先週の2~3歳戦や重賞レースを“調教師の視点”から解説!

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  • 2016年新馬戦

    【新馬戦・総集編】アルアインなどがデビューした10月-12月編

    過去2回に渡ってお伝えした【新馬戦・総集編】も今回が第3弾。総集編の最後としてお伝えするのは、アルアインなどがデビューした10-12月編。今回も勝ち上がった馬の中から白井元調教師の「レース当時の評価」を基に、今後の活躍も期待される各馬の新馬戦を振り返っていく。 ■「走りっぷりに大物感がある」 10月に突入したこの日、白井元調教師が注目したのはサトノアーサー(阪神芝2000m)。1着同着で勝ち上がった同馬に対して、「跳びの大きいフットワークの馬で、内回りだと少し動きにくいのか、勝負どころの反応がスズカフロンティア(※同着馬)よりもズブかった。坂の手前でエンジンがかかると、そこから鋭い伸び。同着だが、ポテンシャルの差は見せた」という戦評とともに、「能力はこちらのほうが上というジャッジで、走りっぷりに大物感もある。オープンクラスで競馬をするであろう馬で、成長次第では重賞路線でも活躍できそうだ」と将来性を評価した。 次走も勝利して連勝。続くきさらぎ賞と毎日杯は連続2着。着実に賞金を加算し、ダービーを予定。今後も活躍を期待するファンは多いはずだ。 ■「重賞レースで活躍できる馬」 毎日王冠の行なわれたこの日。白井元調教師の眼に留まった1頭にレイデオロ(東京芝2000m)。「直線を向いた段階でも手応えは十分で、しっかりと進路を確保してから追い出した。目立つ着差はつけなかったが、重馬場で上がり3ハロンの数字は34秒6。1倍台の単勝オッズに応える快勝だった。見どころのある競馬」という戦評とともに、「キングカメハメハ産駒は距離に融通性があり、この馬はクラシックディスタンスが合いそうなレースぶり。センスもいいし、スケールも大きい。重賞レースで活躍できる馬だろう」と将来性を評価。 デビューから3連勝でホープフルSを制すると春にはクラシック戦線へ。皐月賞5着から日本ダービーを予定している。大一番での活躍に期待しているファンも多いだろう。 同日、京都の新馬戦を勝ち上がった中から白井元調教師の興味を惹いたのはエーティーラッセン(芝1800m)。「厳しい状況からのレースとなり、直線を向いた段階でも9番手の最後方だった。それが直線だけで全馬をごぼう抜き。頭数がそこまで多くないことも幸いしたとはいえ、最近では珍しい派手な勝ち方だったのではないだろうか」という戦評とともに、「祖母ダンシングゴッデスの産駒を管理した経験があるのだが、この馬はニジンスキーの直子。私の大好きなニジンスキーの5×3というクロスを持っているのは魅力だ。父のイメージはダートでも、この母系が芝のレースでの切れを生み出しているのだと思う」と自身の経験を語った。そして、「まだまだ若さの残るレースぶりではあったが、逆に荒削りな魅力がある。馬体のサイズも悪くなく、私自身が目をつけていたニジンスキー直子のダンシングゴッデスの血が入っている馬。成長力があることを期待して、将来性は少し甘めの評価にしてみた。化ける可能性はあると思う」と将来性に期待を寄せた。 3歳の春に入って、ゆきやなぎ賞(2着)、アザレア賞(3着)と芝2400m路線で好走。まだ成長途上のようだが、将来に大きな可能性を秘めているかもしれない。 ■「日本に根付いた血統」 10月下旬。白井元調教師が語った1頭のコマノインパルス(東京芝2000m)。「直線入り口でガラッとあいた最内を突き、直線半ばでは早々に抜け出す形。切れるというよりも長く脚を使うレースぶりで、2着馬の追撃をクビ差で振り切った」という戦評とともに、「父のバゴは大物を出す反面、安定性に欠けるイメージの種牡馬。祖父のナシュワンがジリッぽいタイプで、そこをフジキセキのスピードで補完しようという意図が、この馬の血統構成には見える。母系で注目したいのはエリザベス女王杯を勝ったリンデンリリーがいること。日本に根付いた血統ではある」と語った。そして将来性については、「切れが必要になってくる大きな舞台で好勝負するのは難しいタイプで、戦評や血統よりも将来性が低くなったのも、それが理由」とジャッジした。 2走目の葉牡丹賞でレイデオロの2着と好走するとGIIIの京成杯を勝利。弥生賞(6着)と皐月賞(14着)と厳しい結果となったが、この馬を応援するファンは巻き返しを期待しているだろう。 ■「大物を輩出しておかしくない血統構成」 サトノダイヤモンドが菊花賞を勝利したこの日、白井元調教師の評価した1頭の外国産馬にベストアプローチ(京都芝2000m)。「マイペースの逃げを打っていた3着馬が粘りそうな気配もあったが、これを一気に捕まえて、初勝利を挙げている。決め手はなかなかのもの」という戦評とともに、「ダンスパートナーにも通じるネイティヴパートナーが母系にいる。底力のある血統だ」と評価した。また、「2000mの距離で勝った。これは大きなポイント。様々なタイプの活躍馬を輩出する祖父ガリレオの血は偉大で、父のニューアプローチも大物を輩出しておかしくない血統構成。私も実は注目していた馬だ。中団で待機し、切れを生かしたレース内容も言うことなしで、オープンで走る素材だと思う」と将来性を評価した。 3歳になって弥生賞4着、青葉賞2着と重賞で好走するベストアプローチ。今後の飛躍も期待されている。 ■「ぜひ種牡馬になってもらいたい」 新馬戦の勝利後に“競走馬引退後”の期待感すら込めたのはアルアイン(京都芝1600m)。「勝負どころの手応えや加速は2着馬の方が上に見えても、追ってからが違う。いかにもディープインパクトといったフットワークをする馬だ。勝ち時計は1分34秒9。水準以上のレベルをしっかりとキープしている」という戦評とともに、「パドックを見た段階での私の評価は太め残り。この状況で結果を出しているので、高い能力を持っているのだろう。叩いた次はもちろん、これからどんどんと馬が良くなっていくはずで、重賞レースでの活躍も期待できる素材。母はスプリント系だが、ディープインパクト産駒はこのような配合でも距離をこなす。クラシックが目標になるだろう」と将来性を期待した。さらに血統面については、「母のドバイマジェスティはアメリカのチャンピオンスプリンターで、スピード血統にディープインパクトというセオリー通りの配合を成立させている。ダート色を感じさせる母系だが、エーピーインディの血統は芝もこなせる。S級の血統馬といっていい馬だ。体内にクロスがひとつもない、きれいな血統。ぜひ種牡馬になってもらいたい」と高く評価した。 新馬後も勝利を重ねたアルアインは皐月賞を勝利。引き続きの活躍を期待しているファンは多いはずだ。 ■「化ける可能性がありそう」 11月に入って白井元調教師が期待を込めた1にダイワキャグニー(東京芝1800m)。「前とは少し距離のある状態をキープしたまま直線へと向いた。1000m通過が61秒6なら押し切られても仕方ない流れだが、先に抜け出した2着馬との差を徐々に詰め、ゴール直前でこれを捕らえている」という戦評とともに、「祖母のトリプルワウはいわゆるクズを出さない繁殖で、母のトリプレックスもその流れを受け継いでいる」と血統についても触れた。また、「484キロ。馬体のサイズは良く、血統的にもオープンにいっていい馬だと思うが、ラストの脚は3着馬の方が目立っており、上のクラスで切れ負けする可能性もゼロではない。この部分をクリアすれば、化ける可能性がありそう」と、その後の成長に期待を寄せた。 次走も勝利して連勝したダイワキャグニー。3歳春にはプリンシパルSも制してダービーの優先出走権を獲得。一戦毎に着実な進化を見せている。 ■「血統通りのパワータイプ」 この日、白井元調教師が注目したのは、キタサンブラックなどを輩出したヤナガワ牧場の生産馬サンライズノヴァ(東京ダ1600m)。「前を行った馬が渋太かったこともあり、残り200mでは届かないような脚色だったが、ゴールが近づくに連れて真価を発揮。最後は1馬身半の決定的な差をつけて勝ち切っている」という戦評とともに、「調教で抜群に動いていたようだが、これだけの大型馬を初戦からしっかりと仕上げるのは難しい。余裕のあった体が締まってくれば、これ以上のパフォーマンスができるだろう。血統や馬格から活躍の場はダートに限るが、それでもオープンクラスで走る馬に育っていくのではないか」と将来性を評価した。 1月に2勝目を上げると4月の伏竜S(OP)では2着。今後もダート路線での活躍が楽しみだ。 ■「クラシック路線に名乗りを上げるかも」 エイシンヒカリの輩出した本田牧場の生産馬カワキタエンカ(京都芝1800m)。「雨の影響もあって1000m通過がかなり遅かった。直線を向いて逃げ馬の外に出したが、そのときの手応えも抜群。追い出すと期待通りの反応を見せた」という戦評とともに、「パワー型の母系の影響もあったと思われるが、それでもディープインパクト産駒の真骨頂は良馬場での瞬発力勝負のはずだ。オープンクラスで走る素材と判断。成長次第ではクラシック路線に名乗りを上げることもあるかもしれない」と将来性を語った。 君子蘭賞で2勝目を挙げて桜花賞へ駒を進めたカワキタエンカ。今後の成長にも注目だ。 ■「スピードに溢れた内容でセンスもいい」 初戦で好センスの内容から白井元調教師の眼を惹いたのはファッショニスタ(阪神ダ1400m)。「道中は好位の4番手で抜群の手応え。無理に動いていくことはせず、あえて砂を被らせている印象すらあった。追い出しも直線を向いてから。抜け出す脚の速さは抜群で、最後は手綱を抑えて流す余裕まで見せている」という戦評とともに、「父ストリートセンス、母父コロナドズクエスト。ダートに特化した血統だ。ストリートセンスは父ストリートクライにパワー、母父ディキシーランドバンドの柔軟性を合わせ持った種牡馬。スピード豊富なミスタープロスペクターの4×4のクロスが発生しているのも好印象」という血統面の印象を語った。さらに「スピードに溢れた内容でセンスもいい。ダートに限定した話になるが、重賞レースで活躍できる馬になると思う」と将来性に期待を込めた。 次走で2着になると、デビュー3戦目に500万下を勝利したファッショニスタ。着実にクラスの階段を登っている。近い将来に大きな舞台で走る姿を見られるかもしれない。 後の皐月賞馬などのデビューを振り返った「10-12月編」。 既に大きな所を勝った馬。またはこれからの活躍を期待できそうな各馬。今後もそれぞれの馬に注目だろう。 ※過去2回の【新馬戦・総集編】はこちら ⇒【新馬戦・総集編】ソウルスターリングなどがデビューした6月7月編【新馬戦・総集編】レーヌミノルなどがデビューした8月9月編

