距離遠征。今回以上の負担を考えなくてはならない状況だ。この状態でも攻めの姿勢で調教することができるのか? そのような視点から今回のレースを見た場合、手応えを持って本番を迎えられるのは2、3着の馬だったように私は感じた。 9/17(日) 阪神11R 芝1800m ローズS 勝ったラビットランの末脚はなかなかの迫力があった。タピット産駒という血統を考慮し、デビューからの数戦はダートに出走していたようだが、当初から軽いフットワークをするので芝向きという意見も厩舎の中にあったと聞く。鋭い洞察力を見せたスタッフも素晴らしいし、路線を変更した調教師の判断もたいしたものだ。 血統はレースを選択する際の重要なファクターであるが、馬に跨っている乗り手の意見も同じように重要と私は考えている。実際、アグネスデジタルのマイルCS挑戦は調教助手の進言を根拠にしてのものだった。クラフティプロスペクターの仔というだけでなく、すでにダートで活躍していた彼の芝挑戦を懐疑的に見る目も当時はあっただろうが、彼が芝とダートの二刀流で活躍するオールラウンダーへと飛躍するきっかけを作ったのは、実際に馬に乗っているスタッフの感覚だ。この勝利の背景に似たようなものがあったとするなら、それは素晴らしいことだと思う。 では、ラビットランは秋華賞でも好勝負できるのか? ある意味では出来るといえるし、ある意味では厳しいとも言える。彼女の末脚は世代屈指。能力的には十分に争覇圏に届いていると思うが、問題は極端な競馬しかできない現状にある。折り合いを重視し、リズムを保って勝負するには京都内回りコースの直線は短すぎるのだ。時に乱ペースとなり、追い込み決着になることもあるコース。展開次第でチャンスはあるだろう。しかし、自分から競馬を作れる馬のほうが強いコースだと思う。 そのような意味では速いペースで逃げながら、2着に粘ったカワキタエンカ。彼女のほうが秋華賞向きのタイプと言えると考えている。パドックでは落ち着きがなく、そのような逃げ馬は単なるペースメーカーの役割しか果たせないことのほうが多いのだが、身体能力がかなり高いのだろう。差し馬が浮上する流れの中でも最後まで踏ん張り通してみせた。この走りがフロック視されるようなら、本番で狙える馬となるかもしれない。 1番人気だったファンディーナについても触れておきたい。22キロの馬体増は太め残りで、直線を向いたときの手応えほどには末脚の粘りがなかった。見た目の印象が良くない止まり方だったと思うが、太めで息の出来ていない馬にはよくあるパターンの止まり方と私は見た。セントライト記念のアルアインもそうだが、太めで作ったときのほうが、次走までに攻めていけるので巻き返しの余地がある。そういう意味では7着のモズカッチャンもまだ見限ってはいけないのではないだろうか。 一方、桜花賞馬のレーヌミノルはらしさのない敗戦を喫した。この馬は父がダイワメジャーというだけでなく、母父はタイキシャトル。3歳春までは能力で距離を克服してきたが、適性がしっかりと出てくる秋シーズンになって本質が出てきたように思う。マイラーには中距離をこなせるマイラーとスプリント寄りのマイラーの二種類があり、レーヌミノルはおそらく後者のタイプ。さらに距離が延びる2000mの秋華賞の舞台がプラスになると思えない。 〈新馬戦〉 9/17(日) 阪神5R 芝1800m メイクデビュー阪神 今週は興味深いレースを2鞍。戦前から素質馬が揃ったと評判だった阪神の芝1800mは8番人気のリュクスポケットが勝ったことで、その評価に陰りが出ているように見える。しかし、勝ち時計の1分47秒7は水準以上のレベルで、上位馬の走りは決して悪くなかった。ならば、戦前の評価を下げずにいたほうが得策のように思える。特にクビ差の2着に負けたメガリージョン。一度は先頭に立つシーンもあり、勝ったに等しいレースだ。このような馬はしっかりと覚えておきたい。 