先週の2~3歳戦や重賞レースを“調教師の視点”から解説!

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    【8月11日・8月12日開催】関屋記念、エルムSほかレース解説

    〈古馬重賞〉 8/12(日) 新潟11R 芝1600m 関屋記念 先週の馬体診断の項でも触れていたし、春のGIシリーズでも何度か話していると記憶しているが、このレースを勝ったプリモシーンの馬体の良さに私は注目しており、今回のレース内容に「これくらいの仕事はしても不思議はないな」という印象も持っている。 もちろん、この時期の3歳牝馬がタフな新潟のマイル重賞で、古馬相手に勝利を収めたことに対しての評価はしたい。しかし、今回の1戦よりもさらに上の…例えば、GIのような最高峰のレースを狙える可能性まで感じる馬。それが私の認識だ。そう考えれば、51キロの軽い斤量で、ごまかしの効かないハイペースの展開。ファンの方も1番人気に同馬を推していたが、確かに順当勝ちと言っていい1戦であったと私も思う。 夏場の10キロ増は好印象だ。今年は猛暑の影響が懸念されるシーズンになっているが、このような状態で出走できた馬は秋のGIシーズンにすんなりと入っていけるだろう。この時期に古馬相手のマイル重賞を使うのだから、おそらくは距離の適性を考えたレース選択を秋はしていくと思うのだが、直線の長い東京や新潟のマイル戦を勝った馬であれば、1800mのローズSはもちろんのこと、2000mの秋華賞でもヒケは取らないのではないか、と思う。同世代相手にGIを走れるのは3歳まで。挑戦してみてもいいのではないだろうか。 8/12(日) 札幌11R ダ1700m エルムS 札幌コースで追い込み一気を決めることはなかなか難しい。後方から競馬を進める形になったミツバは、4コーナーの時点でほぼノーチャンス。最後はいい脚を使っていたが、1番人気に支持された馬の競馬ではなかったかもしれない。 勝ったハイランドピークと2着のドリームキラリは、小回りコースの勝ちパターンで結果を出した。着差とレースにおける幅を考えれば、上位2頭の力量差は明確で、次に向けて展望が開けたのは勝ち馬のハイランドピークのみだろう。 先ほど、小回りコースの勝ちパターンで結果を出したと述べたが、このような無駄のない競馬をする馬は、状況が変わってもそこまでパフォーマンスが落ちない。瞬発力でやられてしまうレースもあるかもしれないが、例えばGIのような大きいレースであっても、展開一つでチャンスは巡ってきそうだ。5月生まれの4歳馬。今後の成長にも期待できるはず。 〈新馬戦〉 8/12(日) 札幌5R 芝1800m メイクデビュー札幌 私が注目したレースは2つ。最初に取り上げるのは札幌の日曜芝1800mを制したミリオンドリームズ。祖祖母であるメイプルジンスキーを導入した経緯から知っているだけに、「ようやく出てくれたか」の思いが強い。 先週の血統診断でも少し触れさせてもらったが、これだけの馬を日本に連れてきて、それが成功しないと産駒をアメリカに持って行ってエーピーインディ。その次はヨーロッパでフランケルと配合──。相当な体力(経済力と言い換えてもいい)がなければ、継続することが難しい行為だが、それも「いいものだけを入れ続けたい」という生産者の強い意志があってこそ。まだ初戦を勝ったばかりだが、このような馬が成功してくれることを私は望んでいるし、競馬界の発展にも繋がっていくとおもう。 余裕綽々の勝利を飾ったミリオンドリームズ自身の話もしよう。少し余裕を感じる状況だったとはいえ、牝馬とは思えない大きな馬体。フランケル、エーピーインディのパワーを感じる馬で、同厩舎の先輩で同じフランケル産駒のソウルスターリングとはタイプの違う馬と言えそうだ。その馬体に比例し、フットワークも大きくてパワフル。広いコースでのびのびと走る形の方がいいだろう。阪神の外回りや東京のようなコースで真価を発揮する馬かもしれない。 パワフルでスピードはありそうだが、サンデーサイレンス系のしなやかさはそこまで出せなかった印象の馬。少し先の話になってしまうが、この馬が繁殖に上がった際には、ぜひサンデーサイレンス系の種牡馬を付けてみてほしい。ディープインパクトならサンデーサイレンスの2×4。オルフェーヴルやキズナなら、サンデーサイレンスの3×4になる。ディープインパクト産駒は繁殖レベルの高い馬が多いので、どの馬であっても隙のない素晴らしい配合となるはずだ。 8/11(土) 新潟5R 芝1800m メイクデビュー新潟 もう1頭は新潟の1800mを勝ったホウオウサーベル。5月の遅生まれで父は晩成タイプのハーツクライ。2歳の早い時期から活躍するような馬ではないと思うし、実際に完成するのはかなり先なのかもしれないが、パドックでの周回に一流馬らしい雰囲気があり、余裕を持って3番手を追走したスピードもある。血統や馬体、フットワークを見れば、スピードのみを武器にする馬なはずはなく、単純に持っている能力が高いという判断でいいだろう。 仕掛けてから少しずつスピードを上げていくところは、ハーツクライの産駒らしさを感じたし、そのフットワークの大きさも目立っていた。狭いコースでごちゃつく競馬よりも、広いコースでのびのびと走らせてあげたい馬だ。クラシックに行ける馬と私は感じた。 8/11(土) 札幌5R 芝1500m メイクデビュー札幌 ちなみに土曜の札幌5Rを5馬身差で勝ったトスアップを大きく取り上げなかったのは、その馬体のサイズから輸送のある中央場所でも同じような活躍ができるかどうかの疑問を持ったため。まだまだ芯が入っていない現状でもあり、次走以降の走りを見てからでも遅くはないと思う。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【8月4日・5日開催】小倉記念、レパードSほかレース解説