  • 2017年レース

    【5月13日・14日開催】ヴィクトリアマイル、京王杯SCほかレース解説

    先週は土曜日に京王杯SC、日曜日にヴィクトリアマイルが行われた。ともに雨の影響を受ける競馬。 今回はこの2つのレースについて検証していくわけだが、その結果を難しく感じたファンも多かったのではないだろうか?  実は私もそのうちの一人なのだが(苦笑)。 まずは自分の馬の状態を確認し、その後にライバルと思われる馬の気配をチェックする。レース当日の装鞍所では、どの調教師も似たようなことをすると思うが、良馬場の競馬であれば、これだけで十分。 しかし、雨の影響を受ける馬場となると、チェックするポイントも一気に増えてくる。 自分の管理馬に関しては把握しているが、他厩舎の馬となると話は別。爪の形や繋の長さなど、実際に自分の目で見て確認し、それを頭に入れ直した状態でライバルになりえる馬なのかどうかを、改めて考えなければならない。作業が単純に増えるため、好走できるかどうかの予測も難しくなる。 ゆえに調教師を引退し、ほとんどの馬の脚元を知らない現在において、雨のレースほど厄介なものはないのだ。 例えば、桜花賞のソウルスターリング。あの馬の脚元を見れば、雨馬場が苦手なことはイメージできる。しかし、その血統背景も鑑み、相手関係を考慮したうえでの結論まで導くとなると、その難易度は格段に上がってくるのだ。 同馬の雰囲気は他馬と明らかに違う。だが、道悪で能力がどれほど減退するのか? それによって、他馬に逆転を許すのか? この世界に何十年もいる私でも、その予測は難しい。「走ってみないとわからない」という言葉を口にする調教師は多いが、実はそれが本音であったりもするのだ。 道悪競馬はそれほどに予測不能ということを理解してほしい。 〈古馬戦〉 5/13(土) 東京11R 芝1400m 京王杯SC 土曜日に行われた京王杯SC。逃げたのは横山典弘騎手が騎乗したヒルノデイバローだったが、その進路取りは逃げ馬としては明らかに異質だった。 内ラチ沿いを大きく開け、5頭分は外になるところを、彼は選んで通っている。つまりは馬場の影響がそれほどまでに大きい状況だったということ。 競馬において距離のロスというものは想像以上に大きい。馬場に差のない状況であれば、最短距離の内ラチ沿いを走ったほうが得に決まっている。 だからこそ、名手と呼ばれる騎手がセオリーと違う進路を走っていたとき──。 それは馬場状況に差があることを疑ったほうがいい。 その状況で馬券を買うファンが考えるべきことは何か? これは覚えておいたほうがいいだろう。そのようなときは、枠の影響が大きい競馬になるということだ。 「与えられた枠で頑張るのみ」と戦前は誰もが言う。調教師時代の私もそうだったが、実際は枠によって、関係者は一喜一憂しているもの。 当然のことながら、枠によって作戦のイメージも大きく変える。これはどの陣営でも同じだろう。 これほどの雨が降った今回であれば、明らかに内枠が不利。最も厳しい状況に置かれてしまったのは、1番人気に支持されたサトノアラジンだ。 寝繋で飛びの大きいフットワーク。良馬場で伸び伸びと走らせたいタイプなのに、内枠であるがゆえに、悪い馬場を窮屈な状態で走らされ続けた。 あの状況で勝ち負けを演じろと言われても、さすがに無理な話。残念だが、雨の内枠という時点で、今回の彼には運がなかった。 実際、上位馬を見てほしい。自分で走る場所を選択できたヒルノデイバローこそ4着に残っているが、上位馬はすべて外を走ってきた外枠の馬。 距離のロスよりも馬場のいいところを走ってきた利のほうが大きかった。それを証明した結果と言えるのではないだろうか。 勝ったレッドファルクスがマークした上がり3Fは33秒7。道悪と思えない数字だが、これは現在の馬場管理が進化し、雨の影響があっても時計は出る状況になっているためだ。 現代競馬において、道悪適性と走破時計は必ずしもリンクしない。 しかし、この馬は相当な道悪巧者のようだ。加えて、京王杯SCが行われている1400mという距離は、スプリンターでもこなせる領域。 安田記念の前哨戦という位置付けのレースではあっても、京都の開幕週で行われたマイラーズCのように、この1戦が本番に繋がるという感覚は持つことができなかった。 レッドファルクスはスプリンターという意識を私は持っており、スプリント戦のスピードに慣れていることがマイル戦でマイナスに働くことは少なくないとも思っている。 あくまで注目馬の1頭という認識。次走で本命視する可能性は極めて低いだろう。 他の上位馬に関しても同様のことが言える。1400mという距離で枠の恩恵を受けた着順だ。 むしろ、この組で注目するのなら、前述したサトノアラジンのような大敗組かもしれないが、いずれにしろ次の安田記念に関して考えるのなら、度外視してもいいくらいのレース。着順の先入観を持たないようにしたい。 5/14(日) 東京11R 芝1600m ヴィクトリアマイル 日曜のGIヴィクトリアマイルは土曜競馬よりも回復した馬場で行われたが、出走馬の進路取りを見れば、難しい馬場状況だったことがよくわかる。 この1戦も馬場適性や通ったコースの差が出たレースではなかっただろうか。 それだけに1番人気で負けたミッキークイーンの負け方は、レースから数日が経った現在でも不可解だ。この日のパドックの周回は悪くなかった。落ち着きもあり、適度な丸みもある。決して悪い状態ではなかったと思うのだ。 位置取りがいつもより前だったことを疑問視する声も出ているようだが、折り合いも付いていたし、流れにも乗れていた。浜中君の騎乗に落ち度はなかったと思う。 前走を道悪で勝っている馬なので、馬場を理由にするのも難しい。直線で手前を何度か替えるシーンも確かにあったが、その時点でデンコウアンジュに交わされているのだから、これも直接の敗因にはならないだろう。 ゆえに私は“不可解”という言葉を使ったのだ。 一方で馬場の悪いところを通らされた2番人気のルージュバック、1200mのレースに慣れてしまったことで、スローペースのマイル戦に対応できなかった3番人気のレッツゴードンキ、流れには乗れていたが、内枠と決め手勝負の流れに泣いた4番人気のスマートレイアーは、その敗因を推測できる負け方だった。 このような敗戦のほうが、次走に気持ちを切り替えやすく、条件の合ったレースを探しやすい。ゆえに、そこまで神経質になる必要はないだろう。 ミッキークイーンのそれとは違うというのが、私の考え方だ。 勝ったアドマイヤリードは荒れた馬場を気にしないタイプ。本来であればマイナスである内枠を利し、誰もが嫌う場所を通ってきた。そういった意味では運も味方した勝利と言えるかもしれない。 422キロしかない馬で、ステイゴールドの仔らしい気難しさをパドックでも感じさせる。今週、管理する須貝尚介君とも話をしたが、彼は「状態を維持することが難しい馬なんです」と言っていた。 本当にその通りだと私も思う。 体重のない牝馬を東京へ連れて行き、力を発揮させることはファンの方が思う以上に難しいし、他の馬の何倍も気を使うものだ。 ルメール騎手の騎乗は確かに巧みだったが、今回の1戦で賞賛すべきは、このようなタイプの馬を東京で勝たせた陣営の手腕。そこにスポットライトが当たることを私は望む。 これでアドマイヤリードは晴れてGI馬となった。秋も大きいところでの活躍が期待されるだろう。 しかし、前述したようにコンスタントに力を発揮できるかどうかが不透明な馬だ。 できれば、あとひと回りは体が増えてほしいところ。そうなれば、様々なリスクを考えなくていい馬になると思うのだが。 ※次回の【先週のレース解説 -調教師の着眼点-】は5月25日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

