先週の2~3歳戦や重賞レースを“調教師の視点”から解説!

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    【12月1日・2日開催】チャンピオンズC、ステイヤーズSほかレース解説

    〈古馬重賞〉 12/2(日) 中京11R ダ1800m チャンピオンズC ジャパンCに続き、このレースも3歳馬が勝利した。ルヴァンスレーヴの強さだけが目立ったレースであり、今回のようなポジションを取ったレースが出来るとなると、弱点はほとんどなくなる。それこそアーモンドアイと同じだ。3歳馬と思えないほどに充実していたパドックでの姿からして、すでに他の馬との大きな違いを感じてはいたのだが、レースぶりもそれに比例したもの。ゴールドドリームの回避により、1強のような扱いでの出走。しかし、仮にゴールドドリームが出走していても負けることはなかったのではないだろうか。それくらいの飛び抜けた強さを感じた。 一般的にダート路線は古馬が強く、馬があまり傷まないので活躍期間も長い。ゆえに3歳馬が古馬混合のGIを勝つのは非常に難しいとされている。それこそ、クロフネやカネヒキリのような特別な能力を持つ馬でなければ、結果を残すことはできないわけで、この難しいミッションをクリアしてしまったルヴァンスレーヴの活躍は今後もしばらく続くだろう。フェブラリーSもまず勝てるはずで、注目はそれ以降となりそうだ。これだけの馬なら、海外遠征の話が出て当然。行ってほしいと私も思っている。 もちろん、日本とはダートの質が違う海外で結果を残すことは難しい。芝のレースよりもハードルははるかに高いだろう。しかし、この馬はシンボリクリスエス×ネオユニヴァースという配合。力で押すだけの血統ではなく、実際に走りには伸びも切れもある。これくらいのレベルの馬が挑戦し、どれだけの結果を残せるのか──。そこに純粋な興味を持っている。ぜひ実現してほしい。 ルヴァンスレーヴと2着以下との力量差は明白。逆転は今後も難しいだろう。各馬についてのポイントだけ述べていきたい。まずは2着のウェスタールンド。距離ロスを最小限に抑えた追い込みがハマッた形であり、本来なら壁ができてしまうはずの直線も、ルヴァンスレーヴが抜け切ってくれたことできれいに進路ができた。好騎乗に加えて運もあったと思う。力はある馬だが、常に勝ち負けする馬でないことも確かだろう。 3着サンライズソアの走りを惜しいと表現するかどうかは難しいところ。何の不利もなく競馬を進め、前を捕まえそうな瞬間もあったのだが…。しっかりと力を出し切っての完敗。大きなタイトルを狙うのであれば、ルヴァンスレーヴのいないところを目指していくほかない。 11着ケイティブレイブは数字が示すように太かったと思う。それにしても動けなかったな、というのが正直なところだ。 12/1(土) 中山11R 芝3600m ステイヤーズS アルバートが出走取消となり、押し出される形で1番人気に支持されたのがリッジマン。どうなることかと思っていたのだが、4コーナーを回ったときの手応えが他とは違い、抜けてくる瞬間の脚も速かった。完勝といえる内容であったと思う。もちろん、長距離路線の層の薄さは考えなくてはならないし、この勝利が天皇賞(春)に直結するものでないことは理解している。もうひとつ上のレベルが相手でも今回のような競馬が出来るのか──。そのときこそ、この馬の適切な評価を考えたい。 ちなみに彼の父はエンドスウィープ産駒のスウェプトオーヴァーボード。基本的には短距離血統で、この産駒の馬が3600mの距離を勝ったことになによりも驚いた。エンドスウィープ産駒のアドマイヤムーンがジャパンカップを勝ったとき以来の衝撃と言えるかもしれない。 12/1(土) 阪神11R 芝2000m チャレンジC 格だけを言えば、ステイヤーズSよりも下のGIIIだが、メンバーのレベルや内容はこちらのほうが明らかに上。ゆえに直線だけで一気に3馬身も抜け切ったエアウィンザーの強さは特筆もので、来年はGIタイトルも視野に入ってくるだろう。今回と同じ舞台の大阪杯あたりがターゲットになってくると思う。 母がGI馬のエアメサイアで全兄にエアスピネル。血統の裏付けを持っているのも魅力と言えるだろう。なんでも、早い段階から「エアスピネルに優るとも劣らない大器」と評価されていたそうだが、気性に難があったのか、それとも馬体に芯が入っていなかったのか、勝ちきれない競馬をしていた時期もあった。この手のタイプが化けたときは追いかけていいと思う。 〈条件戦〉 12/1(土) 中山9R 芝2000m 葉牡丹賞 2歳戦からは中山の葉牡丹賞を取り上げたい。勝ったシークレットランは7番人気の馬で戦前から注目していたわけでもないのだが、改めてパドックを周回している映像を見ると、実に堂々とした姿で歩いていることに気付く。フロック視することなく、勝つべくして勝った馬と認識しておいたほうがいいと思う。 勝ち時計の1分59秒6はレコード。時計は馬場状態にも影響を受けるものではあるが、この時期の2歳馬が2分を切る時計で走ったのだから、これも素直に評価すべきと私は思う。この数字の決着にも対応できるスピードがある。それだけでも十分なのだ。 ちなみに同馬の祖母エルフィンフェザーはエアグルーヴの半妹で、サンデーサイレンス産駒の血統馬である。ダンカークはそれほど注目されている種牡馬でないかもしれないが、実は見た目のいい馬を出しており、私はひそかに注目していた。血統的にも面白い馬ではないだろうか。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【11月24日・25日開催】ジャパンC、京阪杯ほかレース解説