    〈古馬重賞〉 8/5(日) 小倉11R 芝2000m 小倉記念 1番人気のトリオンフがレコードタイムで快勝。文字通りの危なげないレースぶりだったと思う。 高速馬場の影響もあると考えられるレコードタイムに価値は見出せないかもしれないが、注目すべきはそのレースぶり。ある程度のポジションを取り、自分から競馬を動かせる馬はやはり強い。トリオンフがマークした上がり3ハロンの数字は33秒5。レース後の騎手の談話で「前の馬に速い上がりを使われては…」というコメントをよく目にするし、今回もそうだったが、私の発想は逆。「速い上がりを使える馬が前に行けるから強い」と考えるべきだ。 高速化が進む現代競馬では、あらゆる側面において最優先されているのはスピード能力で、それは血統面において特に顕著だ。どのようなタイプの馬であっても、オープンまで上がってくるほどのレベルであれば、最低限のスピードは持っており、そのような状況において、追い込み一気のような極端な戦法が決まるはずもない。それこそが「前に行ける強み」を私が強調してきた理由。キタサンブラックも前に行ける脚があったからこそ、あれほどの結果を残せた──と私は考えている。 トリオンフに話を戻そう。小倉で圧倒的な強さを見せるコース巧者。他の競馬場でも今回のようなパフォーマンスができるかどうか、が今後のポイントになってくるだろう。しかし、私はまるで心配していない。530キロの馬格を誇る大型馬で、それに比例してフットワークも大きい。広いコースのほうが伸び伸びと走れる可能性があるからだ。それこそ、キタサンブラックは先行馬で中山のようなコースのほうがいいとされたが、東京のような直線の長いコースでも問題なく対応した。あの馬も大型でフットワークの大きいタイプ。トリオンフに同じようなことが起きても不思議はないだろう。 最後に気づいたことを一つ。「夏は牝馬」という格言があるが、もしかしたら「夏は騙馬」のほうが正解なのではないか。牡馬は牝馬よりも内臓に弱さを抱える馬が多く、それはホルモンの影響と考えられている。だからこそ、夏が牝馬という状況が生まれてくるのだろうが、騙馬にすることで男性ホルモンの働きを抑制してしまえば、これまでとは違った結果が出るのは必然。実際、シンガポールや香港のような暑いところでは騙馬の活躍馬が多く、オーストラリアも騙馬にすることを躊躇しない。もちろん、牡馬として生まれた馬の最大の使命は自身の血を残すことだが、競馬は淘汰の世界。すべての馬が血を残せるわけではなく、該当するのはほんの一握り。騙馬に変な色眼鏡を持たず、むしろ得意な条件が一つ増えるくらいの発想を持つことが重要なのかもしれない。 〈3歳重賞〉 8/5(日) 新潟11R ダ1800m レパードS 次代のスター候補が登場するレースだが、今年は少しインパクトに欠けた気がする。1番人気のグレートタイムは道中の位置取りが悪く、3番人気のアドマイヤビクターはスタートで挟まれ、グレートタイムよりも後ろの位置になってしまった。新潟のダートは先行馬が強い。後方一気ではさすがに無理だろう。 勝ったグリムは積極的にハナを奪い、2着馬に並ばれてから差し返すような面も見せた。しぶといレースぶりではあったと思う。しかし、勝ち時計や2着馬との着差を考えても、抜けた能力を持っているという結論には達しにくい。この勝利を根拠に「GIでも…」と考えることはできないわけだ。 ただし、まだ成長途上の3歳馬で前に行けるスピードもある。これからも成長次第では化ける可能性もゼロではないだろう。父はゼンノロブロイだが、母父にはサクラバクシンオー。この部分に私は注目している。サクラバクシンオーの持つスピードがグリムの今後を左右するかもしれない。どんな条件であっても必要なものはスピード。それを端的に示しているのではないだろうか。 〈2歳オープン〉 8/6(土) 新潟8R 芝1400m ダリア賞 2歳のオープン戦ということで注目を集めた1戦。1番人気のアウィルアウェイが楽に突き抜けてみせた。そのパフォーマンスは重賞レベルであったと思うし、かなりの活躍ができそうな馬であることは否定しない。しかし、走る場所を選ぶ馬ではないだろうか、という考えも一方で持っている。 頭の位置が高いピッチ走法。それは短距離の差し馬に多く、スピード豊富なメドウレイク産駒のトキオリアリティーが入っている彼女の血統構成が、私の指摘に間違いがないことを物語っている。桜花賞が行われる1600mをクリアできれば問題ないわけだが、もしかしたらマイルさえもギリギリかもしれない。2歳戦のうちは能力のみで克服しても、来春になれば適性の差が出てくるもの。今後の彼女がどのような成績を残したとしても、私が今回の1戦を見て感じたことを覚えておいてほしいとおもう。 〈新馬戦〉 様々な競馬場で新馬戦が行われ、多くの血統馬が登場した。なので、今回は私が評価する馬、血統馬に対する簡単な感想を述べて終わりにしたい。 8/5(日) 小倉5R 芝1800m メイクデビュー小倉 最もインパクトを残したのは小倉の芝1800mを勝ったヴェロックス。金子真人オーナーの所有馬でセレクトセールの取引額は4800万円。ジャスタウェイの産駒でこの値段なのだから、決して安いわけではないが、億単位の高額馬も多いセレクトセールの中では、まるで注目されないレベルの金額だろう。金子オーナーの相馬眼の凄さは今さら語ることではないが、馬を見る目に加え、何かしらのデータも持っているのではないか? この馬の走りを見て、そんなことを考えてしまった。 非常にいい馬だ。前に行けるスピードを持っているだけではなく、競馬を使っても無理がこない馬格もある。パドックでの歩きに一流馬の雰囲気も感じた。もう少し首の位置が低い走りができれば…とも思ったが、アウィルアウェイがそうだったように、ジャスタウェイの仔は頭が高い可能性もある。この馬はフットワークも大きく、弾むように走れるので、距離延長は苦にしないだろう。 8/5(日) 新潟6R 芝1400m メイクデビュー新潟 新潟では芝1400mを勝ったベルスール。私が管理したフサイチパンドラの仔で、アーモンドアイの半妹になるユナカイトもしっかりと差し込んできたのだが、勝ち馬のスピードが違い過ぎた。父はスウェプトオーヴァーボード。距離に限界を見せるタイプだろうが、桜花賞の1600mまではこなせるのではないか、と思っている。母父サンデーサイレンスで、半姉に新潟2歳Sを勝ったヴゼットジョリー。血統的な魅力もありそうだ。 8/5(日) 新潟5R 芝1800m メイクデビュー新潟 新潟の芝1800mを勝ったドナアトラエンテはジェンティルドンナの全妹。あくまで「現段階では」の話だが、偉大な姉と比べるレベルには達していない。小柄な馬にしては仕掛けた瞬間の反応が鈍く、かといって追い出してフラフラする面に力強さも感じない。資質はありそうだが、それ以上に成長が必要だ。 8/4(土) 新潟5R 芝1600m メイクデビュー新潟 土曜の新潟ではレイデオロの半弟になるソルドラードが3着に負けた。スローペースの大外を回し、マークした上がり3ハロンの数字は33秒1。展開に泣いたと考えることもできるが、そのような不利な状況であっても差し切ってしまうのが超の付く一流馬。少し拍子抜けしてしまった。次走でどこまで変わってこれるかだろう。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【7月28日・29日開催】クイーンS、アイビスSDほかレース解説

