先週の2~3歳戦や重賞レースを“調教師の視点”から解説!

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    【1月12日・13日・14日開催】日経新春杯、京成杯ほかレース解説

    〈古馬重賞〉 1/13(日) 京都11R 芝2400m 日経新春杯 私は戦前からグローリーヴェイズに注目していた。それは休み明けの菊花賞で5着に入っていた同馬が、強い4歳世代の中でも上位にランクされる馬との認識を持っていたからだ。 だが、この開催の京都の芝は予想よりもはるかに時計を要し、また1000mの通過が58秒3と緩みのない展開も想定外だった。本来、これほどまでにタフな決着はディープインパクト産駒の得意とするところではなく、スタミナに優るタイプに屈しても不思議のない状況。実際に2着ルックトゥワイス、3着シュペルミエールはこのような展開を好むステイゴールド産駒。前者の母父はアルザオで後者のそれはクロフネ。これだけを見てもタフな馬場への適性が要求される競馬であったと思うのだ。 4コーナーを楽な手応えで回り、そのまま突き抜けたグローリーヴェイズは、ディープインパクトの産駒でもスタミナの因子を持っている馬なのかもしれないと感じた。同馬の母父はエンドスウィープ産駒のスウェプトオーヴァーボード。本質は短距離だが、ジャパンCを勝ったアドマイヤムーンがそうであったように、エンドスウィープの系統は距離をこなす馬がたまに出る。この馬もそうなのだろうか? いや、もしかしたら3代前にいるメジロライアン、メジロラモーヌの存在が利いているのかもしれない。スピードよりもスタミナを重視したメジロ牧場は時代の流れに逆流する形で歴史を閉じてしまったが、あれだけの実績を残した牧場。そこに眠っている血は奥深いものがある。この血統にエンドスウィープの血を加え、さらにディープインパクトを重ねた流れが良かったのだとすれば──。同じ京都コースで行われる天皇賞(春)でも好勝負ができるのではないだろうか。 〈3歳重賞〉 1/14(月) 中山11R 芝2000m 京成杯 12頭立てで半数以上が1勝馬。しかし、私はこの1戦に注目していた。可能性を感じさせる血統馬が少なくなかったからだ。 勝ったラストドラフト。彼女は桜花賞馬マルセリーナの仔で父はノヴェリストという血統を持つ馬。なかなか結果を出せなかったノヴェリストだが、私はスタッド入りの際に同馬を実際に見ており、そのときから「走る仔を出して不思議のない馬体をしている」と感じていた。 モンズーンの産駒にしてはスピードがありそうで、馬体の作りもいい。ディープインパクトに代表されるサンデーサイレンス系繁殖牝馬との配合を考えて導入されたわけだが、その大役を果たせそうな雰囲気があったのだ。 マルセリーナはディープインパクト産駒の桜花賞馬なので、ノヴェリストが配合できる最高ランクの馬だろう。このような繁殖の仔から活躍馬が出たことは大きく、それはノヴェリストに対する印象を変える可能性まである。欲を言えば、もう少し馬格のある馬であれば最高だった。クラシック路線での活躍を考えた場合、サイズがある馬のほうが使い詰めも利くし、タフな状況にも耐えられる。なにより攻めの調教をすることもできるからだ。 とはいえ、今回の競馬の内容は文句のないものだ。血統馬らしいセンスと切れを感じた。今後の成長次第では3歳牡馬路線の注目馬になれると思う。 しかし、私が最も注目していたのは2着ランフォザローゼスのほうだ。前走のパフォーマンスが良かったこともあるが、なによりも血統がいい。父はキングカメハメハで母父ディープインパクト、祖母にはエアグルーヴ。日本の競馬で結果を出している間違いのない血統で、上のクラスに行けば行くほど、底力を発揮してくれるはずだ。 1/12(土) 中山11R 芝1600m フェアリーS 中山のマイル戦は枠番の影響が大きい。今回の勝ち馬フィリアプーラは後方から差してきた格好だが、最内枠から素晴らしいスタートを決め、そのアドバンテージを活かしながら、徐々にポジションを下げていった。この部分で他の馬よりもずいぶんと楽をしているわけだ。 確かに直線ではいい脚を使った。しかし、内で脚をためてから外に出す競馬ができたのは枠の恩恵。この馬自身の上がり3ハロンが突出したものでなかったことを考えても、勝つべくして勝ったという印象までは持てない。小柄で薄い馬体に将来性を感じなかったからだろうか。レースのレベルそのものが500万下程度にも思えた。人気を集めていたであろう1勝馬が抽選で除外されたとのことだが、なるほどメンバーに恵まれた部分も大きかったのかもしれない。 2着ホウオウカトリーヌはスプリント戦で結果を残してきた馬。距離が長いと思われている状況での好走は、スローペースで折り合いを付けることに成功したからだろうが、この馬も馬群の中で脚をためることができたクチ。4枠8番を上手に活かしたことが大きかった。桜花賞路線で勝負できるレベルではないだろう。 3着のグレイスアンは外枠スタートであったことを考えれば、なかなかの好走と言える。早めにポジションを取り、できるだけ距離ロスの少ない走りを心がけていたようにも見えた。好騎乗だろう。対照的に1番人気のアクアミラビリスは馬群の外を回す形で折り合いを欠いてしまった。中山のマイル戦でこの形になると厳しい。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』