    〈古馬重賞〉 11/25(日) 東京11R 芝2400m ジャパンC アーモンドアイが歴史に名を残す素晴らしい馬であり、今回のパフォーマンスがどれほどまでに特別であったのか──それは多くのメディアがすでに報じていることで、そのほとんどの意見に私は同意したい。そのすべてが彼女に対する称賛の声であることを嬉しく思うとともに、このような名馬の母がフサイチパンドラであったことを誇りに感じている。 そう、彼女は私が管理したフサイチパンドラの娘。それが何よりも嬉しかった。ゆえに私は彼女の一挙手一投足に注目するために東京まで足を運んできた。 この目でレースが見たいという衝動を抑えられなかったからだ。 すぐ近くにはアーモンドアイを管理する国枝栄調教師もいて、彼からもアーモンドアイにまつわる色々な話を聞いた。どれも興味深いものばかりであり、国枝調教師がトップ調教師でいる理由を改めて知った気もした。東京まで行った甲斐があったというものだ。 これからする話は私だからこそのジャパンC観戦記。今回が本邦初公開のものばかりだ。ぜひ、楽しんで読んでいただきたい。 ジャパンC当日。アーモンドアイの気配は素晴らしく、東京競馬場の大観衆にも初めての古馬との対戦にもひるむことなく、実に落ち着いた精神状態でパドックを周回している姿に感心もした。 返し馬での姿も私の求める競走馬の理想像。下手に首を下げるでもなく、頭を上げることもない。ちょうどいい頭の位置で走る馬だな──。そのような話を国枝調教師とさせてもらった。確かに馬場入場時に少しテンションの高くなる面はあった。しかし、それも許容範囲。「あれくらいなら問題ない」とのやり取りをしたことも覚えている。その所作の全てが私には完璧に見えたのだ。 しかし、それも牧場と連動し、この1戦に向けて馬を作ってきた陣営の尽力があってこそのもの──だったらしい。 なんでも、秋華賞後のアーモンドアイは激走の反動がひどく、一時はジャパンCの出走を見送ろうかと考えたこともあったと国枝調教師は語ってくれた。アーモンドアイは常に全力で走る真面目な馬。秋華賞のレース後も熱中症のような状況になったと聞いているが、それはジャパンCのレース後も同じだった。 レコードタイムで走ったのだから、息遣いが荒くなるのは仕方がない。しかし、レース後の国枝調教師とスタッフはすぐにアーモンドアイを別の場所に連れて行き、馬体に水をかけて彼女の体温を下げていた。日中の温度が40度を超える夏場ならともかく、この時期のレースではなかなか見られないシーン。それはアーモンドアイという馬の本質を物語っているのではないだろうか。 競走馬は生き物であり、人間の考えた通りに肉体が回復するわけでない。 これまでの三冠馬とは異なるローテーションで結果を出してきたアーモンドアイだが、それは全力で走るがゆえに疲れが残りやすいアーモンドアイの特徴を踏まえてのもの。前哨戦をひと叩きして本番へ──その考えが通用しない馬である理由がこれだ。 すでにドバイ遠征に関しての報道が出ており、前哨戦を使わずに休み明けで挑戦するようなニュアンスだった。私はその遠征プランでいいと思う。むしろ、そのほうが結果に繋がるように考える。 育成牧場の施設、スタッフの技術の進歩は飛躍的に進化しており、トレセンとの関係性はより親密になった。休み明けで結果を出した桜花賞、秋華賞に続き、しっかりと状態を立て直して挑んだ今回のジャパンCで、国枝厩舎のスタッフも牧場のスタッフもアーモンドアイの仕上げに対しての自信をさらに深めたとも考えられる。疲労を回復させる手段の少ない海外でリスクを背負う必要はないのだ。 ドバイ遠征で結果を出せば、その次は凱旋門賞挑戦が現実味を帯びてくるだろう。エルコンドルパサーのような長期の欧州滞在を勧める声もあるようだが、その意見こそが絶対と私は思わない。 海外遠征に対しての常識は大きく変化している。実戦を走った際の反動が気になるアーモンドアイにとって、例えばヴェルメイユ賞のような本番まで中2週のレースが合っているとは思えないのだ。彼女は彼女のスタイルを貫けばいい。ライバルの目を逸らす意味でも、休み明けの挑戦こそが最適なのではないだろうか。そう私は考える。 私はブリーダーズCにも足を運び、エネイブルの走りをこの目で見てきた。彼女は凄い牝馬だ。現役を続行するエネイブルの最大のターゲットは三連覇になる来年の凱旋門賞だろうし、アーモンドアイにとっての最大のライバルであるとも思う。 どちらの馬が強いのか? その質問には答えられない。答えがわからないという表現のほうが妥当だろう。 ただし、来年のエネイブルは現状維持が精一杯の5歳になり、アーモンドアイは成長のピークを迎える可能性が高い4歳で最高の舞台を踏む。これは間違いのない事実。臆する必要はないだろう。 今回の1戦で見せたアーモンドアイのパフォーマンスは、厳しいマークに合うかもしれない凱旋門賞でのレースを考えたとき、大きな手応えを感じさせるものでもあった。 