    〈古馬重賞〉 7/29(日) 札幌11R 芝1800m クイーンS ディアドラの強さばかりが目立った1戦だった。道中は後方に位置し、勝負どころでは大外を回す安全運転のレースぶりは、鞍上がルメール騎手でなくてもいいのではないかと思えるほど。とにかく何もかもが楽な競馬だった。 すでにGIを勝っている馬で、能力そのものが上であることは認識していたが、ここまで圧倒的な強さを見せると、それ以外のプラスアルファ…今回で言えば、洋芝への適性の高さになるのだろうが、その恩恵も多分に受けていたと考えるべきだろう。ゆえに逆のパターン(軽い芝)になった場合でも、今回のような強さを見せることが出来るかが、今後の課題になってくると思う。 しかし、私はそこまでの心配をしていない。洋芝のような力のいる芝を得意とする一方で、軽い芝の瞬発力勝負に弱点を見せるのがハービンジャー産駒の特徴ではある。ディアドラもその特徴を見せている馬とは思うが、彼女は名牝ソニックレディへと繋がる母系の血統が格段にいい。ファルブラウの産駒だった半兄オデュッセウスが短距離を主戦場としている事実を考えれば、ディアドラにスピードが足りないという状況は生まれない、と考えるのが妥当だろう。 しかも、この馬は4月の遅生まれ。同世代の馬よりも成長が遅かった可能性は高い。今回ほどの強さは見せられないにしても、例えば東京や京都のようなコースであっても、上位を争うことは可能。根本的な能力が違うという見識でいいと思う。もちろん、取り沙汰されている香港やドバイのような芝のほうが、彼女に会う可能性は高いのだろうが。 ディアドラと人気を分けたソウルスターリングは3着に敗退。同期のライバルとの差が明確になってしまった。パドックでの姿に問題はなかったし、レース運びもほぼ理想的。4コーナーを向いた段階では「今日は勝てるかな」と思ったほどだったのだが、そこからの伸びがなかった。 振り返れば、一昨年の夏。私は現地で彼女のデビュー戦を見た。「大人びた完成度の高い馬だな」が当時の印象だったのだが、2月の早生まれ。すでに2歳の時点で完成しており、そこからの成長力に欠けてしまったのかもしれない。 強い馬であることは確かだが、トップランクでなくなってしまったことは確かだろう。これからは走れる条件が合致し、なおかつ人気とのバランスが取れている場合のみの狙いとなりそうだ。 7/29(日) 新潟11R 芝1000m アイビスSD アグネスデジタルのように様々なフィールドで活躍できる馬もいるが、そのような馬のほうが実は稀で、実際は芝や距離、コースに馬場状態などの様々な要因によって、走れる確率は変わってくる。短距離、中距離、長距離のような分類もそのような競走馬の特徴から生まれているものだが、各々の適性には個体差があり、特に日本に一つしかない直線1000mの競馬に対する適性は、そのほかのレースよりも際立って出るように思う。 直線競馬で3戦3勝。無類の強さを見せるダイメイプリンセスのパフォーマンスは、この条件に対する異常なまでの適性の高さを物語るもので、その勝ちっぷりからすれば、今後も大きな期待ができる反面、この条件を外れた場合…コーナーのある1200mに条件が変更されても、同じように能力を出し切ることができるのか、という課題を抱えるものでもあったと思う。 進路を探しながらの状況からあっさりと突き抜けた内容を見ると、コーナーのあるコースでも今回と同じようなことができるのだろうか、という不安を私は拭い去れないのだが…。いずれにしろ、直線競馬の重賞はこの1戦しかなく、次走は嫌でもコーナーのあるレースを使わなくてはならない。このレースを待って、今後についての最終的な結論を出すのがベターだ。 〈新馬戦〉 中京から舞台を移し、1200mがメインの番組になった小倉の新馬戦は特筆すべき馬がほぼいなかった。一方、札幌と新潟は今後の活躍ができそうな素質馬が勝ち上がっている。今回はこちらをメインに話を進めたい。 7/28(土) 新潟5R 芝1400m メイクデビュー新潟 先週の勝ち上がり組で、私が最も将来性を感じた馬は新潟の芝1400mを勝ったグレイシア。1分21秒6という勝ち時計もまずまずだが、その数字をほぼ馬なりの状態でマークしてしまったことがポイントであって、つまりは持っているスピードの絶対値が他の馬とは明らかに違う。このようなパフォーマンスを見せる馬こそが、真に強い馬であると私は思うのだ。 何度も言ってきたことだが、大舞台で好走するための第一条件は元値の高さであって、それは競走馬があらかじめ持っているスピード能力に表れる。どれだけ鍛えてもカバーしきれない部分。だからこそ、我々はその能力を持っているであろう馬を探すことに躍起になるわけだ。 ダイワメジャー産駒である彼女が無理に脚を溜める競馬を覚える必要はない。放っておいても前に行けるスピードがあるわけで、無理な競り込みにあった場合は、好位から競馬を進めればいいだけ。この手のタイプのほとんどは、そのような競馬ができるはず。これだけのスピードを秘めているのだから、距離の限界は見せるかもしれないが、1600mまではまず大丈夫。1月26日生まれという早熟性を活かし、桜花賞路線に乗ってくる馬と思う。 7/29(日) 札幌5R 芝1800m メイクデビュー札幌 札幌の芝1800mを勝ったクラージュゲリエはフェアリードールに祖を持つ血統で、この血統はキングカメハメハとの相性がすこぶるいい。上がりの速い流れを差し切った瞬発力は「さすが血統馬」と思わせるもので、上のクラスに入っても問題なく通用するだろう。 この1戦で私が注目したのはモレイラ騎手の騎乗ぶり。あまりのスローペースに道中は頭を上げるようなシーンもあったのだが、折り合いに欠くところまではいってなかったし、道中が団子状態のレースに対する慣れ、対応力は日本人騎手のはるかに上を行く彼のことだ。慌てることなどなかっただろう。直線で外に出すまでの過程にロスはなく、抜け出してからも手綱を緩めずに、最後まで押さえ込んでいた。これもポイントだ。 まだ経験値の浅い2歳の新馬戦。ゴールまでしっかり走ることを教え込んでおくことが、この先に活きてくるということを彼は知っている。これをデビュー戦でしてくれると、陣営も今後の不安が一つ解消するわけだ。単に勝たせるだけでなく、先へと繋げる騎乗をしていることが、彼の素晴らしさではないか、と私は思う。 7/28(土) 札幌5R 芝1500m メイクデビュー札幌 札幌からもう1鞍。芝1500mを勝ったレーヴドカナロアは多くの活躍馬を輩出してきたレーヴドスカーの産駒で、この年齢になってもこれだけの馬を出してくる彼女の繁殖牝馬としての能力の高さに脱帽するばかり。3コーナー過ぎから強引に捲っていき、しかし、スローペースなので前も簡単に止まらない展開。