9/18(月) 中山5R 芝1200m メイクデビュー中山 もうひとつが中山の芝1200mを勝ったアンフィトリテ。父がロードカナロアで母父はフジキセキ、その先はメドウレイクという血統背景はバリバリのスプリンターを想像させるもので、実際に速い時計で勝ちはしたのだが、勝負どころで手が動いたレースぶりはイメージと少し違う。本来、この血統なら持ったままで直線を向き、スピードの違いで押し切ってしまうはずだ。 ロードカナロアの仔はいい意味で勝負どころの“遊び”があり、それがこなせる距離の幅を広げている理由になっている気がする。スピード一辺倒の母系でもこれだけの遊びがあるのだから、配合次第では中距離以上をこなせる馬がでても不思議はないだろう。 〈オープン戦〉 9/16(土) 阪神9R 芝1800m 野路菊S 土曜の2歳オープン「野路菊S」を勝ったワグネリアンはクラシック級だ。いかにもディープインパクト産駒というコンパクトな馬体の持ち主だが、踏み込みは深く、身のこなしもいい。道悪競馬を苦手にするディープインパクト産駒は多く、この馬も得意中の得意と言うわけではないだろうが、大きな舞台を勝つ馬というのは、ある程度の厳しい条件も克服してしまうもの。このレースのパフォーマンスにそんな印象を持った。相手関係に恵まれたとも思えないとあれば、次走以降も引き続き注目ということになるだろう。 〈未勝利戦〉 9/18(月) 阪神2R 芝2000m 2歳未勝利 最後に月曜の2歳未勝利を勝った名牝ウオッカの息子・タニノフランケルについて。これまでの産駒の中では最もいい馬とは思うが、彼の走りはヨーロッパスタイルのそれ。バタバタという表現が適切かどうかわからないが、見た目でわかるほどのパワー重視のフットワークで、少なくとも軽い芝に向くそれではない。海外の最高の種牡馬を用意したことが裏目に出ているのだから皮肉な話だが、仮に日本でもそれなりに走り、海外遠征でもしてみようか──そんな話が出た場合は競走成績以上に注目したいタイプ。とにかく、日本の競馬ではなかなか見ることの出来ない馬と言っておきたい。 ※次回の【調教師の着眼点 -先週のレース解説-】は9月28日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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    【9月9日・10日開催】紫苑S、京成杯AHほかレース解説

    〈3歳重賞〉 9/9(土) 中山11R 芝2000m 紫苑S オークス4着馬のディアドラが1番人気に応えて貫禄勝ち。道中は後方で脚を溜め、勝負どころでは不利を受けない外を回ってきた岩田君の騎乗ぶりは、単に勝つだけではなく、どれくらいの脚を使えるのかを測っているように私には見えた。結果はハナ差の辛勝だが、前哨戦を有意義に使ったという意味で中身の濃い勝利だったと思う。自信がなければできない騎乗とも言えるだろう。 ただし、本番の秋華賞が京都内回りの2000mで行われるレースということを考えたとき、この騎乗が正解になるのかどうかはわからない。仮に私がディアドラの関係者の立場だったとするなら、これまでよりもポジションを取る競馬をし、前の位置でもひと伸びできるのかどうかを確認したいと考える。秋華賞は末脚で勝負するスタイルだけでは厳しいレース。できることなら、好位からの競馬をし、力で捻じ伏せる競馬を見たかったのだが…。 プラス材料は馬体重の回復に成功したこと。中山への輸送があっての12キロ増。これは関係者の尽力があってのものだ。素直に評価したい。ピークへと持っていく下地は出来たと思うので、あとはどのような位置からレースをするのか? 秋華賞を勝てる能力はある1頭だと思う反面、末脚の生きる展開を待つだけでは、タイトル奪取は簡単でないように感じる。 〈古馬重賞〉 9/10(日) 中山11R 芝1600m 京成杯AH 惜敗続きが嘘のような完勝で、グランシルクがあっさりと重賞のタイトルを手に入れた。