展開に左右されず、自分の力でもぎ取った勝利。それこそ、これまでのエネイブルが見せてきたような競馬で勝利を手にしたことが、日本のみならず、海外での評価を高めているのだと思う。 本当に楽しみだ。来年が本当に楽しみで仕方がない。 レース後は様々な方から「先生、良かったね」と言われた。アーモンドアイの母フサイチパンドラが私の管理馬であったことから、皆さんが祝福してくれていると思うのだが、このような状況だけを切り取っても競馬の素晴らしさを感じずにいられない。 すでに私は調教師を引退し、フサイチパンドラが現役を走っていた時代も昔の話になった。それでも、競走馬の中に名馬の血が流れ続ける限り、その馬に関わった人々の思いは受け継がれ続ける。競馬が単なるギャンブルではないことの証明と言えるのではないだろうか。 あくまで現時点での話だが、アーモンドアイが出走する限り、私はドバイのレースも見に行こうと思っているし、フランスにも行きたいと考えている。アーモンドアイが大舞台を走り続けることで、私は人生の楽しみをもらい続けることができるわけだ。これも本当に素晴らしいこと。アーモンドアイとフサイチパンドラに感謝したい。 2着以下の馬についても少しだけ触れておく。2着に逃げ粘ったキセキのパフォーマンスは素晴らしかったし、アーモンドアイの本当の能力を引き出したのは彼の存在があってこそ。同馬の能力を引き出した川田騎手の騎乗も称賛されるべきものと私は思う。 その川田騎手に今週のトレセンで声をかけたのだが、彼の返答は「フサイチパンドラの子は強すぎる」だった。私が幸せな気持ちで彼の言葉を聞いたことは言うまでもないだろう。 ちなみにキセキは5月の遅生まれで、ようやくキ甲が抜け出したくらいの馬。これからが成長のピークになる可能性は高い。有馬記念に出走してくるようなら、主役候補の1頭として高い評価をさせてもらうつもりだ。 出遅れなどによる消化不良だった前走と違い、現状の力を示す走りを見せたスワーヴリチャードは3着。ゆえにキセキとの間にある3馬身半の着差は決定的なものではないか、と私は考える。有馬記念への出走があったとしても、右回りへ適性に疑問を残す馬。逆転まではないと考えていい。 むしろ、地力を見せる形で4着に押し上げたシュヴァルグランのほうが有馬記念ではいいかもしれない。アーモンドアイの相手本線として期待したサトノダイヤモンドは6着。物足りない結果だったが、彼は1月の早生まれで早熟の可能性もあった馬。これが現状の力と見るべきなのかもしれない。 11/25(日) 京都12R 芝1200m 京阪杯 取り上げるべき存在は勝ったダノンスマッシュのみでいいだろう。彼もアーモンドアイと同じロードカナロアの産駒だが、ハードスパンを母父に持つ彼の適性はスプリント戦。しかし、この馬のようなタイプがロードカナロア産駒のあるべき姿であり、配合の方向性も合っていると私は考えている。 アーモンドアイのような馬を登場させようと思えば、母系にスタミナを持ってくる必要があり、それは時にギャンブルとなってしまう。スピードにスピードの掛け合わせこそが確率の高いパターンであるはずだ。 ダノンスマッシュに関して言えば、淡白な面があるはずのハードスパンの弱点を消し、スピードだけをうまく抽出している印象を持った。サンデーサイレンスの血を持たないダノンスマッシュのような配合の馬でも切れを有しているところがロードカナロアの凄さであり、それこそがリーディングサイアー候補とされる理由。スピードに加え、直線で見せる切れも現在の競馬で必要な要素だ。 ダノンスマッシュには父ロードカナロアと似たような路線で高松宮記念を狙う馬になってほしいし、そうなる可能性は十分にあるだろう。 〈2歳重賞〉 11/24(土) 京都11R 芝2000m 京都2歳S 一枚上の決め手を発揮してクラージュゲリエが勝利。前走はイレ込みの影響が強かったようだが、今回はパドックから落ち着いて歩けていたようだ。厩舎装鞍とした話も耳にしたし、実際にリップチェーンも付けている。難しい馬であるのは確かなようなので、今後も能力を発揮できるように務めることが大事になってくるだろう。 2着のブレイキングドーンは太めが少し残っていた。この状況での2着は素直に評価していいと思う。父のヴィクトワールピサだけでなく、母父にホワイトマズル、その先にはエルコンドルパサーという血統背景の馬。距離が延びて良さが出てくるだろうし、今後も注目しておきたい。 3着のワールドプレミアは予想以上にテンションが上がっていたし、大外を回すコース取りにもロスがあった。まずは落ち着きを取り戻すことが大事だが、持っている能力は高そうな馬。この1戦だけで評価を決めないようにしたい。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【11月17日・18日開催】マイルCS、東スポ杯2歳Sのレース解説