  • 2017年レース

    【5月6日・7日開催】NHKマイルC、京都新聞杯ほかレース解説

    〈3歳戦〉 5/7(日) 東京11R 芝1600m NHKマイルC 先週の日曜日に行われたのは、3歳限定のマイルGIであるNHKマイルC。入場人員は5万人程度だったようだが、仮にも日本で最も観客が入る東京競馬場で行われるGI。この人数は少ないように思う。盛り上がったかと聞かれれば、その答えに困るところだろう。 だが、これは栗東トレセンにいた週央から感じていたことだ。ちなみに今週のヴィクトリアマイルも同様の雰囲気。天皇賞(春)のときに感じた高揚感が、この2レースにはまるでなかったのだ。 必要ないとまでは言わないが、少なくともGIとして扱われている以上、この2つのレースを盛り上げるために何をすべきなのか? 考える時期が来ていると思う。 では、レースの検証に移ろう。このレースを制したのは牝馬のアエロリット。私はこの1戦を観戦したのだが、パドックを見た瞬間に「やられた」と思った。それほど、馬の雰囲気が他の馬と違ったのだ。 イレ込みもなく、極端に馬体を減らすでもない。適度な高さにある首の位置が、集中した状態であることも示していた。このような馬は、常に高いパフォーマンスを見せることができる。大きく崩れることのないタイプとして、今後も活躍していくはずだ。 レースを見て、まず誰もが「?」と思うであろう横山典騎手のコース取りについて、私なりの考えを話しておきたい。 あれだけの好スタートを切ったのなら、コースロスのない最内へと馬を誘導することもできたはず。しかし、彼はそれをしなかった。 なぜか? おそらくは内から数頭分はあった馬場の悪い部分を、嫌ったのではないだろうか。スタートからコーナーまでは直線。ここはわかる。 だが、いかに馬場が悪くても、距離のロスが大きくなるコーナーの部分だけは、少しでも内に入れて走りたいところだ。 しかし、彼はここでも馬場のいいところを選んで走っている。パトロールフィルムが公開されているので、視聴が可能な方は、横山騎手の騎乗ぶりをぜひチェックしてほしい。かなりの外を走っていることが、わかってもらえるはずだ。 パドックを見た瞬間に「やられた」と感じたと書いたが、おそらくは騎乗している彼も同様だったのではないだろうか。 距離ロスがあっても「勝てる」という自信──。 ゆえに馬場の悪いところを走るリスクを避けた。そういう意味では、外枠もプラスに働いたと言えるかもしれない。 1分32秒3の速い時計は、現在の東京の高速馬場の恩恵を受けたものかもしれず、普通は額面通りに受け取れない。しかし、これだけの距離ロスがありながらの数字とあれば、話も変わってくる。 特にアエロリットは5月17日の遅生まれ。これからの成長も期待できる馬だ。この1戦を持って3歳のトップに立ったとまでは言えないが、少なくともトップクラスの1頭であることは証明した。一線級の馬を相手に活躍していくレベルの馬だと思う。 2着馬のリエノテソーロは申し訳ないが、完全にノーマークだった。芝、ダートを兼用で走る馬もいるが、この馬の歩様はどちらかというとダート寄り。父のスペイツタウンは完全なスプリンターで、母系も短距離色が強い。見逃してしまう材料が多かったわけだ。 しかし、最近はスタミナ型よりもスピード型が幅を利かすことのほうが明らかに増え、それは確かなスタミナが必要とされてきたGIでも同様。私を含め、血統論者はこれまでの認識を改め、現在の傾向から来る新しい認識を追加していく必要がありそうだ。 3着のボンセルヴィーソは1勝馬。しかし、見どころ十分の競馬をしたと思う。 向正面までは馬場のいいところを走らせていたが、ハナを切っていた馬。さすがにコーナーでは同じようなことができず、結果的に馬場の悪いところを走らされる結果になってしまった。 内から伸びた馬が1頭もいないレースにおいて、内を通って粘っていた同馬の頑張りは評価すべきもので、同時に「いずれはタイトルを取る馬」という認識を持った。 パドックでも落ち着いた周回の出来る馬で、おそらくは惨敗の少ないタイプ。覚えておいて損はないと思う。 人気で負けてしまった馬について、少しだけ触れておきたい。 1番人気のカラクレナイは馬体重こそ4キロ増だったが、腹が巻き上がってしまい、またテンションも高かった。あれでは走れなくても仕方がない。この1戦が実力ではないと思う。 3番人気のモンドキャンノは結果的に距離が長かったということだ。それなりに折り合っていたが、本質はスプリンター。今後に期待したい。 4番人気のアウトライアーズはパドックの雰囲気が素晴らしかった。アエロリットの次はこれと思ったくらいだ。それだけに13着に惨敗するとは考えもしなかったのだが、あえて敗因を探すなら内枠で馬場の最内を通らされたことだろうか。見た目はいい馬。この1戦だけで見限りたくない。 5/6(土) 京都11R 芝2200m 京都新聞杯 土曜の京都新聞杯はプラチナムバレットが制したが、レース翌日に骨折が判明してしまい、無念のリタイア。 管理している河内君の気持ちを思うと残念でならないが、遅生まれのこの馬は、古馬になってからでも活躍ができるはずだ。姉には息の長い活躍を続けるスマートレイアー。弟もそれに続いてほしいと思う。 2着サトノクロニクルは賞金的にダービー出走が微妙なようだが、持っている能力は確か。4コーナーで進路を切り替えるようなシーンがあり、このロスが痛かった。 条件戦ならすぐにでも勝ち上がれるだろうし、仮にダービーに出走できたとしても、まずまずの結果を残せるかもしれない。 5/6(土) 東京11R 芝2000m プリンシバルS 東京のプリンシバルSはダイワキャグニーが勝利。2馬身半の着差は完勝のレベルだが、追ってからの加速が少し遅いのが難点。 ダービーを勝つような馬は瞬時にギアを上げられるタイプが多く、その点においてトップレベルと差があるように思う。本番で好勝負をすることは難しいだろう。 〈古馬戦〉 5/7(日) 新潟11R 芝2000m 新潟大賞典 古馬の重賞はローカルの新潟大賞典のみ。条件戦で力を付け、ようやく本格化を果たしたサンデーウィザードの勝利は素直に讃えたいが、ハナ差で競り落としたマイネルフロストとは2キロのハンデ差があった。 そのマイネルフロストが古馬のトップクラスと呼べない馬だけに、GIのような大きな舞台でサンデーウィザードが勝ち負けをするシーンはイメージしにくい。 ローカル重賞からステップアップしていく馬は、そこに至るまでの過程も極めて順調である場合が多い。一方で、それなりにキャリアを重ねた馬の伸びしろは、それが初重賞制覇であっても、もうそれほど残されていないのだ。 ローカル重賞でなら、今後も注目していく必要があるだろう。しかし、例えば宝塚記念のようなレースに対しては、さすがに厳しいと言わざるをえない。 ※次回の【先週のレース解説 -調教師の着眼点-】は5月18日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