  • 2019年 レース

    【1月5日・6日開催】中山金杯、京都金杯ほかレース解説

    〈古馬重賞〉 1/5(土) 中山11R 芝2000m 中山金杯 ハンデ戦らしいゴール前になったが、半馬身差で抜けたウインブライトは58キロの斤量を背負っての勝利。素直に賞賛すべきだろう。ただし、中山のような小回りと東京のような大箱コースでは、パフォーマンスがまるで違ってしまう馬であり、走るべき舞台を選択していくことが重要であるようにも思う。中山に古馬の中距離GIはなく、目指すべきはコース形態の似た大阪杯あたりになるのではないか。強敵を相手にしたときに、どれほどのパフォーマンスを見せられるかだろう。 ちなみにウインブライトの母系は古く、ミスブゼンというニュージーランド産の牝馬を祖にしている。当時は世界各地から軽種馬の導入に力を注がれており、ヨーロッパだけでなく、南半球産からも馬を連れてきていた。私が所属していた上田武司厩舎にも繋がるラインだ。この馬の三代前にいるミスゲランが生まれたのは1981年。この血統が未だにメインストリームで活躍できることに驚きを隠せない。優秀な血であったのだな、と改めて思った次第だ。 ちなみに2着、3着は4歳馬だった。世代のトップクラスと呼べる馬でなくても、重賞で結果を出してしまう4歳世代の活躍は目覚しいものがある。なぜ、そのような状況になるのかはわからないが、ビンテージイヤーと呼ばれる世代が登場したとき、その流れに逆らうのは愚かな発想だ。2019年、これまでの勢力図が一気に変わる1年になるかもしれない。 1/5(土) 京都11R 芝1600m 京都金杯 予想よりも遅い勝ち時計は芝の状態の影響によるものだろう。個人的にはそれがパクスアメリカーナの勝因になったと考えている。 そのような考えに至った理由は血統にある。私が管理したドリームセーリングはパクスアメリカーナの全兄。GI戦線で活躍したホエールキャプチャも彼の全姉だった。成功しているがために、この血統はクロフネを種付けし続けているのだろうし、それで活躍馬を出しているのだから、何の問題もないのだが、これがGIのような舞台で活躍できるかどうかとなるとまた別の問題。クロフネの産駒はスピードの持続力に優れているが、総じてワンペースであり、ゆえに活躍の場所はダートに限られていく。芝なら潜在スピードだけで押せる短距離。中距離以上のGIでは瞬発力負けしてしまうわけだ。 それは能力うんぬんではなく、単純な適性の問題。今年の京都金杯はどういうわけか、決め手をまるで必要としない馬場となった。パクスアメリカーナ向きの条件だったのだ。このことを頭に入れて、今後の同馬の推移を見守りたい。クロフネの血の呪縛からは、簡単に逃れられない気もするのだが…。 〈3歳重賞〉 1/6(日) 京都11R 芝1600m シンザン記念 (ヴァルディゼール)1戦1勝という立場で重賞を制したことは評価したいが、1分35秒7の遅い勝ち時計と馬体を見ると「将来有望」のフレーズを使うことはためらわれる。440キロの体は牝馬のようでもあり、これからの上昇を期待しにくい体型でもあった。この体のどこに肉が付いていくのか? そのイメージがしにくい。シャープになり過ぎているような気がしたのだ。 内をスムーズに回れた勝ち馬とは対照的だった2着のマイネルフラップ。この馬のほうが面白そうだ。前半は進んで行かず、4コーナーは大外の距離ロスが多い競馬。結果的にクビ差負けしたが、直線では突き抜けそうな雰囲気があった。パドックでの周回に少し気難しい印象を持ったのは確かでも、この部分に進境が見られるようなら、化ける可能性があると思う。 ちなみに馬場の差はあると思うが、中山で行われた同じ3歳馬の1戦・オープン特別のジュニアCの勝ち時計は1分33秒8。2秒近くも速い数字をマークしている。これがシンザン記念のレベルを端的に現しているかもしれない。 ジュニアカップを勝ったヴァッシュモンは楽勝しそうな走りをしながら、結果はクビ差。本質的にマイルは少し長そうで、母父のオーソライズドが存在感を示せなければ、スプリンターに近い馬となっていくだろう。10キロ増でも馬体に太めはなく、1月20日生まれということもあってか、すでに馬は完成している。早期勝負のタイプかもしれない。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』