    〈古馬重賞〉 11/18(日) 京都11R 芝1600m マイルCS ステルヴィオは流行のロードカナロア産駒で、彼の長所を存分に引き継いだ馬でもあるが、実は母系も見るべきところのある血統で、母父ファルブラウはサドラーズウェルズの全弟として知られるフェアリーキングの産駒。サンデーサイレンス産駒の母アズサユミはシンボリルドルフを産んだスイートルナを祖に持つ血統の出身でもある。その底力は折り紙付きだったわけだ。 3歳馬での戴冠も話題になっているようだが、この馬は1月15日の極端な早生まれで、他の3歳馬よりもピークを迎えるのが早かった可能性は高い。10キロ増の馬体に太めはなく、まだ成長が止まったようにも思えないのだが、3歳時が最も強かった印象のサトノダイヤモンドは1月30日生まれであり、同世代のダービー馬マカヒキも1月28日生まれ。人間よりも成長スピードの早い競走馬にとって、生年月日による成長の差は一般的なイメージよりもはるかに大きいのだ。ゆえに来年はさらに…の考えが適用するかどうかも明言できない。次走以降のパフォーマンスを見て判断するしかないだろう。 レースぶりに関して言えば、スタートを出た時点で好位からの競馬を選択したビュイック騎手の手腕は素晴らしかった。彼に限らず、外国人騎手の多くは勝つためのポジションを手放すことはせず、位置を無駄に下げるようなことはしない。最内枠からのスタートでインの好位をとりきったことが、最大の勝因になったことは間違いなく、マイルGIにしてはペースが落ち着いたことで、内枠の利点を活かせたことも否定できない。運もあったようだ。 連覇を逃したペルシアンナイトだが、アタマ差の2着は勝ちに等しく、彼自身のパフォーマンスが落ちたわけではない。加速に時間のかかるタイプなので、スムーズに運べることが条件にはなるが、今後も一線級の舞台で活躍することが期待できると思う。もちろん、香港遠征でも好結果が望めるだろう。 3着のアルアインも狙ったとおりの競馬をした。母は最優秀スプリンターのドバイマジェスティで、自身もディープインパクト産駒らしくない筋肉質のマッチョ型。しかも、この馬は5月1日の遅生まれでもある。皐月賞を勝っているがために早熟のイメージがあるが、これからが本領発揮の時期であるとするなら、上位の馬たち以上に注目すべき存在と言えるかもしれない。 1番人気のモズアスコットは13着に惨敗。パドックの段階でかなり気負い過ぎているような印象を持ったが、ゲート入りの際には相当量の発汗もしていた。能力ではなく、状態面の問題が大きかったように思う。不利を受けたのは確かだが、それがなくても勝ち負けのラインまで持ち込めたかは疑問だろう。 2番人気のアエロリットも12着に敗退。パドックで見た馬の雰囲気は決して悪くなかったのだから、それ以外の部分に敗因は求めるべきと私は思う。結果を残す東京コースと今回の1戦でのパフォーマンスの大き過ぎる違い。京都外回りが合わなかった可能性が高そうだ。 〈2歳重賞〉 11/17(土) 東京11R 芝1800m 東スポ杯2歳S 上位の4頭がタイム差なしのゴール。この4頭の序列を着順通りにするのか、というところにポイントがあるレースと思うが、私が一番手に推奨したいのは勝ったニシノデイジーではなく、2着のアガラス。パドックでの落ち着き払った雰囲気がまず素晴らしかった。水平首でトモの返しもいい。非常に柔らかい歩様にも好印象を持った。トモの踏み込みがひと息で、柔らかさも力強さも感じられなかった1番人気のルヴォルグあたりとは対照的な周回だったと思う。 スタートがひと息だったことで難しいレースになったと思うし、前にスペースを見つけきれなかったがために追い出しも遅れた。スムーズなら差し切っていた可能性が非常に高いレースだったと思う。 母父がブラックホーク、その先にヘクタープロテクターがいる母系はスピード血統。距離延長に疑問符を付けられる可能性もありそうだが、私たちはスピード血統の母系でも距離をこなしたブラックタイドの産駒を知っている。そう、キタサンブラックだ。あの馬とはタイプが違う気もするが、ブラックタイドが短距離血統との掛け合わせでも距離を克服できる種牡馬と考えるのであれば、この馬も問題ないはず。次走以降のパフォーマンスにかなり期待している。 勝ったニシノデイジーはパドックでの落ち着きに改善の余地がある。このテンションでも力を出せたと考えるべきか、それが不安材料となるか──。多くの場合は後者が当てはまるものだ。ニシノフラワーを祖に持つ母系は大舞台でも通用するスピードを秘めているので、精神面の成長次第だろう。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【11月10日・11日開催】エリザベス女王杯、デイリー杯2歳Sほかレース解説