  • 2016年新馬戦

    【新馬戦・総集編】レーヌミノルなどがデビューした8月9月編

    今回の【新馬戦・総集編】では、第2弾として、8-9月に勝ち上がった馬の中から白井元調教師の「レース当時の評価」を基に、今後の活躍も期待される各馬の新馬戦を振り返っていく。 ※第1弾はこちら ⇒【新馬戦・総集編】ソウルスターリングなどがデビューした6月7月編 ■「来春の桜花賞で見てみたい」 8月初めに白井元調教師が注目した1頭にレーヌミノル(小倉芝1200m)。「二の脚が速く道中は3番手から。4角で軽く気合いを入れられ先団を射程圏に捉えると、残り1Fで追い出されあっさりと抜け出してみせた。途中、鞍上が後ろを確認する余裕も。まさに王道の勝ちっぷりで、理想的な競馬だった」という戦評とともに、「タイキシャトルの肌にダイワメジャーという血統構成。マイルあたりが最も力を発揮できそうで、来春の桜花賞で見てみたい」と血統面のポテンシャルと将来性を評価した。 レーヌミノルは次走の小倉2歳Sを勝利すると春には桜花賞を制覇。今後もさらなる活躍を期待されている。 ■「強い!」 デビュー前の血統診断で「5代母コランディア。鎌田牧場の名血」と白井元調教師が語ったエピカリス。新潟ダ1800mの新馬戦は鮮烈な勝ちっぷり。その評価は高かった。新馬後も、「周りが必至で追ってる中、まるで調教をしているかのように馬なりのままで圧勝を飾ってしまった。文句のつけようがない勝ちっぷり」という戦評とともに、「日高牧場から鎌田牧場が購入し、有力な種牡馬つけられてきた名牝。その肌に父がゴールドアリュール。惚れ惚れする血統」と血筋の良さも評価。さらに、「今回ダート戦で圧勝したし、ダート路線ではGI級。馬格もいいし将来JDDとかフェブラリーSといったダートGIに顔を出してくる素材」と将来性も高く評価した。 エピカリスは国内でデビューから4連勝。3月末にはドバイのUAEダービーに参戦。僅差2着に敗れたが、その実力に同馬の将来に大きな期待を抱いたファンは多いはずだ。 同日の新馬戦から白井元調教師が高く評価したのはメイソンジュニア(小倉芝1200m)。「他の馬達がおっつけている中で、もったままサッとハナに立つ。直線で追いだしてから若干ふらついた部分もあったが、問題になるほどではない。後続馬を突き放して勝利をしたのは見事。時計的にも2歳デビューとしては好タイムだし、スムーズな競馬をしていたので、多頭数になったとしても大丈夫」という戦評とともに、「血統背景、そしてレース内容からみても、短距離戦では十分活躍できる素質がある。馬格があるものいい。距離は長くてもマイルまでのイメージ」と将来性を評価した。 11月の福島2歳Sで2勝目を挙げると、年が明けた3月のファルコンSは3着、続くニュージーランドTは2着。着実な成績を残しており、今後も短距離での活躍が期待されている。 ■「終いの良さが血統的な裏づけを示している」 2回札幌の開催がスタートしたこの日、白井元調教師が評価した1頭にレッドアンシェル(札幌芝1500m)。「相手を見ながら道中を進み、4コーナーで持ったまま先頭に並びかけると、直線でのゴーサインに鋭く反応して突き抜ける圧勝劇だった。小柄な馬だけど、レース内容が良かったので将来性は十分あると思う」という戦評とともに、血統面も「マンハッタンカフェ×ストームキャットといい配合。レースで見せた終いの良さが血統的な裏づけを示している」と評価した。 次走のもみじSも勝利。明け3歳となってアーリントンCで2着。デビュー当初は430キロ台だった馬体はアーリントンC出走時に456キロ。一戦毎に成長を見せる同馬に、今後も期待するファンは多いだろう。 ■「クラシックに行きそう」 夏の小倉でデビューしたものの、白井元調教師が「秋の新馬戦に出走しても良さそうな馬」と評価していたのはペルシアンナイト(小倉芝1800m)。「4角で馬なりのまま進出して、直線では楽な手応えで走っており、オーロラビジョンを確認する余裕すら見せての完勝劇。鞭を打たずに伸びてきたのは高い瞬発力を持っているから」という戦評とともに、「素直な走りをするので将来性がある。クラシックに行きそう」と語った。 新馬戦の勝利後も馬券圏内を外すことなく好走を続け、2月のアーリントンCを勝利すると皐月賞も2着好走。春のクラシックで有力所の一角を占めており、引き続き注目を集めていきそうだ。 ■「短距離戦線で面白い存在」 8月の最終週。夏競馬も終盤を迎えていたこの時期、外国産馬リエノテソーロ(札幌芝1200m)が白井元調教師の眼に留まった。「出っぱ(スタート)がよく、道中は外から被せてきた馬のインでじっと構えて3番手を追走。経済コースを通って、直線入り口から追わせて抜け出す理想的な競馬」という戦評とともに、「ダンジグやゴーンウエストが入っていて、短い距離に適している。また、ミスタープロスペクターの3×4やノーザンダンサーの5×4とクロスも」という血統面を加えて、「短距離戦線で面白い存在。重賞でも期待できる」と将来性を評価した。 デビューから芝1200mを連勝すると、3戦目からはダートへ。門別のエーデルワイス賞(JpnIII)と川崎の全日本2歳優駿(JpnI)を連勝。再び芝に戻ったアネモネSは僅差の4着に敗れたが、芝・ダートを問わない走り。今後も“面白い存在”としてファンを楽しませてくれるだろう。 ■「非の打ち所がない」 雨模様で馬場状態は稍重のこの日、白井元調教師が注目した勝ち馬はヴァナヘイム(小倉芝1800m)。「文句のつけようがない走りっぷりで見ていて安心するレースだった。走破タイムは1分53秒8とめちゃくちゃ遅いが、パフォーマンスが素晴らしい」という戦評とともに、「2代母にエアグルーヴがいて、超一流の母系を持っている。母がグルヴェイグとアドマイヤグルーヴの違いはあるが、父キングカメハメハ×2代母エアグルーヴはドゥラメンテと同じ血統背景」という部分を加味した上で、「血統的裏付けがあるし、レース内容も非の打ち所がない。また多くのGI馬を輩出している角居師が管理しており、将来性も期待できる」と評価した。 一流の牝系を持つ血統馬も1月に骨折が判明。一日も早い回復が待たれる。 ■「GI級の素材との確信を持てた」 9月下旬、白井元調教師が注目したのはフランケル産駒のミスエルテ(阪神芝1600m)。「結果的に遅い勝ち時計の競馬になったが、鞍上が追うアクションを見せず、楽々と抜け出した走りっぷりは、クラシックで勝ち負けするレベルのそれ。文句なしの内容といえるだろう」という戦評とともに、「札幌で新馬を勝っているソウルスターリングもフランケル産駒だが、奥はこちらのほうが、明らかに上だろう」という将来性と、「母系もしっかりしており、非の打ちどころがない。血統的にはパワー型で、このタイプの馬にこそ、欧州遠征をしてもらいたい」という血統面からの期待も評価した。 新馬戦の後はファンタジーSを快勝すると牡馬相手の朝日杯FSは4着。4ヶ月振りの桜花賞は11着に敗れたが、まだまだ“奥を秘めた部分”は未開花の様子。将来の本格化に大きな期待を寄せられる牝馬だろう。 後の桜花賞馬レーヌミノルなどのデビューを振り返った「8月・9月編」。 次回も、白井元調教師の「レース当時の評価」を基に、10月以降の新馬戦を振り返っていく。 ※次回更新日まで楽しみにお待ちください。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