相当に長く脚を使わされたはずだ。今回のメンバーでは力が一枚も二枚も上だったということだろう。 レーヴドスカーは様々なタイプの馬を出してきたが、自身はハイエストオナー×バイアモンという血統構成。どちらかというとスタミナ寄りの繁殖牝馬と私は考えている。実は新潟の未勝利戦をケイデンスコールという馬が、単勝110円の圧倒的な支持に応えて楽勝しているのだが、この馬もレーヴドカナロアと同じロードカナロアの産駒で、母のインダクティは現役を代表するステイヤーとして活躍するフェイムゲームの全妹という血統の持ち主だった。 ロードカナロアのスピードを活かし、母系にもスピードを持ってくる形が個性を活かす1番の近道──と以前は考えていたのだが、このようなスタミナ系と配合することで、高いスピード能力を持ちながら、距離をこなせる馬を作り出せる。これこそがロードカナロアの強みではないか、と考えるようにもなった。母がフサイチパンドラのアーモンドアイも似たようなタイプと言えるかもしれない。またロードカナロアはキングカメハメハと同じように、サンデーサイレンス系との相性が抜群。これもかなりのアピールポイントと言えるだろう。 現在の日本の競馬は中距離からクラシックディスタンスまでが主流だ。配合次第で距離を克服してしまうロードカナロアは、次世代のリーディング候補といえるかもしれない。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【7月21日・7月22日開催】中京記念、函館2歳Sほかレース解説

    〈古馬重賞〉 7/22(日) 中京11R 芝1600m 中京記念 グレーターロンドンは父がディープインパクト、母がロンドンブリッジという良血で、そのレースぶりや戦歴からGI級の能力を秘めていると評価をされてきた馬だ。私も高い能力を持っている馬と思っていたし、その考え自体は変えていないのだが、重賞初制覇となった今回の1戦を改めて見直したことで、逆にGIを勝つためには展開待ちというか、条件がハマるのを待つ必要がありそうな印象を持ってしまった。 ハイペースの厳しい流れが合ったこと。これが一番の勝因だとすれば、スローの瞬発力勝負になったときに、どうやって立ち回るのか? それが今後も課題になるだろうし、ゆえに流れの緩くなるGIIIのようなレースよりも、相手のレベルが高く、ペースも厳しくなりがちのGIのほうが結果を残しやすかったのかもしれない。 直線は大外一気。外に持ち出し過ぎたコース取りにも見えたが、開催最終週だったこともあり、馬場の内側よりも外のほうが最後のひと伸びが利いたのだろう。これも「条件が合致した」と言うことができるかもしれない。 では、開幕週のような内と外の馬場の差がない場合はどうか? 今回のようなロスのある進路取りをしていては厳しいと思うが、グレーターロンドンはポジションを取ってレースを進めるような馬ではないし、馬群を割って伸びてくるようなタイプでもない。だからこそ、全幅の信頼を置けないと私は考えるわけだ。能力ではなく、競馬センスの問題と言えるかもしれない。 5月23日の遅生まれ。6歳でもまだまだ活躍できると思うし、伸びる要素もあるとは思う。しかし、自分の走れる条件のすべてが揃うレースには、なかなかめぐり合えないものだ。そのチャンスが巡ってきたときに、しっかりとモノにできるかどうか。それがすべてだ。 ちなみに、今回は1400mを使ったあとの1戦で、これまでのレースよりも行き脚がついていた。ショック療法というほどでもないが、これは私の現役時代から使われている方法で、実戦だけでなく、調教でも無理にテンからスピードに乗せるようなことをする。私は坂路をメインに使う追い切りはほとんどしなかったのだが、ダンスパートナーなどは坂路でスタートからスピードに乗せる調教をさせたことがあった。位置を取るためのトレーニング。スタートからある程度の位置を取る必要があるんだよ、ということを馬に教えるためだ。レースで位置を取ることがどれほどまでに重要なのか、ということを端的に示す事例と言えるだろう。 〈2歳重賞〉 7/22(日) 函館11R 芝1200m 函館2歳S 函館2歳Sと言えば、早熟なタイプがスピードで押し切るイメージが強く、函館のスプリント戦そのものが先行馬に有利な小回りの平坦コース。それだけに差し切りを決めた今年のアスターペガサスのレース内容は、おおよそ函館2歳Sの勝ち馬らしくないものと言えるわけだろう。 このような結果となった理由は二つの側面があると私は考える。ひとつは1200mを走るメンバーのレベル自体が低下しているのではないか、ということ。ディープインパクトやハーツクライなどの種牡馬を重宝している現在の日本の生産者が求めているのはクラシックで戦える馬で、血統レベルも中距離前後を走る馬が抜きん出ている。以前は短距離戦しかなかった夏開催の新馬戦の番組も多様になり、素質馬と呼ばれる馬が1200mのレースを走ることもなくなった。それは早熟のスプリンターを求める層が少なくなったということでもあるのだ。 今年の勝ち馬アスターペガサスは父がジャイアンツコーズウェイで母父がトリッピ。前者は父がストームキャット、後者の父はエンドスウィープと早熟なスピードを武器にする血統構成になっているが、ストームキャットよりもジャイアンツコーズウェイのほうがレース運びに融通性があり、同時にこなせる距離の幅も広い。馬群を割って一気に抜けてきた今回のレースぶりがジャイアンツコーズウェイの影響を受けたものであるのなら、活躍の舞台が1200mに限定されることはないだろう。1600mまではこなせるだろうし、折り合いに問題がなければ、それ以上の距離にも可能性があると私は見ている。 純粋なスプリンタータイプでないにもかかわらず、一気に突き抜けてしまったアスターペガサスの能力は今回のメンバーで抜きん出ていた。これが二つめの理由。次走は秋の東京・京王杯2歳Sになるようだが、このレースをクリアできれば、朝日杯FSも見えてくるだろうし、その可能性は十分にあると思う。 〈新馬戦〉 7/22(日) 函館5R 芝1800m メイクデビュー函館 3場の新馬戦で私が最も評価している馬は日曜函館のウィクトーリア。レコードタイムでの勝利ではあったが、それ以上に首を上手に使って走り、自分でペースを作りながら、掛かる面も見せなかったレースの内容そのものを評価している。 父ヴィクトワールピサはオールウェザーのドバイWCを勝った馬で、日本でのGI勝利はいずれも中山。軽い芝での瞬発力勝負に課題を残すタイプだが、この馬は他のヴィクトワールピサの産駒と比較しても、純粋なスピード能力に秀でている気がする。