  • 2018年レース

    【12月28日開催】ホープフルSのレース解説

    〈2歳GI〉 12/28(金) 中山11R 芝2000m ホープフルS 道中のペースがかなり遅く、時計的な側面からはレースのレベルを語りにくい1戦となったが、勝ったサートゥルナーリアがGIというタイトルにふさわしい馬であることは明白であり、おそらくは来年の主役になっていくであろうことも容易に想像できるパフォーマンスだったと思う。 すでにレースから2週間近くも経過。すでに多方面で検証済みのレースの流れなどに関しての話は省かせてもらいたい。その代わりといってはなんだが、ロードカナロアの産駒がこれほどまでに切れる脚を使える理由。それを私なりに分析してみたので、今回はその話をしたいと思う。 ロードカナロアもそれなりにいい脚を使うタイプではあった。しかし、娘のアーモンドアイが使うような一瞬の速い脚を持っていた馬ではなく、それとは別の長く持続するタイプの末脚を使う馬であったと私は考えている。カミソリとナタという表現の仕方があるが、ロードカナロアだけでなく、父のキングカメハメハも後者に属するタイプ。ほとんどのキングカメハメハ産駒も同様で、それはキングカメハメハの影響がそこまで強くないことを意味していると言い換えることができると思う。 アーモンドアイの母は私の管理馬だったフサイチパンドラだ。彼女はサンデーサイレンス産駒だが、スピードの持続力に秀でたタイプであり、アーモンドアイが使うような末脚とは無縁の馬でもあった。ゆえにフサイチパンドラに似ているわけでもなく、サンデーサイレンスの隔世遺伝が強く出ているのではないか? 当初はそのように考えた。しかし、産駒よりもロードカナロアの産駒のほうが一瞬のスピードに秀でているような気もする。そして、この感覚こそが今回の重要なポイントだ。 サンデーサイレンスの影響は強いだろう。しかし、それを増幅する存在がどこかにいるはず──と考えたところで、私は1頭の種牡馬に注目した。それがロードカナロアの母父であるストームキャット。この馬の血を持つ馬は一瞬のスピードに優れている。メイショウボーラーはそのスピードをレースの序盤に使う馬だったが、ロードカナロア×サンデーサイレンスの配合を持つ馬は末脚の切れとして使うことができる。この発想を持ったことで、すべてのことに答えが出た気がした。 ディープインパクトとストームキャットがニックスの関係にあることは周知の事実。それはディープインパクトのみならず、サンデーサイレンス系全般に言えることと私は考えている。アーモンドアイの母父はサンデーサイレンスそのものであり、今回のサートゥルナーリアの母父はスペシャルウィーク。サンデーサイレンス系とかみ合わせることによって、ストームキャットのスピードにしなやかさが加わり、お互いの長所をさらに高めることになるのだが、ここでポイントとすべきはストームキャットが血統表の3代前にいることだ。 ともに気性の激しいサンデーサイレンスとストームキャットの掛け合わせは危険が伴う。しかし、3代前というポジションがストームキャットの気性難を薄めさせ、自身の武器である一瞬のスピード、加速力だけを伝達してくるのであれば──。馬群が開いた瞬間に突き抜けたサートゥルナーリアのパフォーマンスにも、納得のいく説明をすることができるだろう。 自分を強く出してくるはずのストームキャットが一歩引いた状態で、一瞬のスピードだけを上手に伝達しているのだとしたら、ロードカナロアとサンデーサイレンス系の配合はアーモンドアイ、サートゥルナーリアに続くような大物を今後も輩出してくる可能性が高く、この配合パターンは今後のセレクトセールなどで、最も注目されるものとなるだろう。いやはや、とんでもない種牡馬が出てきたものだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』

  • 2016年新馬戦

    【12月22日・23日開催】有馬記念、阪神Cのレース解説

    〈古馬GI〉 12/23(日) 中山11R 芝2500m 有馬記念 結果的に見応えのあるいいレースではあった。ただし、2着レイデオロから5着のキセキはすべて不利と言われる2桁枠番。どの馬も仮に内枠であったのなら…と感じさせるレース内容で、改めて有馬記念は枠番の影響が大きいコースという感想を持ったのも事実だ。 能力の高い馬であれば、勝負するべき場所は有馬記念でなくジャパンC。 それは自分が調教師をしていた時代から感じていたものであり、今年で言えば、有馬記念ではなく、ジャパンCに参戦したアーモンドアイの選択は正しかったと言えるだろう。逆にレイデオロのそれは微妙だったと言うべきなのかもしれない。 勝ったブラストワンピースは好枠と言える4枠8番からのスタートだった。 最初のコーナーへの入り方を見れば、自身より外で競馬をした馬たちよりもアドバンテージが大きかったことがわかるはず。スタンド前では外へと出していたが、その位置を取るまでが実にスムーズ。有馬記念ではそれが重要だ。 スタートひと息だったことで、仕掛けて動くことになったキセキの距離ロス、それに付随するスタミナのロスは誰の目にも明らか。