  • 2017年レース

    【4月29日・30日開催】天皇賞(春)、青葉賞ほかレース解説

    〈3歳戦〉 4/29(土) 東京11R 芝2400m 青葉賞 土曜日の東京競馬場で行われた青葉賞は、ダービーと同じ舞台で行われるトライアルレースでありながら、ダービーの勝ち馬が出ていない不思議なレースとして知られている。もちろん、そのようなジンクスを私が気にすることはないし、強い馬は強いというスタンスで競馬を見ているのだが、1番人気が不振だった先週の天皇賞(春)のように、それなりに続いていたレースの傾向を強い馬が打ち破ると、それなりの爽快感がある。 このレースに関しての検証は後述するとして、まずは青葉賞。結論から先に言えば、今年の勝ち馬であるアドミラブルは「青葉賞勝ち馬はダービーを勝てない」というジンクスを破る可能性が高い。この1戦を受け、私はアドミラブルがダービーの主役候補になりえる存在との認識を持った。 勝ち時計の2分23秒6は高速馬場の影響を受けたものかもしれない。この数字をダービーの勝ち時計と単純に比較するのは危険だが、それでも素晴らしい数字であることは事実だ。 確かに道中のペースは流れていた。だが、彼のレースぶりは展開の恩恵を受けたものではなく、むしろ逆の形。前半の位置取りは少し後ろ過ぎるように感じたし、この流れを考えれば、動いていくタイミングも早かった。 率直な表現をすれば、あの1戦は早仕掛けだ。脚が持たなくても仕方がない。しかし、アドミラブルはそのまま押し切ってしまった。 直線のフットワークを見れば、まだまだ若さを残している状態であることがわかる。右へ、左へとフラつきながらの走り。なのに、ゴール前では2着ベストアプローチを突き放してしまうのだから、2馬身半という着差以上に力の開きを感じたレースと言えるだろう。 一方で、パドックでの所作には一流馬らしい落ち着きが感じられた。頭の位置も適当。頭が高い位置にあり過ぎると落ち着きがないように見えるし、低い位置では活気がないように感じてしまう。大観衆の中で競馬をするにあたり、レースに臨む精神状態というのは非常に重要。「水平首」が良しとされる理由がこれだ。 まだ絞れるだけの余裕がある馬体も好印象だった。皐月賞よりも本番までの間隔が詰まっていることを考慮されていたのか、ギリギリにまでは作り込んでいない。権利取りではなく、前哨戦として臨んでいることがわかる馬体だった。 ノド鳴りの手術を受けている馬ということだが、復帰後の3戦は無敗。全てのレースでワンサイド勝ちをしている。この点に関しても、下手に勘ぐる必要はないと私は考えている。 父ディープインパクトで母父はシンボリクリスエス、その先にはトニービンがいる血統背景。この距離こそがベストだろう。3代母はダービー馬フサイチコンコルドを輩出した名牝のバレークイーン。下地もしっかりしている。 能力、状態に加え、血統まで揃っているのだから、大仕事を意識するのも当然。無事に本番を迎えてほしいと思う。 4/30(日) 東京11R 芝1800m スイートピーS 日曜のスイートピーSはブラックスビーチが勝利。正直、このレースからオークスを意識することは難しく、未勝利を勝ったばかりの馬が制した今年もレベルは高くない。 ソウルスターリングあたりとの能力、完成度の違いはいかんともし難いというのが、現在の私が考える印象だ。 ただし、このブラックスビーチという馬に関しては、個人的に注目したい理由がある。同馬の祖母に当たるリーチフォーザムーン。プルピットを父に持つこの繁殖牝馬は、私が管理したアグネスデジタルの半妹なのだ。 このような血統の馬の活躍を単純に嬉しく思う反面、外国産馬だったアグネスデジタルの血統を日本に根付かせている社台グループの凄さも改めて感じた。 日本の競馬に適応する血統は何か? 彼らは常にアンテナを張っている。それが15年近い年月を経た現在に通じているのだ。一人勝ちの状況も納得できるというものだろう。 〈古馬戦〉 4/30(日) 京都11R 芝3200m 天皇賞(春) 前述したが、今年の天皇賞(春)は1番人気だったキタサンブラックが優勝し、ディープインパクト以来となる1番人気馬の勝利を達成した。強い馬が強いレースをして結果を出す──。素晴らしいことだと思う。この日、京都競馬場を訪れた多くのファンも、納得して家路についたのではないだろうか。 キタサンブラックという馬を見るたびに思う。“心技体”がここまで備わっている馬はなかなかいない。相当な名馬を我々は目にしているのだと。 レースの週の調教で少しモタれるような仕草を見せていた。それが私は気になっていた。わずかなほころびを見せるかもしれない──。ゆえに装鞍所からパドックでの周回まで、私はキタサンブラックの所作の全てに注目していたのだが、何のことはない。そこにいたのはいつも通りのキタサンブラック。大観衆に動じることもなく、堂々とパドックを周回し、他の馬とはスケールの違う馬体を誇示していた。この時点で、私はすでに「今回も勝ち負けは必至」と感じていたのだ。 レースに関して詳しく述べる必要はないだろう。強い馬が4コーナーで先頭。止まる気配がないのだから、後続になす術はない。いつもの競馬だ。 パドックまでのキタサンブラックを見て思うのは、心技体の“心”が優れているということ。 自分の好きな位置を取り、積極的に動いていけるレースセンスは“技”の部分だろうか。ディープインパクトのレコードタイムを破った3分12秒5が示しているのは、他の馬よりも一枚上の能力。これが“体”にあたる。どの部分を切り取っても、隙が全くない馬。このような馬は本当に珍しい。 宝塚記念に出走すれば、おそらくは圧倒的な1番人気。国内のファンの期待に応えたうえで、秋は凱旋門賞というのが理想的な流れだろう。凱旋門賞の挑戦は斤量が有利な3歳のうちに挑戦したほうがいい。そんな声があるのも事実で、私もその意見に反対はしない。 しかし、凱旋門賞という特殊な舞台において、その能力をフルに出し切るのであれば、成熟している馬が遠征したほうが絶対にいい。 キタサンブラックは無駄なことをしない馬だと清水久調教師から聞いた。余計な体力を使わない。とても大事なことだ。未だに天井が見えないキタサンブラックが、凱旋門賞でどのようなパフォーマンスを見せるのか──。興味は早くも秋競馬へと移りつつある。 3着だったサトノダイヤモンドは外枠の影響もあったと思うが、当日の仕上がりは良かったし、現時点での力量差は認めなければならないだろう。 確かに有馬記念でキタサンブラックに勝ってはいるが、当時は2キロの斤量差があった。今回は同斤量で初めての58キロ。この状況でキタサンブラックを負かすのは簡単でないと私は考えていた。 サトノダイヤモンドは1月30日の早生まれ。同じ世代のマカヒキもそうだが、早生まれの馬というのは3歳秋の時点でほぼ完成してしまう。 この時点で私の言いたいことをご理解頂けただろうか? すでに完成した状態の馬が、2キロの斤量差を有馬記念では貰っていた。だからこそ好勝負になる。あの1戦を持って、2頭の実力が拮抗しているとの結論を私は出していなかったのだ。 海外遠征には色々なファクターがある。状態面はもちろんだが、現地の芝とのマッチングも重要なファクターだ。シャンティイの芝がサトノダイヤモンドにどこまで合うのか? 凱旋門賞という舞台においてもキタサンブラックが優位と私は考えているが、芝との相性でキタサンブラックをしのぐことができれば、この馬にもチャンスはある。決して弱い馬ではない。高い能力を持っている馬なのだから。 他の馬にも少し触れておこう。シュヴァルグランは最高の競馬をして2着。スタミナ勝負で真価を発揮したと思うし、馬体が絞れていたのも良かったのだろう。この路線の上位にいる馬ということを再認識した。 6着だったディーマジェスティは馬体がまだ太い。絞れてくれば…との思いもあるが、成長力にやや欠ける印象もある。走れる体付きになったときに、改めて真価を問いたい馬だ。 7着ゴールドアクターはキタサンブラックと逆。パドックでの所作に落ち着きがない。精神面に課題を抱えており、あれでは安定して走れないと思った。スタートの出遅れも想定内と考えるべきだろう。今後の巻き返しも微妙だ。 実はパドックを見て、キタサンブラックの次に素晴らしいと感じた馬が、9着に敗れたシャケトラだった。今回は走れなかったが、まだキャリアの浅い馬。一気にレベルの上がった1戦に対応できなくても無理はない。上位馬以外で今後も注目すべき存在は、この馬を置いて他にないだろう。 〈特別編〉 現地時間4/30(日) シャティン8R 芝2000m クイーンエリザベスII世C 香港で行われたクイーンエリザベスII世Cについて、簡単に触れておきたい。誰が見てもわかるように、ネオリアリズムの勝因は騎乗したモレイラ騎手の卓越した騎乗によるところが大きい。 日本の未勝利戦よりも遅いペース。ゆえに脚の使いどころが難しい1戦だった。モレイラ騎手は残り1000m前後のところで一気にスパートしたが、あれよりも早いと早仕掛けになってしまい、脚を残すのが難しい。逆にあれよりも遅いと仕掛け遅れになってしまう。 馬の特徴を把握し、その能力を生かすことに長けている騎手ということが、改めて証明されたレースと言えるだろう。 ネオリアリズムは日本でも上位グループにいる馬ではあるが、キタサンブラックのような超が付く一流馬のレベルにはないと思う。ゆえに大阪杯を選択せず、香港遠征を選んだ陣営の判断が、今回の勝利を生んだと私は考えている。 日本馬のレベルは高く、国内のGIを勝つことは難しくなってきた。このような遠征が今後は増えるのではないだろうか。 アグネスデジタルは南部杯→天皇賞(秋)→香港Cというレーススケジュールを組んだのだが、私の感想は「盛岡に行くよりも香港のほうが楽やな」だった。香港の芝は日本に近く、輸送のリスクも少ない。日本馬が最も活躍できる海外レースであることは疑いようがない。 ※次回の【先週のレース解説 -調教師の着眼点-】は5月11日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