もちろん、洋芝の札幌2歳Sなら有力な存在となるだろうが、仮に東京のようなコースであっても評価を落とす必要はない。今後が楽しみな馬だ。 7/21(土) 福島5R 芝2000m メイクデビュー福島 福島の芝2000mを勝ったボスジラはクロフネを産んだブルーアヴェニューを祖母に持つ血統で、切れないがダラダラと脚を使う今回のパフォーマンスも母系の影響を感じさせるもの。最終週の荒れた芝もプラスに働いたかもしれない。瞬発力勝負に向かない反面、持っている能力自体は高いので、自分が走れる状況であれば、大きい舞台で好走する可能性がある。 7/22(日) 中京5R 芝2000m メイクデビュー中京 中京の芝2000mは3場で最もメンバーが揃った1戦と言われていたのだが、1000m通過が66秒8という超のつくスローペースが影響したのか、予想されたような競馬にはならなかった。一度は並びかけられながらも、ひとふん張りして勝ったソルトホープの根性は認めるが、次走も確勝級とはとても言えない内容だったし、レースの内容的には2着アドマイヤポラリスのほうが上だったように思う。ただ、そのアドマイヤポラリスにしても印象的というほどの走りではなかったが。 人気を集めたディープインパクト産駒のサターンとプランドラーは不発。前述したようなペースに泣かされた側面はあるにしろ、GI級であるのであれば、もう少し際どいところまでは追い込んでこなくてはならない。猛暑の影響か、それとも実力不足か。評価の難しいレースと言えそうだ。 〈その他の注目レース〉 7/21(土) 中京9R 芝1600m 中京2歳S まずは今年初の2歳オープン戦となった中京2歳Sから。勝ったのは1番人気のアドマイヤマーズで、完全に抜け出した残り100mからは鞍上は追いもしなかったし、馬も耳を絞ってリラックスムードに。1分34秒7の時計は速いが、もっと速い時計を出す力を持っている馬だ。夏場はこれで切り上げ、秋の復帰を目指すとのことだが、その判断は素晴らしいと思う。今年の暑さは異常と思えるほどだからだ。 ダイワメジャーのスピード、メディシアンの早熟性が同馬の本質だろうが、その前にはスタミナ豊富で底力もあるシングスピールがいる。そのレースぶりから距離に限界は見せるだろうが、1600mの朝日杯FSはまるで問題なし。今後の成長次第では、それ以降の活躍も期待できるはずだ。重賞制覇も近い馬だと思う。 7/22(日) 函館10R 芝2000m 松前特別 先週の競馬で最も注目されたのは日曜函館の10R。レイエンダが勝った松前特別ではなかっただろうか。そわそわしていたパドックでの仕草はキャリアの浅い3歳馬のそれだったが、レースぶりは磐石。理想的なポジションを取り、楽に抜け出してきたパフォーマンスは、3歳のトップクラスと比べてもそん色なしと思えるものだった。 次走に予定されているセントライト記念で激突することになるわけだが、楽に通用するだろう。むしろ、楽しみはその先にこそあると私は考える。しかし、ウインドインハーヘアの血統は本当に凄い。「血が騒ぐ」というフレーズを思い起こすレースだった。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【7月14日・7月15日開催】函館記念、2歳新馬ほかレース解説

    〈古馬重賞〉 7/15(日) 函館11R 芝2000m 函館記念 小回りコースの攻略は不利を受けない状況、ロスのない立ち回りをすることが不可欠。今回の1戦もそうだった。勝負の明暗を分けたのは道中の位置取り。つまりは自分から動ける場所にいた馬、そうでない馬との差だ。 勝ったエアアンセムはスタートから位置を取りに動いていたし、2着のサクラアンプルールも枠の利を活かし、エアアンセムの後ろに付けていた。ゆえに直線を向いた段階でスムーズに追い出すことができたわけだ。対照的に1番人気トリコロールブルーは前にいた馬がバテてしまい、直線入り口でギアを上げることができなかった。それが6着に負けた理由。スムーズにさばけていたら違ったと思うが、その危険のある位置にいたこと自体がそもそもの間違いであり、ルメール騎手らしからぬ騎乗ぶりだったと感じた。 4着ブレスジャーニー、5着のスズカデヴィアスは脚を見せたものの、小回りコースで追い込み一手の競馬では勝負にならない。展開待ちの競馬でしかなかったのだから、成果を得られなくても仕方がないだろう。 さて、勝ったエアアンセムだが、次走は札幌記念に向かわないという。函館記念は札幌記念への前哨戦的な意味合いを持っているレースだが、メンバーのレベルが変わってくるし、ハンデ戦から定量へと施行条件も違う。7歳にして重賞制覇を果たした馬。相手や条件を選びながら…の選択も理解できるところだ。 一方、2着で昨年の札幌記念の覇者でもあるサクラアンプルールはトップハンデを背負いながら、まずまずの競馬をして次にメドを立てた。こちらは札幌記念に堂々と向かえるはずだ。楽しみにしたい。 〈新馬戦〉 7/15(日) 函館5R 芝1800m メイクデビュー函館 最も注目すべき馬は函館の芝1800mを勝ったアフランシールだろう。適度に活気がありながら、テンションを上げることなく周回していたパドック段階から「雰囲気のある馬」と感じていたが、そのイメージ通りの競馬をレースでもしてくれた。いいフットワークで走り、追ってからもしっかり。走破時計も速かった。将来性はかなり高そうで、札幌2歳Sあたりを目標にしても結果を出せるだろう。 この馬の祖母であるアジアンミーティアは、名馬アンブライドルズソングの全妹という血統馬。これにサクラバクシンオーを配合したセンスはなかなかのもので、さらに距離の融通性があるハーツクライという掛け合わせのセンスもいい。スピードに偏ったタイプだった姉兄と違い、こちらは距離の融通性がありそうだ。クラシック路線に乗ってくるかもしれない。 7/15(日) 中京5R 芝1600m メイクデビュー中京 中京の芝1600mを勝ったエルモンストロは距離が延びていいはずのルーラーシップ産駒だが、アグネスタキオン×デピュティミニスターという母系が影響しているのか、1600mでもハナを切って押し切るスピードを持っていた。最後まで余裕のあった今回の内容、平均的にラップを刻めそうキャラクターから、距離延長にも対応できるだろうし、本質的なスピードを持っているので、上のクラスでもやれるだろう。パドックでの馬体の印象も含め、素直にいい馬だと思う。 7/15(日) 福島5R 芝1800m メイクデビュー福島 福島の芝1800mを勝ったカイザースクルーンは上記の2頭に比べると少し迫力不足だったが、スローペースにも折り合いがつき、前で粘り込む競馬はできた。