    〈古馬重賞〉 11/11(日) 京都11R 芝2200m エリザベス女王杯 1月生まれでも晩成タイプのハーツクライを父に持つリスグラシュー。今回も増えていた馬体重が示すように、彼女自身が充実期に入っていることは認めなくてはならないが、勝ちきれないタイプの馬がタイトルを獲得できた理由に今回の鞍上──ジョアン・モレイラ騎手の存在があったことは周知の事実である。外国人騎手の技術の高さは誰もが認めるところだが、その差が如実に出るのが今回のようなスローペース。になると、彼らは固まった馬群の中で競馬をすることに慣れており、そのような状況で競馬をしているからこそ、どの位置から競馬をすべきなのか、どこで動けば抜けてくることができるのか、といった“勝つためのポジション”を理解しているわけだ。 4コーナーを向いた段階の映像を改めて見てほしい。このレースに騎乗していた外国人騎手は4名だが、そのいずれもが勝負できるポジションにいることがわかってもらえるだろう。あとは馬の能力次第。このような競馬をして負けるのであれば、送り出した関係者は納得できるのだ。単に外国人騎手だから…といった理由で騎乗を依頼しているのではなく、彼の腕を見込んでの依頼であることが、このレースの4コーナーに表れていたと私は思う。 調教師時代──。私は弟子を取らず、そのときに選択できる最高の騎手で挑みたいと考えていた。騎手にとっては多くのうちの1鞍でしかないだろうが、その馬にとっては1年に一度しかない舞台かもしれない。関係者はその日のために毎日を費やしており、仔馬のころから見続けている私にとっては、その1戦に数年来の思いをぶつけている。悔いの残る騎乗ですべてを無駄にしてほしくない、との思いが背景にあることを理解してほしい。 日本人騎手にも活躍の場を…という気持ちもわからないでもないが、我々はそのような感情論では動かない。すべては馬のためだ。馬が結果を残すために最善の策を尽くす。それが調教師の役目。モレイラ騎手が空いているのなら、感情的なしこりを残すことになったとしてもモレイラ騎手に頼む。仮に私が現役の調教師であれば、そのような選択に躊躇はしないと思う。 このような状況が続くのであれば、JRAが騎手を育成する必要などないではないか。そんな議論になるのも仕方がないだろう。彼らとJRA学校から入ってくる騎手とでは、踏んだ場数の数が違う。差が出て当然。今後も埋まることはないと思うし、仮に現状を憂慮するのであれば、何かしらの改革案が必要となってくる。これも非常に難しい話だ。しかし、外国人騎手の技術を目の当たりにしてしまった現在、彼らの来日を拒むようなルールも作れない。どの競技でもそうだが、一流を知ってしまえば、それ以前の状態には戻れないものだからだ。 では、モレイラ騎手にJRA免許を無条件で交付すればいいのか? それも簡単な問題ではないと思う。何かしらの状況になった場合、裁決は騎手との直接的なやり取りを求めており、それが「日本語でのコミュケーションができない騎手では困る」という考えに繋がっている。馬に乗っていない人間=通訳が話す言葉では信頼できないというわけだ。 もちろん、短期免許で来日する外国人に対しては、その考えが成り立たないわけで、そこに矛盾が存在していると個人的には思っているのだが、それに関しては今度の機会に譲ろう。いずれにしろ、リスグラシューはモレイラ騎手の騎乗でGI馬となり、繁殖に上がった際の箔を付けた。この結果がすべてなのだ。 11/10(土) 東京11R ダ1600m 武蔵野S サンライズノヴァの末脚はさすがだ。持っている能力だけならGIの舞台でも…とも思わせるものがある。しかし、彼の大きなフットワークでは馬込みでの加速が難しいだろう。今回のように外へと回し、さらに差し切れるだけの直線の長さが必要ということになってくるというわけだ。好勝負するところまではくるだろうが、常に勝ちきれる馬ではないということを認識しておきたい。 次走はチャンピオンズCとのことだが、コーナー4回のコース形態や1800mの距離よりも、前述したような加速をつけられる状態で直線を向けるかどうかのほうが重要になってくる。レースをやってみるまではわからない…が正直なところで、本命というよりも相手候補の1頭となる馬だろう。 ちなみに武蔵野Sを見て私が最初に思ったことは「最近のヤナガワ牧場はいい馬を良く出してくるな」だったのだが、競馬の世界には流れがある。いいサイクルになるところに乗ってみるのもいいと思う。 11/11(日) 福島11R 芝2000m 福島記念 ハンデのGIII戦にしては珍しいほどの堅い決着。上位の3頭とそれ以外とでは水が開いた競馬になっている。それは何を意味するか? GIシリーズをやっている最中にGIIIのハンデ戦に出てきて、なおかつ人気も皆無のような馬はすでに底が見えてしまっているということだ。 今回のレースで言えば、マルターズアポジーがハイペースで飛ばし、人気馬のほとんどが前でその流れについていっているのに、追い込んでくる馬が1頭もいない。そのペースについていくことができず、脱落していく有様なのだから、重賞レースの格にふさわしくないメンバーとも言えるだろう。勝ったスティッフェリオは札幌記念の5着馬。このあたりでは役者が違った。 〈2歳重賞〉 11/10(土) 京都11R 芝1600m デイリー杯2歳S 圧倒的な1番人気の支持を受けたアドマイヤマーズが着差以上の強さで勝ち上がった。実際の着差は0秒1しかなく、一度は前に出られたレースのどこが着差以上に強いのか? そんな意見もあるだろうが、レースを最初からよく見ていただきたい。彼はハナに立った瞬間、すぐに耳を立ててリラックス状態に入っている。抜けた瞬間もそうだ。一度は前に出られ、そこで多少は本気になっているが、先頭に立って勝利が決まるとすぐに耳を立てていることがわかるだろう。つまり、彼にとってのデイリー杯は全力で走った1戦ではないということ。余力が十分にあったのだ。 今回の馬体重は12キロ増の472キロ。だが、決して余裕を残した馬体ではなく、単純に成長分と考えていいだろう。完成度の非常に高い馬という認識があったが、まだまだ伸びていく可能性もありそう。前に行けるスピードがあり、なおかつ行きたがる面を見せない馬は、どんなスタイルの競馬にも対応できることが多い。この馬もそうだろう。切れる馬と対戦した場合にどうかの不安はあるが、朝日杯FSでも勝ち負けできる能力を持っていることは間違いない。 その後は距離延長に挑戦していくことになるだろう。ダイワメジャーの産駒ということもあり、長めの距離は向いていないはずだ。しかし、母系にはシングスピールの名もある。2000m程度なら問題なくこなすと思う。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