直線で抜けてくる脚は他の馬とレベルが違っており、少なくとも今回のメンバーでは明らかな力量上位だったと言えるだろう。 時計の出やすい開幕週の馬場状態を考えれば、1分31秒6は突出した数字ではない。この1戦でGIうんぬんを語るのは早いと思うが、現在のマイル路線には傑出馬がおらず、乗り方や展開次第でチャンスと思える馬が片手で足りないほどにいる。この馬もその中の1頭になったのではないだろうか。 ステイゴールドは中距離以上でスタミナを生かす種牡馬だが、この馬はダイナフォーマー、フレンチデピュティの名がある母系からスピードを貰っている。大舞台に強いステイゴールドの血が騒ぐ可能性も考えておきたい。 9/10(日) 阪神11R 芝1200m セントウルS 消化不良の内容だった北九州記念5着の敗戦を糧にし、ファインニードルが重賞初制覇を飾った。ただし、前哨戦の今回の時点で馬体は完全に仕上がっており、ここを勝ちにきたレースぶり。最も重要な前哨戦を完勝したにもかかわらず、この馬でスプリンターズSは決まったと思えないのも、そのような理由が背景にあってのものだ。 レース内容で言えば、3着ダンスディレクターのパフォーマンスが次に繋がるように見えた。外を回るロスの多い競馬をしながら、直線では前を捕まえそうなシーンも。骨折明けの1戦であることを考慮すれば、及第点以上の結果と言えなくもない。ただし、問題は8キロの馬体減だ。腹回りはかなり薄くなっており、テンションもそれなりに上がっていた。どのように次へと向かっていくのか? これからの調整は簡単でないと思う。 注目したいのは4着だったメラグラーナ。中2週の日程を考慮すれば、仕上げ過ぎは避けたいものの、ある程度までは作っておきたいところ。4キロ増で薄皮一枚程度の余裕しかなかったメラグラーナは絶妙な状態で前哨戦を走れたように見えたのだ。後方から競馬を進め、上がりは出走馬最速。しっかりとした脚を見せた。最終週の中山なら、末脚が届くかもしれない。 〈新馬戦〉 池江泰寿厩舎の馬が阪神の新馬戦を3戦3勝。いずれも著名な血統の馬ばかりだが、すべてが重賞を狙えるレベルなのかと言えば、そんなことはない。今回は私なりの序列を付け、その3頭についての話をしていきたい。 9/9(土) 阪神5R 芝1600m メイクデビュー阪神 今回の3頭での潜在能力はナンバー1、重賞を狙えるレベルまでいきそうなのは土曜の芝1600mを勝ったジャンダルムだ。母はスプリンターだったビリーヴで、その産駒も距離に限界を見せる馬が多いが、この馬は距離をこなすだろう。父キトゥンズジョイは自身が芝の中距離以上を得意としているだけでなく、その先にはサドラーズウェルズ、エルプラドの名がある馬。父系のいい部分をしっかりと受け継いだと考えたい。胸囲が十分にあり、480キロの数字以上に馬を大きく見せる。フットワークも非常にパワフル。楽しみな馬だ。 9/10(日) 阪神5R 芝2000m メイクデビュー阪神 日曜の芝2000mを勝ったシルヴァンシャーは名牝アゼリにディープインパクトという血統馬。圧倒的な人気に応えての勝利となったが、これはメンバーレベルが大きく影響しているように思う。スタートの出遅れは少頭数とスローペースに助けられた部分が大きく、多頭数での競馬では致命的になるもの。勝負どころで上がってくる脚にもスピード感がなかった。好メンバーを相手に余裕を持って勝ったジャンダルムと違い、このレベルでも追って追っての競馬になったシルヴァンシャーとの間には大きな差があると思う。 9/10(日) 阪神6R 芝1400m メイクデビュー阪神 オルフェーヴルの全妹になるデルニエオールは408キロ。聞いていたとおりの小さい馬だった。ダンスパートナーも小さい馬だったので、一概に小さいから能力がないとは言えないのだが、小柄過ぎる牝馬は調整がとにかく難しい。