いかにも福島らしい勝ち方ではあったが、それなりのスピードは見せたので、相手次第では上でもチャンスもあるだろう。 7/14(土) 福島5R 芝1200m メイクデビュー福島 福島からはもう1鞍。芝1200mをヨークテソーロという馬が勝ったのだが、覚えておいてほしいのは勝ち馬でなく、その父であるキングマンのほう。 キングマンはインヴィンシブルスピリットの産駒で、豊富なスピードを持っていた馬。その産駒は外国産馬となるだけに見る機会は少ないかもしれないが、相当な活躍をする種牡馬になると私は予測している。 オーナーの了徳寺さんはこのような馬を先取りすることが上手な方で、この馬の勝利を見たときに「さすがだな」と感服した。ダンシリの肌なので、多少の距離延長には対応するかもしれないが、本質は短距離だろう。 ちなみにオーストラリアで人気種牡馬になっているアイアムインヴィンシブルもインヴィンシブルスピリットの産駒。この血統が持っている豊かなスピードを証明する存在となっている。今後は日本で走る馬の血統表にも、インヴィンシブルスピリットの名を見る機会が増えてくるだろう。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【7月7日・8日開催】プロキオンS、七夕賞ほかレース解説

    〈古馬重賞〉 7/8(日) 中京11R ダ1400m プロキオンS 2着のインカンテーションに4馬身の差をつける楽勝で、重賞制覇を果たしたマテラスカイの前途は非常に明るいと言えるだろう。 日本レコードだった勝ち時計は、馬場のサポートがあってのものかもしれない。しかし、ダートの短距離で圧勝できる馬の強さは、それ以外のカテゴリーでの圧勝とは別物と私は考えており、好メンバーが揃っていた今回の出走馬の中にあっても、マテラスカイが抜けた能力を持っていたことを明確にした。それは、すなわちダートのスプリント路線において、太刀打ちできない馬がいないという意味でもあると思う。 大レースで勝ち負けをするような馬が久しく出ていなかった森厩舎。しかし、大レースを勝つためのノウハウは十分過ぎるほどに持っており、柔軟な発想で様々な選択肢を考える調教師でもあることから、今後はこちらがアッと思うような手を打ってくるかもしれない。 当面の目標はJBCスプリントのようだが、今回の強さを考えれば、このレースは問題なく通過するだろう。期待したいのはその後だ。 私はメイショウボーラーでフェブラリーSを勝っているが、スピードのみでマイルの距離を押し切ったボーラーと、この馬はタイプがよく似ている。東京のマイル戦はスピードのみでは押し切れないコースと私は何度も述べてきた。しかし、傑出したスピードを持った馬は話が別。圧倒的なスピードを持つマテラスカイが、東京の1600mでどのような競馬をするのか──。 すでに興味は来年へと飛んでしまったが、私はフェブラリーSでも勝ち負けになると睨んでいる。 7/8(日) 福島11R 芝2000m 七夕賞 仮に私が前途有望な馬を管理していた場合、ただでさえ調整の難しい夏場に、ローカルコースで行われるハンデ重賞を使うことはない。出走させたとしても気候のいい北海道のレースになるだろう。能力通りの結果を得られるかどうかが微妙な条件。賞金の加算がどうしても必要な場合を除けば、積極的に走らせる気持ちは起こらない。 ブービー人気の馬が勝ち、最低人気の馬が3着。今年の七夕賞は大波乱の結末になったわけだが、出走させる陣営も心のどこかで紛れることを想定していたはず。ゆえに今回のような結末になっても驚くことはなく、前崩れの展開に乗じた上位の馬たちが、次走以降も同じように走るかと聞かれれば、私は首を傾げることになる。 だが、その一方で「適材適所」という言葉があることを、読者の方々には知っておいてもらいたい。 すべての馬が大レースを勝てるわけではなく、競走成績をそれなりに積み重ねてくれば、その馬の「格」と言うか、稼ぐべき場所を陣営も理解してくるもの。能力が少し足りないと思うのであれば、それをカバーできる条件のレースに管理馬を出走させる。その見極めも調教師の大事な仕事であり、評価されるべき項目の一つであると私は思う。 ローカルのハンデ重賞にも存在する意義はあるのだ。 〈新馬戦〉 7/8(日) 中京5R 芝2000m メイクデビュー中京 クラシックに直結しやすいという意味で、今年はマイルから中距離以上の距離で行われる新馬戦に注目しているが、今年のダービー馬ワグネリアンを輩出した中京の芝2000mは、多くの血統馬が揃うと戦前から耳にしていた。まずはこの1戦から振り返って見たい。 勝ったカテドラルは好位で運び、重たい馬場を苦にするところなく抜け出して、2着のトーセンカンビーナに2馬身半の差をつけた。福永騎手は「いいところまで行く馬」と述べたそうだが、私も同意見だ。 前に行けるスピードは母父のロックオブジブラルタルのおかげだろうが、この馬ばかりが強く出てしまうと逆に不安材料になる。しかし、この馬はアレッジドを母系に持ち、父もハーツクライと距離への対応力を意識した配合となっているところがポイント。歩幅を伸ばし、ゆったりと歩いていたパドックでの仕草から、ロックオブジブラルタルが前面に出ている印象は持たなかった。 2番人気で4着だったダノンチェイサーは同じ母父ロックオブジブラルタルでもディープインパクト産駒で、カテドラルよりも前向きな気性の持ち主であることをパドックで表現していた。そのレース内容も距離の壁を少し感じさせるもの。同じ母父であっても、配合によってタイプが変わってくることの好例であったと思う。 7/8(日) 福島5R 芝1800m メイクデビュー福島 福島の芝1800mはヴィクトワールピサ産駒のクリスタルバローズが勝った。 好景気に沸いたセレクトセールから戻ってきたばかりの私にとって、600万円台のサマーセール出身馬が新馬勝ちを果たしたことは小さくない喜びではあるのだが、いかにも福島のレースらしい内容に、そこまでのスケールを感じなかったのも確かだ。この馬なら前述した中京の新馬戦で2着だったトーセンカンビーナ、3着のブラヴァスのほうが将来性は高いだろう。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【6月30日・7月1日開催】ラジオNIKKEI賞、CBC賞ほかレース解説