  • 2017年レース

    【4月22日・23日開催】フローラS、マイラーズCほかレース解説

    〈3歳戦〉 4/23(日) 東京11R 芝2000m フローラS 日曜の東京競馬場で行われたオークスTR・フローラSの回顧から始めようと思うが、結論を先に言ってしまえば、この1戦から桜花賞組を逆転するような馬は見つけられなかった。 1000mの通過は61秒5のスローペース。枠番と通ったコースが明暗を分けた印象が大きいレースで、勝ち時計の2分1秒3も強調材料に乏しい。本番の桜花賞こそ道悪競馬になってしまったが、あのレースを走った人気馬たちは時計の裏付けを持っていた馬たちだ。今回、そのレベルに到達する馬がいなかったのは、オークス本番を考えたうえで、残念な結果と言うほかないだろう。 個別の馬に話を移そう。勝ったモズカッチャンは最内枠を生かし、ロスのない立ち回りでの差し切り勝ち。前残りの流れを差し切ったことに関しては、それなりの評価をしたい。パドックでの踏み込みも力強く、また身のこなしも柔らかだった。状態もかなり良かったのだと思う。 2着のヤマカツグレースは2番手から理想的な競馬をした。先の大阪杯で3着だった半兄のヤマカツエースは古馬になってから急速に力を付けた。父がハービンジャーに替わっているが、まだ芯が入っていない馬体の印象から、本当の意味で良くなってくるのはこれからだろう。 3着はディープインパクト産駒でラキシスやサトノアラジンの全妹であるフローレスマジック。正直、パドックで見た馬の形だけを言えば、私はこの馬が最上位に見えた。確かにトモはまだ薄く、力を付け切っていない印象はある。しかし、この馬は一流馬にしかない“品”のようなものを持っている。 今回の結果だけを見れば、オークスで通用する馬と思えないかもしれない。私もそうだ。しかし、この馬には秋になって以降、さらには古馬になって以降の可能性を感じた。その名前を忘れずにいたい馬と言えるだろう。 4/22(土) 京都10R 芝1400m 橘S もう1鞍は土曜の京都で行われた芝1400mのオープン・橘S。勝ったディバインコードは重賞でも好走を続けていた馬で、このレベルのメンバーが相手なら力量上位。その強さも1枚上と感じさせるものだったわけだが、NHKマイルCで好勝負できる馬とまでは思わなかった。 その理由は追って頭の高いフットワーク。彼はマツリダゴッホの産駒だが、父と同じように直線の長いコースよりも短いコースのほうが合うタイプと私には見えた。東京の芝1600mでは厳しいだろう。 〈古馬戦〉 4/23(日) 京都11R 芝1600m マイラーズC 安田記念の前哨戦でもあるマイラーズC。先週に行われたレースの中で、最もGIに直結しそうな1戦がこのレースだった。 勝ったのは6歳馬のイスラボニータ。3歳秋のセントライト記念以来の勝利だったわけだが、それほどの長い期間を勝てなかったのが不思議なほどの強さだったと思う。 しっかりと調教を積み、京都まで輸送をしての8キロ増。この日、私は京都競馬場にいたのだが、体が増えている馬が落ち着き過ぎているように見えたときは、あまり結果が伴わない。実は「大丈夫だろうか」と戦前は思っていた。しかし、結果はご存知の通りだ。 「競走馬の仕上げは点ではなく、線で見て欲しい」と私は常に言う。競走馬は生き物。常に同じ状態で出走できるはずもない。ゆえに、大事なレースへとピークを持っていくのが、調教師の重要な仕事になっていく。オリンピックを目指すアスリートと似たようなもので、だからこそ、肉体的も精神的にも余裕のある状態で前哨戦を制した今回の勝利は意味があると私は思う。安田記念でも最有力の1頭と考えていいのではないだろうか。 今回の1戦で絶対に触れなければならないこと。それは騎乗したルメール騎手のインサイドワークだ。開幕週の京都は芝の状態がいい。あれほどの好スタートを切ったのなら、外めの好位で競馬を進めることもできたはずなのだが、彼はイスラボニータの位置を意識的に下げ、他の馬の動向をしっかりと確認しながら、3コーナーを待たずに最内へとイスラボニータを誘導していった。そこを最初から通る──と決めているかのようなレースぶり。 直線は狭いところを割る形になったが、ヨーロッパで乗る騎手は、密集した馬群から抜け出してくることこそが仕事と考えている。そこが日本人騎手との違いで、彼にとっては造作もないことだったのだろう。改めて「上手い」と感じた騎乗だった。 2着のエアスピネルは好仕上がりで、競馬の形も悪くなかったはずだが、今回も勝てなかった。GIを勝てる能力を持つ馬と2歳時から評価してきた馬だが、どうもパンチ不足というか、安定している反面、突き抜けるだけの瞬発力を持っていないようにも感じてきている。イスラボニータと似たようなタイプだと思うが、一瞬の切れという面ではイスラボニータのほうが上。それが今回の1戦で証明されてしまった。斤量に差があっての結果。本番での逆転は難しいかもしれない。 3着以下では、開幕週の芝には不向きの差し競馬になってしまったブラックスピネルに注目しておきたい。最後はしっかりとした肢を使っており、地力強化は本物。ただし、パドックではチャカつくような面を見せていた。安田記念の距離は問題ないだろうが、それ以上の距離をこなすのは難しいと思う。 4/22(土) 福島11R 芝1800m 福島牝馬S 最後に土曜の福島牝馬Sについてサラッと。道中で動く馬がいて、そのラップ構成はかなり厳しかった。先行馬が有利とされるローカル競馬で、たまにある追い込み馬の形の競馬。勝ったウキヨノカゼに向いた展開だった。この1戦から東京のヴィクトリアマイルをイメージできる馬は出現しにくい傾向にあるが、それに関しては今年も同様と言っておきたい。2着以下にもGI通用の可能性を感じさせる馬はいなかった。 ※次回の【先週のレース解説 -調教師の着眼点-】は5月4日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