だが、キセキのように顕著な馬でなくとも──例えば、勝ち馬よりも1列後ろから競馬を進めることになったレイデオロ。そんな位置取りの彼でさえもブラストワンピースより負担のある立ち回りになってしまったと私は思う。 しかし、そのような状況を考慮しても、クラシックを勝っていない3歳馬の勝利は注目に値するものがある。つまりは今年の3歳馬のレベルの高さを認めなくてはならないということだ。 ブラストワンピースは強い馬ではあるし、世代を代表する可能性も持っている馬だろう。しかし、三冠を制したナリタブライアン、オルフェーヴルのような抜けた存在でもなければ、菊花賞を勝って挑んだマヤノトップガンのような上がり馬でなかったのも事実だ。春の段階から注目され続け、それでいてダービーと菊花賞では負けていた馬が、有馬記念というビッグタイトルを獲った──。この事実から目を背けてはいけない。 2着のレイデオロを筆頭とした古馬勢の多くは来年も現役続行のようだ。しかし、ブラストワンピースのほかにもエポカドーロ、ワグネリアン、フィエールマンなどのクラシックホース、それと好勝負していた馬たちが、明け4歳を迎えて成長するようなら、世代交代が一気に進むかもしれない。いや、一気に進むだろう。この有馬記念で潮目が変わった気がする。 ブラストワンピースは父がハービンジャー。少し緩かった馬場が向いた可能性は否定できないだろう。しかし、530キロ台もある大型馬で、本質的には器用さの求められる小回りよりも広いコースの方が向くタイプ。発達した上半身と比べ、トモの部分に物足りなさを残す馬体面から考えても早熟タイプではなく、むしろ今後の伸びしろを残している馬と私は考えている。 ハイレベル世代の頂点に立てる可能性を持つ馬であると思うし、それは現役最強馬を目指せる1頭ということでもある。牝馬のアーモンドアイを含めた3歳世代の来年はどうなるのか? 大いに楽しみだ。 2着のレイデオロは考えられる最高の競馬をしたと思う。パドックでの周回ではいつになく落ち着いてもいた。少し頭は高かったが、踏み込みは実にしっかりとしていた。力は出せたと考えていいし、来年も主役級の活躍をするだろう。 3着のシュヴァルグランは8枠15番ということで、評価を大きく下げてしまった。実際、シュヴァルグランの位置取りを考えれば、枠の影響は相当に大きかったと考えるが、それでも距離ロスを最小限に抑えながら直線まで運んできたボウマン騎手の手腕、なによりもジャパンCからもう一段階上げてきたかのような、状態面の良さが3着という結果に繋がったと思う。これ以上の成長は年齢的に難しいだろうが、来年もトップクラスで走ることができそうだ。 4着ミッキーロケットは上記の2頭とは逆で、スタートから出していく積極的な競馬をした。2番手の位置を取りきるまでに脚も使っただろうが、それでいて最後まで粘りを見せる走り。宝塚記念を勝った馬の実力を見た気がする。シュヴァルグランは9番人気で、この馬は8番人気。ファンも枠を気にしているレースだったことが人気を見てもわかる。やはり有馬記念は難しいレースだ。 5着のキセキはスタートとその後に使った脚、外枠だったがための距離ロスが最後の最後で響いた。最初のコーナーを回るときの彼のコース取りが厳しい競馬であったことを示していると思う。秋4走目ということで「目に見えない疲れ」を理由にする声も出るだろう。しかし、それは違う。少なくとも、パドックで見せた彼の姿は疲れなど感じさせないものであったし、なによりも「目に見えない疲れ」が本当にあったのなら、あの競馬をして5着には粘れない。あの状態に持ってきた陣営の努力を賞賛すべきであり、なによりもそれに応えた同馬の走りにも拍手を送りたい。彼こそが枠に泣いた馬と言えるかもしれない。 〈古馬重賞〉 12/22(土) 阪神11R 芝1400m 阪神C このレースの1着賞金は6700万円。非常に高額だが、昔はそれに見合う高騰感があった。スプリンターとマイラーの狭間の距離で、両部門のチャンピオンが激突する──そんなJRAの思惑に順ずる馬が出走していたのだが、香港国際競走の隆盛とともに、阪神カップの地位も下落。スーパーGIIと呼ばれた1戦も過去のものとなった気がする。 番組時期の変更が必要なのか、それとも別の改革をすべきなのか。いずれにしろ、現行のままでは同競走の価値を保てないと思う。 今年の勝ち馬ダイアナヘイローはすでに実績を残している馬で、スムーズに運べるレースをすれば、このような結果を出しても不思議はなかった。しかし、阪神Cという1戦がGIに順ずるレースであるということを考えれば、5歳牝馬の勝利がもたらすものはほとんどない。 仮に2着だったミスターメロディが勝っていれば、来年の展望を口にすることができたかもしれない。しかし、差し切れそうで差し切れなかったレースぶりは歯がゆいものでもあった。芝のトップクラスで勝ちきるには切れが足りない可能性がある。父はスキャットダディで母父にデピュティミニスター。ダートに戻してみたほうが面白いかもしれない。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』