  • 2016年新馬戦

    【11月3日・4日開催】JBC3競走、ブリーダーズCほかレース解説

    〈古馬重賞〉 11/4(日) 京都11R ダ1900m JBCクラシック JRAの競馬場で初めてとなるJBC諸競走の開催。私はアメリカに行っていたので、どれくらいの盛り上がりを見せたのか、売り上げ的にはどうだったのかなどの問題はわからないが、このようなカーニバル開催は競馬の認知度を高めるためにも必要なことで、仮に思ったような成果を上げることができなかったとしても、改めてチャレンジすべきであると思う。特に来週にも行われるジャパンCにはテコ入れが必要ではないだろうか。 では、JBCの考察に。そのすべては映像で確認したものだが、現在はパドック映像だけでなく、パトロールからマルチ映像といったものまである。時代の変化のおかげで、普段と変わらない検証ができるのは有難いかぎり。最初に取り上げるのはクラシックだが、今後も注目すべき存在は上位の3頭になる。 勝ったケイティブレイブは10キロ増の馬体重が示すように、少し余裕を残した作りに見えた。おそらくは先に控えるビッグレースのことも考えた調整なのではないだろうか。実際、このレースにはフェブラリーS(17年)を勝ったゴールドドリーム、南部杯でゴールドドリームを負かしたルヴァンスレーヴの2頭が出走しておらず、あの馬たちと戦うことをイメージすれば、この1戦でピークに仕上げてしまうことはできない──との考えが働いても不思議はない。 しかし、そのような背景があったと思えないほど、レース運びは完璧。上位のような馬を相手にしても好勝負できるとまでは確約できないが、互角の競馬をする可能性は低くない。特にスタミナを問うような展開は同馬にあっているように思えるので、前半から厳しく流れる形になるかどうかだろう。 しかし、この馬の血統構成を見たとき、どうしてケイティブレイブのような馬が出てきたのかがわからない。豊富なスタミナはサクラローレル譲りと見ることもできるが、馬体は似ても似つかない。本当に不思議な馬だ。 2着のオメガパフュームは今回の馬体重が454キロと牡馬にしては体がないが、まだ成長途上の3歳馬で伸びしろは十分にある。今後も注目の1頭と言えるだろう。芦毛の馬体はスウェプトオーヴァーボードの影響を感じるものだが、利いているのは母父のゴールドアリュール。この馬がいることでダートの大舞台でも活躍できる下地ができている。 3着のサンライズソアは展開に泣いた部分が大きい。テイエムジンソクにあそこまで競り込まれなければ…との思いを陣営は持っているだろうが、それは目標になってしまった馬の弱みでもある。とはいえ、先行馬で残っているのは同馬のみであり、力を示したレースであったのも確か。直線の長い中京のほうが逃げ残りは難しいが、直線の長さを意識し過ぎることによって、前残りが生まれることもある。展開が向くようならチャンスもあるだろう。 11/4(日) 京都10R ダ1200m JBCスプリント 様々な路線からスピード馬が参入してきたが、あっさりとハナを切ったマテラスカイのスピードが1枚上。自分の競馬に徹し、最後はクビ差の2着に敗れはしたものの、自身のスピードを改めて示した1戦に悲観すべきところはない。勝負に負けたというだけの話だ。 この馬の父は折に触れて名前を挙げているスペイツタウンで、同馬の産駒は本当にスピードがある。活躍の場が限られてしまうのは仕方がないところ。今後も発展していく血統であることは確実なので、産駒のマテラスカイにも機会は訪れるかもしれない。 マテラスカイを競り落とし、ビッグタイトルの獲得に成功したのはグレイスフルリープ。すでに8歳となっている馬が、ここにきて充実期を迎えるというのだから、先入観を持つことは危険というべきだろう。しかし、ダートを主戦場とする馬のほうが、芝で活躍する馬よりもレースにおけるダメージが少なく、ゆえに長持ちするのも確かなこと。ほとんどのオーナーは芝の大レースで走らせたいと思うものだが、長く楽しむのであればダートに適性が高い馬を考えたほうが好結果は得られると思う。 11/4(日) 京都12R ダ1800m JBCレディスクラシック 横山典弘騎手の手腕が光ったレースだった。単純に考えれば、直線で黒帽のラビットランよりも桃帽のアンジュデジールのほうが内側にいるはずがなく、それを可能にしたのが最初のコーナーへの入り方の上手さにある。最高のポジションを取り、道中でしっかりと脚を溜めていたからこそ、最後の叩き合いで差し返すような面を見せることができた。横山騎手の存在こそが最大の勝因というべきレースだったわけだ。 アンジュデジール自身の状態も上がっていたのだろうし、差し返すことができたのは脚が溜まっていただけではなく、この馬自身に卓越した勝負根性があったから。牡馬相手のレースで好勝負できるほどのスケールはないかもしれないが、牝馬限定戦であれば今後も主役級の活躍が期待できるはずだ。 連載を先延ばしにしてまでしてアメリカへと行ってきたのだから、その話をまるでなしに終わってしまっては読者の方に失礼だろう。短めではあるが、ブリーダーズCを観戦した私の感想を書き添えておきたい。 〈海外GI〉 11/3(土) チャーチルダウンズ11R ダ2000m BCクラシック まずはメインのクラシック。アクセラレイトの勝利は順当なものであったのだが、実はあのコースでの外枠は結構な不利であり、それを克服しての勝利という点においても価値の高いレースであったと私は考えている。スタートから位置を取りに行くことが難しいはずの枠で、あそこまであっさりと好位をキープできるのは、アクセラレイト自身のスピードが優れていたことに加え、多少の無理をしてもバテないと鞍上が考えていたからではないだろうか。 実際、レースはしぶとさを競うような内容になり、最後はどの馬も脚が上がってしまっていた。相当にタフな1戦であったと思う。アクセラレイトはスピードだけでなく、スタミナにも優れた馬ということを証明したわけで、父ルッキンアットラッキーが種牡馬としても重宝されていることから考えても、期待の持てる馬となるだろう。 ちなみに母父オーサムアゲインが同レースを勝ったときも私は現場にいた。アメリカへと足を運び、名馬の走りを見ることの意義は当時から変わっていないというわけだ。 11/3(土) チャーチルダウンズ10R 芝2400m BCターフ もうひとつ。エネイブルが勝ったBCターフについても触れておきたい。幸いなことにエネイブルを間近で見ることができ、彼女の素晴らしさを改めて理解した。 それは精神面。これがエネイブルにとって初のアメリカ遠征であると思うのだが、彼女は長距離輸送をし、環境の大きく異なる状況にあっても、普段と変わらない場所にいるかのような落ち着きを見せていたのだ。メンコを着けることもなく、大観衆にも動じない。本当に素晴らしい馬と感じた。 これまでと違う形にも対応したレース内容も素晴らしかったと思うが、前日に雨が降り、少し柔らかい状態になった馬場も味方したように感じた。いずれにせよ、あの大外へと持ち出したデットーリ騎手の騎乗は自信の表れ。名手がそれだけの確信を持っていることが、彼女の凄さとも言えそうだ。 この視察で得た知識は折に触れて話していくつもりなので、楽しみに待っていていただきだい。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