  • 2016年新馬戦

    【新馬戦・総集編】ソウルスターリングなどがデビューした6月7月編

    2014年産となる現3歳世代。2016年6月の新馬戦から約4000頭が中央競馬でデビューした。そのうち、新馬戦を勝ち上がったのは285頭。 「白井寿昭オフィシャルサイト」では、JRA元調教師・白井寿昭の見解として、新馬戦を勝ち上がった馬の将来性を含めて、各馬の評価をお伝えしてきた。 今回の【新馬戦・総集編】では、第1弾として、6-7月に勝ち上がった馬の中から白井元調教師の「レース当時の評価」を基に、今後も活躍を期待される各馬の新馬戦を振り返っていく。 ■「順調に行けば大きいところも」 連載開始当初、恐らく最も高い評価を与えた1頭はモンドキャンノ(函館芝1200m)だろう。「直線を迎えると、追い出しを遅らせるほどの余裕ぶり。残り100mを切ったところで気合いを付けるために左ステッキが1発入ったが、着差(1馬身1/4)以上の楽勝だった」という戦評とともに、「スプリント戦で活躍しそうで、順調に行けば大きいところも狙える器」と将来性を評価した。 次走の函館2歳Sでは2着、続く京王杯2歳Sを勝利。2歳GI朝日杯FSでも2着と好走したモンドキャンノ。期待される将来性から更なる活躍を期待できる1頭だ。 同日のデビュー組から白井元調教師が高く評価したのはアエロリット(東京芝1400m)。「追い出されてからはしっかりと伸び、1度は2着馬に詰め寄られたけど、最後は突き放してみせた。古馬みたく大人びたレースぶりだった」という戦評とともに、「馬格がある牝馬。レースセンスが良く、このまま順調にいけば重賞レース、クラシックでも好勝負ができそう」と将来性を評価した。 2月末時点までに重賞2戦連続2着。4戦4連対と結果を残してきたアエロリット。この原稿の作成時点で桜花賞などの結果は出ていないが、確実にクラシック戦線に乗った1頭。 (※桜花賞5着) ■「重賞制覇も近いと思う」 新馬戦のスタートから1ヶ月を過ぎた6月末。白井元調教師の眼に留まった1頭の中にアメリカ3冠を制したアメリカンファラオを輩出したパイオニアオブザナイル産駒も含まれるだろう。函館芝1200mでデビューしたレヴァンテライオン。「母の血統を見ると芝ダート兼用な気がする」という母系を含めた血統面を語るとともに、「重賞制覇も近いと思う」と評価した。 2戦目でGIIIの函館2歳Sを勝利した後、一時不振となったものの、3月には昇竜Sに向かい初のダート戦に出走。勝ち馬と0.6秒差の内容にこの馬の新たな可能性を感じたファンも少なくないはずだ。 ■「新種牡馬で上に行くルーラーシップ産駒」 この世代が初年度となる新種牡馬ルーラーシップ。その産駒から白井元調教師が注目した一頭にダンビュライト(中京芝1600m)。「パドックでは踏み込みが良くて落ち着きがあった。スタートしてから4、5番手で持ったまま行ってたね」という戦評とともに、「母父がサンデーサイレンス。サンデーの力を借りれるキンカメ系のルーラーシップ。将来的に新種牡馬で上に行く。高評価」という新種牡馬の評価を加えて、「クラシックに行けそう」と将来性を語った。 2戦目のサウジアラビアロイヤルCの2着のあと、皐月賞トライアルの弥生賞でも3着。本番の出走権を得たダンビュライト。今後も活躍が期待されている。 (※皐月賞3着) ■「クラシック路線に乗れそう」 レース直前に放馬しながらも結果を出したキングズラッシュ(福島芝2000m)。白井元調教師は同馬の走りについて、「出走前に放馬していたが、呼吸がそれほど乱れてなく見えた。道中は内から外に持ち出して、綺麗な馬場を走らせていた。最後はヨレながら伸びてきた。勝ちタイムは遅いけど、道中の馬っぷりが良かった」という戦評とともに、「大外を回るロスがありながらクラシックディスタンスをクリアしていて、血統的な裏付けもいい。馬格もあるし、放馬があっても勝利している。クラシック路線に乗れそう」と将来性を評価した。 次走で芙蓉Sを勝利し、東京スポーツ杯2歳Sでも4着。そこからぶっつけで皐月賞に登録。他馬と比べてローテーションの順調さはないものの、まだまだ伸びシロを持っていそうだ。 ■「レース運びは文句ない」 文句のないレース運びで快勝したコウソクストレート。この馬も白井元調教師の眼に留まった。「2、3番手追走から馬なりのまま上がって勝利する。追い出されていたら走破タイムは0秒5ぐらい縮まっていた。レース運びは文句ない」という戦評とともに、「流しながら勝利している。クラシックにいけそう。将来性はある」と評価した。 その後に連勝すると3月に入ってファルコンSを勝利。GI出走へのメドを付けている。 ■「クラシック候補で将来性はGI級」 新馬戦のスタートから7月末までで、恐らく白井元調教師が最も評価したのは、この馬かもしれない。札幌芝1800mを勝利したソウルスターリング。「フットワークが柔らかくて、もう少しスピードがあると思う。パドックではうるさい面を見せていたけど、すぐに落ち着いてた。大物感がある」と新馬戦を評価した。「超一流」と表現した血統に加えて、「日本の馬と比べて、爪がベタ爪でサイズが大きい。道悪が心配だけど、父が重たい欧州の馬場で結果を出しているから問題はないだろう。身のこなし方やセンスがある。クラシック候補で将来性はGI級」と将来性については最大級の評価を与えた。 3連勝で阪神JFを勝利し、世代最初のGIを獲得。桜花賞トライアルのチューリップ賞も完勝し、牝馬路線の主役と目される存在へ。この原稿の作成時点で桜花賞の結果は出ていないが、3歳牝馬路線の中にあって、常に話題の中心となりそうだ。 (※桜花賞3着) 連載開始から7月までを振り返った「6月・7月編」。 次回も、白井元調教師の「レース当時の評価」を基に、8月以降の新馬戦を振り返っていく。 ※次回更新日まで楽しみにお待ちください。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