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    【12月15日・16日開催】朝日杯FS、ターコイズSのレース解説

    〈2歳GI〉 12/16(日) 阪神11R 芝1600m 朝日杯FS 牝馬の挑戦で話題を集めたグランアレグリアは3着。残念な結果ではあったが、今回のレースだけを見れば完敗だ。しかし、今回の走破時計は自身がマークしたデビュー戦の勝ち時計にも届いておらず、これが彼女の能力のマックスとも思えない。長距離輸送をした影響か、それとも他に原因があるのかははっきりとしないが、仮に何かしらの敗因があるのだとすれば、桜花賞と同じ舞台の1戦を走って、その課題を見つける機会を得たことは今後につながると思う。 勝ったアドマイヤマーズは一瞬の切れる脚こそないが、止まりそうで止まらない長い脚を使う。まさに父のダイワメジャーをほうふつさせる走りをする馬だ。スタートも悪くなく、常に前で競馬ができるタイプなので、今後も大きくは崩れないだろう。マイルから中距離の大きいレースで活躍する馬になって行くと思う。これも父と同じだ。 仮に2000m以上の距離に挑戦する場合──。ダイワメジャーよりも可能性があると思える理由は2つ。まずは父よりも精神的な落ち着きがあること。長距離戦を走るとき、道中の折り合いだけでなく、レースに向かうまでの段階で体力をロスしてしまうイレ込みも絶対に避けたい。その点において、父よりも優れている可能性がある。 もうひとつが母系にいるシングスピール。決して似ているわけではないが、アドマイヤマーズはダイワメジャーにしては胴が伸びており、もしかしたら…と思わせるフシがある。それがシングスピールの影響であるのなら、同世代相手の2400mくらいはこなして不思議はない。いずれにしろ、トップクラスで活躍していく馬ということだ。 最後に朝日杯FS関連というか、阪神JFも絡んだ話を。グランアレグリアの挑戦は牝馬相手のレースよりもルメール騎手との継続騎乗を望んだからこそ実現したものだが、そのような判断をした気持ちは理解できる。 まだ成熟途上の段階にある2歳馬はレースでの経験が成長へと直結し、マイナスの印象を与えてしまえば、それを改善するのも用意ではない。ゆえに我々はトップクラスの騎手を用意するのだ。古馬の乗り替わりよりも2歳馬の乗り替わりのほうが簡単でないということは知っておいてもらいたい。 香港国際競走と日程が被る問題は以前から指摘されていた。私も朝日杯に出走させたメイショウボーラーで主戦の福永騎手からペリエ騎手への手綱替わりを余儀なくされたことがある。ペリエ騎手ならと思うだろうが、メイショウボーラーのようなカッとする面のある馬は、特徴をよく知っている人間に継続して乗ってもらいたかったのだ。実際、ペリエ騎手の乗った追い切りだけでなく、実戦でも折り合いを欠いた。日程なので仕方がないと思う反面、あれが福永騎手だったら…と現在でも悔いが残っている。 香港にいい馬が集まり、そこにトップジョッキーが集う傾向はこれからも続いていく。JRAのほうが日程を考慮してあげなければ、今後も2歳牝馬の動向に小さくない影響を与えていくと私は思う。 〈古馬重賞〉 12/15(土) 中山11R 芝1600m ターコイズS 有馬記念が行われる2500mもそうだが、中山競馬場の1600mもかなりの枠番競馬だ。今回の結果はそれを示すもの。もちろん、ミスパンテールに騎乗した横山騎手の完璧なエスコートが勝因だが、その位置を確保できたのも内枠のおかげ。インで脚をため、直線だけ外にスッと出す。これは外枠を引いたらできなかった芸当だろう。 もちろん56キロのハンデを背負って勝ったことは評価しなくてはならない。しかし、この結果が今回のメンバーでの能力上位を示すものではないということは頭に入れておきたい。中山のマイルは内枠。力の拮抗するハンデ戦では特にそうなのだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【12月8日・9日開催】阪神JF、香港国際競走ほかレース解説