  • 2018年レース

    【10月28日開催】天皇賞(秋)のレース解説

    折に触れて話してきたと思いますが、ブリーダーズCをメインにしたアメリカ視察の影響により、先週までの馬体診断と血統診断を休載し、天皇賞(秋)とJBC諸競走の総括が遅れてしまいました。読者の方にはご迷惑をおかけしましたが、私がアメリカの地で得た情報は今後の紙面に反映したいと考えておりますので、どうかご了承ください。 〈古馬重賞〉 10/28(日) 東京11R 芝2000m 天皇賞(秋) すでに2週間以上も前のレース。ゆえに今回はレース全体の印象と上位馬の簡単な総評をしたいと思う。 まずはレースについて。勝ち時計は速かったが、これは高速馬場の影響によるところが大きく、長い直線が魅力の東京競馬場であっても、以前のような追い込みを見ることは難しくなっているのだな、と感じた。位置を取る競馬ができるタイプか否か、それができる鞍上が乗っているか否かを考える必要があるということで、今回で言えば、勝ったレイデオロの4角6番手が前を捕まえるのに適した場所であり、2着サングレーザーの4角7番手ではギリギリ。それよりも後ろでは問題外だった。レイデオロの鞍上はルメール騎手でサングレーザーはモレイラ騎手──。つまりはそういうことだ。 スワーヴリチャードの10着は出遅れと不利の影響で位置が悪くなってしまったもの。当初の予定とはだいぶ違う競馬になってしまったのだろうし、この位置取りも騎手のせいではないのだが、あのスタートによってレースが終わってしまったのも事実。陣営にとっては非常に悔いの残る1戦だったのではないだろうか。この馬に関しては後述するつもり。検証が必要と思ったからだ。 ダービー馬のレイデオロはスピードと切れで他馬を明らかに上回っており、抜けてくる瞬間の速さが他の馬とは明らかに違った。マイル戦の速い流れに慣れているはずのサングレーザーのほうが先に手が動き出したほどで、この馬の潜在スピードの高さが表れたレースであったと思う。素直に強いと感じさせる内容、結果だった。 正直、レイデオロのパドックは良くなかった。馬体は仕上がっていたが、大観衆に気負い過ぎていたのか、チャカつき気味で集中しきれていない。そんな印象を持った。それがレイデオロという馬の特徴であったとしても、このようなタイプが超一流馬として活躍することは難しいはずなのだが、今回のレースでは、いい意味でそれが裏切られた。 その後の返し馬で、どこまで落ち着かせていたのかについては、当日の現場にいなかったのでわからない。しかし、仮にパドックでの姿を見た直後に感想を聞かれれば、私はこの馬の評価を下げていただろう。ゆえに今回の勝利は評価が難しい。 このような状況でも勝てるレイデオロの強さを高く評価すべきか、パドックで見せたテンションの高さが、今後のレースに影響する可能性を指摘すべきなのか──。その判断、受け取り方によって、レースに持っていくまでのイメージが変わってくるからだ。 勝ったという事実のみを優先するのではなく、どのような状況で勝利し、それが次走以降にどう影響してくるのか? そこまで考えた場合、今回の勝利は手放しで喜べるものではなかったようにも感じる。次走まで持ち越すべき大きな問題かもしれない。 2着のサングレーザーは12キロの馬体重減の影響か、他の出走馬よりもトモが薄く見えた。これもパドックからは推奨できない馬の1頭だったのだが、レースでは最後までしっかりと伸びて2着を確保。モレイラ騎手のサポートがあってこその好走であったことは事実だが、馬自身も確実に力を付けている。これ以上の距離延長はともかく、2000mまでなら現役最高クラスの馬であることは証明できたのではないだろうか。結果的に札幌記念の優勝はフロックでなかったというわけだ。 ただし、前述のマイナス体重が今後のレースに影響を及ぼす可能性は否定できない。地元の京都で走れるマイルCSであっても、叩いた上積みを期待できない状況であったはずだ。ゆえに日程的な余裕のある香港のほうが選択としては正解であり、まずは馬体の回復に専念させる考えだろう。遠征が成功するか否かも馬体の回復に懸かっている。 3着のキセキはパドックの気配も上々で、レースの中身も素晴らしかった。惜しいレースだったと思う。今回のようなレースができれば、展開に左右されることも少なくなるだろうし、次に繋がる走りは見せられたとの認識でいい。 すなわち、中距離戦での切れが上位馬よりも下だったというだけの話。2400mのジャパンCなら、今回以上のパフォーマンスを見せられるかもしれないし、フットワークの大きい馬。東京コースも合うと思う。 4着アルアインは上手な競馬をしたが、上位の馬とは決め手に差があった。逞しい胸前を持つ同馬の見た目は明らかなパワータイプ。中山のようなコースのほうが合うと思う。 5着ミッキーロケットはしぶとく脚を伸ばし、宝塚記念を勝った馬らしい地力は示した。休み明けを叩いた上積みを加味すれば、距離の延びる次走のジャパンCは楽しみと言えるだろう。 さて、私も中心に期待したスワーヴリチャード。前述したような不運が重なったことで、思い描いていたような形に持ち込めなかった。そこに関しては目を瞑る必要があると思うが、直線を向き、鞍上がステッキを入れたときの反応がまるでなかった。それが気掛かり。残り100mは鞍上も追うのを止めてしまっている。これも私には不安材料に見えた。馬が走る必要性を感じなくなっていなければいいのだが…。 天皇賞からジャパンCまでの日程はタイト。仮にゲートに問題が出ていたとしても、それをクリアさせるための時間を作るためには、他の何かをするための時間を削らなければならない。もちろん、気持ちをリセットさせる時間もないわけだ。 今回のレースで浮上した課題、不安点をそっくりと残したまま、ジャパンCに向かわなければならない。これは管理者として大きな不安材料になる。能力を出し切るための不安要素を取り除くことこそが、大舞台に向かう最大の準備となるからだ。 能力は現役トップクラス。それは認める。しかし、先行きは実意不透明。これが今回の1戦を受けた私の感想であり、ジャパンCでの巻き返しに疑問符が付く点でもある。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