連戦にはまず耐えられず、歯替わりなどで簡単に体重を減らす。そのようなウィークポイントを抱えながら、ハイレベルな舞台で勝ち負けを演じるほどのレベルには残念ながら見えなかった。この馬もメンバーのレベルに助けられたクチではないだろうか。 ※次回の【調教師の着眼点 -先週のレース解説-】は9月21日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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    【9月2日・3日開催】札幌2歳S、新潟記念ほかレース解説

    〈2歳重賞〉 9/2(土) 札幌11R 芝1800m 札幌2歳S ルメール騎手の騎乗したロックディスタウンが勝利。今年の2歳が産駒デビューだったオルフェーヴルが早くも重賞勝ち馬を誕生させたわけだが、彼の産駒の重賞勝利について、私の考える今回のポイントは2つある。 オルフェーヴルは歴史に残る名馬だ。そんな彼が期待されたほどの産駒を送り出せないのであれば、それは競走馬としての性能が問題なのではなく、ステイゴールドから受け継いでいた激しい気性が能力の発揮を妨げてしまうからではないか──。彼の産駒がデビューする前の段階で、私はそのようなことを考えていた。それこそが種牡馬・オルフェーヴルの泣きどころになるのではないか、と。 で、ロックディスタウンだ。彼女の母父はストームキャット。この馬の血統構成を初めて見たとき、ストームキャットの存在を無視しては語れないと私は思った。オルフェーヴルだけでなく、ストームキャットも燃えやすい気性を内包し、その気性が競走能力を阻害してしまうことが少なからず起こる。私が管理したメイショウボーラーは母父がストームキャット。激しい気性がネックとなり、晩年には苦しい競馬を続けた彼は、その典型のような馬だった。 気性面が最大の課題と考えていたオルフェーヴルにストームキャットという掛け合わせ。少しでも血統に興味を持つ人間ならば、この配合で大丈夫なのかと不安に思うだろう。しかも、彼女は牡馬よりも繊細な牝馬なのだ。 今回のポイントは「2つ」と冒頭に述べた。母父ストームキャットの問題が1つ目だとすれば、もう1つはロックディスタウンが牡馬ではなく、牝馬であるということ。燃えやすい気性とリンクすることではあるのだが、ステイゴールドの産駒は牡馬のほうが安定した成績を残しやすいと私は思っている。 一般的な傾向として牝馬は牡馬よりも気性の難しい馬が多く、そこに燃えやすいステイゴールドの血を入れてしまうと、さらにカッカした馬になりやすい。GIを勝っているステイゴールド産駒の牝馬もいるが、一線級で活躍する期間は短い。テンションの高まりをおさめるのが難しいからだ。馬格のない馬が出てしまうのもステイゴールド牝馬の弱みになっていると私は思う。 しかし、今回のロックディスタウンは私の考えていた不安要素をすべて吹き飛ばしてしまった。今回が2回目の実戦。レースはともかく、パドックでは燃えやすい一面を見せるのではないかと考えていたが、そんな不安は杞憂に終わった。これは大人びたレースぶりよりも、はるかに意外なことだった。 今回の馬体は490キロ。牡馬のような馬格を誇り、落ち着いた周回を見せたパドックでの姿はステイゴールドの血を持つ馬に思えなかった。ステイゴールド産駒と同じようにオルフェーヴルの産駒も牝馬より牡馬。そんなイメージを漠然と持っていた私にとって、彼女の存在は嬉しい誤算となったわけだ。 今後、これまでに述べてきたような不安が出てくる可能性はある。次走以降の走りには十分な注意が必要だろう。だが、仮にこのままの精神状態のままでクラシックを迎えることが出来るようなら、彼女は有力なヒロイン候補となるはずだ。その適性は桜花賞よりもオークス。私のイメージを超える存在になってくれることを期待している。 9/3(日) 小倉11R 芝1200m 小倉2歳S ハイペースを外から動き、4コーナーでは2番手。