  • 2017年レース

    【4月15日・16日開催】皐月賞、アンタレスSのレース解説

    〈3歳戦〉 4/16(日) 中山11R 芝2000m 皐月賞 日曜の中山競馬場で行われた皐月賞。結果はどうであれ、ソウルスターリングという大本命馬がいた桜花賞と違い、戦前から大混戦という下馬評だった。牝馬のファンディーナが1番人気に支持されたのも、そのような背景があったからではなかっただろうか。 勝ったのは9番人気のアルアイン。4番人気のペルシアンナイトが2着で、3着は12番人気のダンビュライト。波乱の結末となったわけだが、その勝ち時計は1分57秒8と速かった。凡戦どころか、ハイレベルレースとも受け取れる数字だ。この事実をどう考えるべきなのか? 牡馬クラシック第2弾の次走は、あらゆるホースマンの最大目標とされる日本ダービー。このレースにおける好走馬の可能性だけでなく、上位人気が総崩れになってしまった要因──とりわけ、ファンディーナの敗因なども含め、牡馬三冠レースの初戦を、私なりに分析したいと思う。 アルアインの前走は毎日杯。皐月賞の前哨戦としては亜流であり、それが人気の盲点になった理由なのだろうが、負かした相手はダービー候補とも言われるサトノアーサーで、その勝ち時計も速かった。終わってみれば、勝って不思議のない力を持っていたということだろう。 私が見たアルアインの強さ。それは折り合い面に不安を抱えていないことだと思う。早めに好位に付けたことを勝因に上げるのは簡単。 しかし、今回のアルアインは、決してスタートが速かったわけではなく、鞍上の松山君は押して位置を取りに行っている。 前走の毎日杯も同様だった。折り合いに不安のある馬では、このような競馬をすることができない。自分から位置を取りに行き、それでもリズムが崩れない。前走の毎日杯で、そのセールスポイントに気付くべきだったのかもしれない。 しかし、レースのすべてが完璧だったわけでなかった。4コーナーの手前。ファンディーナが前を横切り、その瞬間に位置を少し下げるようなシーンもあったのだ。大きな不利ではないが、これから加速しようというタイミング。影響はそれなりにあったと思う。 だが、アルアインはそこから再加速し、直線でも最後まで伸びきった。この点も評価すべき。混戦を割って出てきた勝負根性も、実に見事だった。この1戦に関していえば、クラシックホースにふさわしい内容と言っていいだろう。 では、次走のダービーでどうなのか? 母がチャンピオンスプリンターのドバイマジェスティで、胸前の厚い体型もマイラー寄り。距離の課題を口にする声も出てくるだろうし、血統的な不安は確かにある。 しかし、前述したようにアルアインの最大のセールスポイントは、折り合いに不安がないことで、適性よりも能力が優先される3歳戦において、これは大きな武器になる。加えて、当日のパドックでの雰囲気から、レース前にイレ込んでしまうような不安も、ほとんどないと考えていい。ダービー当日の異様な空気にも耐えうる精神力を持っているのならば、次走もおのずと好勝負になるはずだ。 2着にはハービンジャー産駒で、ゴールドアリュールを輩出したニキーヤの血を持つペルシアンナイトが入った。馬自身の気配も良かったし、このレースを勝てるだけの能力を持っていたとも思うが、今回に関して言えば、向正面で位置を上げ、4コーナーで前を射程圏に入れたデムーロ騎手の手腕が光ったレースだったと感じている。 パトロールビデオで確認すればわかることだが、4コーナーから直線にかけて、内へと馬を誘導することに迷いがまるでない。アルアインと違い、実にスムーズな加速で、直線へと馬を誘っているのだ。 着差はクビ。惜しい競馬だったが、能力は出し切った。ダービーでも好勝負できる馬だと思う。しかし、確実にアルアインを逆転できるだけのインパクトまでは感じなかった。ダービーまでの期間は6週間。この期間にどれだけのアピールをできるかで、ダービーでの評価も決めたいと思っている。 3着はダンビュライト。騎乗した武豊君の見事なリードがあってのもので、この馬も持てる力は出し切ったのではないだろうか。では、上位2頭との差は何か? 2000mという距離への適性、一瞬の切れも求められるコースへの適性ではないかと私は思う。 今年の3歳が初年度のルーラーシップの特徴は、まだ明確になっていない。しかし、母がエアグルーヴで、その先にはトニービン。長く脚を使う長距離タイプと考えれば、産駒が真価を発揮してくるのは、長距離の番組が増えてくる3歳春以降と考えることもできる。 何度も言ってきたことだが、体内にサンデーサイレンスの血を持たないルーラーシップは、良質なサンデーサイレンス肌の牝馬と交配していることが多く、このダンビュライトの母父もサンデーサイレンス。その先がリバーマンで、キングカメハメハを父に持つ半兄ラブラドライトは、今年のダイヤモンドSで2着だった。 血統構成だけで言えば、上位の2頭よりもダービー向きと言えるかもしれない。人気薄の3着だから…と甘く見ないほうがいいということだ。 敗退してしまった人気馬の考察に移ろう。まずは牝馬の挑戦で人気を集めたファンディーナ。素晴らしい馬であることは間違いなく、興味をそそる参戦だったとは思うが、私なりの考えで言えば、今回の挑戦には無理があった。 なによりも気になったのは、まだ繊細な面を残す3歳の牝馬が、関東への輸送を、中3週という短い間隔で強いられたことだ。見た目には分からなくても、長距離輸送による負担は、精神的な面でも肉体的な面でも小さくない。 レース後の日程を考えてみてほしい。レースの翌週は、疲れを取るための運動に留めるのが常。その翌週も強い負荷をかける追い切りはできず、長距離輸送があるレースの週も、当然ながら負荷をかけることができない。単純に日数が足りないのだ。 スプリングSもそうではないか…という声もあるだろう。しかし、この点で牡馬と牝馬は微妙に違う。 ファンディーナは500キロを超える大型馬で、見た目は牡馬のようだが、実際は繊細な面を持つ牝馬だ。確かに前走のフラワーCは、疲れを残さない楽勝だった。だからこそ、私も負担は最小限で済んだと判断した。しかし、そのジャッジが甘かったことは、レースの結果が示す通りだ。 皐月賞の当日、私は中山競馬場にいた。この目で確認した当日のファンディーナのテンションは、他の馬よりも明らかに高かったのだから。 岩田君のレース運びに、ケチはつけられない。スムーズに外へと出した4コーナーの時点では手応えもあり、考えられる最高の状況だったとは思う。しかし、最後は伸びなかった。あれが能力でないと考えれば、その敗因はやはり…。 ダンスパートナーで私も経験があるが、間隔の詰まった3歳牝馬の調整は、周囲が思う以上に難しい。それを改めて実感したレースとも言えるだろう。もちろん、この1戦で評価を下げるつもりはないが、オークスに行くにしろ、ダービーに向かうにしろ、関東への輸送は、次で3回連続。ちなみにオークスなら中4週。この日程が楽でないことも追記しておきたい。 2番人気のスワーヴリチャードは6着。右回りが合わなかったような四位騎手のコメントも読んだし、実際にそのような印象も受けたが、私が考えた最大の敗因は状態面。追い切りをしっかりと消化し、中身は作ってあったと思う。しかし、当日の馬の雰囲気は…。大観衆の中でもゆったりと周回はできていた。 だが、それは落ち着きがあるのではなく、馬に気持ちが入っていないと表現すべきタイプのもの。間隔を取って挑んだことが、この馬の場合はマイナスに働いてしまったように感じたのだ。 だからこそ、ダービー当日の気配には注目しておきたい。ひと叩きの上積みを感じさせる周回をしているかどうか。気持ちが入るかどうかは、これからレースを走る馬にとって、とても重要なことだ。この馬に関しては、その部分を特にチェックしたいと思っている。 馬券圏内に入れなかった馬で、私がダービーへの可能性を最も感じた馬。それが5着のレイデオロだった。8キロ増の馬体は、決して太くなかった。しかし、太くはないが、ネジが締まった状態でもなかった。まだ仕上がりきっていない──緩さを感じたという表現こそが適切だろうか。 ダービーでの好走を考えたとき、皐月賞でのマイナス体重は、あまり歓迎できない。しっかりと負荷をかけ、お釣りを残さない状態で出走させたいのがダービー。だが、削り過ぎてしまい、状態を落としてしまっては意味がない。だからこそ、ある程度の“ゆとり”を持たせておきたいのだ。 私が管理したスペシャルウィークは、前走から10キロ増の476キロで皐月賞を走り、ゆえにダービーまでの6週間の調教で、ハードに攻めることができた。ダービー当日の馬体重は8キロ減の468キロ。パドックに登場した姿を見た瞬間に、勝利を確信したほどだったが、今回のレイデオロの馬体の作り方には、彼に通じるものがあったように思う。 4コーナー14番手という圏外のポジションから、5着まで押し上げてきたことで、能力の高さも改めて確認できた。母系にウインドインハーヘアがいる血統背景も重厚。少なくとも、距離が延びてマイナスということはない。皐月賞をダービーの前哨戦として考えられるかどうか──。この意味において、レイデオロは他の馬と違う。私はそう感じている。 皐月賞の高速時計について、最後に触れておきたい。 同日に行われた古馬1000万下の勝ち時計が1分58秒7。この数字を見たときに「もしかしたら、1分57秒を切る決着になるかもしれない」という気持ちを持った。 確かに今回の勝ち時計は速い。評価しなくてはならないとは思う。その一方で、馬場のサポートが今回の数字を生み出したという事実も、頭に入れておくべきだ。 このような状況で外を捲り、勝つのは不可能なこと。追い込みは決まりにくい。だからこそ、改めてレースを見直すべきなのだ。各馬がどのような進路を通ってきたのか? そして、その着順は? 最短距離である馬場の内を突いてきた騎手が誰なのかということも。 今回の1戦について、多くのことを話してきたが、皐月賞組からダービー馬が出るという確信は持てなかった。青葉賞を筆頭としたダービートライアルを、今年はしっかりと吟味する必要がある。それが今回の結論だ。 〈古馬戦〉 4/15(土) 阪神11R ダ1800m アンタレスS 土曜のアンタレスSが先週の古馬重賞。グレンツェントが初めて馬券対象から外れてしまうダート戦になったわけだが、マイナス6キロの馬体重にもかかわらず、細くは感じず、むしろ“緩い”とさえ感じたパドックの気配から、まだ仕上がり途上だったと推測していい。 しかも、道中の流れがそこまで速くなく、馬群が密集したレースになった。外を回される状況も厳しかったのではないだろうか。評価を大きく下げることはせず、次走での巻き返しに注目してみたい。 勝ったモルトベーネの地力強化は著しい。しかし、このレースも騎乗したデムーロ騎手の思い切りのいいレース運びが光った1戦と私は思う。4コーナーに向くまでは内でジッとし、追い出しを我慢。これもパトロールVTRで確認してもらいたいのだが、彼が最初に狙っていたスペースは、ショウナンアポロンとモンドクラッセの間だった。 しかし、そのスペースが狭くなると瞬時に判断。進路をモンドクラッセとリーゼントロックの間に切り替えたのだが、この切り替えの早さこそが、デムーロ騎手の強みだ。そして、それを狙えるポジションに4コーナーでいたことが、今回の最大の勝因と私は考える。前が詰まり、追い出しを待たされた多くの馬の姿を見れば、私の言いたいことが分かってもらえるはずだ。 いい内容で勝ちはしたが、今回の勝利を持って、ダート路線の上位組になったとまでは言えないだろう。次走でも似たようなパフォーマンスをできるかどうか。これは2着以下の馬についても同様のことが言える。 ※次回の【先週のレース解説 -調教師の着眼点-】は4月27日(木)の公開予定となります。 ・『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『人気記事』 などもお楽しみください。

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