    〈2歳GI〉 12/9(日) 阪神11R 芝1600m 阪神JF まだ朝日杯FSの結果は出ていないが、その着順が1着でなかったとしても世代最強の牝馬はグランアレグリアではないか、と私は考えている。 その対抗馬になるべき馬を探すのが今回の1戦であったとするのなら、すでにグランアレグリアに完敗しているダノンファンタジーが勝ったという現実は、グランアレグリアに勝てる馬が登場しなかったとの結論に繋がるもの。そのような意味では少し微妙で残念なGIだったと言えるかもしれない。 ダノンファンタジーに関して言えば、今後のGI戦線で戦える資質は持っているものの、性格的な面の課題を抱えているようにも感じた。 許容範囲とはいえ、少しチャカついているパドックやレース前の仕草は気になるものだったし、スタートを普通に切りながら、前に行かせず、逆に後方へと下げた今回のレースぶりも、下手に行かせれば、一気に行ってしまいそうな危うさを陣営が、ジョッキーが感じていたからではないだろうか。 何度も言ってきたが、ポジションを取れるか、そうでないかの差は以前よりもはるかに大きくなっており、仮に私の考えが正解であったとするのなら、ダノンファンタジーは常に後方から脚を伸ばす格好の競馬をすることになる。それは確実性に欠き、取りこぼしてしまう可能性を高くするもの。GI馬としてマークの厳しくなる今後は、さらに競馬が難しくなってくる。 もうひとつはダノンファンタジーが1月の早生まれということ。夏から秋にかけて一気に成長したが、それと似たような成長を今後も見せ続けるとは限らない。すでに完成してしまった可能性も考えておくべきだ。 少し厳しい意見になってしまったが、それを覆すほどの活躍を期待したい。グランアレグリアに追いつき、追い越すシーンを見てみたいものだ。 2着クロノジェネシスは出遅れが響いたが、それ以降のレースぶりが芳しくなかった。後方で脚を溜めるのであれば、直線に向くまでのロスは最小限にすべきだったろうし、前にいるダノンファンタジーに対して早めに被せにいくという選択肢もあったはず。申し訳ないが、ダノンファンタジーよりも外を回されたという時点で、騎手の技量の差を少し感じたレースであったと思う。 3着ビーチサンバはソツのない競馬をしていたが、一瞬の反応の差が上位の2頭よりも劣ってしまった。残念な結果ではあったが、力は出したと思う。ちなみにこの2頭はサンデーサイレンス×ラスティックベルにクロフネという配合を持つことで共通している馬。血が騒いだというところだろうか。 〈海外GI〉 12/9(日) シャティン4R 芝2400m 香港ヴァーズ 先週の日曜日に行われた香港国際競走について少しだけ話しておく。最も惜しい競馬をしたのは香港ヴァーズのリスグラシュー。完全に勝ったと思った競馬だったのだが、あそこまで走ったのだから馬は責められない。モレイラ騎手とは二度目のタッグ。遠征競馬でも力をしっかりと引き出してくれたと思う。 12/9(日) シャティン7R 芝1600m 香港マイル 4つのレースで最も強いインパクトを残したのは香港マイルのビューティージェネレーションだろう。世界の強豪が集う1戦で別次元のパフォーマンス。とてつもない強さだった。映像を見ていない方は、ぜひ視聴してみることをお勧めする。 ニュージーランド産の同馬の血統は特に見るべきところがなく、購入金額もかなり安い馬だったのではないかと考えているのだが、この馬の傑出したスピードの理由を血統の中から探すのであれば、彼の母父にあたるベルエスプリ。この馬こそが理由だろう。日本では馴染みのないこの種牡馬。実は世界的な名牝として知られるブラックキャビアを出している種牡馬なのだ。 ベルエスプリの代表産駒はブラックキャビアしかおらず、一般的には完全な一発屋。だが、こんな形で取り上げられることがあるのだから、やはり血統は面白いと言えると思う。 〈古馬重賞〉 12/9(日) 中山11R ダ1200m カペラS コパノキッキングの今回の勝ち方は中山のダート1200mではありえないものだ。スタートでダッシュがつかない。それはまだいい。しかし、4コーナーで通った場所は大外も大外。正直、どこまで詰めてきても掲示板という乗り方だったと思う。しかし、本当にケタ違いというか、久々に凄まじい競馬を見た気がする。相当な能力の持ち主だ。 どう見ても気性に課題がありそうで、1400mでは結果を出していない現実もある。JRAのダート路線にスプリントGIはなく、今後は距離に挑むのか、それとも違う路線を探していくのか、の難しさはありそうだが、トップクラスの馬を相手にしても競馬ができる力は示したし、実際は脚質に幅のある馬でもある。選択された番組も含め、次走が非常に楽しみと言っておきたい。 12/9(土) 中京11R 芝2000m 中日新聞杯 勝ったのは3歳馬のギベオン。一度は確実に前に出られたのに差し返した。その走りは能力の高さを示すもので、今回のメンバーレベルであれば、力量が違ったのは確かだろう。ただし、課題も感じた。それは上のクラスに上がって通じるかどうかではなく、今後の路線選択について。 折り合いは付いたとのことだが、序盤は少し微妙な格好をしており、常に折り合いがスムーズなタイプというわけではなさそうだ。2000mのレースで腕の達者なジョッキーが騎乗しての結果。これ以上の距離延長を選択しにくくなったのではないだろうか。マイルから2000mまでを主戦場にしていくことになると思う。もちろん、クラシックの終わった3歳馬であれば、適性のある距離を使い続けていくことに問題は何もないのだが。 ディープインパクトにゴーストザッパーという配合はスピードと切れを兼備するもの。今後は力強さも出てくるはずだ。繰り返すが一度は抜け切りながら、2着馬に一度は出られ、それから差し返すという今回の勝ち方は“遊びがある”と表現できるもの。この馬の今後にも期待したいところだ。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【12月1日・2日開催】チャンピオンズC、ステイヤーズSほかレース解説