  • 2018年レース

    お知らせ

    今週の「調教師の着眼点」「馬体診断」「血統診断」は海外視察により休載とさせていただきます。 なお、今週の各コラムは再来週の更新予定となります。あらかじめご了承ください。 次回の更新を楽しみにお待ちください。

  • 2018年レース

    【10月20日・21日開催】菊花賞、富士Sほかレース解説

    〈3歳GI〉 10/21(日) 京都11R 芝3000m 菊花賞 欧州のようなスローペースが日本でも増え、道中の駆け引きや進路取りが大きな明暗を分ける時代になった。つまりは馬の能力だけでなく、騎手の技量にも注目が必要な時代になったということだ。長距離戦は特に騎手の技量が大きくクローズアップされるレース。今年の菊花賞でそのフレーズを噛み締めたファンも多かったのではないだろうか。上位の3人はルメール騎手、デムーロ騎手、武豊騎手。騎手で買えば当たると言われてしまうような結果だが、人気はそれぞれ7番人気、2番人気、10番人気。馬の力だけで持ってきた結果でないことは明らか。少なくとも、私はそれを改めて感じた。 思っていたほどペースが上がらず、下り坂を上手く使ってスパートする騎手もいなかった。誰もが牽制し合っているような状況で直線を向く状況。そのような競馬になってしまうと、直線に向いた段階でどの位置にいたのか、どこで脚をためていたのか、その馬自身に切れはあるのか、などが重要なポイントになってくる。その要素をすべて満たしていたのが勝ったフィエールマンで、乗っていたのはルメール騎手。彼はいい馬ばかりに乗っているので勝っているように思われがちだが、その馬の個性をしっかりと引き出す乗り方をしているから勝っているわけで、今回のレースは特にそう。彼の時代はしばらく続くと思う。武豊騎手もロスのない素晴らしい騎乗をしていた。馬に関しては後述するが、彼は京都の長距離戦に乗せるとさすがに上手い。どのような状況でも注目すべき騎手ということだ。 では、上位から順に考察していこう。勝ったフィエールマンには素直に驚いた。それが最も正解に近いからこそ、誰もが過去のデータを気にするわけで、そのセオリーから大きく逸脱したローテーションで挑みながら、結果を出してしまった今回の勝利は、それだけで偉業と言うべきものだと思う。育成牧場における調教技術の進化が背景にあるのはもちろんだが、どの馬に該当するものではなく、実際に同じような日程で挑んだ馬は結果を出せていない。フィエールマンのみが特別と考えるべきだろう。 直線で伸びてくる彼の走るフォームを見てもらいたい。フィエールマンはしっかりと重心を下げて走れる馬で、それこそが頭の高いブラストワンピースや距離不安が現実になってしまったエポカドーロとの大きな違い。これが残り数百メートルでの伸びを生んだ理由であり、フィエールマンの最大の武器ではないだろうか。馬だけを見れば、キャリアの浅さを感じさせるというか、未完成のイメージはあまりなく、思っている以上に完成している。1月20日の早生まれということも関係しているのかもしれないが、それが今回の価値を下げるものではなく、このままの状況であってもハイレベルの活躍を見せてくれると思う。使い込めるようになれば、日本を代表する馬になる可能性もあるだろう。 2着のエタリオウは大きなレースを勝てる能力を持っている馬だが、今回のレースでも結果を出せずに現在も1勝馬。つまりは何かしらの問題がある馬ということで、おそらくは気性的な問題があると私は見ている。強い相手と戦っても互角にやれる可能性がある反面、レースのレベルが下がっても勝ちきれない可能性がある。それこそ父のステイゴールドのようなシルバーコレクターになってしまうかもしれない。早めに2勝目が欲しいところだ。 3着のユーキャンスマイルは武豊騎手の好騎乗も大きかったが、この馬自身も著しい成長を見せているのではないか。彼は成長力のあるキングカメハメハの産駒であり、母父も晩成タイプの多いダンスインザダーク。なによりも彼は5月3日の遅生まれである。本来、古馬になってからのイメージだった馬が、3歳秋のGIでこれだけの結果を出せたのだから、今後が大いに楽しみになった。 〈古馬重賞〉 10/20(土) 東京11R 芝1600m 富士S 時計が速い決着のレースは道中のポジションが非常に重要であり、特に前走が少し消化不良のレースになってしまったロジクライの今回のスムーズな立ち回りは、鞍上にルメール騎手を迎えた意義を感じさせるものとなった。 ロジクライ自身は一瞬の速い脚で勝負するタイプではなく、いい脚を長く使わせるタイプであると思う。2着のワントゥワンがロジクライよりも0秒7も速い上がりで追い込んだが、まるで危なげない競馬に見えたのは、ルメール騎手がいかに素晴らしい位置で、安全に競馬を進めたかという証明といえるだろう。 2着のワントゥワンに乗っていたのはモレイラ騎手で、追い込み一手の同馬をこれまでよりは前の位置に行かせ、なんとか前を捕まえようという思いを感じさせる騎乗をした。これまでの競馬では届かないと考えていたのだと思う。そのあたりの感覚はさすがというほかない。 菊花賞の項でも述べたが、現在の競馬は外国人騎手を筆頭とした確かな技術を持つ騎手とそれ以外の騎手との差が明白になり過ぎている気がする。彼らは団子状態でレースを進め、そこから抜け出してくるための経験を嫌というほどに積んできた。そんな彼らにとって隊列がすんなりと決まり、スペースのある状況で競馬をしてきた日本人騎手とのレースは、あまりに楽と感じるに違いない。 この秋はムーア騎手やC.デムーロ騎手といったお馴染みの腕達者に加え、ロアリングライオンで世界中に名を知らしめたマーフィー騎手も短期免許での来日を予定しているという。日本人騎手にとっては大きな脅威となるだろうし、おそらくはかなりの勝ち星を彼らに持っていかれるだろう。 騎手が腕を磨くには実戦を経験することしかない。しかし、JRAの競馬は土、日しか開催されず、そこでの騎乗は前述の騎手たちで埋められていく。若手の育成は重要と誰もが考えているが、一方でオーナーも調教師も目先の1勝が大事。勝てる騎手への依頼は当然だ。私も自分の厩舎には騎手を置かず、その状況によってベストのチョイスが出来るように…と考えていた。騎乗機会は与えられるものではなく、自らの手で得ていくものだ。積極的に海外へと出て行くなど、これまでと違う形で技術を磨く騎手がいなければ、外国人騎手の天下はいつまでも続くと私は思う。 〈2歳戦〉 先週は2歳戦に面白いレースが多かったので、いくつかピックアップしたいと思う。 〈オープン戦〉 10/20(土) 東京9R 芝1800m アイビーS まずはオープンのアイビーS。勝ったのは出走馬で唯一の牝馬だったクロノジェネシスで、上がり32秒5という相当に速い脚を使っての好位差し切りだった。父がバゴなので地味な印象になってしまいがちだが、姉に今年の紫苑Sを勝っているノームコアがいて、祖母はフサイチエアデールの半妹という筋の通った血統の出身。この血統になぜバゴなのか?という疑問(苦笑)はさておき、結果を残す馬は「どこかに必ず理由となる血筋を持っている」ことを今回も証明したことになる。距離が延びて良さそうなタイプ。今後も注目したい。 〈新馬戦〉 10/20(土) 東京4R 芝1600m メイクデビュー東京 土曜日の東京では2頭の血統馬が新馬戦を勝ち上がった。まずは芝1600mを勝ったタニノミッション。これまでのウオッカの配合相手はネームヴァリューを優先させている印象で、マッチングという点ではどうかという気がしていた。今回の配合相手はインヴィンシブルスピリット。それを聞いた瞬間に「これまでの産駒と違うのではないか」と思ったことは、先週の血統診断で述べている通り。ウオッカのようなタイプの馬にはスピードを重ねてあげたほうが効果的で、それは欧州的なスピードではなく、どこの世界でも通用するスプリンター的なスピードのことをいう。それがスピードだけでなく、切れまでも生み出すことになるわけで、それは彼女の走りが証明していると思う。もちろん、距離には限界が出るだろう。しかし、牝馬はマイルまで走れば十分だ。桜花賞路線に乗ってくると思う。 10/20(土) 東京5R 芝2000m メイクデビュー東京 2000mを勝ったランフォザローゼスはクビ差の辛勝。しかし、私には余裕のある勝ち方に見えた。スッと前に行けるスピードは現代競馬に必要なもので、差されそうで差されないしぶとさもある。父キングカメハメハ、母父はディープインパクト、祖母にエアグルーヴというとてつもない血統馬。このような血統は舞台が上がるほど強さを増していくもので、今後が楽しみな馬としておく。 10/21(日) 京都5R 芝1600m メイクデビュー京都 京都日曜の芝1800mを勝ったワールドプレミアはマイラーズCをレコード勝ちしているワールドエースの全弟という血統の持ち主で、圧倒的な1番人気の支持も受けていたのだが、パドックではかなり緩い感じがした。まだバランスが取れていない感じがしたのだ。勝負どころで仕掛けないと動いていけなかったレースぶりなど、決して安心して見ていられるレースでもなかったのだが、2着馬が並んできた瞬間の脚の速さはかなりのものだった。次走も確実に勝てるという内容でこそなかったものの、ちょっと奥が深そうな馬ということで、ここで取り上げておきたい。 〈お知らせ〉 ところで、私は来週から2週間ほどアメリカに渡り、ブリーダーズカップの観戦と現在のトップクラスにいるアメリカの種牡馬を見てこようと考えています。馬体診断、血統診断は休載、天皇賞を筆頭としたレース回顧は先送りという形になってしまいますが、どうかご了承願いたい。もちろん、アメリカで得た知識や私の見解は、様々な場面で披露していきたいと思っていますので、それを楽しみにしていただければ幸いです。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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