2着以下は差し馬ばかりだった結果を見てもわかるように、勝ったアサクサゲンキとそれ以下には明確な力量差があったが、同日の未勝利よりも遅い1分9秒1の勝ち時計は目立つものではなく、正直なことを言えば、そこまでレベルの高い1戦とは思っていない。 ゆえにアサクサゲンキにとっては次走が試金石だ。聞くところによると、秋は1400mの京王杯2歳Sから始動するという。ヤンチャな面を見せるストームキャットの血をこの距離でもセーブできるのか? 行きたがるような面を見せてはいなかったので、克服は可能だろうと考えているのだが、ストームキャットの血統は常に注意が必要だ。 ちなみに母父はディキシーランドバンドでその先はアリダー。気性の問題が表面化することさえなければ、距離を問題にするような血統でないことは追記しておく。 〈古馬重賞〉 9/3(日) 新潟11R 芝2000m 新潟記念 着差の少ないハンデ戦らしいゴール前の様相。GIうんぬんのレベルでないことは明らかだったと思うが、それでも勝ったタツゴウゲキに関しては惜しみのない賛辞を送りたい。 重賞を連勝するというのは簡単なことでなく、右回りの小回りから左回りで長い直線と条件も様変わりした。これは札幌2歳Sを制したロックディスタウンにも言えることだが、まるで違う条件で行われたレースを勝つのは難しいことで、傑出した能力か、想像を超える充実ぶりが必要になってくる。タツゴウゲキに関して言えば、後者のほうだろう。 前走から3キロ増のハンデといっても、実際に背負う斤量は55キロ。馬格のある馬ならこなせると考えてはいたが、2番手から押し切った競馬の内容は素直に強かった。最内枠から芝のいい場所を選んで走らせた秋山騎手の手綱さばきも素晴らしかったと言っておく。マーベラスサンデーはサンデーサイレンス系の種牡馬の中ではしぶとさを売りにしているタイプ。その持ち味を存分に生かす騎乗ぶりだった。 〈夏競馬〉 先週は2歳の新馬戦だけでなく、それ以外でも取り上げるほどのレースはなかったと思うので、今回は先週で幕を閉じた夏競馬を簡単に振り返ってみることにした。 新種牡馬に対する注目度は大きく、ゆえに牧場サイドも早めに結果を求めようとするが、これほどまでにあっさりと結果が出るシーズンも珍しい。言うまでもなく、主役はロードカナロアとオルフェーヴル。前者はセレクトセールが行われる前の時点で評価を決定的なものにしており、産駒は総じて高値で取り引きされた。後者は秋シーズンの開幕前に産駒初の重賞制覇を飾り、勝ち鞍そのものも伸びている。クラシックを意識した馬の登場はこれからと考えれば、その前途は洋々と言えるだろう。 ロードカナロアの産駒は予想されていた以上に距離をこなし、オルフェーヴルの産駒は想像されたような気性難を見せなかった。これも面白いポイントだろう。あくまで現時点では…という注釈が必要とはいえ、生産者に対する大きなアピールになったと思う。その成果が出るのは来春の種付けから。これは覚えておきたい。 札幌競馬はルメール騎手の独壇場の様相だった。もちろん、人気になるような馬に乗っているという事実はあるが、期待されるような結果を出してくれるからこそ、関係者も彼を指名するのだろう。仕掛けのポイントが抜群で、見た目よりもしっかりと追える。なによりも彼は勝ち鞍を重ねても天狗になるようなことがなく、レースで手を抜くようなシーンがない。その競馬スタイルには彼の性格の良さが出ている。 大きなレースで一生懸命に乗るのは当たり前のこと。だが、彼は違う。ルメール騎手が信頼される最大の理由はここにあると思う。 ※次回の【調教師の着眼点 -先週のレース解説-】は9月14日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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