    〈3歳重賞〉 7/1(日) 福島11R 芝1800m ラジオNIKKEI賞 秋の大レース出走を考えたとき、まだまだ賞金加算が必要なこの時期に、世代限定のハンデ戦を行う必要性があるのか? その疑問を常に考えてしまうレースだが、幸いなことに今年はトップハンデを背負ったメイショウテッコンが結果を出し、秋への期待を繋げた。JRAのハンデキャッパーも胸を撫で下ろしたのではないだろうか。 しかし、秋の大一番──すなわち、菊花賞を見据えてという意味において、メイショウテッコンはいくつかの課題をクリアしなくてはならないだろう。 普段はのんびりとしている気性と聞いたが、パドックの段階から少しチャカつくような仕草を見せていたことは事実で、それは3000mの距離を克服するうえでプラスと考えることはできないし、実際に最初のコーナーから向正面の途中までは騎手も折り合いに苦労しているように見えた。少し前向き過ぎるきらいがあるのだ。 逃げて結果を残してきた過去のレーススタイルを考えれば、あの位置で収まったことを成長と捉えていいかもしれない。だが、彼が目指すのは中距離のレースではなく、3000mの長距離戦。コーナーを6つも回り、大観衆のいるスタンド前を通過するレースだ。もう少し気持ちをコントロールできるようにならなければ、能力を出し切ることのできない競馬になってしまうだろう。 直線の伸びが目立った2着のフィエールマンは、勝ったメイショウテッコン以上のインパクトを残したレース。確かに持っている能力はかなり高そうだ。だが、パドックで周回する同馬の姿を見て、決定的な欠陥を抱えているように私には見えた。 あくまで現時点では…と注釈付きの話で進めていくが、この馬は左右の踏み込みのバランスが非常に悪い。「ぎこちない」との表現が適切だろうか。左右均等に踏み込めず、またその力も弱いため、馬体の後ろの部分が頼りなく見えてしまうのだ。 この手の馬はスタートでの踏ん張りが利かず、どうしても後手を踏んでしまうことになる。前半で位置を取ることができないのだから、常に難しい競馬を強いられてしまう。仮に持っている能力がGIレベルであったとしても、最初からハンデを背負うような馬では、大きいレースを勝てない──これは私が何度も口にしてきたフレーズで、私自身の経験に基づいている言葉でもある。結果を残すためには、この部分の修正が急務だ。 同馬は幸いにも2着分の賞金を加算したことで、修整するための時間を設けることができた。気性の面ではなく、肉体的な部分が理由になっての出遅れ癖なので、余計に始末が悪い気もするが、この課題をクリアしなければ、折角の素質を開花させることなく終わってしまうだろう。この数ヶ月が勝負だと思う。 〈古馬重賞〉 7/1(日) 中京11R 芝1200m CBC賞 こちらもハンデ戦ではあったが、夏競馬らしいメンバー構成でGIうんぬんのレース内容でもなかった。1分7秒0の時計は速いが、これは馬場の恩恵を受けたもの。逆にこの数字を起点にして考えれば、前半の600m通過が32秒7のハイペースではあっても、差しが届く位置とそうでない位置があったことがわかる。明暗を分けたのは枠順を含めたレース運びだ。 勝ったアレスバローズの位置は差し切るのにちょうどいいポジションで、勝つときはすべてが上手くいくもの、と考えられるレースをした。次走も確勝級というわけではないだろうし、今回の勝利でどれだけ勢いが付くのか──そんな程度と思う。 惜しかったのは大外枠からのスタートになったアサクサゲンキだ。スタートでの出遅れ、4コーナーは馬群の大外を回る距離のロス。相当に厳しい競馬だったと思うし、直線を向いた段階では勝ち負けどころか、掲示板を確保することすらも危うい状況だった。にもかかわらず、上がり3ハロン32秒9をマークして追い込んで4着。今回の出走馬では際立つ走りを見せたでのではないだろうか。 〈新馬戦〉 6/30(土) 中京5R 芝1600m メイクデビュー中京 最も注目されたのは土曜日の中京芝1600mだろう。スローの瞬発力は向かないであろうダイワメジャー産駒のアドマイヤマーズが、2着のケイデンスコールに一度は並びかけられながら、そこから再加速して突き放して勝利した。翌日に行われた牝馬限定の芝1600mよりも勝ち時計は遅いが、これが1000mの通過で3秒以上の差があったからで、馬格がなく、仕上がり早のタイプばかりが上位を占めた牝馬限定戦よりも、こちらのほう出走馬のレベルは明らかに高かった。 しかし、私が個人的に注目したのは勝ち馬ではなく、2着のケイデンスコールのほう。アドマイヤマーズはダイワメジャーにメディシアンという配合の馬で、その先にシングスピールはいるものの、距離の適性はマイルから中距離くらいまでだろう。ダイワメジャー産駒らしい位置を取ってなだれ込む競馬のスタイルになることが今後も予想される。 一方、ケイデンスコールは父こそスピードタイプのロードカナロアだが、母のインダクティはフェイムゲームの全姉という血統の馬で、母系は2400mでもまだ足りないほどのステイヤー血統。この部分に私は魅力を感じる。 同じロードカナロア産駒のアーモンドアイがオークスを制しているように、母系次第で距離を克服できる馬がロードカナロアからも出ることは、すでに証明されている。しかも、フェイムゲームの血統はサッカーボーイを輩出したダイナサッシュへとたどり着く日本の競馬に根付いた奥の深い血筋で、この馬の血統表にいるベルベットサッシュはサッカーボーイの全妹でもあった。 ロードカナロアとの配合により、再び大舞台での活躍を期待できる血統構成になったのでれば、大一番に必要な底力が発揮されるときがくるかもしれない。 7/1(日) 福島5R 芝1800m メイクデビュー福島 ただし、今週のすべての新馬戦の中で最も味のある競馬をしたのは、福島の芝1800mを勝ったミッキーブラックだ。 後方からの差し切り勝ちという福島の新馬戦らしくない競馬内容もさることながら、この馬はパドックでの雰囲気が抜群に良かった。同じブラックタイド産駒のキタサンブラックもそうだったが、このような雰囲気のある歩き方ができる馬というのは、総じて大成していくものだ。 そのレース内容はブラックタイドの全弟であるディープインパクト産駒らしいものでもあり、キタサンブラックよりもレースに行っての融通性があるかもしれない。母はアルゼンチンGIの勝ち馬と血統のバックボーンも十分。クラシックディスタンスで活躍していくことになると思う。 余談だが、ブラックタイド産駒にしては高値で取り引きされた馬と思っていたら、案の定というべきだろうか。ノーザンファームの生産馬だった。ノーザンファームの生産馬と言えば、ディープインパクト産駒をイメージしてしまいがちだが、先にあげたアーモンドアイを筆頭にロードカナロアでもキングカメハメハでも走る馬は走る。それはすなわち他の牧場とは繁殖牝馬の質が大きく違うということだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【6月23日・24日開催】宝塚記念、2歳新馬のレース解説