    〈古馬GI〉 12/2(日) 中京11R ダ1800m チャンピオンズC ジャパンCに続き、このレースも3歳馬が勝利した。ルヴァンスレーヴの強さだけが目立ったレースであり、今回のようなポジションを取ったレースが出来るとなると、弱点はほとんどなくなる。それこそアーモンドアイと同じだ。3歳馬と思えないほどに充実していたパドックでの姿からして、すでに他の馬との大きな違いを感じてはいたのだが、レースぶりもそれに比例したもの。ゴールドドリームの回避により、1強のような扱いでの出走。しかし、仮にゴールドドリームが出走していても負けることはなかったのではないだろうか。それくらいの飛び抜けた強さを感じた。 一般的にダート路線は古馬が強く、馬があまり傷まないので活躍期間も長い。ゆえに3歳馬が古馬混合のGIを勝つのは非常に難しいとされている。それこそ、クロフネやカネヒキリのような特別な能力を持つ馬でなければ、結果を残すことはできないわけで、この難しいミッションをクリアしてしまったルヴァンスレーヴの活躍は今後もしばらく続くだろう。フェブラリーSもまず勝てるはずで、注目はそれ以降となりそうだ。これだけの馬なら、海外遠征の話が出て当然。行ってほしいと私も思っている。 もちろん、日本とはダートの質が違う海外で結果を残すことは難しい。芝のレースよりもハードルははるかに高いだろう。しかし、この馬はシンボリクリスエス×ネオユニヴァースという配合。力で押すだけの血統ではなく、実際に走りには伸びも切れもある。これくらいのレベルの馬が挑戦し、どれだけの結果を残せるのか──。そこに純粋な興味を持っている。ぜひ実現してほしい。 ルヴァンスレーヴと2着以下との力量差は明白。逆転は今後も難しいだろう。各馬についてのポイントだけ述べていきたい。まずは2着のウェスタールンド。距離ロスを最小限に抑えた追い込みがハマッた形であり、本来なら壁ができてしまうはずの直線も、ルヴァンスレーヴが抜け切ってくれたことできれいに進路ができた。好騎乗に加えて運もあったと思う。力はある馬だが、常に勝ち負けする馬でないことも確かだろう。 3着サンライズソアの走りを惜しいと表現するかどうかは難しいところ。何の不利もなく競馬を進め、前を捕まえそうな瞬間もあったのだが…。しっかりと力を出し切っての完敗。大きなタイトルを狙うのであれば、ルヴァンスレーヴのいないところを目指していくほかない。 11着ケイティブレイブは数字が示すように太かったと思う。それにしても動けなかったな、というのが正直なところだ。 12/1(土) 中山11R 芝3600m ステイヤーズS アルバートが出走取消となり、押し出される形で1番人気に支持されたのがリッジマン。どうなることかと思っていたのだが、4コーナーを回ったときの手応えが他とは違い、抜けてくる瞬間の脚も速かった。完勝といえる内容であったと思う。もちろん、長距離路線の層の薄さは考えなくてはならないし、この勝利が天皇賞(春)に直結するものでないことは理解している。もうひとつ上のレベルが相手でも今回のような競馬が出来るのか──。そのときこそ、この馬の適切な評価を考えたい。 ちなみに彼の父はエンドスウィープ産駒のスウェプトオーヴァーボード。基本的には短距離血統で、この産駒の馬が3600mの距離を勝ったことになによりも驚いた。エンドスウィープ産駒のアドマイヤムーンがジャパンカップを勝ったとき以来の衝撃と言えるかもしれない。 12/1(土) 阪神11R 芝2000m チャレンジC 格だけを言えば、ステイヤーズSよりも下のGIIIだが、メンバーのレベルや内容はこちらのほうが明らかに上。ゆえに直線だけで一気に3馬身も抜け切ったエアウィンザーの強さは特筆もので、来年はGIタイトルも視野に入ってくるだろう。今回と同じ舞台の大阪杯あたりがターゲットになってくると思う。 母がGI馬のエアメサイアで全兄にエアスピネル。血統の裏付けを持っているのも魅力と言えるだろう。なんでも、早い段階から「エアスピネルに優るとも劣らない大器」と評価されていたそうだが、気性に難があったのか、それとも馬体に芯が入っていなかったのか、勝ちきれない競馬をしていた時期もあった。この手のタイプが化けたときは追いかけていいと思う。 〈条件戦〉 12/1(土) 中山9R 芝2000m 葉牡丹賞 2歳戦からは中山の葉牡丹賞を取り上げたい。勝ったシークレットランは7番人気の馬で戦前から注目していたわけでもないのだが、改めてパドックを周回している映像を見ると、実に堂々とした姿で歩いていることに気付く。フロック視することなく、勝つべくして勝った馬と認識しておいたほうがいいと思う。 勝ち時計の1分59秒6はレコード。時計は馬場状態にも影響を受けるものではあるが、この時期の2歳馬が2分を切る時計で走ったのだから、これも素直に評価すべきと私は思う。この数字の決着にも対応できるスピードがある。それだけでも十分なのだ。 ちなみに同馬の祖母エルフィンフェザーはエアグルーヴの半妹で、サンデーサイレンス産駒の血統馬である。ダンカークはそれほど注目されている種牡馬でないかもしれないが、実は見た目のいい馬を出しており、私はひそかに注目していた。血統的にも面白い馬ではないだろうか。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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    【11月24日・25日開催】ジャパンC、京阪杯ほかレース解説