    〈古馬重賞〉 6/24(日) 阪神11R 芝2200m 宝塚記念 今年の宝塚記念はメンバーが少し小粒な印象が拭えなかった。時期的な問題もあるだろうが、GIを勝ってきた馬の体調がなかなか上向いてこなかったことも理由の一つにあげられるだろう。ファン投票1位のサトノダイヤモンド、昨年の覇者であるサトノクラウン、昨年の菊花賞を勝ったキセキの3頭は現在のJRAを引っ張っていかなくてはならない存在のはずだが、彼らがトップフォームを取り戻せていない。それが波乱を生んだ原因ではないだろうか。 では、順を追って検証していきたい。まずは勝ったミッキーロケット。内枠からスタートを決め、距離ロスのないコース取りをしたことが大きな勝因の一つだろう。ラチを頼る面のある馬ということで、騎乗した和田騎手も内ラチ沿いから離れるつもりはなかったのだと思う。この馬のしぶとさを活かした好騎乗だったが、勝つときはすべてを味方につけるもの。今回のレースはこの馬が勝つタイミングだったのだと思う。 これはレース後に聞いた話だが、以前のミッキーロケットはスタートが悪く、後手に回ってしまうシーンも少なかった。それが昨年にゲート練習を熱心にしたことで解消。スタートの不安なくレースを迎えられていたことが大きかったのだとか。 私もダンスパートナーをゲートに縛り付けた経験があるが、それはどれほどの能力を持っている馬であっても、出遅れが前提にあるような馬ではGIを勝てないと考えたからで、実際に出遅れた桜花賞では負け、スタートの不安を解消していたオークスは完勝した。当時よりも競馬がシビアになり、ポジショニングが結果につながるようになった現在競馬においては、なおのことだと私は思う。 約1年が経過して出た成果。確かに目には見えにくい。しかし、陣営がしっかりと手を打っていたことが今回の勝利に繋がったと私は思う。スタートの不安を解消していたからこそ、体調のみに気を配った調整ができるわけで、実際にミッキーロケットのパドック気配はすこぶる良かった。不安材料をしっかりと取り除いておくことの重要さを、改めて教えてくれた勝利だったと思う。 2着は香港から遠征してきたワーザー。27キロの馬体減にはさすがに驚いたし、ベストな状態ではなかったかもしれないが、どうにもならないくらい細いとは思わなかった。それよりも海外遠征で慣れない環境での調整、競馬だったにもかかわらず、非常に落ち着いた雰囲気に好感が持てた。筋肉も落ちていないので、力は出せるだろう──これがレース前の私の評価。その見立てにほぼ間違いはなかったのではないだろうか。 香港の年度代表馬となった力を示した1戦ではあったが、ワーザー自身の競走馬としてのピークは過ぎていた可能性もある。だからこそ、彼が結果を残した意味を考えてみた。日本馬との力の比較は当然すべきこと。それに私は「どの馬にとっても厳しいはずの夏の遠征が、香港の馬にとって大きな負担とならない」という要綱も加えたい、と考えている。 本州から北海道へと馬を持って行くと、気候の良さで体調の上がる馬がいる。もちろん、その逆もある。このようなケースはよく知られていることだし、競馬ファンの方なら聞いたことのある話だと思う。それを香港から日本という視点に置き換えてほしいのだ。 日本と香港なら、赤道により近い香港のほうが間違いなく暑い。一方で、日本の馬はそろそろ熱中症や夏バテを心配する時期。香港の馬のほうが暑さに対する耐性があり、この時期の日本の競馬に向いているとするならば、来年以降の宝塚記念にも積極的な遠征を行ってくる可能性があるのではないだろうか。日本のトップホースはこの時期に無理をしない──。そんな刷り込みまでして帰国するようなら、その確率もずっと高くなる。来年の宝塚記念まで覚えておきたい項目だ。 これから先は人気馬について。3番人気ヴィブロスはしっかりとした仕上がりで気配はすこぶる良く見えたが、残念ながらレースで行きたがってしまった。それが最後のひと伸びを欠いた理由だろう。それでも4着は確保。小柄な牝馬が56キロを背負って精一杯頑張っている。秋に期待だ。 1番人気のサトノダイヤモンドは6着。いい雰囲気ではあったが、一方で落ち着き過ぎてもいた。もう少し気合いを前に出すくらいのほうがいいかもしれない。それでも、勝負どころでレースを動かすようなシーンはあったわけで、この馬の能力からすれば物足りなく見える結果であっても、先に期待を残す競馬ではあったと思う。 2番人気キセキは見せ場のほとんどない8着。パドックの雰囲気は悪くないと思ったが、勝負どころでほとんど上がっていけなかった。どこかに問題があるのかもしれない。 4番人気のパフォーマプロミスは上がり馬で私も期待していた1頭だったのだが、返し馬が良くなかった。ゴツゴツして脚が前へと出ていなかったのだ。これでは走れなくても仕方がない。能力ではなく、体調の問題と思う。 連覇を狙ったサトノクラウンは12着。調教の動き、パドックでの気配ともに本来のものではなかった。立て直せるかどうかだが、最近の冴えない成績も体調によるものが大きいと考えられる。難しいかもしれない。 〈新馬戦〉 6/24(日) 阪神5R 芝1800m メイクデビュー阪神 1800mと1600mはわずかに200mしか違いがなく、東京や阪神のそれは違いもほとんどない。ただし、新馬戦に関して言えば、前者に出走させる馬の陣営はすでにクラシックディスタンスで戦うことを見据え、後者はマイラーとして大成させることも考えている。出走させる側の気持ちが違うわけだ。 先週は東西で芝1800mが行われ、そのどちらもヴィクトワールピサの仔が勝った。パワフルだが、折り合いが付くところは父譲り。2番手から抜け出したレース内容まで同じだったが、どちらがいいフットワークで走っていたかと言えば、阪神で勝ったブレイキングドーンのほうだろう。 好位に付け、上がり3Fは出走馬最速。このような馬は自分の力をしっかりと出してくれるので信頼しやすい。人気はなかったが、このメンバーで走れば、次も勝つだろう。すなわち、順当勝ちだったと私は思う。 しかし、重賞…さらにはGIで主役を張るほどのレベルだったとまでは思わない。この開催は東西ともに素質馬が揃うことで知られるが、私が考える特Aランクはシーザリオの仔であるサートゥルナーリア。これに続くのが東京の開幕週で勝ち上がったグランアレグリアと阪神で勝ったジャスタウェイ産駒のアウィルアウェイ。彼らは重賞でも好勝負する馬になると思う。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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