    〈古馬GI〉 11/25(日) 東京11R 芝2400m ジャパンC アーモンドアイが歴史に名を残す素晴らしい馬であり、今回のパフォーマンスがどれほどまでに特別であったのか──それは多くのメディアがすでに報じていることで、そのほとんどの意見に私は同意したい。そのすべてが彼女に対する称賛の声であることを嬉しく思うとともに、このような名馬の母がフサイチパンドラであったことを誇りに感じている。 そう、彼女は私が管理したフサイチパンドラの娘。それが何よりも嬉しかった。ゆえに私は彼女の一挙手一投足に注目するために東京まで足を運んできた。 この目でレースが見たいという衝動を抑えられなかったからだ。 すぐ近くにはアーモンドアイを管理する国枝栄調教師もいて、彼からもアーモンドアイにまつわる色々な話を聞いた。どれも興味深いものばかりであり、国枝調教師がトップ調教師でいる理由を改めて知った気もした。東京まで行った甲斐があったというものだ。 これからする話は私だからこそのジャパンC観戦記。今回が本邦初公開のものばかりだ。ぜひ、楽しんで読んでいただきたい。 ジャパンC当日。アーモンドアイの気配は素晴らしく、東京競馬場の大観衆にも初めての古馬との対戦にもひるむことなく、実に落ち着いた精神状態でパドックを周回している姿に感心もした。 返し馬での姿も私の求める競走馬の理想像。下手に首を下げるでもなく、頭を上げることもない。ちょうどいい頭の位置で走る馬だな──。そのような話を国枝調教師とさせてもらった。確かに馬場入場時に少しテンションの高くなる面はあった。しかし、それも許容範囲。「あれくらいなら問題ない」とのやり取りをしたことも覚えている。その所作の全てが私には完璧に見えたのだ。 しかし、それも牧場と連動し、この1戦に向けて馬を作ってきた陣営の尽力があってこそのもの──だったらしい。 なんでも、秋華賞後のアーモンドアイは激走の反動がひどく、一時はジャパンCの出走を見送ろうかと考えたこともあったと国枝調教師は語ってくれた。アーモンドアイは常に全力で走る真面目な馬。秋華賞のレース後も熱中症のような状況になったと聞いているが、それはジャパンCのレース後も同じだった。 レコードタイムで走ったのだから、息遣いが荒くなるのは仕方がない。しかし、レース後の国枝調教師とスタッフはすぐにアーモンドアイを別の場所に連れて行き、馬体に水をかけて彼女の体温を下げていた。日中の温度が40度を超える夏場ならともかく、この時期のレースではなかなか見られないシーン。それはアーモンドアイという馬の本質を物語っているのではないだろうか。 競走馬は生き物であり、人間の考えた通りに肉体が回復するわけでない。 これまでの三冠馬とは異なるローテーションで結果を出してきたアーモンドアイだが、それは全力で走るがゆえに疲れが残りやすいアーモンドアイの特徴を踏まえてのもの。前哨戦をひと叩きして本番へ──その考えが通用しない馬である理由がこれだ。 すでにドバイ遠征に関しての報道が出ており、前哨戦を使わずに休み明けで挑戦するようなニュアンスだった。私はその遠征プランでいいと思う。むしろ、そのほうが結果に繋がるように考える。 育成牧場の施設、スタッフの技術の進歩は飛躍的に進化しており、トレセンとの関係性はより親密になった。休み明けで結果を出した桜花賞、秋華賞に続き、しっかりと状態を立て直して挑んだ今回のジャパンCで、国枝厩舎のスタッフも牧場のスタッフもアーモンドアイの仕上げに対しての自信をさらに深めたとも考えられる。疲労を回復させる手段の少ない海外でリスクを背負う必要はないのだ。 ドバイ遠征で結果を出せば、その次は凱旋門賞挑戦が現実味を帯びてくるだろう。エルコンドルパサーのような長期の欧州滞在を勧める声もあるようだが、その意見こそが絶対と私は思わない。 海外遠征に対しての常識は大きく変化している。実戦を走った際の反動が気になるアーモンドアイにとって、例えばヴェルメイユ賞のような本番まで中2週のレースが合っているとは思えないのだ。彼女は彼女のスタイルを貫けばいい。ライバルの目を逸らす意味でも、休み明けの挑戦こそが最適なのではないだろうか。そう私は考える。 私はブリーダーズCにも足を運び、エネイブルの走りをこの目で見てきた。彼女は凄い牝馬だ。現役を続行するエネイブルの最大のターゲットは三連覇になる来年の凱旋門賞だろうし、アーモンドアイにとっての最大のライバルであるとも思う。 どちらの馬が強いのか? その質問には答えられない。答えがわからないという表現のほうが妥当だろう。 ただし、来年のエネイブルは現状維持が精一杯の5歳になり、アーモンドアイは成長のピークを迎える可能性が高い4歳で最高の舞台を踏む。これは間違いのない事実。臆する必要はないだろう。 今回の1戦で見せたアーモンドアイのパフォーマンスは、厳しいマークに合うかもしれない凱旋門賞でのレースを考えたとき、大きな手応えを感じさせるものでもあった。 展開に左右されず、自分の力でもぎ取った勝利。それこそ、これまでのエネイブルが見せてきたような競馬で勝利を手にしたことが、日本のみならず、海外での評価を高めているのだと思う。 本当に楽しみだ。来年が本当に楽しみで仕方がない。 レース後は様々な方から「先生、良かったね」と言われた。アーモンドアイの母フサイチパンドラが私の管理馬であったことから、皆さんが祝福してくれていると思うのだが、このような状況だけを切り取っても競馬の素晴らしさを感じずにいられない。 すでに私は調教師を引退し、フサイチパンドラが現役を走っていた時代も昔の話になった。それでも、競走馬の中に名馬の血が流れ続ける限り、その馬に関わった人々の思いは受け継がれ続ける。競馬が単なるギャンブルではないことの証明と言えるのではないだろうか。 あくまで現時点での話だが、アーモンドアイが出走する限り、私はドバイのレースも見に行こうと思っているし、フランスにも行きたいと考えている。アーモンドアイが大舞台を走り続けることで、私は人生の楽しみをもらい続けることができるわけだ。これも本当に素晴らしいこと。アーモンドアイとフサイチパンドラに感謝したい。 2着以下の馬についても少しだけ触れておく。2着に逃げ粘ったキセキのパフォーマンスは素晴らしかったし、アーモンドアイの本当の能力を引き出したのは彼の存在があってこそ。同馬の能力を引き出した川田騎手の騎乗も称賛されるべきものと私は思う。 その川田騎手に今週のトレセンで声をかけたのだが、彼の返答は「フサイチパンドラの子は強すぎる」だった。私が幸せな気持ちで彼の言葉を聞いたことは言うまでもないだろう。 ちなみにキセキは5月の遅生まれで、ようやくキ甲が抜け出したくらいの馬。これからが成長のピークになる可能性は高い。有馬記念に出走してくるようなら、主役候補の1頭として高い評価をさせてもらうつもりだ。 出遅れなどによる消化不良だった前走と違い、現状の力を示す走りを見せたスワーヴリチャードは3着。ゆえにキセキとの間にある3馬身半の着差は決定的なものではないか、と私は考える。有馬記念への出走があったとしても、右回りへ適性に疑問を残す馬。逆転まではないと考えていい。 むしろ、地力を見せる形で4着に押し上げたシュヴァルグランのほうが有馬記念ではいいかもしれない。アーモンドアイの相手本線として期待したサトノダイヤモンドは6着。物足りない結果だったが、彼は1月の早生まれで早熟の可能性もあった馬。これが現状の力と見るべきなのかもしれない。 11/25(日) 京都12R 芝1200m 京阪杯 取り上げるべき存在は勝ったダノンスマッシュのみでいいだろう。彼もアーモンドアイと同じロードカナロアの産駒だが、ハードスパンを母父に持つ彼の適性はスプリント戦。しかし、この馬のようなタイプがロードカナロア産駒のあるべき姿であり、配合の方向性も合っていると私は考えている。 アーモンドアイのような馬を登場させようと思えば、母系にスタミナを持ってくる必要があり、それは時にギャンブルとなってしまう。スピードにスピードの掛け合わせこそが確率の高いパターンであるはずだ。 ダノンスマッシュに関して言えば、淡白な面があるはずのハードスパンの弱点を消し、スピードだけをうまく抽出している印象を持った。サンデーサイレンスの血を持たないダノンスマッシュのような配合の馬でも切れを有しているところがロードカナロアの凄さであり、それこそがリーディングサイアー候補とされる理由。スピードに加え、直線で見せる切れも現在の競馬で必要な要素だ。 ダノンスマッシュには父ロードカナロアと似たような路線で高松宮記念を狙う馬になってほしいし、そうなる可能性は十分にあるだろう。 〈2歳重賞〉 11/24(土) 京都11R 芝2000m 京都2歳S 一枚上の決め手を発揮してクラージュゲリエが勝利。前走はイレ込みの影響が強かったようだが、今回はパドックから落ち着いて歩けていたようだ。厩舎装鞍とした話も耳にしたし、実際にリップチェーンも付けている。難しい馬であるのは確かなようなので、今後も能力を発揮できるように務めることが大事になってくるだろう。 2着のブレイキングドーンは太めが少し残っていた。この状況での2着は素直に評価していいと思う。父のヴィクトワールピサだけでなく、母父にホワイトマズル、その先にはエルコンドルパサーという血統背景の馬。距離が延びて良さが出てくるだろうし、今後も注目しておきたい。 3着のワールドプレミアは予想以上にテンションが上がっていたし、大外を回すコース取りにもロスがあった。まずは落ち着きを取り戻すことが大事だが、持っている能力は高そうな馬。この1戦だけで評価を決めないようにしたい。 『アカデミック連載 -最強の競馬学-』『馬体診断 -鬼才の眼 フィジカルメソッド-』『血統診断 -白井式ブラッドマニュアル-』 などもお楽しみください。

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